2016/05/21(土) - 09:45
世界最大の規模を誇る台湾の自転車メーカー・ジャイアント。4年ぶりのフルモデルチェンジにより、重量剛性比や快適性などのあらゆる性能を向上させたカーボンロードバイク「TCR」シリーズからカーボン製の末弟モデル「TCR ADVANCED 2」をインプレッションした。
ジャイアント TCR ADVANCED 2 photo:Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ジャイアントの歴史を語る上で欠かせないバイクの1つが「TCR」シリーズである。トップチューブを傾けることで低重心化を図った「スローピングデザイン」に、最新素材と高度な製造技術を組み合わせた生粋のレーシングバイクは、常にその時代のベンチマークとして高い評価を受けてきた。そして、1997年の誕生から現在に至るまで、一貫してプロにハイエンドモデルを供給。その走行性能を絶えず磨き続けると同時に、ジロ・デ・イタリアや世界選手権を筆頭に数多くのビッグレースで勝利に貢献してきた。
現在、「TCR」シリーズは、3つのカーボンモデルと2つのアルミモデルで構成されている。今回インプレッションを行う「TCR ADVANCED」は、カーボンモデルの中では末弟グレードという位置づけ。入門レーシングバイクとしては、アルミ製の上位グレード「TCR SLR」と双璧を成す1台である。
ねじれに強い長方形断面のダウンチューブ
上側を1-1/8インチ、下側を1-1/4インチとしたOVERDRIVEヘッドチューブ
大幅なシェイプアップが施されたフロントフォーク
設計上のベースは、セカンドグレードにあたる「TCR ADVANCED PRO」。フレーム形状や素材を共通としながら、細部の仕様を変更することで、「TCR ADVANCED」はレース入門者にも扱いやすい1台へと仕立てられているのだ。
その最も大きな差異は、ヘッド周りの設計にある。「ADVANCED PRO」はステアリング剛性を追求しながらも重量増を抑えるべく、専用ステムが必要となる独自のヘッドチューブ規格「OVERDRIVE2」を採用する。一方で、今回のインプレッションバイクである「ADVANCED」は汎用的な1-1/8"寸法のヘッドチューブ規格「OVERDRIVE」とすることで、様々なメーカーのステムが取付可能としている。ポジションが定まっていないビギナーにとっては、様々な寸法のステムを気軽に試せる点は、大きなメリットとなるはずだ。
楕円断面へと改められたトップチューブ。後方に向けて直径を絞ることで、振動吸収性を高めている
継ぎ目なく成型されるヘッドチューブ周辺
ボトムブラケットはBB86規格のPOWERCOREデザイン
素材にはT700グレードのAdvancedカーボンを採用する
また、ヘッドチューブ全体としてはサイズダウンしているものの、「ADVANCED PRO」ではカーボンであったフォークコラムの素材を「ADVANCED」ではアルミとすることで、ステアリング剛性を確保。上位モデル譲りの安定した操作性を実現している。また、アルミ製コラムは、耐久性や整備性の向上にも貢献しており、メンテナンス経験の少ないビギナーでも、増し締めや調整を安心して行うことができるだろう。
旧型モデルに対して、全体的に細身とされたフォルムは、実際の使用環境を想定した開発プロセスを経て生み出されたもので、従来モデルと同水準の剛性レベルを保ちながらも、大幅なシェイプアップに成功。シマノULTEGRA仕様の「TCR ADVANCED KOM 1」で7.7kgと、優れた軽量性を実現している。
ジャイアント製パーツで固められたハンドル周り
メインコンポーネントはシマノ105
シートポスト及びシートチューブの形状は、新型TCR ADVANCEDの中でも鍵となる部分の1つだ。従来モデルで採用されていた翼断面の「Vector」と、DEFYやTCXに優れた衝撃吸収性をもたらしたD字断面の「D-Fuse」をミックスした「Variant」という新デザインを採用し、シートクランプを臼式に。空気抵抗を抑えながらも、快適性を高めることに成功した。
トップチューブ及びシートステーは、断面形状を従来の長方形から楕円形に変更し、ヘッドチューブ側とシートチューブ側で断面積に大きな差を持たせた。そして、シートステーの付け根は双胴デザインから、一体デザインに。加えて、ヘッドチューブの幅も狭めるなど、無駄な部位を徹底的に削ぎ落とした。
快適性に貢献する細身のシートステー
振動吸収性と空力性能の両立を図ったVariantシートポスト
トップチューブは、一筆書きのようになめらかにシートステーへと接続
フレームと同様に大幅にシェイプアップされたフロントフォークのブレード部分も、軽量化に大きく貢献している。ジオメトリーにも手直しが加えられており、ヘッドチューブ長、シート及びヘッドのアングル、ハンガー下がりをサイズごとに調整し、ライディングフィールの最適化を図った。
カーボンには、「ADVANCED PRO」共通で、台湾のジャイアント本社工場にてハンドメイドされるT700グレードの「Advanced」を採用。フロントトライアングルの一体成型による継ぎ目の低減や、最外部の化粧カーボンの省略も、全体の軽量化を後押ししている。
「TCR ADVANCED」は、コンポーネントの異なる3種類の完成車で展開される。今回インプレッションを行う「TCR ADVANCED 2」はコンポーネントにシマノ105を採用。コストダウンの対象になりがちなクランクとブレーキも105で揃えられており、サドルやハンドルなどはジャイアントのオリジナルパーツで固められている。それでは、早速インプレッションに移ろう。
ー インプレッション
「入門カーボンバイクのベンチマーク ビギナー向けモデルならではの扱いやすさがある」
錦織大祐(フォーチュンバイク)
価格からは考えられないほど、走りごたえのあるバイクですね。現在のラインアップでは、ULTEGRAコンポを装備したバイクがトップグレードとなっていますが、DURA-ACE装備モデルが用意されていたとしても不思議ではないほどの走行性能があります。
「入門カーボンバイクのベンチマーク ビギナー向けモデルならではの扱いやすさがある」錦織大祐(フォーチュンバイク) 一言で表すならば「入門カーボンバイクのベンチマーク」。同じ価格帯の競合バイクは、振動吸収性が高い代わりにしっとりとしていたり、反対に剛性は高いけど出足が鈍かったりというものが多い一方で、良い意味で「真ん中」を実現できてます。扱いづらいと感じるシチュエーションがほとんどないですね。
私自身、スローピング設計が登場したころからジャイアントのバイクを何台か所有した経験があり、TCRに乗っていたこともありました。かつては奇をてらった設計と揶揄されたこともありましたが、スローピング設計は、扱いやすさやバイクの振りやすさ、軽快感に確実に貢献しています。
ロングライドもある程度こなせるバイクですが、やはり得意とするのはレースではないでしょうか。国内では、サーキットエンデューロであったり、加減速を繰り返すクリテリウムが多く、そういったシーンではTCR ADVANCEDが持つ加速感や軽快感が活きてくるはずです。
剛性感は、過剰なほどに硬いバイクが少なくない中では、しっとり目。ビギナー向けとしては最適な仕上がりといえるでしょう。それでもヘッド周りやBB周りといった負荷の大きな箇所には、適切に剛性が与えられています。ボリューム感のあるBB周りですが、見た目から想像するほど剛性は高くなく、膝への反発が少ないため深く踏み抜くことができると感じました。対照的に、ヘッド周りとフォークブレードは細身に仕上げられていますが、不安を感じさせるようなバタつきはありません。
登りでは、上位モデルのようなパリッとした軽さを感じることはありませんが、その代わりにペダリングに対する許容度は大きいと言えるでしょう。例えば、長い登りの終盤で疲労が溜まってきてペダリングがガチャついてきた時、軽量モデルだとバイクが左右に振れてしまい不安定になりがちですが、TCR ADVANCEDは踏み続けやすいのです。初級者~中級者の視点で考えると、この点は上位モデルには無い大きな利点ということがでます。
また、このバイクに不足を感じても、更なる軽さや軽快感といったニーズに対応できる上位モデルがジャイアントにはあります。3グレードできっちりと性能バランスの棲み分けができているいう点は、完成度の高さの現れだと考えられます。
平地巡航については、ホイールとタイヤにスポイルされている部分もありますが、これは致し方ないところ。ホイールのアップグレードで、すぐに解決できます。フレーム全体を通して、著しく空気抵抗を受けているという箇所はありません。ブレーキについても、これといった不満はありません。105のブレーキキャリパーがアッセンブルされており、ホイールのリムブレーキ面にも切削加工が施されているため、即座に何かを交換しないと安全な走りができないという点は見当たらないですね。ハンドリングはニュートラルです。
近年では高品質なアルミバイクと廉価帯のカーボンが比較されることが多くあります。ジャイアントでも同じ価格帯にTCR SLRというエアロ形状のアルミバイクがあります。私自身も試乗したことがありますが、優劣は付けがたいですね。金属ならではの硬質感に起因する掛かりの良さは、スピードの緩急が大きなレースでは大きなメリットになりますし、レース派の方の中には金属らしい乗り味が好みという方も多いでしょう。一方では、ADVANCEDよりもコツコツと振動を拾うのは確かです。
総じて、ビギナーであれば手放しでオススメできるバイクですね。「予算15万円~25万円で考えていが、ブランドやフレーム素材を悩み過ぎて決められないという方は、まずこのバイクを買って走りだして下さい」と言いたくなるほど。この価格帯のバイクとしてはイチ押しです。一昔前のハイエンドカーボンよりも優れた走行性能を備えているといえます。
アップグレードについても、十二分に対応してくれます。車体価格と同等の金額のホイールをアッセンブルしてもフレームが見劣りすることはなさそうです。カンパニョーロ BORAシリーズや、ジャイアントSLRシリーズを装着するだけで、戦闘力の高いレーシングバイクに仕立てられることでしょう。
「同価格帯の中では優等生 上位モデルに迫る走行性能がある」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
20万円という価格帯のロードバイクの中では「優等生」とも言うべき1台ですね。ジャイアントというブランドだけで敬遠してしまう方は少なくありませんが、今回試乗した「TCR ADVANCED」は、ジャイアントだからこそ成し得る優れた走行性能を備えており、各性能がうまくバランスされています。大げさな表現ではなく、他ブランドの同価格帯のバイクは比べられるのが可哀想になってしまうほど、お手本的なロードバイクですね。また、ライダー自身のレベルアップをアシストしてくれるバイクであるとも感じました。
その中でも特筆すべきが登り性能です。ダンシング時の振りは軽快ながらも安定していて、挙動の乱れやロスがありません。そして、比較的重量のあるホイールがアッセンブルされていますが、それを感じさせず、どんな速度域からも鋭く加速してくれます。脚の揃った仲間と山に走りに行ったしても、思わずアタックしたくなってしまうはずです。
「同価格帯の中では優等生 上位モデルに迫る走行性能がある」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
登り性能と同じく快適性もTCR ADVANCEDの特長です。スローピングデザインによってシートポストの出しろが大きくなることと、シートポストに新たな断面形状を取り入れたことが、振動吸収性に良い影響を及ぼしているのでしょう。また、今回の試乗車には23Cのタイヤがアッセンブルされていましたが、乗っている限りではタイヤが細いから振動を拾うという印象はありませんでした。つまりは、それだけフレームが持つ振動吸収性が優れているということでしょう。
剛性については、嫌な硬さを感じるほど高くはないものの、BB周りにパワーロスとなるような変形は感じませんでした。恐らく、変形してもロスにならないポイントで力を逃がして、全体の剛性バランスを高めていると考えられます。地形を問わず、ケイデンス90rpm以上の高回転でペダリングしてあげると、より良く進んでくれるという印象を受けました。
ハンドリングはニュートラルな印象で、不安感なく自然にバイクを倒すことができます。TCR ADVANCEDは23Cタイヤが標準装備であるため、25C程度の太めのタイヤに慣れていると接地感が弱いと感じるかもしれませんが、実際にはコーナーで肝を冷やすようなことはありませんでした。ちょっとした段差も、あまり気にすることなく乗り越えていけるほど、よくトラクションしてくれます。
実は、個人的に上位モデルのTCR ADVANCED PROを乗っているのですが、それと比較しても、今回テストしたTCR ADVANCEDは優れた走行性能を持っていると感じました。気になる差と言えば、重量ぐらい。フォークコラムの素材がカーボンからアルミに変更されたことが重量増に繋がっていますが、振動吸収性といった他の性能への悪影響はありません、むしろ耐久性や剛性が確保できる分だけ、ビギナーにとってはかえって安心感に繋がるのではないでしょうか。
総じて、このバイクをオススメしたいのは、ロードレーサーならではのスピード感を味わいたいというビギナーの方です。実業団レベルで競技されている方だと不足を感じる点があるかもしれませんが、非登録系のレースを楽しんでいるという方であれば十二分ですね。
パーツアッセンブルにも申し分がなく、唯一チェーンだけがシマノ製品ではないものの、すぐに交換する必要はありません。そして、少し慣れてきたらホイールを交換してあげるとよいでしょう。もちろんカーボン製の軽量ホイールも良いですし、乗り込む方であれば前後ペア重量1,500gほどの頑丈なアルミホイールでも良いでしょう。
ジャイアント TCR ADVANCED 2 photo:Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ジャイアント TCR ADVANCED 2(完成車)
フレーム:Advanced-Grade Composite、VARIANT Composite Seat Pillar
フィーク:Advanced-Grade Composite、Aluminum OverDrive Column
メインコンポーネント:シマノ105
タイヤ:ジャイアント P-SL1 700x23C
サイズ:425mm(XS)、445mm(S)、470mm(M)、500mm(ML)
完成車重量:7.9kg(470mm)
カラー:カーボン・レッド、ブルー・ホワイト
価 格:200,000円(税抜)
インプレライダーのプロフィール
錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)
幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。台湾をはじめとした世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードに18年連続で出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク ショップHP
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) 吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
名古屋に店舗を構えるワタキ商工株式会社 ニコー製作所の4代目店長を務める。一般企業に勤めてから入社した経験を活かし常に"外側からの視点"に注意を払い、初心者さんが気軽に入店しやすい雰囲気づくりを心がけている。週末にはロードやシクロクロス、トライアスロンなど多岐にわたってイベントを開催し、お客さん同士が仲良くなれるような場を提供している。ショップでは「当たり前のことを当たり前にやる」ことをモットーに作業を行い、お客さんが乗りやすいバイクを提供している。
CWレコメンドショップページ
ワタキ商工株式会社 ニコー製作所 ショップHP
ウェア協力:アソス
アイウェア協力:カブト
photo:Makoto.AYANO
text:Yuya.Yamamoto
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ジャイアントの歴史を語る上で欠かせないバイクの1つが「TCR」シリーズである。トップチューブを傾けることで低重心化を図った「スローピングデザイン」に、最新素材と高度な製造技術を組み合わせた生粋のレーシングバイクは、常にその時代のベンチマークとして高い評価を受けてきた。そして、1997年の誕生から現在に至るまで、一貫してプロにハイエンドモデルを供給。その走行性能を絶えず磨き続けると同時に、ジロ・デ・イタリアや世界選手権を筆頭に数多くのビッグレースで勝利に貢献してきた。
現在、「TCR」シリーズは、3つのカーボンモデルと2つのアルミモデルで構成されている。今回インプレッションを行う「TCR ADVANCED」は、カーボンモデルの中では末弟グレードという位置づけ。入門レーシングバイクとしては、アルミ製の上位グレード「TCR SLR」と双璧を成す1台である。
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設計上のベースは、セカンドグレードにあたる「TCR ADVANCED PRO」。フレーム形状や素材を共通としながら、細部の仕様を変更することで、「TCR ADVANCED」はレース入門者にも扱いやすい1台へと仕立てられているのだ。
その最も大きな差異は、ヘッド周りの設計にある。「ADVANCED PRO」はステアリング剛性を追求しながらも重量増を抑えるべく、専用ステムが必要となる独自のヘッドチューブ規格「OVERDRIVE2」を採用する。一方で、今回のインプレッションバイクである「ADVANCED」は汎用的な1-1/8"寸法のヘッドチューブ規格「OVERDRIVE」とすることで、様々なメーカーのステムが取付可能としている。ポジションが定まっていないビギナーにとっては、様々な寸法のステムを気軽に試せる点は、大きなメリットとなるはずだ。
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また、ヘッドチューブ全体としてはサイズダウンしているものの、「ADVANCED PRO」ではカーボンであったフォークコラムの素材を「ADVANCED」ではアルミとすることで、ステアリング剛性を確保。上位モデル譲りの安定した操作性を実現している。また、アルミ製コラムは、耐久性や整備性の向上にも貢献しており、メンテナンス経験の少ないビギナーでも、増し締めや調整を安心して行うことができるだろう。
旧型モデルに対して、全体的に細身とされたフォルムは、実際の使用環境を想定した開発プロセスを経て生み出されたもので、従来モデルと同水準の剛性レベルを保ちながらも、大幅なシェイプアップに成功。シマノULTEGRA仕様の「TCR ADVANCED KOM 1」で7.7kgと、優れた軽量性を実現している。
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シートポスト及びシートチューブの形状は、新型TCR ADVANCEDの中でも鍵となる部分の1つだ。従来モデルで採用されていた翼断面の「Vector」と、DEFYやTCXに優れた衝撃吸収性をもたらしたD字断面の「D-Fuse」をミックスした「Variant」という新デザインを採用し、シートクランプを臼式に。空気抵抗を抑えながらも、快適性を高めることに成功した。
トップチューブ及びシートステーは、断面形状を従来の長方形から楕円形に変更し、ヘッドチューブ側とシートチューブ側で断面積に大きな差を持たせた。そして、シートステーの付け根は双胴デザインから、一体デザインに。加えて、ヘッドチューブの幅も狭めるなど、無駄な部位を徹底的に削ぎ落とした。
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フレームと同様に大幅にシェイプアップされたフロントフォークのブレード部分も、軽量化に大きく貢献している。ジオメトリーにも手直しが加えられており、ヘッドチューブ長、シート及びヘッドのアングル、ハンガー下がりをサイズごとに調整し、ライディングフィールの最適化を図った。
カーボンには、「ADVANCED PRO」共通で、台湾のジャイアント本社工場にてハンドメイドされるT700グレードの「Advanced」を採用。フロントトライアングルの一体成型による継ぎ目の低減や、最外部の化粧カーボンの省略も、全体の軽量化を後押ししている。
「TCR ADVANCED」は、コンポーネントの異なる3種類の完成車で展開される。今回インプレッションを行う「TCR ADVANCED 2」はコンポーネントにシマノ105を採用。コストダウンの対象になりがちなクランクとブレーキも105で揃えられており、サドルやハンドルなどはジャイアントのオリジナルパーツで固められている。それでは、早速インプレッションに移ろう。
ー インプレッション
「入門カーボンバイクのベンチマーク ビギナー向けモデルならではの扱いやすさがある」
錦織大祐(フォーチュンバイク)
価格からは考えられないほど、走りごたえのあるバイクですね。現在のラインアップでは、ULTEGRAコンポを装備したバイクがトップグレードとなっていますが、DURA-ACE装備モデルが用意されていたとしても不思議ではないほどの走行性能があります。
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私自身、スローピング設計が登場したころからジャイアントのバイクを何台か所有した経験があり、TCRに乗っていたこともありました。かつては奇をてらった設計と揶揄されたこともありましたが、スローピング設計は、扱いやすさやバイクの振りやすさ、軽快感に確実に貢献しています。
ロングライドもある程度こなせるバイクですが、やはり得意とするのはレースではないでしょうか。国内では、サーキットエンデューロであったり、加減速を繰り返すクリテリウムが多く、そういったシーンではTCR ADVANCEDが持つ加速感や軽快感が活きてくるはずです。
剛性感は、過剰なほどに硬いバイクが少なくない中では、しっとり目。ビギナー向けとしては最適な仕上がりといえるでしょう。それでもヘッド周りやBB周りといった負荷の大きな箇所には、適切に剛性が与えられています。ボリューム感のあるBB周りですが、見た目から想像するほど剛性は高くなく、膝への反発が少ないため深く踏み抜くことができると感じました。対照的に、ヘッド周りとフォークブレードは細身に仕上げられていますが、不安を感じさせるようなバタつきはありません。
登りでは、上位モデルのようなパリッとした軽さを感じることはありませんが、その代わりにペダリングに対する許容度は大きいと言えるでしょう。例えば、長い登りの終盤で疲労が溜まってきてペダリングがガチャついてきた時、軽量モデルだとバイクが左右に振れてしまい不安定になりがちですが、TCR ADVANCEDは踏み続けやすいのです。初級者~中級者の視点で考えると、この点は上位モデルには無い大きな利点ということがでます。
また、このバイクに不足を感じても、更なる軽さや軽快感といったニーズに対応できる上位モデルがジャイアントにはあります。3グレードできっちりと性能バランスの棲み分けができているいう点は、完成度の高さの現れだと考えられます。
平地巡航については、ホイールとタイヤにスポイルされている部分もありますが、これは致し方ないところ。ホイールのアップグレードで、すぐに解決できます。フレーム全体を通して、著しく空気抵抗を受けているという箇所はありません。ブレーキについても、これといった不満はありません。105のブレーキキャリパーがアッセンブルされており、ホイールのリムブレーキ面にも切削加工が施されているため、即座に何かを交換しないと安全な走りができないという点は見当たらないですね。ハンドリングはニュートラルです。
近年では高品質なアルミバイクと廉価帯のカーボンが比較されることが多くあります。ジャイアントでも同じ価格帯にTCR SLRというエアロ形状のアルミバイクがあります。私自身も試乗したことがありますが、優劣は付けがたいですね。金属ならではの硬質感に起因する掛かりの良さは、スピードの緩急が大きなレースでは大きなメリットになりますし、レース派の方の中には金属らしい乗り味が好みという方も多いでしょう。一方では、ADVANCEDよりもコツコツと振動を拾うのは確かです。
総じて、ビギナーであれば手放しでオススメできるバイクですね。「予算15万円~25万円で考えていが、ブランドやフレーム素材を悩み過ぎて決められないという方は、まずこのバイクを買って走りだして下さい」と言いたくなるほど。この価格帯のバイクとしてはイチ押しです。一昔前のハイエンドカーボンよりも優れた走行性能を備えているといえます。
アップグレードについても、十二分に対応してくれます。車体価格と同等の金額のホイールをアッセンブルしてもフレームが見劣りすることはなさそうです。カンパニョーロ BORAシリーズや、ジャイアントSLRシリーズを装着するだけで、戦闘力の高いレーシングバイクに仕立てられることでしょう。
「同価格帯の中では優等生 上位モデルに迫る走行性能がある」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
20万円という価格帯のロードバイクの中では「優等生」とも言うべき1台ですね。ジャイアントというブランドだけで敬遠してしまう方は少なくありませんが、今回試乗した「TCR ADVANCED」は、ジャイアントだからこそ成し得る優れた走行性能を備えており、各性能がうまくバランスされています。大げさな表現ではなく、他ブランドの同価格帯のバイクは比べられるのが可哀想になってしまうほど、お手本的なロードバイクですね。また、ライダー自身のレベルアップをアシストしてくれるバイクであるとも感じました。
その中でも特筆すべきが登り性能です。ダンシング時の振りは軽快ながらも安定していて、挙動の乱れやロスがありません。そして、比較的重量のあるホイールがアッセンブルされていますが、それを感じさせず、どんな速度域からも鋭く加速してくれます。脚の揃った仲間と山に走りに行ったしても、思わずアタックしたくなってしまうはずです。
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登り性能と同じく快適性もTCR ADVANCEDの特長です。スローピングデザインによってシートポストの出しろが大きくなることと、シートポストに新たな断面形状を取り入れたことが、振動吸収性に良い影響を及ぼしているのでしょう。また、今回の試乗車には23Cのタイヤがアッセンブルされていましたが、乗っている限りではタイヤが細いから振動を拾うという印象はありませんでした。つまりは、それだけフレームが持つ振動吸収性が優れているということでしょう。
剛性については、嫌な硬さを感じるほど高くはないものの、BB周りにパワーロスとなるような変形は感じませんでした。恐らく、変形してもロスにならないポイントで力を逃がして、全体の剛性バランスを高めていると考えられます。地形を問わず、ケイデンス90rpm以上の高回転でペダリングしてあげると、より良く進んでくれるという印象を受けました。
ハンドリングはニュートラルな印象で、不安感なく自然にバイクを倒すことができます。TCR ADVANCEDは23Cタイヤが標準装備であるため、25C程度の太めのタイヤに慣れていると接地感が弱いと感じるかもしれませんが、実際にはコーナーで肝を冷やすようなことはありませんでした。ちょっとした段差も、あまり気にすることなく乗り越えていけるほど、よくトラクションしてくれます。
実は、個人的に上位モデルのTCR ADVANCED PROを乗っているのですが、それと比較しても、今回テストしたTCR ADVANCEDは優れた走行性能を持っていると感じました。気になる差と言えば、重量ぐらい。フォークコラムの素材がカーボンからアルミに変更されたことが重量増に繋がっていますが、振動吸収性といった他の性能への悪影響はありません、むしろ耐久性や剛性が確保できる分だけ、ビギナーにとってはかえって安心感に繋がるのではないでしょうか。
総じて、このバイクをオススメしたいのは、ロードレーサーならではのスピード感を味わいたいというビギナーの方です。実業団レベルで競技されている方だと不足を感じる点があるかもしれませんが、非登録系のレースを楽しんでいるという方であれば十二分ですね。
パーツアッセンブルにも申し分がなく、唯一チェーンだけがシマノ製品ではないものの、すぐに交換する必要はありません。そして、少し慣れてきたらホイールを交換してあげるとよいでしょう。もちろんカーボン製の軽量ホイールも良いですし、乗り込む方であれば前後ペア重量1,500gほどの頑丈なアルミホイールでも良いでしょう。
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ジャイアント TCR ADVANCED 2(完成車)
フレーム:Advanced-Grade Composite、VARIANT Composite Seat Pillar
フィーク:Advanced-Grade Composite、Aluminum OverDrive Column
メインコンポーネント:シマノ105
タイヤ:ジャイアント P-SL1 700x23C
サイズ:425mm(XS)、445mm(S)、470mm(M)、500mm(ML)
完成車重量:7.9kg(470mm)
カラー:カーボン・レッド、ブルー・ホワイト
価 格:200,000円(税抜)
インプレライダーのプロフィール
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幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。台湾をはじめとした世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードに18年連続で出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク ショップHP
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