2015/11/09(月) - 19:06
UCIチャンピオンレースは終盤の激しい攻防を経て抜け出した15人がラスト5kmの通称”イオン坂”へ。入部正太朗(シマノレーシング)のアタックで4人が抜け出し、そこからロングスパートを決めたのはジェイソン・クリスティ(アバンティレーシングチーム)だった。
気温30度のレース
ツール・ド・おきなわの最高峰レースはUCI2.1クラスのチャンピオンレース210km。与那から普久川ダムの登りを2回こなし、アップダウンの連続する東海岸を経て、ラスト15kmの勝負どころとなる羽地ダムへの登りをこなし名護へのフィニッシュへと至るハードなコースだ。レースが行なわれた11月8日(日)は晴天で朝から気温が上がり、名護市で29度、場所によっては30度まで上がった真夏日になった。
スタートから3人が20分差をつけて逃げる
UCIレースに参戦したのは19チーム各5名までの計92名。コンチネンタルチームが12チーム、ほかナショナルチーム、クラブチーム、大学チームが参戦。夜明けの名護市内を朝6時45分にスタート。スタート時点で前にいたチーム・ローゼの選手が抜け出すと、すぐに3人の逃げが決まる。レース開始1分で決まったその逃げは、その後4時間以上、130kmにわたって続くことに。メンバーはルイス・レイナウ(チーム・ローゼ)、吉岡直哉(那須ブラーゼン)、大村寛(レモネードベルマーレレーシングチーム)の3人だ。
3人の逃げが決まるとメイン集団はチーム・ローゼを中心に道幅いっぱいに広がり、一気にペースダウン。この日は気温が上がることが予想され、勝負を終盤に持ち込みたい各チームの思惑が一致したこともあった。逃げとメイン集団のタイム差は最大20分にまで開く。ここまでタイム差が開いたことは過去にない。レースは北上して与那からの1回目の上りへ。ここでペースが上がり、ようやくタイム差が縮まり始める。
後半へ向けて動く先頭と、こう着状態のメイン集団
2回目の与那から普久川ダムへの上りはハイペースで一列棒状から集団が分断され、9人の追走集団が形成された。メンバーはベンジャミン・プラデスとアイラン・フェルナンデス(マトリックスパワータグ)、ジェイソン・クリスティ(アバンティレーシングチーム)、初山翔(ブリヂストンアンカー)、伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)、鈴木龍(那須ブラーゼン)、湊諒(チーム右京)、ジャイ・クロフォード(キナンサイクリングチーム)、堀孝明(宇都宮ブリッツェン)。レースは最終的にこの9人と、ここへブリッヂに成功した選手たちの戦いとなる。
レースは普久川ダムから下って東海岸を一路南下する。この時点で先頭2人と追走9人の間は2分、メイン集団はさらに1分後方に位置する。メイン集団からは追走9人が直線では見える距離。そして130km地点の高江付近で先頭の2人は追走9人に吸収される。メイン集団はアタックと牽制を繰り返し、安定しない。先頭集団ではフェルナンデスが積極的だ。
ブリッヂを試みる選手たち
不安定なメイン集団からはブリッヂを試みる選手たちが次々に飛び出す。最初にダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカー)が単独、それから入部正太朗(シマノレーシング)、ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)、山本大喜(鹿屋体育大学)らが先頭へ合流し、平良から安部にいたるまでの約30分間に15人の先頭集団ができる。鈴木真理(宇都宮ブリッツェン)や内間康平(ブリヂストンアンカー)らも抜け出すが、思惑が一致せず先頭グループに届かない。
山本大喜(鹿屋体育大学)が10kmを独走
残り24km地点で鹿屋体大の山本大喜が単独でアタックし、差を30秒ほどに広げて羽地ダムへの上りへと向かう。残り14人も山本を追走し、上り区間の始まりからフェルナンデスが先頭でペースを上げ、10km逃げた山本を吸収しハイペースを維持したまま番越トンネルへ。トンネルを出て右折すぐの急坂でプラデスがアタック。15秒ほどリードしたのちフェルナンデスと鈴木龍が合流するが、集団に吸収され国道58号へ向かう。
イオン坂での入部正太朗のアタックが4人の勝負に絞り込んだ
下って国道58号へ出てのラスト7km、ここからは各選手のアタックの仕掛けあいに。攻撃するのはモニエ、プラデス、トリビオ、入部ら。クリスティや鈴木龍は多くのアタックに反応する。そしてラスト6km、通称イオン坂にさしかかるとトリビオがアタック、すかさず入部が反応し先頭へ。入部のアタックに反応できたのはクリスティ、モニエ、そしてプラデス。この4人でラスト5kmのピークを越え、フィニッシュへと向かった。
明暗を分けたメイン集団のメンバー
4人によるスプリントは、先頭交代のタイミングでクリスティがラスト1kmでアタックして、そのままロングスパートに。3人が牽制したこともあり、クリスティがフィニッシュまで逃げ切った。2位争いは入部が制した。
結局、レースはラスト30kmで出来た15人の逃げにより競われた。このなかに入ったメンバーは、2回目の与那の上りで抜け出した9人と、後方からのブリッヂに成功した選手たちだけ。アタックと牽制を繰りかえしていたメイン集団からいかに抜け出したかが明暗を分けた。
終盤に至るまで最も動きレースを作ったのはマトリックス・パワータグだった。そこからさらにアタックを成功させたのは入部。優勝したクリスティは中盤までは逃げ集団の後方にいることが多かった。しかし終盤の攻防では、チームメイトが一緒にいたものの、他チームによる多くのアタックに自らが反応し、決定的だった入部のアタックにも反応して勝利を手繰り寄せた。ニュージーランドではこの時期レースが少ないためベルギーに滞在し、このおきなわに焦点を合わせコンディションをピークに持ってきていたと言う。
優勝したジェイソン・クリスティ(アバンティレーシングチーム)
ツール・ド・熊野とツアー・オブ・ジャパンに出場経験があり、UCIレースではツアー・オブ・ニュージーランドでのステージ勝利がキャリアにあるというクリスティは言う。
「このツール・ド・おきなわに体調を合わせてきていたので絶好調だった。僕の脚質は山を登れてスプリントもそこそこいけるオールラウンダータイプ。今日は勝つつもりで走った。ツール・ド・おきなわは初めての出場。走りながら海や山の美しい景色も堪能していた。素晴らしいレースだった。将来の夢はもちろんツール・ド・フランスに出場すること」。
自ら動いて2位の入部正太朗(シマノレーシング)
こう着状態の続くメイン集団からブリッヂを成功させ、そしてイオン坂で4人のアタックを成功させた入部は昨年の3位から順位をひとつ上げた。
「最後のイオン坂でのアタックは、自分が一番得意な距離でした。アンカーとマトリックスが2人ずつ集団にいたので、逃げた4人を追うメンバーは限られるから決まると思いました。4人の中ではクリスティがペースを上げすぎて、そのおかげで牽制もしてしまったりしてうまく回らず、ラスト1kmで行かれてしまいました」
「メイン集団からアタックしたのは、やり合っているメイン集団から一刻も早くジャンプアップしたかったから。イオン坂ではレースがよく見えていて、自分から行って決まったのは自信に繋がります。ただ、彼が強かった。そして自分の詰めが甘かったです。シーズンをまずますいい形で終えることができました」
勝負どころで単独アタックした山本大喜(鹿屋体育大学)
勝負どころで10kmにわたって逃げた山本。その前にも山本がおもに引いた6人が先頭集団へブリッヂに成功していた。
「先頭集団に有力選手がいたので、そこへ追いつけば自分も逃げ切れると思いました。メイン集団から前の集団は見えていたので、周りは”いつでも追いつくだろう”という雰囲気でしたが、自分は決まってしまうと思いました。ブリッヂの判断は良かったと思っています」
「一人での逃げは、もしかして逃がしてくれるかと思いましたが、少し手前過ぎました。今考えればもう少し別のタイミングがあったとは思いますが。力は出し切ったという点では良かったと思います」
結果
チャンピオン210km
1位 ジェイソン・クリスティ(アバンティレーシングチーム)5時間37分06秒
2位 入部正太朗(シマノレーシング)+13秒
3位 ベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)+14秒
4位 ダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+16秒
5位 井上和郎(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+21秒
6位 初山翔(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+22秒
7位 ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)
8位 鈴木龍(那須ブラーゼン)
9位 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)
10位 ジャイ・クロフォード(キナンサイクリングチーム)
photo&text:Hideaki TAKAGI、Makoto AYANO
気温30度のレース
ツール・ド・おきなわの最高峰レースはUCI2.1クラスのチャンピオンレース210km。与那から普久川ダムの登りを2回こなし、アップダウンの連続する東海岸を経て、ラスト15kmの勝負どころとなる羽地ダムへの登りをこなし名護へのフィニッシュへと至るハードなコースだ。レースが行なわれた11月8日(日)は晴天で朝から気温が上がり、名護市で29度、場所によっては30度まで上がった真夏日になった。
スタートから3人が20分差をつけて逃げる
UCIレースに参戦したのは19チーム各5名までの計92名。コンチネンタルチームが12チーム、ほかナショナルチーム、クラブチーム、大学チームが参戦。夜明けの名護市内を朝6時45分にスタート。スタート時点で前にいたチーム・ローゼの選手が抜け出すと、すぐに3人の逃げが決まる。レース開始1分で決まったその逃げは、その後4時間以上、130kmにわたって続くことに。メンバーはルイス・レイナウ(チーム・ローゼ)、吉岡直哉(那須ブラーゼン)、大村寛(レモネードベルマーレレーシングチーム)の3人だ。
3人の逃げが決まるとメイン集団はチーム・ローゼを中心に道幅いっぱいに広がり、一気にペースダウン。この日は気温が上がることが予想され、勝負を終盤に持ち込みたい各チームの思惑が一致したこともあった。逃げとメイン集団のタイム差は最大20分にまで開く。ここまでタイム差が開いたことは過去にない。レースは北上して与那からの1回目の上りへ。ここでペースが上がり、ようやくタイム差が縮まり始める。
後半へ向けて動く先頭と、こう着状態のメイン集団
2回目の与那から普久川ダムへの上りはハイペースで一列棒状から集団が分断され、9人の追走集団が形成された。メンバーはベンジャミン・プラデスとアイラン・フェルナンデス(マトリックスパワータグ)、ジェイソン・クリスティ(アバンティレーシングチーム)、初山翔(ブリヂストンアンカー)、伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)、鈴木龍(那須ブラーゼン)、湊諒(チーム右京)、ジャイ・クロフォード(キナンサイクリングチーム)、堀孝明(宇都宮ブリッツェン)。レースは最終的にこの9人と、ここへブリッヂに成功した選手たちの戦いとなる。
レースは普久川ダムから下って東海岸を一路南下する。この時点で先頭2人と追走9人の間は2分、メイン集団はさらに1分後方に位置する。メイン集団からは追走9人が直線では見える距離。そして130km地点の高江付近で先頭の2人は追走9人に吸収される。メイン集団はアタックと牽制を繰り返し、安定しない。先頭集団ではフェルナンデスが積極的だ。
ブリッヂを試みる選手たち
不安定なメイン集団からはブリッヂを試みる選手たちが次々に飛び出す。最初にダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカー)が単独、それから入部正太朗(シマノレーシング)、ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)、山本大喜(鹿屋体育大学)らが先頭へ合流し、平良から安部にいたるまでの約30分間に15人の先頭集団ができる。鈴木真理(宇都宮ブリッツェン)や内間康平(ブリヂストンアンカー)らも抜け出すが、思惑が一致せず先頭グループに届かない。
山本大喜(鹿屋体育大学)が10kmを独走
残り24km地点で鹿屋体大の山本大喜が単独でアタックし、差を30秒ほどに広げて羽地ダムへの上りへと向かう。残り14人も山本を追走し、上り区間の始まりからフェルナンデスが先頭でペースを上げ、10km逃げた山本を吸収しハイペースを維持したまま番越トンネルへ。トンネルを出て右折すぐの急坂でプラデスがアタック。15秒ほどリードしたのちフェルナンデスと鈴木龍が合流するが、集団に吸収され国道58号へ向かう。
イオン坂での入部正太朗のアタックが4人の勝負に絞り込んだ
下って国道58号へ出てのラスト7km、ここからは各選手のアタックの仕掛けあいに。攻撃するのはモニエ、プラデス、トリビオ、入部ら。クリスティや鈴木龍は多くのアタックに反応する。そしてラスト6km、通称イオン坂にさしかかるとトリビオがアタック、すかさず入部が反応し先頭へ。入部のアタックに反応できたのはクリスティ、モニエ、そしてプラデス。この4人でラスト5kmのピークを越え、フィニッシュへと向かった。
明暗を分けたメイン集団のメンバー
4人によるスプリントは、先頭交代のタイミングでクリスティがラスト1kmでアタックして、そのままロングスパートに。3人が牽制したこともあり、クリスティがフィニッシュまで逃げ切った。2位争いは入部が制した。
結局、レースはラスト30kmで出来た15人の逃げにより競われた。このなかに入ったメンバーは、2回目の与那の上りで抜け出した9人と、後方からのブリッヂに成功した選手たちだけ。アタックと牽制を繰りかえしていたメイン集団からいかに抜け出したかが明暗を分けた。
終盤に至るまで最も動きレースを作ったのはマトリックス・パワータグだった。そこからさらにアタックを成功させたのは入部。優勝したクリスティは中盤までは逃げ集団の後方にいることが多かった。しかし終盤の攻防では、チームメイトが一緒にいたものの、他チームによる多くのアタックに自らが反応し、決定的だった入部のアタックにも反応して勝利を手繰り寄せた。ニュージーランドではこの時期レースが少ないためベルギーに滞在し、このおきなわに焦点を合わせコンディションをピークに持ってきていたと言う。
優勝したジェイソン・クリスティ(アバンティレーシングチーム)
ツール・ド・熊野とツアー・オブ・ジャパンに出場経験があり、UCIレースではツアー・オブ・ニュージーランドでのステージ勝利がキャリアにあるというクリスティは言う。
「このツール・ド・おきなわに体調を合わせてきていたので絶好調だった。僕の脚質は山を登れてスプリントもそこそこいけるオールラウンダータイプ。今日は勝つつもりで走った。ツール・ド・おきなわは初めての出場。走りながら海や山の美しい景色も堪能していた。素晴らしいレースだった。将来の夢はもちろんツール・ド・フランスに出場すること」。
自ら動いて2位の入部正太朗(シマノレーシング)
こう着状態の続くメイン集団からブリッヂを成功させ、そしてイオン坂で4人のアタックを成功させた入部は昨年の3位から順位をひとつ上げた。
「最後のイオン坂でのアタックは、自分が一番得意な距離でした。アンカーとマトリックスが2人ずつ集団にいたので、逃げた4人を追うメンバーは限られるから決まると思いました。4人の中ではクリスティがペースを上げすぎて、そのおかげで牽制もしてしまったりしてうまく回らず、ラスト1kmで行かれてしまいました」
「メイン集団からアタックしたのは、やり合っているメイン集団から一刻も早くジャンプアップしたかったから。イオン坂ではレースがよく見えていて、自分から行って決まったのは自信に繋がります。ただ、彼が強かった。そして自分の詰めが甘かったです。シーズンをまずますいい形で終えることができました」
勝負どころで単独アタックした山本大喜(鹿屋体育大学)
勝負どころで10kmにわたって逃げた山本。その前にも山本がおもに引いた6人が先頭集団へブリッヂに成功していた。
「先頭集団に有力選手がいたので、そこへ追いつけば自分も逃げ切れると思いました。メイン集団から前の集団は見えていたので、周りは”いつでも追いつくだろう”という雰囲気でしたが、自分は決まってしまうと思いました。ブリッヂの判断は良かったと思っています」
「一人での逃げは、もしかして逃がしてくれるかと思いましたが、少し手前過ぎました。今考えればもう少し別のタイミングがあったとは思いますが。力は出し切ったという点では良かったと思います」
結果
チャンピオン210km
1位 ジェイソン・クリスティ(アバンティレーシングチーム)5時間37分06秒
2位 入部正太朗(シマノレーシング)+13秒
3位 ベンジャミン・プラデス(マトリックスパワータグ)+14秒
4位 ダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+16秒
5位 井上和郎(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+21秒
6位 初山翔(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)+22秒
7位 ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)
8位 鈴木龍(那須ブラーゼン)
9位 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)
10位 ジャイ・クロフォード(キナンサイクリングチーム)
photo&text:Hideaki TAKAGI、Makoto AYANO
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