2015/05/31(日) - 14:57
霧の向こうに失速するマリアローザの姿を確認。大勢の観客が詰めかけた未舗装のスイッチバックで最後のマリアローザ争いが繰り広げられた。第98回大会のクライマックスとも言えるチーマコッピの闘いを振り返ります。
午前中は晴れていたフィネストレ峠も、天気予報通り、午後には雲が広がった。雲なのか霧なのか判別がつかない水蒸気が稜線を越えて流れ込み、未舗装のスイッチバックを覆い隠す。小雨もパラついたため、見るだけで咳き込んでしまいそうな粒子の細かい砂埃の飛散は抑えられた。
フィネストレ峠は未舗装ということだけが取り柄のように思われがちだが、未舗装であることを除いても今大会最強クラスの難易度を誇る。高低差は1694mで今大会最大。登坂距離18.5km/平均勾配9.2%というスペックは1級山岳パッソ・モルティローロ(登坂距離11.8km/平均勾配10.9%)に並ぶ厳しさだ。麓から頂上まで正確に9%強を刻み続け、合計45カ所のスイッチバックをこなし、頂上まで7.8kmを残したところで未舗装区間がスタート。とは言っても日本にありがちなタイヤが深く沈み込む砂利道ではなく、しっかりとグリップする踏み固められたダート路が大半で、ところどころ石が浮いている箇所も。
ジロ・デ・イタリアの山岳には多くのサイクリストがロードバイクで駆けつけるが、この日ばかりはロードバイクとMTBの割合は半々。土曜日とあって励ましあいながら登ってくる家族や、バックパックを担いで麓から数時間かけて登ってくるハイカー、どうやって登ってきてどうやって降りるのかよくわからないけどとにかくワインとビールで酔いまくっている若者グループ、警備にあたりながらも右手にはカメラを準備している警察官など、みんなそれぞれのジロを楽しんでいる。ただ太陽が遮られたことで午後にかけて体感気温がぐっと下がり、準備を行ったサイクリストたちは下山可能になるレース終了までただただ震えて待ち続けていた。大雨にならなかったことが救いだった。
先頭を争う選手にはそんな余裕が見られなかったが、ステージ20位以下の選手たちは未舗装路にハンドルを取られながらもピンクのガゼッタ・デッロ・スポルト紙をジャージの中に詰め込んでいた。観客たちも選手に渡すために麓からガゼッタ紙を携帯。レースが到着するまでの間はガゼッタ紙でジロを勉強するのが王道の観戦スタイルだ。簡単に手に入る上にある程度の吸水性と保温性があり、風を遮ってくれる新聞紙は今も昔も山岳レースの必需品だ。画期的なアイテムが生み出されない限りきっと今後も新聞紙スタイルは変わらないはず。下りきったところには今年も多くのガゼッタ紙が投げ捨てられていた。
フィネストレ峠の頂上付近の観客たちはラジオの情報を頼りにアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)が遅れていることを知り、遠くのスイッチバックを単独で走るマリアローザの姿を肉眼で確認した。今大会おそらく左肩の脱臼に次ぐ危機を迎えたコンタドールだったが、その表情に焦りはなかった。「マリアローザが脅かされるとは全く思わなかった」と記者会見で言い切っている。
パンクなどのリスクを極力下げるため、ティンコフ・サクソはホイールを持ったチームスタッフを登りの5箇所に配置。頂上でコンタドールにボトルを渡したスタッフいわく、中野喜文マッサーはフィネストレ峠の中腹担当だったそう。
この日の失速についてコンタドール本人は「水分補給を怠った影響だと思う」と説明した。「気温が低かったので嘘をついているように聞こえるかもしれないけど、今朝体重を計った時に、昨日の厳しいステージの影響でわずかに体重が減っていたんだ。摂るべき量の水分を摂っていなかった。失速の原因は脱水症状でありハンガーノックではないよ」。
ジロ3週目の失速はツール・ド・フランスに向けて理想的な状況ではないとの声もあるが、逆にツールを見据えて無理に追い込まなかったとの声もある。とにかくコンタドールの頭の中はツールまでの4週間の過ごし方でいっぱいのはずだ。
前日にハンガーノックに陥った別府史之(トレックファクトリーレーシング)はしっかりと回復し、マリアロッサのジャコモ・ニッツォロ(イタリア)をセストリエーレまでエスコートした。グルペットは悲壮感漂う選手と楽しそうに走る選手に二分されたが、別府は明らかに楽しそうだった。「グルペットで走ると回転数が落ちるので、余計に疲れた感はあるけれど、景色を見ながら気分転換して走った」という余裕のコメントを残している。4度目のジロが終わりを迎えようとしている。
第19ステージのチェルヴィニアに先頭でフィニッシュしたのはファビオ・アル(イタリア、アスタナ)で、2番手ライダー・ヘシェダル(カナダ、キャノンデール・ガーミン)、3番手リゴベルト・ウラン(コロンビア、エティックス・クイックステップ)。第20ステージのセストリエーレに先頭でフィニッシュしたのもアルで、2番手ヘシェダル、3番手ウラン。つまり2日連続でトップスリーが同じという珍しい結果となった。
アスタナ勢の活躍の陰に隠れてしまっているが、連日のヘシェダルの攻撃的な走りを賞賛するジャーナリストは多い。「あと1週間あれば、つまりグランツールが4週間だったらヘシェダルが総合優勝するかもしれない」とガゼッタ紙の記者は真剣な顔で話す。ジロ3週目の総合争いを活性化させたのはいつもヘシェダルのアタックだった。彼の動きを利用した選手が総合リードを広げる展開ばかり。ヘシェダル本人は「ステージ優勝を狙ってアタックを続けた。結果は2位ばかりだけど、全力を尽くしたので清々しい気持ちだ。そして総合トップ5に入ることが出来て満足している」とコメント。MTB出身選手だけに「未舗装のコースは楽しかったよ」と付け加えた。
この日、プロトン最年長41歳アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、サウスイースト)が体調不良のため途中リタイアを喫している。これまで14回ジロに出場し、ステージ通算22勝を飾り、今回が「最後」と宣言していたジロを最終日までわずか1日を残してリタイアした。「非常に残念だ。こんな形で最後のジロが終わるなんて。でも発熱とウィルス性の腸炎と発熱が、ミラノまで走る力を奪い取ってしまった」とペタッキはツイートしている。
セストリエーレのフィニッシュにたどり着いた選手たちはトリノ近郊のホテルに直行。険しい3週間を振り返りながら、盛大に祝勝会や反省会を開いているはず。最終日はトリノからミラノまでの178km。万博開催中で大賑わいのミラノ市内にプロトンが凱旋する。
text&photo:Kei Tsuji in Sestriere, Italy
午前中は晴れていたフィネストレ峠も、天気予報通り、午後には雲が広がった。雲なのか霧なのか判別がつかない水蒸気が稜線を越えて流れ込み、未舗装のスイッチバックを覆い隠す。小雨もパラついたため、見るだけで咳き込んでしまいそうな粒子の細かい砂埃の飛散は抑えられた。
フィネストレ峠は未舗装ということだけが取り柄のように思われがちだが、未舗装であることを除いても今大会最強クラスの難易度を誇る。高低差は1694mで今大会最大。登坂距離18.5km/平均勾配9.2%というスペックは1級山岳パッソ・モルティローロ(登坂距離11.8km/平均勾配10.9%)に並ぶ厳しさだ。麓から頂上まで正確に9%強を刻み続け、合計45カ所のスイッチバックをこなし、頂上まで7.8kmを残したところで未舗装区間がスタート。とは言っても日本にありがちなタイヤが深く沈み込む砂利道ではなく、しっかりとグリップする踏み固められたダート路が大半で、ところどころ石が浮いている箇所も。
ジロ・デ・イタリアの山岳には多くのサイクリストがロードバイクで駆けつけるが、この日ばかりはロードバイクとMTBの割合は半々。土曜日とあって励ましあいながら登ってくる家族や、バックパックを担いで麓から数時間かけて登ってくるハイカー、どうやって登ってきてどうやって降りるのかよくわからないけどとにかくワインとビールで酔いまくっている若者グループ、警備にあたりながらも右手にはカメラを準備している警察官など、みんなそれぞれのジロを楽しんでいる。ただ太陽が遮られたことで午後にかけて体感気温がぐっと下がり、準備を行ったサイクリストたちは下山可能になるレース終了までただただ震えて待ち続けていた。大雨にならなかったことが救いだった。
先頭を争う選手にはそんな余裕が見られなかったが、ステージ20位以下の選手たちは未舗装路にハンドルを取られながらもピンクのガゼッタ・デッロ・スポルト紙をジャージの中に詰め込んでいた。観客たちも選手に渡すために麓からガゼッタ紙を携帯。レースが到着するまでの間はガゼッタ紙でジロを勉強するのが王道の観戦スタイルだ。簡単に手に入る上にある程度の吸水性と保温性があり、風を遮ってくれる新聞紙は今も昔も山岳レースの必需品だ。画期的なアイテムが生み出されない限りきっと今後も新聞紙スタイルは変わらないはず。下りきったところには今年も多くのガゼッタ紙が投げ捨てられていた。
フィネストレ峠の頂上付近の観客たちはラジオの情報を頼りにアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)が遅れていることを知り、遠くのスイッチバックを単独で走るマリアローザの姿を肉眼で確認した。今大会おそらく左肩の脱臼に次ぐ危機を迎えたコンタドールだったが、その表情に焦りはなかった。「マリアローザが脅かされるとは全く思わなかった」と記者会見で言い切っている。
パンクなどのリスクを極力下げるため、ティンコフ・サクソはホイールを持ったチームスタッフを登りの5箇所に配置。頂上でコンタドールにボトルを渡したスタッフいわく、中野喜文マッサーはフィネストレ峠の中腹担当だったそう。
この日の失速についてコンタドール本人は「水分補給を怠った影響だと思う」と説明した。「気温が低かったので嘘をついているように聞こえるかもしれないけど、今朝体重を計った時に、昨日の厳しいステージの影響でわずかに体重が減っていたんだ。摂るべき量の水分を摂っていなかった。失速の原因は脱水症状でありハンガーノックではないよ」。
ジロ3週目の失速はツール・ド・フランスに向けて理想的な状況ではないとの声もあるが、逆にツールを見据えて無理に追い込まなかったとの声もある。とにかくコンタドールの頭の中はツールまでの4週間の過ごし方でいっぱいのはずだ。
前日にハンガーノックに陥った別府史之(トレックファクトリーレーシング)はしっかりと回復し、マリアロッサのジャコモ・ニッツォロ(イタリア)をセストリエーレまでエスコートした。グルペットは悲壮感漂う選手と楽しそうに走る選手に二分されたが、別府は明らかに楽しそうだった。「グルペットで走ると回転数が落ちるので、余計に疲れた感はあるけれど、景色を見ながら気分転換して走った」という余裕のコメントを残している。4度目のジロが終わりを迎えようとしている。
第19ステージのチェルヴィニアに先頭でフィニッシュしたのはファビオ・アル(イタリア、アスタナ)で、2番手ライダー・ヘシェダル(カナダ、キャノンデール・ガーミン)、3番手リゴベルト・ウラン(コロンビア、エティックス・クイックステップ)。第20ステージのセストリエーレに先頭でフィニッシュしたのもアルで、2番手ヘシェダル、3番手ウラン。つまり2日連続でトップスリーが同じという珍しい結果となった。
アスタナ勢の活躍の陰に隠れてしまっているが、連日のヘシェダルの攻撃的な走りを賞賛するジャーナリストは多い。「あと1週間あれば、つまりグランツールが4週間だったらヘシェダルが総合優勝するかもしれない」とガゼッタ紙の記者は真剣な顔で話す。ジロ3週目の総合争いを活性化させたのはいつもヘシェダルのアタックだった。彼の動きを利用した選手が総合リードを広げる展開ばかり。ヘシェダル本人は「ステージ優勝を狙ってアタックを続けた。結果は2位ばかりだけど、全力を尽くしたので清々しい気持ちだ。そして総合トップ5に入ることが出来て満足している」とコメント。MTB出身選手だけに「未舗装のコースは楽しかったよ」と付け加えた。
この日、プロトン最年長41歳アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、サウスイースト)が体調不良のため途中リタイアを喫している。これまで14回ジロに出場し、ステージ通算22勝を飾り、今回が「最後」と宣言していたジロを最終日までわずか1日を残してリタイアした。「非常に残念だ。こんな形で最後のジロが終わるなんて。でも発熱とウィルス性の腸炎と発熱が、ミラノまで走る力を奪い取ってしまった」とペタッキはツイートしている。
セストリエーレのフィニッシュにたどり着いた選手たちはトリノ近郊のホテルに直行。険しい3週間を振り返りながら、盛大に祝勝会や反省会を開いているはず。最終日はトリノからミラノまでの178km。万博開催中で大賑わいのミラノ市内にプロトンが凱旋する。
text&photo:Kei Tsuji in Sestriere, Italy
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