2016/01/23(土) - 19:03
表彰台でリーダージャージに袖を通したサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)は小さく安堵のため息をついた。リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)の3年連続勝利に沸いたウィランガヒル頂上決戦を振り返る。
ツアー・ダウンアンダーのクイーンステージに位置付けられる第5ステージは、アデレードの南40kmに位置するワイン畑が舞台だ。起伏の広大な丘陵をまっすぐに貫く幹線道路を走り、ビーチを横目に駆け抜け、決戦の地ウィランガヒルに向かう。
合計2回登坂し、その頂上にフィニッシュ地点が置かれた平均勾配7%/登坂距離3.5kmのウィランガヒルがダウンアンダー最大の難所。アデレード市内から自走で駆けつけたサイクリストで溢れかえる登りで、総合争いはクライマックスを迎える。
南風によって最高気温は25度程度までしか上がらず、前日に引き続いて雨雲が周辺にたむろする。青い海と白いビーチの定番写真の彩度が上がらないとフォトグラファーは不満を漏らすが、風も強く吹かず、選手たちにとっては理想的なレース環境が整った。
スタートからフィニッシュまでテレビ中継されるクイーンステージで逃げを打ったのはレイナルト・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ、ディメンションデータ)、ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、モビスター)、ラース・ボーム(オランダ、アスタナ)、ピム・リヒハルト(オランダ、ロット・ソウダル)の4名。
力のあるUCIワールドチームライダーが揃ったこともあり、メイン集団とのタイム差は瞬く間に6分台まで広がりを見せる。逃げグループの中でスプリントポイントのボーナスタイムが消化されるため、メイン集団は落ち着いたままタイム差を詰めていく。オリカ・グリーンエッジにキャノンデールやティンコフ、AG2Rラモンディアール、そしてBMCレーシングが力を貸し、逃げから3分遅れで1回目のKOMウィランガヒル登坂を開始させた。
登りでヤンセファンレンズバーグが飛び出したものの、KOMウィランガヒルの頂上通過後に先頭は再び4名に。その2分30秒後方にBMCレーシングを先頭にしたメイン集団という位置関係。チームスカイも先頭牽引に加わったことでメイン集団のペースは上がり、2回目のKOMウィランガヒルを前に逃げは吸収された。標高374mの頂上に向かって、ハイスピードな登坂バトルが始まった。
ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)によるペースアップで縦に長く伸びた集団から、サイモン・クラーク(オーストラリア、キャノンデール)が抜け出しを図るが、勾配7%を刻む登りでは決定的な差を生むことができず、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)がメイン集団を率いてアタックを封じ込める。
クラークに反応する形でローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)が動いたものの、大会連覇が懸かったデニスはやがて失速。「昨年のような好調さを感じていなかった。だから自分には総合を動かすような準備ができていないとチームに打ち明けて、リッチー(ポート)で勝負に挑むことになった」というデニスはメイン集団から脱落した。
続いてアタックしたルーカス・ハミルトン(オーストラリア、UniSAオーストラリア)とジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)に続いて、残り1.2kmでついに本命の赤黒ジャージが動く。ダンシングで加速し、シッティングでスピードを繋ぎながら、過去2年のデジャブのようにポートが飛び出した。
加速を続けるポートは、食らいつく山岳賞ジャージのセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)を振り切って独走状態に。ウィランガヒルでの勝ち方を心得ているポートが最後までスピードを緩めずに独走し、エナオモントーヤを6秒振り切って勝利した。なお、ステージ3位に入ったマイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール)のSTRAVAログによると、ウッズは平均勾配7%の登りを平均26.3km/hで登っている。
「正直言ってこの勝利は予想していなかった。新入りの自分を最大限バックアップしてくれたチームに感謝している。驚くほど多くの観客が集まったウィランガヒルで3年連続勝利を収めるなんてファンタスティック。まるでツール・ド・フランスの山岳ステージを走っているようで、オーストラリアのロードレースへの愛を感じたよ」。ウィランガヒルでハットトリックを達成したポートの表情は明るい。
ボーナスタイムとライバルたちから稼いだタイム差によってポートは総合2位に浮上。しかし17秒差でフィニッシュしたゲランスから総合首位を奪うには9秒足らなかった。「この結果には十分満足しているし、総合逆転のためにボーナスタイムを狙うことはしない。今日も総合成績は考えていなかった。それよりも、BMCのジャージで初勝利を飾ったことが何よりも嬉しいよ」と、ポートは最終日に動きを見せない宣言をしている。
史上最多となる4度目の大会制覇に王手をかけたゲランスは「世界を代表するようなピュアクライマーたちのアタックに苦しめられたよ。でも総合リードを守り抜くことに成功した。あと1日だ!」とコメントしている。
ツアー・ダウンアンダー2016第5ステージ結果
1位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) 3h34’16”
2位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ) +06”
3位 マイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール) +09”
4位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ) +17”
5位 ラファエル・バルス(スペイン、ロット・ソウダル)
6位 ルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター)
7位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、AG2Rラモンディアール)
8位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
9位 ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)
10位 パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、キャノンデール)
個人総合成績
1位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) 17h16’31”
2位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) +09”
3位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ) +11”
4位 ジェイ・マッカーシー(オーストラリア、ティンコフ) +20”
5位 マイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール)
6位 ルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター) +28”
7位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、AG2Rラモンディアール)
8位 ラファエル・バルス(スペイン、ロット・ソウダル) +36”
9位 スティーブ・モラビート(スイス、FDJ) +49”
10位 パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、キャノンデール) +50”
スプリント賞
サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
山岳賞
セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)
ヤングライダー賞
ジェイ・マッカーシー(オーストラリア、ティンコフ)
チーム総合成績
キャノンデール
敢闘賞
デーヴィッド・タナー(オーストラリア、IAMサイクリング)
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
ツアー・ダウンアンダーのクイーンステージに位置付けられる第5ステージは、アデレードの南40kmに位置するワイン畑が舞台だ。起伏の広大な丘陵をまっすぐに貫く幹線道路を走り、ビーチを横目に駆け抜け、決戦の地ウィランガヒルに向かう。
合計2回登坂し、その頂上にフィニッシュ地点が置かれた平均勾配7%/登坂距離3.5kmのウィランガヒルがダウンアンダー最大の難所。アデレード市内から自走で駆けつけたサイクリストで溢れかえる登りで、総合争いはクライマックスを迎える。
南風によって最高気温は25度程度までしか上がらず、前日に引き続いて雨雲が周辺にたむろする。青い海と白いビーチの定番写真の彩度が上がらないとフォトグラファーは不満を漏らすが、風も強く吹かず、選手たちにとっては理想的なレース環境が整った。
スタートからフィニッシュまでテレビ中継されるクイーンステージで逃げを打ったのはレイナルト・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ、ディメンションデータ)、ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、モビスター)、ラース・ボーム(オランダ、アスタナ)、ピム・リヒハルト(オランダ、ロット・ソウダル)の4名。
力のあるUCIワールドチームライダーが揃ったこともあり、メイン集団とのタイム差は瞬く間に6分台まで広がりを見せる。逃げグループの中でスプリントポイントのボーナスタイムが消化されるため、メイン集団は落ち着いたままタイム差を詰めていく。オリカ・グリーンエッジにキャノンデールやティンコフ、AG2Rラモンディアール、そしてBMCレーシングが力を貸し、逃げから3分遅れで1回目のKOMウィランガヒル登坂を開始させた。
登りでヤンセファンレンズバーグが飛び出したものの、KOMウィランガヒルの頂上通過後に先頭は再び4名に。その2分30秒後方にBMCレーシングを先頭にしたメイン集団という位置関係。チームスカイも先頭牽引に加わったことでメイン集団のペースは上がり、2回目のKOMウィランガヒルを前に逃げは吸収された。標高374mの頂上に向かって、ハイスピードな登坂バトルが始まった。
ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)によるペースアップで縦に長く伸びた集団から、サイモン・クラーク(オーストラリア、キャノンデール)が抜け出しを図るが、勾配7%を刻む登りでは決定的な差を生むことができず、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)がメイン集団を率いてアタックを封じ込める。
クラークに反応する形でローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)が動いたものの、大会連覇が懸かったデニスはやがて失速。「昨年のような好調さを感じていなかった。だから自分には総合を動かすような準備ができていないとチームに打ち明けて、リッチー(ポート)で勝負に挑むことになった」というデニスはメイン集団から脱落した。
続いてアタックしたルーカス・ハミルトン(オーストラリア、UniSAオーストラリア)とジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)に続いて、残り1.2kmでついに本命の赤黒ジャージが動く。ダンシングで加速し、シッティングでスピードを繋ぎながら、過去2年のデジャブのようにポートが飛び出した。
加速を続けるポートは、食らいつく山岳賞ジャージのセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)を振り切って独走状態に。ウィランガヒルでの勝ち方を心得ているポートが最後までスピードを緩めずに独走し、エナオモントーヤを6秒振り切って勝利した。なお、ステージ3位に入ったマイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール)のSTRAVAログによると、ウッズは平均勾配7%の登りを平均26.3km/hで登っている。
「正直言ってこの勝利は予想していなかった。新入りの自分を最大限バックアップしてくれたチームに感謝している。驚くほど多くの観客が集まったウィランガヒルで3年連続勝利を収めるなんてファンタスティック。まるでツール・ド・フランスの山岳ステージを走っているようで、オーストラリアのロードレースへの愛を感じたよ」。ウィランガヒルでハットトリックを達成したポートの表情は明るい。
ボーナスタイムとライバルたちから稼いだタイム差によってポートは総合2位に浮上。しかし17秒差でフィニッシュしたゲランスから総合首位を奪うには9秒足らなかった。「この結果には十分満足しているし、総合逆転のためにボーナスタイムを狙うことはしない。今日も総合成績は考えていなかった。それよりも、BMCのジャージで初勝利を飾ったことが何よりも嬉しいよ」と、ポートは最終日に動きを見せない宣言をしている。
史上最多となる4度目の大会制覇に王手をかけたゲランスは「世界を代表するようなピュアクライマーたちのアタックに苦しめられたよ。でも総合リードを守り抜くことに成功した。あと1日だ!」とコメントしている。
ツアー・ダウンアンダー2016第5ステージ結果
1位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) 3h34’16”
2位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ) +06”
3位 マイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール) +09”
4位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ) +17”
5位 ラファエル・バルス(スペイン、ロット・ソウダル)
6位 ルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター)
7位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、AG2Rラモンディアール)
8位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
9位 ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)
10位 パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、キャノンデール)
個人総合成績
1位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) 17h16’31”
2位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) +09”
3位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ) +11”
4位 ジェイ・マッカーシー(オーストラリア、ティンコフ) +20”
5位 マイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール)
6位 ルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター) +28”
7位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、AG2Rラモンディアール)
8位 ラファエル・バルス(スペイン、ロット・ソウダル) +36”
9位 スティーブ・モラビート(スイス、FDJ) +49”
10位 パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、キャノンデール) +50”
スプリント賞
サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
山岳賞
セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)
ヤングライダー賞
ジェイ・マッカーシー(オーストラリア、ティンコフ)
チーム総合成績
キャノンデール
敢闘賞
デーヴィッド・タナー(オーストラリア、IAMサイクリング)
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
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