2016/01/10(日) - 09:39
世界中に数多あるバイクメーカーの中でも独創的な設計で注目を集めるのが、カナダを拠点とするアルゴン18。昨年のツール・ド・フランスで、メインバイクの1つとして山岳ステージでボーラ・アルゴン18を支えた軽量モデル「GALLIUM PRO」をインプレッションする。
カナダ代表としてオリンピックに出場した経験を持つジャーベス・リュー氏が現役引退後の1989年に立ち上げたのがアルゴン18(エイティーン)だ。元々はリュー氏が経営するショップのオリジナルブランドであったものの、1999年に初出展したインターバイクで注目を集めたことを契機に本格的なブランド展開をスタートすることになったという。多くの大手ブランドが金属フレームをハイエンドとしていた2001年には、すでにカーボンバイク「HELIUM」を発表しており、従来より高い技術力を有していると言い得る。
2006年にはトライアスロン・ワールドカップで3大会の優勝に貢献し、2008年に発表したタイムトライアル用バイク「E-114」は、栄えあるユーロバイクアワードを受賞。レーシングバイクブランドとしての地位を確立すると、2015年にはプロチーム「ボーラ・アルゴン18」のチームバイクとしてツール・ド・フランス初出場を果たした。
そして、そのツールでチームバイクの1つとしてボーラ・アルゴン18を支えたのが、オールラウンドモデル「GALLIUM PRO(ガリウム・プロ)」である。同じくチームバイクであるエアロロードの「NITROGEN PRO)(ナイトロジェン・プロ)」に次ぐセカンドグレードだ。しかし、実際にはシーズンを通してGALLIUM PROがより多く使用されている。
そんなGALLIUM PROが目指したのは、登りを制すための軽量性やダウンヒルでの高い安定性、シャープなハンドリングを高次元でバランスさせること。これを叶えるための基本コンセプトが「HDS(ホリゾンタル・デュアル・システム)」。このHDSとは、ヘッドチューブ頂点とリアドロップを通る直線でフレームを2分割し、上下それぞれで役割分担を明確とした設計指標のことである。
「パワーゾーン」と名付けられたフレーム下部は、クランクで受け止めたパワーを余すこと無く推進力へと変換すべく強化した。ダウンチューブはねじれ剛性を高めるべく長方形断面とされ、プレスフィット式のBB86規格を採用するBBには側面にガゼットを設け、チェーンステーにもボリュームをもたせている。
一方の「コンフォートゾーン」と名付けられたフレーム上部は快適性を担う。シートステーは小指ほどの細さとしながら、シートチューブ側の間隔を広くとることで、トップチューブはヘッド側を大口径としてシートチューブに向かって絞ることで、不要な変形を抑えつつも衝撃吸収性を高めた。
上記のフレーム設計に大きく貢献するのがカーボン素材である。最先端のナノテクノロジーを応用した7050ナノテックカーボンを採用し、フレームとフォークの部位にあわせてレイアップを最適化。加えてサイズによって乗り味に違いが出ないよう調整し、フォークもサイズごとに専用設計としている。
そして、アルゴン18のアイコン的テクノロジーであり、ヘッドパーツ上側のベアリングの高さを0mm、15mm、25mmの3段階で変えることのできる「3Dヘッドチューブシステム」も、もちろん搭載される。これによりアップライトなポジションにおけるヘッド周りの剛性低下を抑えており、一般的なヘッドスペーサーと比べて15mmで5%、25mmで11%の剛性向上効果があるという。また、下位グレードではヘッドチューブ内にネジがたてられているのに対し、GALLIUM PROでは圧入とすることで軽量化を図った。
重量はフレーム単体が790g、フォーク単体が350g。サイズはXXS(415)、XS(455)、S(490)、M(530)、L(565) の5種類がラインアップされる。ジオメトリーは全体的にレーシングバイクとしては標準的な値となっているが、下りの安定性を高めるべくハンガー下がりを通常よりも5~7mm低い75mmとしたことが特徴的。その他、オフセットを15mmと25mmで変更することのできる専用シートポストが付属する。早速インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「低重心による安定感高い乗り味 あらゆるレースをカバーする懐の深い1台」
山崎敏正(シルベストサイクル)
アルゴン18については、国内では注目度の高いブランドというわけではありませんでしたが、GALLIUM PROを試乗してみて、これから人気が出てくるだろうと思わされました。良い意味でこれまでになかった乗り味があり、重心の低さが際立っています。試乗できる機会があれば是非試してみてもらいたいですね。
この重心に低さは、ハンガー下がりが75mmと他ブランドよりも大きいことによるものです。コーナリング中の安定感の高さは、私がこれまでに乗ってきたバイクの中でも1、2を争うほど。バイクを左右に振りやすいことから、ついついダンシングしたくなってしまいます。
高ケイデンスで小刻みにダンシングしても途中でペダリングがギクシャクすることがなく長続きしてくれるため、素早く加速することができます。フレーム側から「どんどん加速してください」とリクエストしてくると感じる程の軽快さがありますね。
従って得意とするのはアップダウンやタイトコーナーが連続するコースであり、その加速性の高さが武器となるはずです。一方、長距離の登りではバイクが持つリズムにうまくペダリングを合わせることで、疲労を大幅に抑えることができるでしょう。試乗コースに長い平坦路がなかったため、巡航性を深く理解できたわけではないのですが、シッティング時もそつがなく、高速域でもスピードを維持することが容易な印象です。
そして、今回の試乗車がXSサイズであったにも関わらず、過剛性という印象がなく、安定感が高かったことも高く評価できるポイントです。比較的小さなサイズですと、一般的に安定感がなく、直進安定性や振動吸収性が低いため、扱いづらいものですが、GALLIUM PROは思うままに扱うことができました。恐らくは大きなハンガー下がりによりコーナリングの安定性を高め、それ以外のジオメトリーで直進安定性を確保し、2つのバランスを取っているようです。
ただ、過剛性は防いでいるものの、絶対的な剛性が低いということはなく、むしろやや高めです。メーカー側が特殊な素材を使用しているとしていますが、カーボンの質の良さが剛性につながっているようで、シートステーは不安を覚えるほど細いものの、パワーロスに繋がる不要な変形は感じられません。もちろん、設計通りに振動吸収性に大きく貢献しています。
また、同じく細身のフロントフォークにも頼もしさがあり、チェーンステーとの剛性バランスも良好で、前後の挙動がきっちり同調してくれます。ハンガー下がりが大きいとウィップが出やすいBB周りにも、不要な変形は感じられませんでした。
性能面以外でのGALLIUM PROの大きな特徴であるヘッドチューブの短さも評価したいですね。特に、XSサイズほどのバイクに乗る方の中には、もっとハンドルを下げたいという方が増えてきているという印象があります。加えて、UCIの機材規定が従来よりも緩和され、タイヤの上面から10cm下方までハンドルバー位置を下げることができるようになったため、シリアスレーサーからもハンドル位置をより低くできるバイクを探しているという声をよく聞くようになりました。スペーサーを外した状態でのハンドル位置の低さは、適正体格の下限側に近いというライダーにとっては非常に歓迎されるものではないでしょうか。
一方でアルゴン18独自のヘッド構造については、今回の試乗車にスペーサーを積んでいても剛性感に不満はありませんし、外観が損なわれないという点も良いですね。総じて、高度なテクノロジーが詰まった、素直に好評価を与えることのできるバイクです。
やはり、このバイクがターゲットとするユーザーはシリアスな競技者であり、その中でも体重が軽めなクライマーにオススメです。同時に、加・減速を繰り返すシーンも守備範囲であり、ハイスピードなクリテリウムに対応できるだけの懐の深さを持ちあわせています。振動吸収性にも長けることから、ツール・ド・おきなわの210kmをはじめとした長距離レースにもピッタリ。倍以上の価格のフレームにも匹敵するだけの性能がありますから、フレームセットで30万円台中盤はお買い得といえるでしょう。
組み合わせるホイールはリムハイトが40mm程度の軽さを重視したオールラウンド系モデルが良いですね。。今回の試乗車に装着されていたヴィジョン Metron 40とは相性が良く、他には、カンパニョーロBORA 35などもオススメで、フレームとホイールの双方の素材感がうまくシンクロしてくれることでしょう。
「ヘッド周りの硬さが印象的 加減速が得意なパンチャー系のライダーに適したバイク」
鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
試乗を終えてみて強く印象に残ったのがヘッド周りの硬さです。短いヘッドチューブは、独自のヘッドパーツがアッセンブルされているとあって、見た目にも特徴的ですが、乗っても特徴的でした。対称的に、シートステーはしなやかで少し粘ってからフロント側の変形に追いついてくるような感覚があります。
ヘッド周りの剛性が硬いことにより、ダンシングの安定感は非常に高いレベルとなっています。力づくでハンドルをこじっても不安がなく、ほとんど変形を感じられません。そして、反応性が良いことから、クリテリウムやアタックが頻発するコースなど、加減速が大きなシーンで強い味方になってくれることでしょう。個人的にはダンシングは大きめに振ってあげた時のほうがしっくりときました。
そして、シッティングでもヘッド剛性の高さは活きており、不要な変形が少ないため、ペダリングのリズムを合わせてあげることができれば、より軽快に登りをこなすことができるでしょう。
ただ、ヘッド剛性が高い分だけ突き上げがやや大きいのは否めないところです。それでも「個性」として捉えられるレベルには抑えられており、気になる場合にはタイヤの幅や空気圧、ハンドルやステム、バーテープの厚みや巻き方で調整してあげると良いでしょう。その代わりにインフォメーション量が豊富なため、路面状況は掴みやすいです。
一方、ヘッド剛性が際立って高く、BBシェル幅は最大限に拡幅されていますが、昨今のフレームと比較するとやや細身なルックスの通りに剛性が高過ぎるということはなく、良い塩梅の硬さに仕上げられています。恐らくは、シートステーを細くすることで剛性のバランスをとっているのでしょう。冒頭の通り、リアは適度にしなやかで、トラクションを柔らかに伝えてくれます。
今回のインプレッションでは正確に感じ取ることはできませんでしたが、BBシェル側面の補強ガジェットのような造形は興味深いポイントです。コスト増の要因となる設計を敢えて施したということは、大なり小なり剛性面で何かしらの意味があるのでしょう。ケイデンス高めのペダリングが適している印象でした。
ハンドリングについては、起き上がろうとする力が強いストレートフォーク特有の感触に乗り始めは少し違和感を覚えました。しかし、慣れてしまえば気にならない程度であり、高速な下りのコーナリング中であってもニュートラルステアをキープしてくれます。
総じて、GALLIUM PROがターゲットとするユーザーは競技者といえるでしょう。ラインアップの中で最も軽いとのことでしたが、ヒルクライマーというよりも、加減速が得意なパンチャー系のライダーに似合うバイクだと思います。また、国内では決して知名度が高いとは言えないブランドですが、これから注目度が高まってきそうな印象があり、先取りという意味でも良いのではないでしょうか。
アルゴン18 NITROGEN PRO(フレームセット)
素 材:7050ナノテックカーボン
ボトムブラケット:BB86
重 量:フレーム790g、フロントフォーク350g、シートポスト226g
サイズ(C-T):XXS(415)、XS(455)、S(490)、M(530)、L(565)
カラー:Black/Red
付属品:専用シートポスト、専用ヘッドパーツ、専用内装バッテリーマウント
価 格:358,000円(税抜)
インプレライダーのプロフィール
鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。過去には大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の北浦和に店を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。ショップでは個人のポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考えている。「買ってもらった方に自転車を続けてもらう」ことをモットーに魅力あるバイクライフを提案する日々を送っている。
CWレコメンドショップページ
ショップHP
山崎敏正(シルベストサイクル)
「てnち」のニックネームで親しまれているシルベストサイクル総括店長。選手としてはモスクワオリンピックの日本代表に選出された経験を持つ一方で、サンツアーの開発部に在籍していたことから機材への造詣も深い。現在も現役でロードレースを走る。シルベストサイクルは梅田、箕面、京都と関西に3箇所に店舗を構え「頑張るアスリートのためのショップ」として信頼の技術力や確かなフィッティングサービスなどを提供する。加えて、ロードレースやロングライド、トライアスロン、トレイルランなど様々なジャンルのソフトサービスを展開している。
CWレコメンドショップページ
ショップHP
ウエア協力:reric
photo:Makoto.AYANO
text:Yuya.Yamamoto
カナダ代表としてオリンピックに出場した経験を持つジャーベス・リュー氏が現役引退後の1989年に立ち上げたのがアルゴン18(エイティーン)だ。元々はリュー氏が経営するショップのオリジナルブランドであったものの、1999年に初出展したインターバイクで注目を集めたことを契機に本格的なブランド展開をスタートすることになったという。多くの大手ブランドが金属フレームをハイエンドとしていた2001年には、すでにカーボンバイク「HELIUM」を発表しており、従来より高い技術力を有していると言い得る。
2006年にはトライアスロン・ワールドカップで3大会の優勝に貢献し、2008年に発表したタイムトライアル用バイク「E-114」は、栄えあるユーロバイクアワードを受賞。レーシングバイクブランドとしての地位を確立すると、2015年にはプロチーム「ボーラ・アルゴン18」のチームバイクとしてツール・ド・フランス初出場を果たした。
そして、そのツールでチームバイクの1つとしてボーラ・アルゴン18を支えたのが、オールラウンドモデル「GALLIUM PRO(ガリウム・プロ)」である。同じくチームバイクであるエアロロードの「NITROGEN PRO)(ナイトロジェン・プロ)」に次ぐセカンドグレードだ。しかし、実際にはシーズンを通してGALLIUM PROがより多く使用されている。
そんなGALLIUM PROが目指したのは、登りを制すための軽量性やダウンヒルでの高い安定性、シャープなハンドリングを高次元でバランスさせること。これを叶えるための基本コンセプトが「HDS(ホリゾンタル・デュアル・システム)」。このHDSとは、ヘッドチューブ頂点とリアドロップを通る直線でフレームを2分割し、上下それぞれで役割分担を明確とした設計指標のことである。
「パワーゾーン」と名付けられたフレーム下部は、クランクで受け止めたパワーを余すこと無く推進力へと変換すべく強化した。ダウンチューブはねじれ剛性を高めるべく長方形断面とされ、プレスフィット式のBB86規格を採用するBBには側面にガゼットを設け、チェーンステーにもボリュームをもたせている。
一方の「コンフォートゾーン」と名付けられたフレーム上部は快適性を担う。シートステーは小指ほどの細さとしながら、シートチューブ側の間隔を広くとることで、トップチューブはヘッド側を大口径としてシートチューブに向かって絞ることで、不要な変形を抑えつつも衝撃吸収性を高めた。
上記のフレーム設計に大きく貢献するのがカーボン素材である。最先端のナノテクノロジーを応用した7050ナノテックカーボンを採用し、フレームとフォークの部位にあわせてレイアップを最適化。加えてサイズによって乗り味に違いが出ないよう調整し、フォークもサイズごとに専用設計としている。
そして、アルゴン18のアイコン的テクノロジーであり、ヘッドパーツ上側のベアリングの高さを0mm、15mm、25mmの3段階で変えることのできる「3Dヘッドチューブシステム」も、もちろん搭載される。これによりアップライトなポジションにおけるヘッド周りの剛性低下を抑えており、一般的なヘッドスペーサーと比べて15mmで5%、25mmで11%の剛性向上効果があるという。また、下位グレードではヘッドチューブ内にネジがたてられているのに対し、GALLIUM PROでは圧入とすることで軽量化を図った。
重量はフレーム単体が790g、フォーク単体が350g。サイズはXXS(415)、XS(455)、S(490)、M(530)、L(565) の5種類がラインアップされる。ジオメトリーは全体的にレーシングバイクとしては標準的な値となっているが、下りの安定性を高めるべくハンガー下がりを通常よりも5~7mm低い75mmとしたことが特徴的。その他、オフセットを15mmと25mmで変更することのできる専用シートポストが付属する。早速インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「低重心による安定感高い乗り味 あらゆるレースをカバーする懐の深い1台」
山崎敏正(シルベストサイクル)
アルゴン18については、国内では注目度の高いブランドというわけではありませんでしたが、GALLIUM PROを試乗してみて、これから人気が出てくるだろうと思わされました。良い意味でこれまでになかった乗り味があり、重心の低さが際立っています。試乗できる機会があれば是非試してみてもらいたいですね。
この重心に低さは、ハンガー下がりが75mmと他ブランドよりも大きいことによるものです。コーナリング中の安定感の高さは、私がこれまでに乗ってきたバイクの中でも1、2を争うほど。バイクを左右に振りやすいことから、ついついダンシングしたくなってしまいます。
高ケイデンスで小刻みにダンシングしても途中でペダリングがギクシャクすることがなく長続きしてくれるため、素早く加速することができます。フレーム側から「どんどん加速してください」とリクエストしてくると感じる程の軽快さがありますね。
従って得意とするのはアップダウンやタイトコーナーが連続するコースであり、その加速性の高さが武器となるはずです。一方、長距離の登りではバイクが持つリズムにうまくペダリングを合わせることで、疲労を大幅に抑えることができるでしょう。試乗コースに長い平坦路がなかったため、巡航性を深く理解できたわけではないのですが、シッティング時もそつがなく、高速域でもスピードを維持することが容易な印象です。
そして、今回の試乗車がXSサイズであったにも関わらず、過剛性という印象がなく、安定感が高かったことも高く評価できるポイントです。比較的小さなサイズですと、一般的に安定感がなく、直進安定性や振動吸収性が低いため、扱いづらいものですが、GALLIUM PROは思うままに扱うことができました。恐らくは大きなハンガー下がりによりコーナリングの安定性を高め、それ以外のジオメトリーで直進安定性を確保し、2つのバランスを取っているようです。
ただ、過剛性は防いでいるものの、絶対的な剛性が低いということはなく、むしろやや高めです。メーカー側が特殊な素材を使用しているとしていますが、カーボンの質の良さが剛性につながっているようで、シートステーは不安を覚えるほど細いものの、パワーロスに繋がる不要な変形は感じられません。もちろん、設計通りに振動吸収性に大きく貢献しています。
また、同じく細身のフロントフォークにも頼もしさがあり、チェーンステーとの剛性バランスも良好で、前後の挙動がきっちり同調してくれます。ハンガー下がりが大きいとウィップが出やすいBB周りにも、不要な変形は感じられませんでした。
性能面以外でのGALLIUM PROの大きな特徴であるヘッドチューブの短さも評価したいですね。特に、XSサイズほどのバイクに乗る方の中には、もっとハンドルを下げたいという方が増えてきているという印象があります。加えて、UCIの機材規定が従来よりも緩和され、タイヤの上面から10cm下方までハンドルバー位置を下げることができるようになったため、シリアスレーサーからもハンドル位置をより低くできるバイクを探しているという声をよく聞くようになりました。スペーサーを外した状態でのハンドル位置の低さは、適正体格の下限側に近いというライダーにとっては非常に歓迎されるものではないでしょうか。
一方でアルゴン18独自のヘッド構造については、今回の試乗車にスペーサーを積んでいても剛性感に不満はありませんし、外観が損なわれないという点も良いですね。総じて、高度なテクノロジーが詰まった、素直に好評価を与えることのできるバイクです。
やはり、このバイクがターゲットとするユーザーはシリアスな競技者であり、その中でも体重が軽めなクライマーにオススメです。同時に、加・減速を繰り返すシーンも守備範囲であり、ハイスピードなクリテリウムに対応できるだけの懐の深さを持ちあわせています。振動吸収性にも長けることから、ツール・ド・おきなわの210kmをはじめとした長距離レースにもピッタリ。倍以上の価格のフレームにも匹敵するだけの性能がありますから、フレームセットで30万円台中盤はお買い得といえるでしょう。
組み合わせるホイールはリムハイトが40mm程度の軽さを重視したオールラウンド系モデルが良いですね。。今回の試乗車に装着されていたヴィジョン Metron 40とは相性が良く、他には、カンパニョーロBORA 35などもオススメで、フレームとホイールの双方の素材感がうまくシンクロしてくれることでしょう。
「ヘッド周りの硬さが印象的 加減速が得意なパンチャー系のライダーに適したバイク」
鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
試乗を終えてみて強く印象に残ったのがヘッド周りの硬さです。短いヘッドチューブは、独自のヘッドパーツがアッセンブルされているとあって、見た目にも特徴的ですが、乗っても特徴的でした。対称的に、シートステーはしなやかで少し粘ってからフロント側の変形に追いついてくるような感覚があります。
ヘッド周りの剛性が硬いことにより、ダンシングの安定感は非常に高いレベルとなっています。力づくでハンドルをこじっても不安がなく、ほとんど変形を感じられません。そして、反応性が良いことから、クリテリウムやアタックが頻発するコースなど、加減速が大きなシーンで強い味方になってくれることでしょう。個人的にはダンシングは大きめに振ってあげた時のほうがしっくりときました。
そして、シッティングでもヘッド剛性の高さは活きており、不要な変形が少ないため、ペダリングのリズムを合わせてあげることができれば、より軽快に登りをこなすことができるでしょう。
ただ、ヘッド剛性が高い分だけ突き上げがやや大きいのは否めないところです。それでも「個性」として捉えられるレベルには抑えられており、気になる場合にはタイヤの幅や空気圧、ハンドルやステム、バーテープの厚みや巻き方で調整してあげると良いでしょう。その代わりにインフォメーション量が豊富なため、路面状況は掴みやすいです。
一方、ヘッド剛性が際立って高く、BBシェル幅は最大限に拡幅されていますが、昨今のフレームと比較するとやや細身なルックスの通りに剛性が高過ぎるということはなく、良い塩梅の硬さに仕上げられています。恐らくは、シートステーを細くすることで剛性のバランスをとっているのでしょう。冒頭の通り、リアは適度にしなやかで、トラクションを柔らかに伝えてくれます。
今回のインプレッションでは正確に感じ取ることはできませんでしたが、BBシェル側面の補強ガジェットのような造形は興味深いポイントです。コスト増の要因となる設計を敢えて施したということは、大なり小なり剛性面で何かしらの意味があるのでしょう。ケイデンス高めのペダリングが適している印象でした。
ハンドリングについては、起き上がろうとする力が強いストレートフォーク特有の感触に乗り始めは少し違和感を覚えました。しかし、慣れてしまえば気にならない程度であり、高速な下りのコーナリング中であってもニュートラルステアをキープしてくれます。
総じて、GALLIUM PROがターゲットとするユーザーは競技者といえるでしょう。ラインアップの中で最も軽いとのことでしたが、ヒルクライマーというよりも、加減速が得意なパンチャー系のライダーに似合うバイクだと思います。また、国内では決して知名度が高いとは言えないブランドですが、これから注目度が高まってきそうな印象があり、先取りという意味でも良いのではないでしょうか。
アルゴン18 NITROGEN PRO(フレームセット)
素 材:7050ナノテックカーボン
ボトムブラケット:BB86
重 量:フレーム790g、フロントフォーク350g、シートポスト226g
サイズ(C-T):XXS(415)、XS(455)、S(490)、M(530)、L(565)
カラー:Black/Red
付属品:専用シートポスト、専用ヘッドパーツ、専用内装バッテリーマウント
価 格:358,000円(税抜)
インプレライダーのプロフィール
鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。過去には大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の北浦和に店を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。ショップでは個人のポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考えている。「買ってもらった方に自転車を続けてもらう」ことをモットーに魅力あるバイクライフを提案する日々を送っている。
CWレコメンドショップページ
ショップHP
山崎敏正(シルベストサイクル)
「てnち」のニックネームで親しまれているシルベストサイクル総括店長。選手としてはモスクワオリンピックの日本代表に選出された経験を持つ一方で、サンツアーの開発部に在籍していたことから機材への造詣も深い。現在も現役でロードレースを走る。シルベストサイクルは梅田、箕面、京都と関西に3箇所に店舗を構え「頑張るアスリートのためのショップ」として信頼の技術力や確かなフィッティングサービスなどを提供する。加えて、ロードレースやロングライド、トライアスロン、トレイルランなど様々なジャンルのソフトサービスを展開している。
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ウエア協力:reric
photo:Makoto.AYANO
text:Yuya.Yamamoto
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