2014/05/31(土) - 14:30
1990年生まれのキンタナとアルが今年のジロ・デ・イタリアを引っ張っている。アルの気迫溢れる走りにイタリアの観客が沸き、キンタナの(速そうに見えない)ハイペースにコロンビア応援団が沸いた。
第19ステージのスタート地点は「グラッパ山(モンテグラッパ)の麓の街」という意味のバッサーノ・デル・グラッパ。その名前を聞けば、やはり蒸留酒グラッパ(葡萄の搾りかすを蒸留したもの)が思い浮かぶ。実際にバッサーノ・デル・グラッパの一帯がグラッパ最大の生産地。しかし街の名前はあくまでも山の名前に由来するものだ。
アルプス山脈の南端に位置しているモンテグラッパは、迫り立つ崖が特徴のいわゆるドロミティとは趣が異なる。標高150mほどのロンバルディア平原から標高1775mの山頂まで、きっちり45度ほどの斜度を描く。その斜面を何度も何度も行ったり来たり、一度通ったと勘違いしてしまうほど似通ったスイッチバックを繰り返しながら、8%の勾配を刻みながら登っていく。
フィニッシュラインが引かれているのは、モンテグラッパの頂上(チーマ)近く、第一次世界大戦と第二次世界大戦の犠牲者を偲ぶ軍慰霊地の横だ。イタリア人にとってモンテグラッパと言えばこの慰霊地がまず思い浮かぶらしい。実際に大戦中はこの山が激しい戦闘の舞台となり、多くの兵士が命を落としたという。今年は第一次世界大戦の開戦から100年にあたる。
ジロのフィニッシュとして登場するのは1968年以来2度目。前日のフィニッシュ地点1級山岳リフージオ・パナロッタは驚くほど観客が少なかったが、この1級山岳チーマ・グラッパには大勢の観客が詰めかけた。
イタリア北東部に位置するヴェネト州の観客は目が肥えている。南イタリアではちんぷんかんぷんの(情報がジモンディやモゼールの時代から進んでいない)観客が多かったが、ヴェネトでは出場選手たちの名前がすらすらと出てくる。平日(金曜日)に標高1712mの峠を登っている時点でよほどのロードレースファンであるとも言えるが、名門チームが多数存在し、多くの選手を輩出している地域だけのことはある。
こう言っては何だが、バルディアーニCSF勢が上位に入っているのは、観客による応援(プッシュ)によるところが大きい。本人は望んでいなくても、観客が勝手に押してしまうのだから仕方がない。
この日、ヨス・ファンエムデン(オランダ、ベルキン)はレース中に減速し、伴走車に乗っていたガールフレンドにプロポーズした。返事はOKだったらしい。そんな人生のビッグイベントをこなしたファンエムデンは11分56秒差・120位というそこそこのタイムでレースを終えている。
天国を味わったファンエムデンに対し、地獄を味わったのがケニー・デハース(ベルギー、ロット・ベリソル)だ。残り5kmでチェーン切れに見舞われたデハースは、観客の助けを借りて再スタートしたものの、残り1kmを切ってから再びチェーン切れ。スタッフに背中を押されてフィニッシュしたが、21分20秒遅れでタイムアウトとなった。
「ありがとうジロ。ガヴィアとステルヴィオでは動物のように扱われ、2度のチェーン切れで今度は家に帰らないといけなくなった。素晴らしき、馬鹿げたジロ」とデハースは皮肉たっぷりにツイートしている。
チームメイトのアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)も「ニュートラルサポートもない状況で彼を失格にすることは出来ない。UCIルールに則って特例が適用されるはずだ」と怒りのツイート。しかしデハース失格の判断は今のところ覆っていない。
ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)に浴びせられた大きな歓声を見ると、彼の将来に込められた期待の大きさを感じずにはいられない。彼こそがイタリアの希望の星だ。
フィニッシュとともにぶっ倒れるんじゃないかと思うほどの気迫を見せたアルに対して、最終走者のマリアローザは実に涼しい顔で登ってきた。今年の山岳で最も力を見せているナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)とアルは同じ1990年生まれだ。
ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)やナセル・ブアニ(フランス、FDJ.fr)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)の他、ジロには出場していないペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)やミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)、テイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング)、ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)、ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)も同じ1990年生まれ。
キンタナは「いろんな脚質の、才能ある1990年生まれの選手が揃っている。まだまだ経験を積まなければならないけど、世代交代は遠くない」と自信を見せる。ヤングライダー賞世代がグランツールを引っ張っている。
3週間の最後日まで興味をひくために「まだまだマリアローザの行方は分からない」という表現を使いがちだが、正直なところ、すでにマリアローザの行方は分かってしまっている。モンテゾンコランの優勝候補はキンタナだ。意外に大きなタイム差がつかないモンテゾンコランにおいて、3分のリードはあまりにも大きい。
この日、フィニッシュラインでは最終的にキンタナとアルの間に17秒のタイム差がついたが、このほとんどが序盤の平坦区間でついたもの。追い込み具合が違ったと言われればそれまでだけど、1級山岳チーマ・グラッパの登り(距離19.3km)の登坂タイムは僅かに1秒しか違わない。総合逆転に関して最も希望があるのは総合3位のアルだ。
text&photo:Kei Tsuji in Crespano del Grappa, Italy
第19ステージのスタート地点は「グラッパ山(モンテグラッパ)の麓の街」という意味のバッサーノ・デル・グラッパ。その名前を聞けば、やはり蒸留酒グラッパ(葡萄の搾りかすを蒸留したもの)が思い浮かぶ。実際にバッサーノ・デル・グラッパの一帯がグラッパ最大の生産地。しかし街の名前はあくまでも山の名前に由来するものだ。
アルプス山脈の南端に位置しているモンテグラッパは、迫り立つ崖が特徴のいわゆるドロミティとは趣が異なる。標高150mほどのロンバルディア平原から標高1775mの山頂まで、きっちり45度ほどの斜度を描く。その斜面を何度も何度も行ったり来たり、一度通ったと勘違いしてしまうほど似通ったスイッチバックを繰り返しながら、8%の勾配を刻みながら登っていく。
フィニッシュラインが引かれているのは、モンテグラッパの頂上(チーマ)近く、第一次世界大戦と第二次世界大戦の犠牲者を偲ぶ軍慰霊地の横だ。イタリア人にとってモンテグラッパと言えばこの慰霊地がまず思い浮かぶらしい。実際に大戦中はこの山が激しい戦闘の舞台となり、多くの兵士が命を落としたという。今年は第一次世界大戦の開戦から100年にあたる。
ジロのフィニッシュとして登場するのは1968年以来2度目。前日のフィニッシュ地点1級山岳リフージオ・パナロッタは驚くほど観客が少なかったが、この1級山岳チーマ・グラッパには大勢の観客が詰めかけた。
イタリア北東部に位置するヴェネト州の観客は目が肥えている。南イタリアではちんぷんかんぷんの(情報がジモンディやモゼールの時代から進んでいない)観客が多かったが、ヴェネトでは出場選手たちの名前がすらすらと出てくる。平日(金曜日)に標高1712mの峠を登っている時点でよほどのロードレースファンであるとも言えるが、名門チームが多数存在し、多くの選手を輩出している地域だけのことはある。
こう言っては何だが、バルディアーニCSF勢が上位に入っているのは、観客による応援(プッシュ)によるところが大きい。本人は望んでいなくても、観客が勝手に押してしまうのだから仕方がない。
この日、ヨス・ファンエムデン(オランダ、ベルキン)はレース中に減速し、伴走車に乗っていたガールフレンドにプロポーズした。返事はOKだったらしい。そんな人生のビッグイベントをこなしたファンエムデンは11分56秒差・120位というそこそこのタイムでレースを終えている。
天国を味わったファンエムデンに対し、地獄を味わったのがケニー・デハース(ベルギー、ロット・ベリソル)だ。残り5kmでチェーン切れに見舞われたデハースは、観客の助けを借りて再スタートしたものの、残り1kmを切ってから再びチェーン切れ。スタッフに背中を押されてフィニッシュしたが、21分20秒遅れでタイムアウトとなった。
「ありがとうジロ。ガヴィアとステルヴィオでは動物のように扱われ、2度のチェーン切れで今度は家に帰らないといけなくなった。素晴らしき、馬鹿げたジロ」とデハースは皮肉たっぷりにツイートしている。
チームメイトのアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)も「ニュートラルサポートもない状況で彼を失格にすることは出来ない。UCIルールに則って特例が適用されるはずだ」と怒りのツイート。しかしデハース失格の判断は今のところ覆っていない。
ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)に浴びせられた大きな歓声を見ると、彼の将来に込められた期待の大きさを感じずにはいられない。彼こそがイタリアの希望の星だ。
フィニッシュとともにぶっ倒れるんじゃないかと思うほどの気迫を見せたアルに対して、最終走者のマリアローザは実に涼しい顔で登ってきた。今年の山岳で最も力を見せているナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)とアルは同じ1990年生まれだ。
ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)やナセル・ブアニ(フランス、FDJ.fr)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)の他、ジロには出場していないペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)やミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)、テイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング)、ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)、ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)も同じ1990年生まれ。
キンタナは「いろんな脚質の、才能ある1990年生まれの選手が揃っている。まだまだ経験を積まなければならないけど、世代交代は遠くない」と自信を見せる。ヤングライダー賞世代がグランツールを引っ張っている。
3週間の最後日まで興味をひくために「まだまだマリアローザの行方は分からない」という表現を使いがちだが、正直なところ、すでにマリアローザの行方は分かってしまっている。モンテゾンコランの優勝候補はキンタナだ。意外に大きなタイム差がつかないモンテゾンコランにおいて、3分のリードはあまりにも大きい。
この日、フィニッシュラインでは最終的にキンタナとアルの間に17秒のタイム差がついたが、このほとんどが序盤の平坦区間でついたもの。追い込み具合が違ったと言われればそれまでだけど、1級山岳チーマ・グラッパの登り(距離19.3km)の登坂タイムは僅かに1秒しか違わない。総合逆転に関して最も希望があるのは総合3位のアルだ。
text&photo:Kei Tsuji in Crespano del Grappa, Italy
フォトギャラリー
Amazon.co.jp
【業務用】 BormioliRocco リゼルバ グラッパ 85cc 12個セット
BormioliRocco
【グラッパ】イタリアベネチアングラスのゾウボトル
ロッシ・ダジアーゴ社