2016/01/21(木) - 19:46
UCIワールドツアーでワールドチームはどんな一日を送っているのか。開幕戦として盛り上がるオーストラリアのツアー・ダウンアンダーで、ツアー・オブ・ジャパンにも毎年参戦しているイタリアの名門チーム、ランプレ・メリダの一日を追った。
マッサーのミルコ・レダエリさん(左)右はチームスポンサーの方
タトゥーの入った手で可愛いサンドイッチを作っていく ツアー・ダウンアンダーの拠点となるビクトリアスクエア。ここに作られた特設テントの中で、各チームがレースの準備を進め始めたのは、レーススタートのフラッグが振られる3時間以上前。今回密着したランプレ・メリダの一日もすでに動き出していた。
この日のレースはアンレーからスターリングまでの132km、約3時間半。ここは真夏のオーストラリア。最高気温は35度まで上がり、消耗が激しくなることが予想される。まずスタッフが取り掛かったのは、レース中に選手のエネルギー源となる補給食の準備。ミネラルや塩分補給のためのスポーツドリンクや、水を入れるために用意されたボトルは80本以上。天候にもよるが、常に80本から100本、用意される。暑い日は飲むだけではなく、頭からかけたりすることもあるため、数も多くなる。
水分のほかには補給食も。ランプレ・メリダが用意した補給食は、市販の栄養バーなどではなく、手作りのもの。マッサーのミルコ・レダエリ氏のたくましい手で一つ一つ丁寧に包まれていくのは、小さなかわいいバターロール。真ん中で横ふたつにスライスされ、中にはカットされたバナナとラズベリージャムがたっぷり。
買い出しや補給食の準備は、マッサー2人の仕事だ。アデレード到着後最初の仕事は、スーパーへの買い出しだという。選手の補給食用のほかに、スタッフの昼食となるサンドイッチ用の材料も。レース中は片手で簡単に食べられるようなライトミールが中心となる。補給食を準備するそばでは、メカニック2人が自転車の準備。サポートカーに自転車や機材を詰め込む。
用意されたボトル。一人に5本以上が最初から充てがわれた
冷蔵庫で冷されるサコッシュ
チームカーのルーフ上には7台のスペアバイクが搭載される
フィリップ・モデュイ監督が無線機の調子をチェックする
スタート1時間前には、チーム・選手がスタート地点に到着する。サポートカーから自転車が降ろされ、選手も車から下りてくる。スタートまでの過ごし方は、選手それぞれ。外に出て日焼け止めを念入りに塗る選手もいれば、サポートカーの助手席に座り、ヘッドフォンをしたまま全く出て来ない選手もいる。コーヒーを飲んだり、選手やスタッフと談笑したり、ファンのサインに応じたり。インタビューを受けたりするのもこの時間。レース前と言っても比較的リラックスした雰囲気だし、ファンにとっては選手と交流するにはこの時間がチャンスだ。アンレーの町にもたくさんのファンが詰めかけていた。
スタートが切られると、選手、チームカー、サポートカーの順でパレード走行に出る。ニュートラルが外れてほどなくすると、サポートカーはコースを逸れ、フィーディングゾーン(補給が認められている場所)を目指した。この日のフィーディングゾーンはフィニッシュアーチのすぐ先に置かれてあり、表彰式が行われるポディウムそばの、チーム用のパーキングに車を停める。この日はフィニッシュ地点を5周。つまり、フィードゾーンも5回通るので5回の補給のチャンスがある。
チーム関係者とファンで賑わうフィードゾーン
集団でやってくる選手の中からチームメイトを探してサコッシュを手渡す
チームバンは大会から各チームに貸与される
選手にかける氷水を用意するスタッフ
選手への補給はマッサーの仕事だ。ランプレ・メリダのダウンアンダー陣容はマッサー2名、メカニック2名(1名はメリダ本社からのテクニカルサポート)、ドクター1名、監督1名に7名のライダーを加えた合計13名。ちなみにツアー・オブ・ジャパンでは、マッサー1名、メカニック1名、監督1名、ライダー6名の合計9名で、ドクターは含まれていない。
「プロチームでのドクター帯同はマスト」と言うのがランプレ・メリダのチームドクターであるマッテオ・ベルテマッチ氏。「選手を守り、ベストコンディションで走ってもらうのが僕たちの仕事。とても大切なことだと思っている。もちろん何もないのが一番いいれけど、万が一選手に何かあった時にすぐに駆け付けられるし、レースは旅が多い。体調の管理は基本的に選手に任せられているけれど、選手のことをよく知ったドクターがいることは、選手にとってもチームにとっても心強い。サッカーやテニスなどは、怪我をしたら基本的にそこでストップ。けれどロードレースは違う。たいていの場合はけがをしても病気をしても、レースが続く限り選手も走り続けるのだから」と語る。
フィニッシュが近づくとチームドクターのマッテオさん(左)もゴール付近で選手を待つ
レースの様子をゴールに設置された大型モニターで見守る
ハンドルを投げ込むジェイ・マッカーシー(オーストラリア、ティンコフ)とディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsuji
モニターのリプレイで最終的なリザルトを確認する
「よくやった、グッジョブ」と選手をねぎらうモデュイ監督
「勝ちたかったから残念だったけど、悪くはない。選手はよくやってくれた。」と話すフィリップ監督。レースにたびたび帯同するラルフさんは語る。「ああやって選手をねぎらうのはとても大事なこと。今日は僅差で2位だった。1位を取りたかったから、選手たちは落ち込み、とても静かだった。才能のあるライダーはある意味とてもセンシティブ。あれだけのレースを闘うのだから、フィジカルはもちろんのこと、強いメンタリティが必須だ。耐える力、集中力、そして回復する力がものすごく必要。今日の結果を受け、レース後2時間はとても静かだった。一人ひとり、自分と向き合っていたのだと思う」
レースからホテルに戻ると、メカニックは自転車の洗車と整備で忙しく働く。マッサーは一人一時間のマッサージにとりかかる。選手は7名だから、マッサー二人でも3~4時間はかかる。夕食は20時過ぎ。ダウンアンダーは移動が少ないから楽だと言う。選手の今日の疲れをしっかり回復させ、明日へのパワーを充電させる。選手を支えるサポートは、今日も続く。
オーストラリアで活動中の目黒誠子さん プロフィール
目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。3月までオーストラリアで語学留学をしながら現地の自転車事情を取材。各プロチームとの親交を深めるべく活動している。
text:Seiko Meguro in Adelaide, Australia
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この日のレースはアンレーからスターリングまでの132km、約3時間半。ここは真夏のオーストラリア。最高気温は35度まで上がり、消耗が激しくなることが予想される。まずスタッフが取り掛かったのは、レース中に選手のエネルギー源となる補給食の準備。ミネラルや塩分補給のためのスポーツドリンクや、水を入れるために用意されたボトルは80本以上。天候にもよるが、常に80本から100本、用意される。暑い日は飲むだけではなく、頭からかけたりすることもあるため、数も多くなる。
水分のほかには補給食も。ランプレ・メリダが用意した補給食は、市販の栄養バーなどではなく、手作りのもの。マッサーのミルコ・レダエリ氏のたくましい手で一つ一つ丁寧に包まれていくのは、小さなかわいいバターロール。真ん中で横ふたつにスライスされ、中にはカットされたバナナとラズベリージャムがたっぷり。
買い出しや補給食の準備は、マッサー2人の仕事だ。アデレード到着後最初の仕事は、スーパーへの買い出しだという。選手の補給食用のほかに、スタッフの昼食となるサンドイッチ用の材料も。レース中は片手で簡単に食べられるようなライトミールが中心となる。補給食を準備するそばでは、メカニック2人が自転車の準備。サポートカーに自転車や機材を詰め込む。
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スタート1時間前には、チーム・選手がスタート地点に到着する。サポートカーから自転車が降ろされ、選手も車から下りてくる。スタートまでの過ごし方は、選手それぞれ。外に出て日焼け止めを念入りに塗る選手もいれば、サポートカーの助手席に座り、ヘッドフォンをしたまま全く出て来ない選手もいる。コーヒーを飲んだり、選手やスタッフと談笑したり、ファンのサインに応じたり。インタビューを受けたりするのもこの時間。レース前と言っても比較的リラックスした雰囲気だし、ファンにとっては選手と交流するにはこの時間がチャンスだ。アンレーの町にもたくさんのファンが詰めかけていた。
スタートが切られると、選手、チームカー、サポートカーの順でパレード走行に出る。ニュートラルが外れてほどなくすると、サポートカーはコースを逸れ、フィーディングゾーン(補給が認められている場所)を目指した。この日のフィーディングゾーンはフィニッシュアーチのすぐ先に置かれてあり、表彰式が行われるポディウムそばの、チーム用のパーキングに車を停める。この日はフィニッシュ地点を5周。つまり、フィードゾーンも5回通るので5回の補給のチャンスがある。
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「プロチームでのドクター帯同はマスト」と言うのがランプレ・メリダのチームドクターであるマッテオ・ベルテマッチ氏。「選手を守り、ベストコンディションで走ってもらうのが僕たちの仕事。とても大切なことだと思っている。もちろん何もないのが一番いいれけど、万が一選手に何かあった時にすぐに駆け付けられるし、レースは旅が多い。体調の管理は基本的に選手に任せられているけれど、選手のことをよく知ったドクターがいることは、選手にとってもチームにとっても心強い。サッカーやテニスなどは、怪我をしたら基本的にそこでストップ。けれどロードレースは違う。たいていの場合はけがをしても病気をしても、レースが続く限り選手も走り続けるのだから」と語る。
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目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。3月までオーストラリアで語学留学をしながら現地の自転車事情を取材。各プロチームとの親交を深めるべく活動している。
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