2015/07/13(月) - 21:48
ツールに帰ってきたチームタイムトライアル。急坂を含むショートコースに挑む戦略は最速で走り切るために5人でゴールすること。9日目にして登場した残酷なレースは総合争いのスパイスになった。
昨年は設定の無かったチームTT。個人TTにパヴェに急坂の「壁」、春のクラシックを感じさせる味付けで、今年のツール第1週目はバラエティに富んでいる。しかしスタッフ、とくにメカニシャン泣かせでもある。
チームTTのスタートは午後3時だが、昨日バカンス入りしたフランスの海のエリアとあって、各チームの泊まるホテルは昨夜は広い範囲に散らばっていた。ステージ間の移動にも時間がかかる。チームの対応に耐えるホテルとなると、遠距離にならざるをえない。しかし渋滞必至のリゾートエリア。時間はいくらあっても足りない。
選手たちがウォームアップに入る頃になっても、メカニシャンたちはバスの脇でTTバイクを組み立てている。そこに厳しいUCIのチェックが入る。
この日のバイク測定は念入りで、「メカニカルドーピング」を疑う検査官の厳しい眼が光る。話題になった電気駆動など冗談のような話と思いきや、その念の入れようは偏執的にも見える。
アップダウンの多いコースのためスポンサー外の軽量ディスクホイールなどが使われた。MTNキュベカはセラミックスピード社が考案した超低摩擦抵抗のコーティングチェーンを使用。粉を吹いたようなそれは、最高の効果が320km程度しか維持できないというキワモノパーツだが、タイムのためには効果的な投資だ。(ちなみに市販品だ)
暑さ自体はそれほどでもないので、ウォームアップの冷却対策は極端ではない。それでも大型・小型の扇風機に、アイスベスト、ローラー台を駆使してチーム一斉にアップを行う。
第1スタートを切るのはオリカ・グリーンエッジ。前回のチームTT、2013年の優勝チームだ。しかしリラックスしきっている様子?。それもそのはず、すでに3人がリタイアし、6人での出走。走る選手も落車の傷が癒えない状態。マイケル・マシューズはまだ身体全体をかばうような動き。チームにとってはただ最後まで走ること、マシューズを置いていかないように気遣うことがマスト。好成績やスピードは念頭にない。
そしてアップダウンに富んだコースへと飛び出していった。「ホワイティ」ことマシュー・ホワイト監督は、第1計測地点でチームカーから選手たちにこう呼びかけた。「みんな、第1チェックポイントで最速タイムだぞ!」(当たり前です)。
コースがアップダウンに富み、しかも28kmと短いということは選手たちにとっては強度的に大変な苦痛を伴うレースとなる。いずれのチームも登り区間と平坦区間で仕事をする選手を分けて考え、最終盤に待っているコート・ド・カドゥダル(2000m/6.2%)を速く駆け上がれない選手は、その前の平坦区間で最大限働いてもらい、切り離す。登れる脚を持つ最低5人でゴールすることが作戦となった。
BMCはマヌエル・クインツィアートとミヒャエル・シェアーの機関車が前半の犠牲的役割に。後半にダニエル・オスを切り離し、ティージェイ・ヴァンガーデレン、サムエル・サンチェス、グレッグ・ファンアフェルマート、ダミアーノ・カルーゾ、そして第1ステージ覇者ローハン・デニスの5名でカドゥダルの坂を駆け上がった。
スカイはマイヨジョーヌを着たフルームが多く先頭を引き、リッチー・ポートも登りで強力に牽引した。前半、平坦の機関車役はイアン・スタナード、ルーク・ロウ、ピーター・ケノーが務めた。フルームは頻繁に後ろを振り返っては、後方のチームメイトたちの様子を確認しながら走った。最後の登りで苦しんだのはニコラス・ロッシュ。待たざるを得なかった状況だったが、BMCに付けられた差はわずか0.77秒。
アルベルト・コンタドール擁するティンコフ・サクソは28秒遅れ。ヴィンチェンツォ・ニーバリ擁するアスタナは35秒遅れ。フルームとコンタドールの総合タイム差は1分03秒だが、ニーバリとの差は2分22秒にまでさらに広がった。
フルームがツール第一週目に警戒していたのは、クラシックスタイルのレースに強いニーバリ。ピレネー、アルプスを前にタイムを稼いでおきたかったニーバリだったが、逆に差を付けられた。代わりに存在感を増したのが、総合2位にジャンプアップ。ツール前哨戦クリテリウム・ドーフィネでも登りでフルームに喰らいつくパフォーマンスを見せたティージェイ・ヴァンガーデレンだ。
今年、アメリカ人はツールにたった3人しか出場していない(キャノンデールのアンドリュー・タランスキー、MTNのタイラー・ファラー、そしてTJ)が、そのことで元気のないアメリカンジャーナリストたち、そして4強だけにフォーカスする世界のメディアたちに皮肉を込めてTJはこう呼びかけた。
「常々”ビッグフォー(フルーム、コンタドール、キンタナ、ニーバリ)”と呼ばれているけど、そろそろ”ビッグファイブ”として自分を加えてもらってもいいんじゃないかと思う。メディアは僕についてあまり多く語っていないと思うんだけれど」。
2013、2014年ともに総合5位。しかし今年は調子の良さと、成熟期を迎えたことでみなぎる自信を身につけたように見えるヴァンガーデレン。ツール第1週を上々のうちに乗り切り、ピレネーへと向かう。
「ツール第1週はさまざまな試練が待ち受けていたが、全てはこのステージ優勝に繋がっていたのかもしれない。1週目のテストは全てクリアした。ピレネーでは様子を見ながら駒を進めていきたいと思う。僕はフルームと同じレベルまで達していると思うが、しかし3週目には何が起こるか分からない。ツールはマラソンだ。まだまだ先は長いんだ」。
モビスターはチームTTの好成績とは無縁のチームだと思われていたが、今年はこのステージでタイムを失わないようにTTのナショナルチャンピオン経験者などを揃えて強力な布陣で望んできた。結果はBMCに+4秒差。キンタナとモビスターにとっては大成功の一日だった。
早く出走したチームの選手たちは、すぐさま北西のロリアンの空港に向かい(バカンス渋滞とは逆方向にある)、2機の飛行機に乗ってピレネーの麓の町ポーを目指した。わずか1時間半後には休息日を過ごすホテルに到着。翌朝には記者会見もセッティングされている。
大会関係者、チームスタッフ、メディア関係者などは陸路で600km以上の移動だ。
私を含め日本人ジャーナリストたちはその途中にあるベルヴィルの新城幸也(ユーロップカー)の自宅での夕食に招かれ、ストップオーバー。
すでにブエルタ・ア・エスパーニャやシーズン後半戦のへと目標を変えているユキヤ。その翌日には萩原麻由子も自宅に寄る予定だという。その高い意気込みを感じつつ、ユキヤを囲んでの楽しい一夜を過ごすことができた。
text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos
昨年は設定の無かったチームTT。個人TTにパヴェに急坂の「壁」、春のクラシックを感じさせる味付けで、今年のツール第1週目はバラエティに富んでいる。しかしスタッフ、とくにメカニシャン泣かせでもある。
チームTTのスタートは午後3時だが、昨日バカンス入りしたフランスの海のエリアとあって、各チームの泊まるホテルは昨夜は広い範囲に散らばっていた。ステージ間の移動にも時間がかかる。チームの対応に耐えるホテルとなると、遠距離にならざるをえない。しかし渋滞必至のリゾートエリア。時間はいくらあっても足りない。
選手たちがウォームアップに入る頃になっても、メカニシャンたちはバスの脇でTTバイクを組み立てている。そこに厳しいUCIのチェックが入る。
この日のバイク測定は念入りで、「メカニカルドーピング」を疑う検査官の厳しい眼が光る。話題になった電気駆動など冗談のような話と思いきや、その念の入れようは偏執的にも見える。
アップダウンの多いコースのためスポンサー外の軽量ディスクホイールなどが使われた。MTNキュベカはセラミックスピード社が考案した超低摩擦抵抗のコーティングチェーンを使用。粉を吹いたようなそれは、最高の効果が320km程度しか維持できないというキワモノパーツだが、タイムのためには効果的な投資だ。(ちなみに市販品だ)
暑さ自体はそれほどでもないので、ウォームアップの冷却対策は極端ではない。それでも大型・小型の扇風機に、アイスベスト、ローラー台を駆使してチーム一斉にアップを行う。
第1スタートを切るのはオリカ・グリーンエッジ。前回のチームTT、2013年の優勝チームだ。しかしリラックスしきっている様子?。それもそのはず、すでに3人がリタイアし、6人での出走。走る選手も落車の傷が癒えない状態。マイケル・マシューズはまだ身体全体をかばうような動き。チームにとってはただ最後まで走ること、マシューズを置いていかないように気遣うことがマスト。好成績やスピードは念頭にない。
そしてアップダウンに富んだコースへと飛び出していった。「ホワイティ」ことマシュー・ホワイト監督は、第1計測地点でチームカーから選手たちにこう呼びかけた。「みんな、第1チェックポイントで最速タイムだぞ!」(当たり前です)。
コースがアップダウンに富み、しかも28kmと短いということは選手たちにとっては強度的に大変な苦痛を伴うレースとなる。いずれのチームも登り区間と平坦区間で仕事をする選手を分けて考え、最終盤に待っているコート・ド・カドゥダル(2000m/6.2%)を速く駆け上がれない選手は、その前の平坦区間で最大限働いてもらい、切り離す。登れる脚を持つ最低5人でゴールすることが作戦となった。
BMCはマヌエル・クインツィアートとミヒャエル・シェアーの機関車が前半の犠牲的役割に。後半にダニエル・オスを切り離し、ティージェイ・ヴァンガーデレン、サムエル・サンチェス、グレッグ・ファンアフェルマート、ダミアーノ・カルーゾ、そして第1ステージ覇者ローハン・デニスの5名でカドゥダルの坂を駆け上がった。
スカイはマイヨジョーヌを着たフルームが多く先頭を引き、リッチー・ポートも登りで強力に牽引した。前半、平坦の機関車役はイアン・スタナード、ルーク・ロウ、ピーター・ケノーが務めた。フルームは頻繁に後ろを振り返っては、後方のチームメイトたちの様子を確認しながら走った。最後の登りで苦しんだのはニコラス・ロッシュ。待たざるを得なかった状況だったが、BMCに付けられた差はわずか0.77秒。
アルベルト・コンタドール擁するティンコフ・サクソは28秒遅れ。ヴィンチェンツォ・ニーバリ擁するアスタナは35秒遅れ。フルームとコンタドールの総合タイム差は1分03秒だが、ニーバリとの差は2分22秒にまでさらに広がった。
フルームがツール第一週目に警戒していたのは、クラシックスタイルのレースに強いニーバリ。ピレネー、アルプスを前にタイムを稼いでおきたかったニーバリだったが、逆に差を付けられた。代わりに存在感を増したのが、総合2位にジャンプアップ。ツール前哨戦クリテリウム・ドーフィネでも登りでフルームに喰らいつくパフォーマンスを見せたティージェイ・ヴァンガーデレンだ。
今年、アメリカ人はツールにたった3人しか出場していない(キャノンデールのアンドリュー・タランスキー、MTNのタイラー・ファラー、そしてTJ)が、そのことで元気のないアメリカンジャーナリストたち、そして4強だけにフォーカスする世界のメディアたちに皮肉を込めてTJはこう呼びかけた。
「常々”ビッグフォー(フルーム、コンタドール、キンタナ、ニーバリ)”と呼ばれているけど、そろそろ”ビッグファイブ”として自分を加えてもらってもいいんじゃないかと思う。メディアは僕についてあまり多く語っていないと思うんだけれど」。
2013、2014年ともに総合5位。しかし今年は調子の良さと、成熟期を迎えたことでみなぎる自信を身につけたように見えるヴァンガーデレン。ツール第1週を上々のうちに乗り切り、ピレネーへと向かう。
「ツール第1週はさまざまな試練が待ち受けていたが、全てはこのステージ優勝に繋がっていたのかもしれない。1週目のテストは全てクリアした。ピレネーでは様子を見ながら駒を進めていきたいと思う。僕はフルームと同じレベルまで達していると思うが、しかし3週目には何が起こるか分からない。ツールはマラソンだ。まだまだ先は長いんだ」。
モビスターはチームTTの好成績とは無縁のチームだと思われていたが、今年はこのステージでタイムを失わないようにTTのナショナルチャンピオン経験者などを揃えて強力な布陣で望んできた。結果はBMCに+4秒差。キンタナとモビスターにとっては大成功の一日だった。
早く出走したチームの選手たちは、すぐさま北西のロリアンの空港に向かい(バカンス渋滞とは逆方向にある)、2機の飛行機に乗ってピレネーの麓の町ポーを目指した。わずか1時間半後には休息日を過ごすホテルに到着。翌朝には記者会見もセッティングされている。
大会関係者、チームスタッフ、メディア関係者などは陸路で600km以上の移動だ。
私を含め日本人ジャーナリストたちはその途中にあるベルヴィルの新城幸也(ユーロップカー)の自宅での夕食に招かれ、ストップオーバー。
すでにブエルタ・ア・エスパーニャやシーズン後半戦のへと目標を変えているユキヤ。その翌日には萩原麻由子も自宅に寄る予定だという。その高い意気込みを感じつつ、ユキヤを囲んでの楽しい一夜を過ごすことができた。
text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos
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