2015/12/04(金) - 18:04
11月のサイクルモードで、サーヴェロ創業者で現代表のフィル・ホワイト氏へとインタビューを行った。先進的な技術で常に羨望の眼差しを向けられるサーヴェロの生い立ち、現在、そして未来とは。
フィル・ホワイト氏が日本にやってきた。ジェラルド・ブルーメン氏と共にサーヴェロを興し、先進的な設計で急成長を遂げ、常に羨望の眼差しを向けられるサーヴェロブランドの現代表が。代表職を務めながら現在も開発に携わり、多忙を極めるホワイト氏は本国であってもメディアへの登場は稀有だという。
「こんなにもたくさんのファンが来てくれて嬉しい」と、予定時間を過ぎてもサーヴェロブースでのサイン会で丁寧なファンサービスを行っていたホワイト代表。彼にあまり知られていないサーヴェロブランドの生い立ちや、現在、そして将来への展望を聞いてみた。
ー 今日はよろしくお願いします。まずサーヴェロを創業するまでの経緯を教えて頂けますか?
私はエンジニアになるべく、モントリオールの大学で電子工学を始め様々なことを学んでいたが、その過程でオランダからカナダに留学していたジェラルドと知り合った。その中で次世代の素材として台頭してきたカーボンに着目し、これを自転車を始めとした人力動車に応用してみてはどうだろう?と思い立って開発をスタートしたんだ。
それからすぐの1995年に、91年と92年にTT世界王者であるジャンニ・ブーニョ(イタリア)からジェラルドに、世界最速のタイムトライアルバイクを作って欲しいという依頼があった。そこで僕とジェラルドは最高のバイクを作ってやろうと決心した。これがサーヴェロにとっての大きな第一歩だったんだ。
結果的にそのバイクはブーニョのバイクスポンサーから嫌われ一度も日の目を見なかったが、噂を聞いた人々から「買うならいくらだ?」とか「実戦で使わせてくれ」という依頼が来るようになった。そして彼らのオーダーに応えていきながら、サーヴェロとして起業した。あの時はクレイジーなほど野心に満ち溢れていたし、本当に毎日がチャレンジの連続でエキサイティングだったね。
そしてロードとトライアスロンの選手にサポートを続け、1998年にはドイツとカナダのTTナショナル選手権を制した。2000年に入ってからはP3やソロイストをローンチした。2003年からチームCSCへとサポートを行い、そこで認知度が一気に高まった。そこからのプロレースでの話はみんなもご存知の通りだろう。その中で日本での人気も理解している。全てのサーヴェロユーザーには感謝しているよ。
ー 現MTNキュベカであるディメンションデータにはマーク・カヴェンディッシュらが加入し、より活躍が期待できますね。
カヴェンディッシュの加入はグッドニュースだった。彼はずっとサーヴェロに興味を持ってコンタクトを取ってくれていたし、エアロロードバイクに造詣が深い。開発上でも良いフィードバックをもたらしてくれるだろう。他にもクラシックレースに強い選手も加入するので、選手層はぐっと厚くなる。楽しみだね。
ー 2016年モデルとしてデビューしたR3 Discは、ブランド初のディスクブレーキモデルとなりました。
そう。サーヴェロにとって今年は大きな進化を成し遂げた年になった。長い下りやウェット路面でのディスクブレーキの優位性は誰もが認めることであるし、キャリパーブレーキと違いリムの設計自由度も飛躍的に高まった。「ディスクブレーキはエアロじゃない!」という意見もあるが、そんなことは問題ではない。ブレーキとは本来車体を止めるためのシステムだろう?だったらどんなコンディションでも安全に走れる方が絶対に良い。
ー ロードバイクのディスクローター径は、140mmと160mmではどちらが適していると考えていますか?
まだ最終的な答えを出せていないが、フロント側は安全性を考えて160mmにするのが良いと思う。ただしシマノのフラットマウントは140mmを推奨しているため、パーツ供給も踏まえR3 Discは前後140mm径を選択している。今後は全てのメーカーがポストマウントからフラットマウントへと移行するだろうが、今は転換期。R3 Discはアダプターを介してフラットマウントに対応するようにしている。
そしてスルーアクスルを採用したことも大きな進化と言えるんだ。強力なディスクブレーキの制動力にはスルーアクスルを組み合わせるのが良いし、構造体としてクイックリリースよりも強固にできる。これらを採用する上では動力性能はもちろん、チェーンラインや様々な規格を全て掛け合わせた上でテストを行ってきた。
ー 現状では複数のスルーアクスル規格が存在しますが、どれが一番良いのでしょうか?
良い質問だ。サーヴェロ社内の開発チームでも長期に渡って論議してきたことだが、R3 Discには12mmスルーアクスルを採用した。またスルーアクスルはフレーム/フォーク両側の穴が完璧に同位置でなければ完全な固定が出来ないが、工業製品である以上フレーム側に完璧な精度を求めることは不可能。だからリアドロップと共に僅かな遊びを持たせ、レバーを締めると全てが固定されるセミフローティングドロップアウトを開発した。さらにもう一つの利点としてリアディレイラーに衝撃が加わった場合でもフレームへのダメージが無くなる。チェーンラインの問題もクリアしているし、R3 Discは従来のR3にディスクブレーキをポン付けしたものでは全くないことを付け加えておくよ。
ー カーボンに代わる次の素材は何か出始めているのですか?
いくつかの新素材は出始めているが、まだ暫くはカーボンの時代が続くだろう。例えば自動車業界ではBMWがi3というカーボンファイバーを多用したEVカーを発売したし、他業界でもカーボン製品が続々と登場している。だから逆に、今我々が取り組んでいるのは素材の開発ではなく、プロセス(過程・手順)を改善すること。
2008年に立ち上げた「プロジェクトカリフォルニア」からR5caが生まれ、そして3年を置いてRcaへとモデルチェンジ。正直言って数を販売することは二の次で、どちらかと言えばサーヴェロ開発陣の技術的なチャレンジとして取り組んでいるモノなんだ。Rcaはフレーム重量650gだが、正直言ってもっと軽くすることはできるよ。
そしてサーヴェロの目標は、そうした最高級バイクのテクノロジーを中価格帯の製品に落とし込み、パフォーマンスを向上させることにある。
さらに言えば、今一番着目しているのは、Eバイクとシティバイク。社会的に交通手段をより進化させることは重要だと捉えているからだ。例えば中国ではたくさんの人々が自転車を使っているのに、安価で重く性能の悪い実用車がほぼ100%。僕らはここを変えていきたいと思っている。中国では自動車の渋滞や排ガスが社会問題となっているが、安価で高性能の自転車を投入できれば状況は一変するだろうし、ヨーロッパや北米、日本といった先進国でもより良い未来が見えてくるはずだ。
これには全ての自転車業界が協力していく必要があるが、まずそのための一歩としてプロジェクトカリフォルニアを重要なものとして捉えている。そして次のステップとして中価格帯スポーツバイクの性能を底上げ。ビッグなチャレンジだが、個人的にはとても楽しみだね。
こうした考えはMTNキュベカとの関係があったからこそ生まれたもの、ということも付け加えさせてほしい。キュベカの目標は、アフリカに自転車を届け、人々の生活を改善していくことにある。実際に本当にたくさんの自転車を寄付することができたし、アフリカ籍のチームとして初めてツール・ド・フランスに参加するなど、アフリカの人々に大きな希望を与えることができた。そこに協力できたことはサーヴェロにとても大きかったし、誇りに感じている。こうした社会的な取り組みにも貢献していくことがサーヴェロにとってのネクストステージなんだ。
text:So.Isobe
フィル・ホワイト氏が日本にやってきた。ジェラルド・ブルーメン氏と共にサーヴェロを興し、先進的な設計で急成長を遂げ、常に羨望の眼差しを向けられるサーヴェロブランドの現代表が。代表職を務めながら現在も開発に携わり、多忙を極めるホワイト氏は本国であってもメディアへの登場は稀有だという。
「こんなにもたくさんのファンが来てくれて嬉しい」と、予定時間を過ぎてもサーヴェロブースでのサイン会で丁寧なファンサービスを行っていたホワイト代表。彼にあまり知られていないサーヴェロブランドの生い立ちや、現在、そして将来への展望を聞いてみた。
ー 今日はよろしくお願いします。まずサーヴェロを創業するまでの経緯を教えて頂けますか?
私はエンジニアになるべく、モントリオールの大学で電子工学を始め様々なことを学んでいたが、その過程でオランダからカナダに留学していたジェラルドと知り合った。その中で次世代の素材として台頭してきたカーボンに着目し、これを自転車を始めとした人力動車に応用してみてはどうだろう?と思い立って開発をスタートしたんだ。
それからすぐの1995年に、91年と92年にTT世界王者であるジャンニ・ブーニョ(イタリア)からジェラルドに、世界最速のタイムトライアルバイクを作って欲しいという依頼があった。そこで僕とジェラルドは最高のバイクを作ってやろうと決心した。これがサーヴェロにとっての大きな第一歩だったんだ。
結果的にそのバイクはブーニョのバイクスポンサーから嫌われ一度も日の目を見なかったが、噂を聞いた人々から「買うならいくらだ?」とか「実戦で使わせてくれ」という依頼が来るようになった。そして彼らのオーダーに応えていきながら、サーヴェロとして起業した。あの時はクレイジーなほど野心に満ち溢れていたし、本当に毎日がチャレンジの連続でエキサイティングだったね。
そしてロードとトライアスロンの選手にサポートを続け、1998年にはドイツとカナダのTTナショナル選手権を制した。2000年に入ってからはP3やソロイストをローンチした。2003年からチームCSCへとサポートを行い、そこで認知度が一気に高まった。そこからのプロレースでの話はみんなもご存知の通りだろう。その中で日本での人気も理解している。全てのサーヴェロユーザーには感謝しているよ。
ー 現MTNキュベカであるディメンションデータにはマーク・カヴェンディッシュらが加入し、より活躍が期待できますね。
カヴェンディッシュの加入はグッドニュースだった。彼はずっとサーヴェロに興味を持ってコンタクトを取ってくれていたし、エアロロードバイクに造詣が深い。開発上でも良いフィードバックをもたらしてくれるだろう。他にもクラシックレースに強い選手も加入するので、選手層はぐっと厚くなる。楽しみだね。
ー 2016年モデルとしてデビューしたR3 Discは、ブランド初のディスクブレーキモデルとなりました。
そう。サーヴェロにとって今年は大きな進化を成し遂げた年になった。長い下りやウェット路面でのディスクブレーキの優位性は誰もが認めることであるし、キャリパーブレーキと違いリムの設計自由度も飛躍的に高まった。「ディスクブレーキはエアロじゃない!」という意見もあるが、そんなことは問題ではない。ブレーキとは本来車体を止めるためのシステムだろう?だったらどんなコンディションでも安全に走れる方が絶対に良い。
ー ロードバイクのディスクローター径は、140mmと160mmではどちらが適していると考えていますか?
まだ最終的な答えを出せていないが、フロント側は安全性を考えて160mmにするのが良いと思う。ただしシマノのフラットマウントは140mmを推奨しているため、パーツ供給も踏まえR3 Discは前後140mm径を選択している。今後は全てのメーカーがポストマウントからフラットマウントへと移行するだろうが、今は転換期。R3 Discはアダプターを介してフラットマウントに対応するようにしている。
そしてスルーアクスルを採用したことも大きな進化と言えるんだ。強力なディスクブレーキの制動力にはスルーアクスルを組み合わせるのが良いし、構造体としてクイックリリースよりも強固にできる。これらを採用する上では動力性能はもちろん、チェーンラインや様々な規格を全て掛け合わせた上でテストを行ってきた。
ー 現状では複数のスルーアクスル規格が存在しますが、どれが一番良いのでしょうか?
良い質問だ。サーヴェロ社内の開発チームでも長期に渡って論議してきたことだが、R3 Discには12mmスルーアクスルを採用した。またスルーアクスルはフレーム/フォーク両側の穴が完璧に同位置でなければ完全な固定が出来ないが、工業製品である以上フレーム側に完璧な精度を求めることは不可能。だからリアドロップと共に僅かな遊びを持たせ、レバーを締めると全てが固定されるセミフローティングドロップアウトを開発した。さらにもう一つの利点としてリアディレイラーに衝撃が加わった場合でもフレームへのダメージが無くなる。チェーンラインの問題もクリアしているし、R3 Discは従来のR3にディスクブレーキをポン付けしたものでは全くないことを付け加えておくよ。
ー カーボンに代わる次の素材は何か出始めているのですか?
いくつかの新素材は出始めているが、まだ暫くはカーボンの時代が続くだろう。例えば自動車業界ではBMWがi3というカーボンファイバーを多用したEVカーを発売したし、他業界でもカーボン製品が続々と登場している。だから逆に、今我々が取り組んでいるのは素材の開発ではなく、プロセス(過程・手順)を改善すること。
2008年に立ち上げた「プロジェクトカリフォルニア」からR5caが生まれ、そして3年を置いてRcaへとモデルチェンジ。正直言って数を販売することは二の次で、どちらかと言えばサーヴェロ開発陣の技術的なチャレンジとして取り組んでいるモノなんだ。Rcaはフレーム重量650gだが、正直言ってもっと軽くすることはできるよ。
そしてサーヴェロの目標は、そうした最高級バイクのテクノロジーを中価格帯の製品に落とし込み、パフォーマンスを向上させることにある。
さらに言えば、今一番着目しているのは、Eバイクとシティバイク。社会的に交通手段をより進化させることは重要だと捉えているからだ。例えば中国ではたくさんの人々が自転車を使っているのに、安価で重く性能の悪い実用車がほぼ100%。僕らはここを変えていきたいと思っている。中国では自動車の渋滞や排ガスが社会問題となっているが、安価で高性能の自転車を投入できれば状況は一変するだろうし、ヨーロッパや北米、日本といった先進国でもより良い未来が見えてくるはずだ。
これには全ての自転車業界が協力していく必要があるが、まずそのための一歩としてプロジェクトカリフォルニアを重要なものとして捉えている。そして次のステップとして中価格帯スポーツバイクの性能を底上げ。ビッグなチャレンジだが、個人的にはとても楽しみだね。
こうした考えはMTNキュベカとの関係があったからこそ生まれたもの、ということも付け加えさせてほしい。キュベカの目標は、アフリカに自転車を届け、人々の生活を改善していくことにある。実際に本当にたくさんの自転車を寄付することができたし、アフリカ籍のチームとして初めてツール・ド・フランスに参加するなど、アフリカの人々に大きな希望を与えることができた。そこに協力できたことはサーヴェロにとても大きかったし、誇りに感じている。こうした社会的な取り組みにも貢献していくことがサーヴェロにとってのネクストステージなんだ。
text:So.Isobe
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