スペシャライズドが誇るピュアレーシングロードバイク「S-Works Tarmac」がモデルチェンジを果たした。その最大のトピックスは「ライダー・ファースト・エンジニアード」。展開される全7サイズについて、各々に最適な剛性やコーナリング特性を追求することで外見以上に大幅な進化を遂げている。



スペシャライズド S-Works Tarmacスペシャライズド S-Works Tarmac (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ツール、ジロ、ブエルタの3大グランツール、世界選手権、ロンドンオリンピック、ロンド・ファン・フラーンデレン、リエージュ~バストーニュ~リエージュ…。これらは歴代のTarmacシリーズが勝利に貢献してきたビッグレースの数々であり、スペシャライズドが誇るオールラウンドレーシングバイクが如何に優れているかを証明している。

2003年にアルミ/カーボンハイブリッド製の初代が発表されてから現行モデルのSL4まで、Tarmacはおおよそ3年毎に4回のモデルチェンジを経てきた。特に目覚ましい進化を遂げたのは世界最強チームの1つであるクイックステップへのサポートから得たフィードバックを基に開発された3代目の「SL2」からと言えよう。ダウンチューブ、BB、チェーンステーに圧倒的なボリュームを持たせることで剛性を追求する一方、トップチューブとシートステーの形状を工夫することで乗り心地を高める設計コンセプトは後に世界中の様々なバイクブランドが追従することになる。

ケーブルは全て内蔵。アウター受けを比較的後方に設置することでスムーズなワイヤリングを可能とするケーブルは全て内蔵。アウター受けを比較的後方に設置することでスムーズなワイヤリングを可能とする 同サイズの従来モデルと比較してスリムになったヘットチューブ同サイズの従来モデルと比較してスリムになったヘットチューブ VENGEの流れを汲み、エアロダイナミクスを高めたフロントフォークVENGEの流れを汲み、エアロダイナミクスを高めたフロントフォーク


そして、前作SL4の登場からちょうど3年となる今年。2015モデル発表のタイミングを前に、今年4月に開催されたリエージュ~バストーニュ~リエージュで姿を現したのが今回インプレッションする「New S-Works Tarmac」だ。一見すると、マイナーチェンジとも思える程に従来モデルからの変更点は少ない。しかしながら、「ライダー・ファースト・エンジニアード=ライダーを第一にした開発」というコンセプトの基に、「サイズごとに乗り味が大きく異なる」というスポーツサイクルにおける永遠の課題の解決を試み、大幅な進化を遂げている。

この新たなアプローチは、エアロロードのVENGE(ヴェンジ)の開発時より協力関係にあり、自動車レースの最高峰「Formula 1」の名門コンストラクターである英・マクラーレン社の開発手法にインスピレーションを得ている。緻密かつ膨大なデータに基づきながらマシンの設計を行い、それぞれのドライバーにあわせてセットアップしていくというレーシングカーを速く走らせるための考え方を、スペシャライズドは自らのレーシングマシンに取り入れた。

丸みを帯びた曲線形状が特徴的だった従来モデルからやや直線的な形状になった丸みを帯びた曲線形状が特徴的だった従来モデルからやや直線的な形状になった Tarmacシリーズの特徴的なフォルムの1つである弓なりのトップチューブTarmacシリーズの特徴的なフォルムの1つである弓なりのトップチューブ

SL 4の同サイズよりも一回り細くなったダウンチューブSL 4の同サイズよりも一回り細くなったダウンチューブ 縦方向の柔軟性を高めるためにシートポストの固定方法は臼式に変更された縦方向の柔軟性を高めるためにシートポストの固定方法は臼式に変更された


これまでスペシャライズドでは56cmを基本サイズとし、おおまかにチューブ径の変化のみで乗り味の均一化を図ってきたがNew S-Works Tarmacでは、49cm~64cmまでの7つのフレームサイズについて、それぞれに異なるフレーム設計を行った。開発時には室内での研究に留まらず、歪みゲージを取り付けたフレームを用いて実走行テストを繰り返し実施。ライダーからのフィードバックと測定値をすり合わせることで、同じ名を持つバイクながら、サイズごとにヘッドのベアリング径など各部の仕様が大きく異なる、「7種類」のバイクが誕生した。

その結果、モデルチェンジによって向上した性能や、向上の度合もフレームサイズによって異なる。重量を例にとってみると、小さいサイズは従来モデルよりも軽く仕上がっているものの、最大サイズの61cmでは81gほど重たくなっているが、ステアリングレスポンスを28%向上させることに成功しているという(モデルチェンジによる性能向上の詳細は特集ページを参照のこと)。

BBにはセラミックスピード社製ベアリングを標準装備BBにはセラミックスピード社製ベアリングを標準装備 シンプルな形状のリアトライアングルシンプルな形状のリアトライアングル


ここまでは設計手法について解説してきたが、従来モデルからの目立った変更点についても触れていく。まず、見た目にも大きく変化したシートポスト固定方法は内蔵の臼(ウス)式へと変更になった。これは、快適性とトラクションに寄与する縦方向の柔軟性を高めるための工作で、一般的なシートポストが3.5cm長くなるのと同じ効果をもたらしている。

フォルムとしてはSL4の世代で顕著だった弓なり状の曲線を描くチューブ形状が、やや直線的に。BB~チェーンステー~リアエンドにかけてはモノコックによる一体成型とし、荷重を効率的に分散することでパワー伝達効率の向上を図っている。また、フロントフォークの形状に改良が加えられ、エアロロードのVENGEの流れを汲みハーフエアロ形状とすることで、エアロダイナミクスを高めた。

SL 4より間隔が拡幅されたシートステーの根本はオーソドックスな2本タイプSL 4より間隔が拡幅されたシートステーの根本はオーソドックスな2本タイプ BBへ向かって太さを増すシートチューブBBへ向かって太さを増すシートチューブ リアエンドもカーボン製。チェーンステーにはTarmacの文字が配されるリアエンドもカーボン製。チェーンステーにはTarmacの文字が配される


フレームを構成するカーボン素材はFACT 11rであり、名目上の変化は無い。そしてジオメトリーはSL4と共通のものである。オーバーサイズBBにはCeramic Speed製セラミックベアリングがプレインストールされるのも変わりないが、プレスフィット式に起こりがちな音鳴りを防止するためか、内部にはアルミスリーブがインサートされる。

今回のテストしたバイクのサイズは52cm。シマノ9000系デュラエースを搭載し、ロヴァールのCLX40やS-Works Turboクリンチャーホイール、ハンドル周り、サドルなどメインコンポーネント以外は全てスペシャライズド製品で固められた完成車だ。先日閉幕したツールでヴィンチェンツォ・ニーバリのマイヨジョーヌ獲得を支えたバイクのインプレッションをお届けする。



ーインプレッション

「登りで踏みたくなる バランス感に優れるレーシングバイク」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

新型ターマックの魅力はクセの無さ、すなわち優れたバランスにあるという印象を持ちました。昨今のロードバイクは、むやみに硬さを追求するのではなく、意図的にしならせることがトレンドになっていますが、非常に剛性が高いという従来モデルのSL 4から、あえて剛性を落としているのでしょう。

しかし、不安な印象を覚えるほどはしなりませんし、前後の動きがしっかりと同調できていますね。ダンシングで加速する際でも、前輪に後輪が追従してくれて、気持ちよくバイクが進んでくれます。また、大きなギアで踏み込んだ際のフィーリングも軽やかで、普段よりも1枚重いギアを少ない力で回すことができました。

やはり、登りでの軽快感が非常に高く、ヒルクライムの嫌いな私にももう少し踏んでみようと思わせてくれるほどでした。勾配と距離に関係なく様々なコースプロファイルでその性能を発揮してくれるでしょう。また、走り方に対する許容度も高く、トルクを掛けてグイグイと登っても気持ちよく加速してくれる一方、軽いギアでケイデンスを上げていってもバイクが暴れずにスッと前に出てくれます。

「登りで踏みたくなる バランス感に優れるレーシングバイク」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)「登りで踏みたくなる バランス感に優れるレーシングバイク」鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)
下りでは高速コーナーでのシャープさが際立っています。少し細身なルックスのフロントフォークですが、意外と剛性感が高く、クイックなハンドリングフィールながらも不安な印象はありませんでした。また、あえてオーバースピード気味でコーナーに突っ込んでみても、スパッと切れるようにバイクの向きが変わってくれます。

ハンドリングについてはニュートラルステアで、狙った通りのラインをトレースできました。コーナリング中もフレームが粘りながら絶えず路面をとらえ続けてくれるため、自転車の挙動が乱れにくく、とても安心ですね。また、平地巡航でのスピードの伸びも評価できるでしょう。

ウィークポイントとしては振動吸収性が挙げられるでしょう。凹凸をシビアに伝えてくれる反面、レースバイクであることを考慮しても、公道で200kmを超えてくると突上げがキツいと感じるかもしれません。ただ、サーキットなど綺麗な路面ではタイヤの状況を非常につかみやすいことが大きなメリットになるでしょう。

それでも、ホイールやタイヤの選択次第で乗り味を細かに調整することで、ロングライドなどレース意外の用途にも対応できる許容性はありますね。例としては、レスポンスの良さを活かすならカンパニョーロSHAMALなど硬めのミッドプロファイルのアルミホイール、バランスの良さを活かすならマヴィックKSYRIUM SLRがオススメです。

総じて、新型ターマックはレースで勝ちを狙うライダーにこそ最適なバイクで、価格に見合っただけの性能を持っています。持った時の軽さよりも乗った時の軽さが魅力的なバイクと言い得るでしょう。

TTを除けば、短距離のクリテリウムからツール・ド・おきなわの210kmコースまで様々なレースでも高い性能を発揮してくれるでしょう。特にアップダウンが激しいコースでは上りと下りのどちらにおいても強力な武器となるではずです。所有欲を満たすと言うよりも、レース道具として性能を求める方におススメです。


「ライダーとバイクとの一体が高く、操ることが楽しいバイク」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)

ハンドリングとペダリングのどちらにおいても、バイクとライダーとの一体感が高いというのが第一印象です。自らの出力が推進力に変わっているという感触がダイレクトに伝わってきますし、どのコーナーでも攻めたいという気持ちにさせてくれました。レースで必要となる性能は変わらず高いレベルにありながらも、操る楽しさが加えられていますね。

「ライダーとバイクとの一体が高く、操ることが楽しいバイク」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)「ライダーとバイクとの一体が高く、操ることが楽しいバイク」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos) 剛性についてはSL 4より低くなっている様に感じましたが、それでもなお高いレベルにあります。硬さがスピードの伸びの良さに繋がっている一方で、反発力が低減されているため、従来モデルと比較して長距離のレースやロングライドの後でも疲労感が残りづらいと思います。

剛性の低下はトラクションにも良い影響を与えており、荒れた路面を走る際や前荷重でダンシングした際にも、後輪が路面をしっかり捉えてくれました。これは荷重が抜ける原因となるリアトライアグルの不要なねじれやたわみを低減するために、シートステーの付け根の間隔を広げたことが功を奏しているのでしょう。

トラクションの高さは優れた登り性能にも活きていますね。苦しい場面でも一踏みごとのパワーがスッと推進力に変わって、トルクを掛けた分だけ加速してくれるため、どの様な走り方のライダーでも軽快感が味わえるはずです。また、コースの勾配や距離に関しても苦手とするシチュエーションは少ないでしょう。

ハンドリングについては、集団内で走行レーンを機敏に変更できるようにしているためか、ややクイックな味付けです。それでもオーバーステアという程ではなく、コーナーでは狙ったラインをシャープにトレースできます。ハンドルを少し切るだけで大きなアクションが生まれるため、突然現れる路面のギャップなどの障害を避けやすかったですね。

パーツアッセンブルに関しては、スペシャライズドならではと思わせてくれる絶妙さで、特にフレームと足回りの相性が良いですね。Rovalのホイールは、カーボンクリンチャーながら扱いやすく、エアロダイナミクスにも優れています。S-Works Turboタイヤは、昨今トレンドを取入れた24cと太いながらも、細いタイヤの様な軽さも兼ね備えていました。このままの状態でもレースで十分に戦えるでしょう。

フレームの設計思想は、軽量化と高剛性化によってペダリングの軽さを追求する時代から、剛性バランスのコントロールによって軽さと硬さの両方を高めながらも快適性を持たせる時代へと変化しています。そのトレンドの最先端を行くバイクが正しく新型ターマックと言い得るでしょう。サイズ毎に設計を変える拘りよう、その結果実現した軽快かつマイルドな走行性能をもってすれば納得の価格ですね。ライダーのレベルに対するフレームの許容度が広がったため、ハイアマチュアはもちろんのこと、中級以上のホビーレーサーなら誰にでもオススメできますね。

スペシャライズド S-Works Tarmacスペシャライズド S-Works Tarmac (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
スペシャライズド S-Works New Tarmac Dura-Ace完成車
フレーム:S-Works FACT 11r carbon, FACT construction, tapered/shaped 1-1/8" to size-specific lower headtube, compact race design, internal cable routing
フォーク:S-Works FACT carbon, full monocoque, size-specific taper
ヘッドセット:1-1/8" upper, size-specific lower, hybrid cartridge lightweight bearings, 8mm carbon cone spacer, w/ 25mm of carbon spacers
メインコンポーネント:シマノ 9000系デュラエース
クランクセット:S-Works FACT carbon, OSBB
ホイール:Roval Rapide CLX 40 Clincher
タイヤ:S-Works Turbo, 220TPI, folding bead, BlackBelt protection, 700x24c
ハンドル:S-Works SL Carbon, shallow drop, 125mm drop, 75mm reach
ステム:S-Works SL, alloy, 4-bolt
シートポスト:S-Works FACT carbon, 20mm offset, 27.2mm
サドル:Body Geometry Toupe Pro, carbon rails, 143mm
価 格:910,000円



インプレライダーのプロフィール

鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)鈴木雅彦(サイクルショップDADDY) 鈴木雅彦(サイクルショップDADDY)

岐阜県瑞浪市にあるロードバイク専門プロショップ「サイクルショップDADDY」店主。20年間に及ぶ競輪選手としての経験、機材やフィッティングに対するこだわりから特に実走派ライダーからの定評が高い。現在でも積極的にレースに参加しツール・ド・おきなわ市民50kmで2007、09、10年と3度の優勝を誇る。一方で、グランフォンド東濃の実行委員長を努めるなどサイクルスポーツの普及活動にも力を入れている。

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二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos) 二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
高校時代から自転車競技を始め、卒業後は日本鋪道レーシングチーム(現 TEAM NIPPO)に5年間所属しツール・ド・北海道などで活躍。引退後は13年間なるしまフレンドに勤務し、現在は東京都立川市を拠点とする地域密着型ロードレースチーム「東京ヴェントス」を監督として率いる。同時に立川市に「Punto Ventos」をオープンし、最新の解析機材や動画を用いて、初心者からシリアスレーサーまで幅広い層を対象としたスキルアップのためのカウンセリングを行っている。

東京ヴェントス
Punto Ventos


ウェア協力:アソス

text:Yuya.Yamamoto, Gakuto.Fujiwara
photo:Makoto.AYANO