距離約100kmで海抜0メートルから台湾道路最高地点である3,275mの武嶺まで駆け上がる、TAIWAN KOM CHALLENGE。強豪選手を抑えて優勝した與那嶺恵理(チームフォルツァ!)による直筆レポートを紹介します。



TAIWAN KOM CHALLENGEは、獲得標高差3625mにものぼる世界最高難度のヒルクライムレースの1つ。選手全員がチャレンジャーであるタフなレースなのです。

台湾KOMチャレンジコースプロフィール台湾KOMチャレンジコースプロフィール photo:Taiwan Cyclist Federation台湾KOMに参加させて頂いた経緯は、この大会の関係者であるLee Rodgers氏と私のコーチである武井亨介さんの間に面識があり、当初は私には声がかかっていなかったのだが、武井コーチの紹介のもと、日本からの招待選手として大会主催者側から招待して頂くという運びとなったから。

大勢の選手がスタートラインにつく。全員が勇敢なチャレンジャーだ大勢の選手がスタートラインにつく。全員が勇敢なチャレンジャーだ photo:Taiwan Cyclist Federation私以外の招待選手には、オリカグリーンエッジのサイモン・ゲランス選手や女子のティファニージェーン・クロムウェル選手(共に今年の世界選手権で10位以内)、カナダのXCMチャンピオンのColly選手、台湾のワン選手や昨年の優勝者などがおり、非常にハイレベルなレースになると感じざるを得なかった。

スタート前の與那嶺恵理スタート前の與那嶺恵理 photo:Taiwan Cyclist Federation世界選手権が終わってからはオフシーズンということもあり、体重も気にせず、このレースに向けた調整らしい調整もしなかった。もちろん良いレースができるに越したことはないが、一番は楽しむこと。そして、たくさんの輪を広げること。そんな思いでこのレースに挑んだ。

トンネル内を高速で進むトンネル内を高速で進む photo:Taiwan Cyclist Federation11/9(土) レース当日は朝4時に起床。のんびり、いつも通りマイペースに準備をし、支度を済ませ、朝食をとる。そして、5時にはホテルのロビーに集合し、皆それぞれ先導車のライトを頼りに、スタート地点へ向かった。

オープニングセレモニーのようなものがあり、6時半のスタートまで、写真をとったり、ウォーミングアップをしたり、と思い思いにレース前の時間を和やかな雰囲気の中、過ごしていた。6時頃になると日の出とともに明るくなり、6時半のスタートには、小雨がぱらつき出すものの、明るい空ときれいな海が顔を出した。

そして、スタートは招待選手が最前列に並び、GO!という合図で一斉にスタートが切られた。誰もがご存じの通り、ヒルクライムレースはバイクの重量や体重は軽ければ軽い方がいい。しかし、オフシーズンなので、ベスト体重とは程遠く、バイクも特にヒルクライム仕様にはせず、普段通りの自分と普段通りのバイクで臨んだ。

最後まで迷ったのはウェアの選択。多くの選手が半袖ハーフの上下ウェアであった。スタート地点、海抜0mの気温は25℃以上。1000m上がると気温は、6℃下がる。だから・・・ゴール地点は大体5℃くらいと予測できた。

また、3275mまで上っている間に気候や天気は目まぐるしく変わる可能性も考えられたので、私は、コンプレスポーツのアームスリーブとフルレッグを着用し、waveoneに作ってい頂いたチャンピオンジャージの半袖ハーフの上下にKABUTOの薄手の指付タイプのグローブRPG-3を選んだ。そしてもしもの雨のために、waveoneのストームベストを着ておいた。ベストは、途中で脱ぐことになったが、途中の200mほどの下り区間でも汗冷えすることなく、スタート直後も暑すぎず、私にはちょうど良かった。ちなみに、チャンピオンジャージを着て走る初レースであった。

スタートから上りはじめまでの約20kmはパレード走行。皆、周りの選手と談笑しながら穏やかなペースで進んでいく。途中、雨が強くなった瞬間もあり少し不安になったが、すぐに晴れ間に変わり、これからどんな景色やレースが待っているのかワクワクしていた。なぜなら、このレースのゴール地点まで続く道は「天国への道」と言われるほど、美しい景色があると聞いていたからだ。

レースには、一応カテゴリー区分があるものの、全カテゴリー混走というスタイルである。最初の1/4ぐらいまでは上りも緩やかで、男性のレースペースで進むため、100km身体がもつのだろうかと不安になるほどのハイペース。

荒涼とした山岳地帯を進む集団荒涼とした山岳地帯を進む集団 photo:中華民國自行車騎士協會Taiwan Cyclist Federation
今回のレースは、世界選手権で女子9位だったティファニー選手のマークを外さないこと。世界のトップの女子選手の走りを生で見れ、一緒に走れるという経験は今後のためにも非常にプラスになる。どんなギアを使い、どんなフォームで走り、どれぐらい強いのか。彼女もオフシーズンなのでベストパフォーマンスではないにせよ、序盤は集団前方に位置取っていた。

私は、出来る限り長い間、彼女の走りを見て、学べることは吸収できるように食らいつくように走る。しかし、上り始めて1時間ほど経ち、上りらしい上りが続くようになってくると、ペースアップとともに段々集団が小さくなり始め、彼女は集団の後ろの方に下がってきた。

小集団の先頭を行く與那嶺恵理小集団の先頭を行く與那嶺恵理 photo:中華民國自行車騎士協會Taiwan Cyclist Federation彼女の走りを見ることが目的だったが、ここで集団から私も同じように切れてしまうのか?迷わず、彼女を置いて、男子の集団に行けるところまで着いていくことを選んだ。無理をしないで前に行く脚があったことが、その選択を瞬間的にできた要因である。

急峻な断崖に打ちはなたれた山岳路を行く急峻な断崖に打ちはなたれた山岳路を行く photo:中華民國自行車騎士協會Taiwan Cyclist Federationするとその先頭集団でも振るい落としが始まり、すぐに10人ほどの小集団ができあがった。たとえ10人くらいでも集団でペースを作り上れば非常に楽にレースを運ぶことができる。そこからは1人にならないように、意地でも集団で走るよう徹し、景色を楽しみ、レースを楽しみ、雰囲気を楽しむように切り替えた。

標高3000m。この場所でも応援してくれる人がいたことは、とても励みになった標高3000m。この場所でも応援してくれる人がいたことは、とても励みになった photo:中華民國自行車騎士協會Taiwan Cyclist Federation進めば進むほど身体は疲れてくるのに、上れば上るほど薄くなる空気。1500m程のところで、脚の筋肉やつま先に酸素が運ばれていないのを感じた。呼吸は苦しくないのだが、脚の感覚がない。というよりも、呼吸で取り入れられる酸素が少なすぎて強度の高い運動ができないように身体が反応していたのだと思う。

そして、ラスト15㎞を切ったあたりから、緩やかな坂はほとんどなく、15%~20%くらいの斜度の坂が何度も何度も目の前に立ちはだかってきた。ケイデンスはおそらく30くらい?それ以下だったかもしれない。よく脚をつかずに、押さずに完走できたなと今になって思う。ここまで来れば、キツイとかしんどいとかネガティブな考えは全く起きず、逆に自分の止まりそうな状況で、脚をつくかつかないかで必死に走っている自分がおかしくなり、笑えてきた。

2位以下をおよそ20分引き離しての独走勝利2位以下をおよそ20分引き離しての独走勝利 photo:中華民國自行車騎士協會Taiwan Cyclist Federationそして、何よりも3000mという地点にも関わらず、沿道で応援してくれる方々にはものすごく助けられた。台湾という異国の地で、日本人である私を、“You are my HERO!!!” と言って走りながら応援してくださるおじさんや、“がんばれーー”と日本人の私に日本語で応援してくださる方々。この応援に感動し泣きそうになるのをこらえて、過呼吸になりそうだったのは、内緒です。

ゴールである山頂が見えた時は、少しでも速く辿り着きたいという思いとは裏腹に、ますます薄くなる空気でますます動かなくなる脚に、情けなくなりつつも、レースの雰囲気を楽しみながらゴールまでペダルをこぎ続けた。ラスト5㎞は、自転車人生、自分史上最遅記録に間違いない・・・。

結果的に女子カテゴリー1位でゴールできた。これは、コーチである武井社長の献身的なアシストと、応援のパワーのおかげだ。あとは、存分にエネルギーとなった台湾グルメのおかげかな。


レース以外では、台湾グルメに、台湾ビールに、台湾スイーツを満喫。異国の土地の食に触れ、文化を知り、そこで生活する人たちの空気に触れることができた。それはものすごく自分のために大切なこと。レース以外でも台湾を存分に満喫でき、レースで日本人もアジア人もできるということを証明でき、他の選手や大会関係者などとの新しい出会いもあり、最高の経験と時間を頂けたことに非常に感謝しています。

そして、ナショナルチャンピオンとして、海外でチャンピオンジャージを着て走ること。これがどういうことなのかを肌で感じました。見た目や年齢ではなく、日本のチャンピオンとして差別なく、敬意を持って他の選手や大会関係者の方々が接してくれたことは、私にとって初めての体験であり、衝撃的でした。自分の今までの枠を越えた経験を、今後の糧としていきたいです。

チャンピオンジャージに袖を通すチャンピオンジャージに袖を通す photo:中華民國自行車騎士協會Taiwan Cyclist Federation強豪選手を抑え、表彰台の頂点に強豪選手を抑え、表彰台の頂点に photo:中華民國自行車騎士協會Taiwan Cyclist Federation

武井亨介コーチと共に武井亨介コーチと共に photo:中華民國自行車騎士協會Taiwan Cyclist Federation小籠包屋さんには、2日間で3度も訪れました小籠包屋さんには、2日間で3度も訪れました


大袈裟だな、と思った皆様、一度自分の脚で、このレースに挑んでください!バイクの軽量化?ダイエット?そんなシビアに捉えるのではなく、台湾という地を観光し、そして自転車で極限の世界に挑戦したい方には絶対おすすめのレースです。

このような機会を与えて下さった武井亨介コーチ、主催者に紹介して下さったLee Rodgers氏、オーガナイズして下さった台湾自転車連盟の皆様、ありがとうございました。感謝を込めて、レースレポートとさせて頂きます。

来年の目標は、今年と変わらず、世界選手権!そこに照準を合わせて、今を、これからを、来年を過ごします。ロード、TT共に、10位以内を獲るために!


Report:與那嶺恵理
photo:中華民國自行車騎士協會 Taiwan Cyclist Federation


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