2014/04/26(土) - 07:45
2014年の春もクライマックスを迎える。クラシックシーズンの最後を飾るリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(UCIワールドツアー)が4月27日にベルギーで開催。100回目の開催を迎える「La Doyenne(ラ・ドワイエンヌ=最古参)」に新城幸也(ユーロップカー)と別府史之(トレックファクトリーレーシング)も出場予定だ。
獲得標高差4500mの険しいアップダウンコース
歴史あるクラシックレースは数あれど、このリエージュほど長い歴史のあるロードレースは他に無い。
リエージュの第1回大会が開催されたのはなんと今から112年前の1892年。近代オリンピック(1896年〜)や、日本の箱根駅伝(1920年〜)よりも歴史が長い。そのため「La Doyenne(ラ・ドワイエンヌ=最古参)」という愛称で呼ばれることも多い。今年は開催100回目の記念大会だ。
「モニュメント」と呼ばれる世界5大クラシック(サンレモ、ロンド、パリ〜ルーベ、リエージュ、ロンバルディア)の一つとして数えられており、格式の点ではアルデンヌ3連戦の中で際立って大きい。
ベルギー西部のフランデレン地域を代表するのがロンド・ファン・フラーンデレンであれば、東部ワロン地域を代表するのがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。レースの舞台となるのは、リエージュの南方に広がる丘陵地帯だ。
コースはレース名の通りリエージュとバストーニュの往復。丘ではなく山が連なる丘陵地帯を逆回りに8の字を描き、リエージュ近郊の街アンスにゴールする。
「アップダウンを繰り返し、最後は短い坂を駆け上がってゴール」というコースの特性は、他のアルデンヌ2戦(アムステルとフレーシュ)と同じ。しかし登り一つ一つの距離が長いのがリエージュの特徴だ。アムステルとフレーシュが「丘のレース」なら、リエージュは「山のレース」。ほとんどの登りは全長が2km以上であり、一日の獲得標高差は4500mに達する。コース全長も262.9kmと最も長く、難易度、距離、格式においてアルデンヌナンバーワンと呼ばれるのも頷ける。
細かい上りを数え始めるとキリが無いようなアップダウンコース。そのうち、カテゴリーが付けられた登り坂は10カ所ある。中でも、選手たちが壁をよじ上っているような光景が見られるのが、123.0km地点に登場する「コート・ド・サンロシュ(平均勾配11.1%)」だ。この難所を越え、ラスト100kmを切ってからは断続的に登り坂が襲いかかる。
本格的な闘いのゴングが鳴らされるのが、フィニッシュまで45kmを残した「コート・ド・ラ・ルドゥット(平均8.9%)」だ。フィリップ・ジルベール(ベルギー)の出身地が近く、PHILのペイントが施されたこのラ・ルドゥットの最大勾配は17%。頂上通過後は横風が吹く平坦路が続くため、毎年ここで集団は大きく人数を減らす。
道路工事によって昨年コースから外された「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(平均9.3%)」が復活。コースの難易度は昨年よりも上がっていると言えるだろう。
フィニッシュ6km手前で最後の難所「コート・ド・サンニコラ(平均8.6%)」を越え、アンスに至る緩やかな登りを登ってフィニッシュ。この「アンス」の登りは「カウベルグ」や「ユイ」ほど厳しくはなく、ラスト2kmから緩斜面がダラダラと続く。連続する登りで飛び出した選手、もしくは少人数のグループが平坦な最終ストレートでスプリントを繰り広げるだろう。
登場する10カ所の登り
1 70.0km コート・ド・ロッシュ・アン・アルデンヌ 長さ2.8km・平均勾配6.2%
2 123.0km コート・ド・サンロシュ 長さ1.0km・平均勾配11.1%
3 167.0km コート・ド・ワンヌ 長さ2.8km・平均勾配7.2%
4 173.5km コート・ド・ストック 長さ1.0km・平均勾配12.4%
5 179.0km コート・ド・ラ・オートルヴェ 長さ3.6km・平均勾配5.6%
6 201.0km コート・ド・ラ・ヴェッケ 長さ3.1km・平均勾配6.4%
7 218.5km コート・ド・ラ・ルドゥット 長さ2.0km・平均勾配8.9%
8 231.5km コート・デ・フォルジュ 長さ1.9km・平均勾配5.9%
9 243.5km コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン 長さ1.5km・平均勾配9.3%
10 257.5km コート・ド・サンニコラ 長さ1.2km・平均勾配8.6%
好調バルベルデやジルベールを中心にしたタイトル争奪戦
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュの優勝者を占う上で、直前のアムステル・ゴールドレースやフレーシュ・ワロンヌの結果は重要な指標になる。つまり、アムステルを制したフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)と、フレーシュを制したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)は優勝候補の筆頭だ。
何と言ってもジルベールは地元ワロンの期待を背負う存在だ。例年リエージュのコースにはジルベール応援団が駆けつけ、「ラ・ルドゥット」の路面には無数の「PHIL」ペイントが並ぶ。フレーシュでは精彩を欠いてしまったが、2度目のリエージュ制覇に向けて志気は上がっているはず。サムエル・サンチェス(スペイン)という心強いアシストを従えての出場となる。
2006年と2008年にリエージュを制したバルベルデは、フレーシュでその好調ぶりと抜群の勝負勘を見せつけた。アムステルでは4位に終わったものの、今シーズン最多勝のバルベルデは波に乗っている。
ディフェンディングチャンピオンのダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)は、例年よりもコンディショニングが遅れながらもフレーシュで2位に入った。チームメイトのトムイェルテ・スラグテル(オランダ)とともに再びリエージュの頂点を目指す。
アムステル3位のサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)はリエージュに照準を合わすためにフレーシュをパス。リエージュにはこれまで8回出場しており、最高位は2009年の6位。南半球出身選手として初のリエージュ制覇なるか。フレーシュで7位に入ったミハエル・アルバジーニ(スイス)がエースを担うことも考えられる。
将来を嘱望されるミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)はアムステル5位、フレーシュ3位。経験不足は本人も認めるところだが、ストラーデビアンケ覇者はアルデンヌでも確実に上位に絡む走りを見せている。
ここまでのアルデンヌで不発に終わっているダニエル・モレーノ(スペイン)とホアキン・ロドリゲス(スペイン)擁するカチューシャや、クリス・フルーム(イギリス)とリッチー・ポート(オーストラリア)擁するチームスカイ、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)とミケーレ・スカルポーニ(イタリア)擁するアスタナなど、クラシックシーズンを締めくくるのに相応しい豪華な面子が揃っている。イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、ロット・ベリソル)やロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ・サクソ)も勝利を狙える実力者だ。
日本からは新城幸也(ユーロップカー)と別府史之(トレックファクトリーレーシング)が出場する。両者ともにジロ・デ・イタリアに出場予定であり、その仕上がり具合に注目だ。アムステルで日本人史上最高位となる10位に入った新城は、トマ・ヴォクレール(フランス)らとともに勝利を狙う。
text:Kei Tsuji
獲得標高差4500mの険しいアップダウンコース
歴史あるクラシックレースは数あれど、このリエージュほど長い歴史のあるロードレースは他に無い。
リエージュの第1回大会が開催されたのはなんと今から112年前の1892年。近代オリンピック(1896年〜)や、日本の箱根駅伝(1920年〜)よりも歴史が長い。そのため「La Doyenne(ラ・ドワイエンヌ=最古参)」という愛称で呼ばれることも多い。今年は開催100回目の記念大会だ。
「モニュメント」と呼ばれる世界5大クラシック(サンレモ、ロンド、パリ〜ルーベ、リエージュ、ロンバルディア)の一つとして数えられており、格式の点ではアルデンヌ3連戦の中で際立って大きい。
ベルギー西部のフランデレン地域を代表するのがロンド・ファン・フラーンデレンであれば、東部ワロン地域を代表するのがリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。レースの舞台となるのは、リエージュの南方に広がる丘陵地帯だ。
コースはレース名の通りリエージュとバストーニュの往復。丘ではなく山が連なる丘陵地帯を逆回りに8の字を描き、リエージュ近郊の街アンスにゴールする。
「アップダウンを繰り返し、最後は短い坂を駆け上がってゴール」というコースの特性は、他のアルデンヌ2戦(アムステルとフレーシュ)と同じ。しかし登り一つ一つの距離が長いのがリエージュの特徴だ。アムステルとフレーシュが「丘のレース」なら、リエージュは「山のレース」。ほとんどの登りは全長が2km以上であり、一日の獲得標高差は4500mに達する。コース全長も262.9kmと最も長く、難易度、距離、格式においてアルデンヌナンバーワンと呼ばれるのも頷ける。
細かい上りを数え始めるとキリが無いようなアップダウンコース。そのうち、カテゴリーが付けられた登り坂は10カ所ある。中でも、選手たちが壁をよじ上っているような光景が見られるのが、123.0km地点に登場する「コート・ド・サンロシュ(平均勾配11.1%)」だ。この難所を越え、ラスト100kmを切ってからは断続的に登り坂が襲いかかる。
本格的な闘いのゴングが鳴らされるのが、フィニッシュまで45kmを残した「コート・ド・ラ・ルドゥット(平均8.9%)」だ。フィリップ・ジルベール(ベルギー)の出身地が近く、PHILのペイントが施されたこのラ・ルドゥットの最大勾配は17%。頂上通過後は横風が吹く平坦路が続くため、毎年ここで集団は大きく人数を減らす。
道路工事によって昨年コースから外された「ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(平均9.3%)」が復活。コースの難易度は昨年よりも上がっていると言えるだろう。
フィニッシュ6km手前で最後の難所「コート・ド・サンニコラ(平均8.6%)」を越え、アンスに至る緩やかな登りを登ってフィニッシュ。この「アンス」の登りは「カウベルグ」や「ユイ」ほど厳しくはなく、ラスト2kmから緩斜面がダラダラと続く。連続する登りで飛び出した選手、もしくは少人数のグループが平坦な最終ストレートでスプリントを繰り広げるだろう。
登場する10カ所の登り
1 70.0km コート・ド・ロッシュ・アン・アルデンヌ 長さ2.8km・平均勾配6.2%
2 123.0km コート・ド・サンロシュ 長さ1.0km・平均勾配11.1%
3 167.0km コート・ド・ワンヌ 長さ2.8km・平均勾配7.2%
4 173.5km コート・ド・ストック 長さ1.0km・平均勾配12.4%
5 179.0km コート・ド・ラ・オートルヴェ 長さ3.6km・平均勾配5.6%
6 201.0km コート・ド・ラ・ヴェッケ 長さ3.1km・平均勾配6.4%
7 218.5km コート・ド・ラ・ルドゥット 長さ2.0km・平均勾配8.9%
8 231.5km コート・デ・フォルジュ 長さ1.9km・平均勾配5.9%
9 243.5km コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン 長さ1.5km・平均勾配9.3%
10 257.5km コート・ド・サンニコラ 長さ1.2km・平均勾配8.6%
好調バルベルデやジルベールを中心にしたタイトル争奪戦
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュの優勝者を占う上で、直前のアムステル・ゴールドレースやフレーシュ・ワロンヌの結果は重要な指標になる。つまり、アムステルを制したフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)と、フレーシュを制したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)は優勝候補の筆頭だ。
何と言ってもジルベールは地元ワロンの期待を背負う存在だ。例年リエージュのコースにはジルベール応援団が駆けつけ、「ラ・ルドゥット」の路面には無数の「PHIL」ペイントが並ぶ。フレーシュでは精彩を欠いてしまったが、2度目のリエージュ制覇に向けて志気は上がっているはず。サムエル・サンチェス(スペイン)という心強いアシストを従えての出場となる。
2006年と2008年にリエージュを制したバルベルデは、フレーシュでその好調ぶりと抜群の勝負勘を見せつけた。アムステルでは4位に終わったものの、今シーズン最多勝のバルベルデは波に乗っている。
ディフェンディングチャンピオンのダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)は、例年よりもコンディショニングが遅れながらもフレーシュで2位に入った。チームメイトのトムイェルテ・スラグテル(オランダ)とともに再びリエージュの頂点を目指す。
アムステル3位のサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)はリエージュに照準を合わすためにフレーシュをパス。リエージュにはこれまで8回出場しており、最高位は2009年の6位。南半球出身選手として初のリエージュ制覇なるか。フレーシュで7位に入ったミハエル・アルバジーニ(スイス)がエースを担うことも考えられる。
将来を嘱望されるミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)はアムステル5位、フレーシュ3位。経験不足は本人も認めるところだが、ストラーデビアンケ覇者はアルデンヌでも確実に上位に絡む走りを見せている。
ここまでのアルデンヌで不発に終わっているダニエル・モレーノ(スペイン)とホアキン・ロドリゲス(スペイン)擁するカチューシャや、クリス・フルーム(イギリス)とリッチー・ポート(オーストラリア)擁するチームスカイ、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)とミケーレ・スカルポーニ(イタリア)擁するアスタナなど、クラシックシーズンを締めくくるのに相応しい豪華な面子が揃っている。イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、ロット・ベリソル)やロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ・サクソ)も勝利を狙える実力者だ。
日本からは新城幸也(ユーロップカー)と別府史之(トレックファクトリーレーシング)が出場する。両者ともにジロ・デ・イタリアに出場予定であり、その仕上がり具合に注目だ。アムステルで日本人史上最高位となる10位に入った新城は、トマ・ヴォクレール(フランス)らとともに勝利を狙う。
text:Kei Tsuji