休息日明けのヴィラージュには家族や恋人たちを伴った選手たちが憩いにやってくる。長旅の闘いに、奥さんや子供たちの遠路はるばるの訪問。一緒に過ごす時間を心から楽しんでいる。この雰囲気がツールならではだ。

子どもを抱き上げるトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)子どもを抱き上げるトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayano可愛い赤ちゃんに夢中のヴォクレール。タオル製のウサギのぬいぐるみをしゃぶるのに夢中な娘さんに一生懸命話しかけるフェドリゴ。一方で男ばかりで話し込むポッツァートにバッラン、トザットらイタリア人選手たち。

迎えるチームや主催者側の受け入れ態勢も整っていて、今日は家族用のInviteパスの発行がたくさんだ。招待客が多いことでツールの雰囲気全体が和やか。ピリピリした日が続いたのがウソのようだ。

フランス革命記念日「キャトーズ・ジュイエ(7月14日)」でもあるので、お祝いムードも手伝っている。フランス人のジェローム・ピノー(クイックステップ)のスペシャライズドのバイクはフレンチ3色旗カラーに塗られ、シートチューブ部にはフランス語で書かれた文章がつづられる。何の文だろうと訊くと「ラ・マルセイエーズ」だとのこと。フランス国歌の一節が書かれているのだ。

リフレッシュしたフミ&ユキヤ

スタート前に家族とのひと時を過ごすピエリック・フェドリゴ(フランス、Bboxブイグテレコム)スタート前に家族とのひと時を過ごすピエリック・フェドリゴ(フランス、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayanoフミとユキヤも今日は余裕たっぷりで並んで握手。昨日の休息日には元気な声を聞かせてくれて、逆に取材陣も励まされた。日本のファンも必勝と書かれた扇子にサインを求める。「これぞ待ってた絵柄」と群がる海外のカメラマンたち。求ム、オリエンタルなカット。

9日間を乗り切った2人とも、当初の予想に反して疲労は少ないという。第2、3ステージでの活躍はトップ5&8入りの好結果。チームTTでは2チームともが落車の試練を受けた。そしてピレネー山岳を乗り切った。

出走サインに登場したランス・アームストロング(アメリカ、アスタナ)出走サインに登場したランス・アームストロング(アメリカ、アスタナ) photo:Makoto Ayanoユキヤは第2ステージ5位の評価は高かったが、以来、チーム内の立場がスプリンターに区別されてしまった。逃げのメンバーに選ばれず、スプリントを狙うメンバーになった。ブイグはチーム内で「上り組」と「スプリンター組」に分けてチームオーダーが出されるケースが多く、逃げたくともスプリントに備える役割を担わされることが多いという。

しかしここからの一週間はアップダウンの富んだルーラー向きコースが続くので、「全員がアタックして良い」という指示が出されることを期待しているという。新城にとって目標は完走よりもステージ優勝。「もし一勝できれば翌日リタイアしてもいい」、とまで言う。

トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ)らを先頭にスタートラインに並んだ選手たちトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ)らを先頭にスタートラインに並んだ選手たち photo:Makoto Ayano昨年のツール・ド・リムザンでの勝利が記憶に新しいユキヤにとって、ここリモージュと一帯はおなじみの地。逃げに乗っていけるならいきたい。逃げグループでの少人数のスプリントに持ちこめば、ステージ優勝は夢でなく現実的だ。「フレッシュですが、皆が同じ条件です!(笑)。」

チームにはフランス人スプリンターのハッドがいるので、「20km地点までは逃げアタックに参加してもいい」というチームオーダー。プロトンに残ればハッドのアシストに回るのも役目だ。

フミは体調の良さを実感しつつ、総合上位を狙うわけではないのでピレネーをセーブしながら乗り切った。食事にも気を使いながら、逃げるチャンスが来るのを待っている。

「山岳ステージの大観衆には感激した。大声援を受け幸せだった。先頭だけがドラマを演じているわけじゃない。集団の最後尾だってそれぞれの思いを込めてゴールを目指している。自転車レースは奥が深い」。

総合成績最下位のスプリンター、ケニー・ファンヒュンメルが最後尾でひとりで壮絶な闘いをしていることにも触れたフミ。心からツールを楽しむ。そして、ここからの一週間はフミの得意なプロフィールのステージが続き、チャンスがある。

無線禁止の影響はほとんどナシ?

無線機禁止を皮肉って偽のアンテナをつけるグリシャ・ニアマン(ドイツ、ラボバンク)無線機禁止を皮肉って偽のアンテナをつけるグリシャ・ニアマン(ドイツ、ラボバンク) photo:Makoto Ayanoこの日、選手やスタッフ間で使われる無線機の使用が禁止された。選手たちは背中のポケットに小型のトランシーバを入れ、イヤホンと骨伝導マイクを通してチームカーとコミュニケーションをとる。それを今日、選手たちは持ってはならない。もちろん携帯電話もダメだ。

「チームが申し合わせてボイコットする(無線を使う)かも知れない」という憶測飛んでいたが、結局目立った反対はなかった。ラボバンクのニェールマンがチームカーに取り付けるアンテナをヘルメットに挿しておどけてサイン台に登場したのが唯一の反抗表明だった。いくらなんでもそれは無線を派手に使いすぎ。

−君がプロトンの代表?
「いや、これは僕個人のアイデア。クールだろう?

−君の意見は?
「僕らは10年以上ラジオを使って走っている。なぜ昔に戻る必要がある? ラジオがあると選手がバカになるって? それはノーだ。モダンレースはもっと高度な戦いだ。わざわざレースをつまらないものにしようとしてるのかい?」

ディレクターカーからはラジオツールと呼ばれる無線情報が各チームカーの受信機に向けて発信され、レース展開やトラブル情報が常に入る。パンクや落車した選手の情報、手を挙げて何かを要求する選手の名前などが常時伝えられる。それは変わりなく機能する。しかし選手とチームカーを繋ぐコミュニケーション手段がなくなるのだ。もし何か伝えたいことがあれば直接チームカーが選手の脇まで上がって話すか、選手が下がってくるか。

リアルタイムで監督と相談したり、指示を仰いだり、また欲しいものを具体的に伝えたりすることができなくなる。レースを選手たち自身で組み立てなければならなくなる。20チームのうち14チームが反対の意思を表明しているというが、UCIの決定事項になっているので違反すれば罰金を払う必要もある。

近年、レース展開がパターン化してしまっていること、選手たちが自分で考えることをしなくなることなどを危惧し、レースの活性化を狙ったはずが、結局この日のステージは終わってみれば情報の無さを危惧した選手が無難な展開にまとめ、とくにそれがもとで良かったとか、悪かったということの見えにくいステージになったようだ。

革命記念日はフランス人にチャンスを!

「こんにちはツール・ド・フランス、そしてありがとう」「こんにちはツール・ド・フランス、そしてありがとう」 photo:Makoto Ayanoフランス人にとって特別な「革命記念日」。この日のフランス人による勝利はダヴィ・モンクティエの2004年の勝利にさかのぼる。

沿道には楽隊、4賞ジャージを模したシャツを着たロバ、飾り付けで応援する人など、いつにもまして賑やかな雰囲気。沿道にテーブルを引っ張り出してワインを飲みながら観戦を決め込む観客も多かった。

各賞ジャージを着たロバが沿道で選手たちを待つ!各賞ジャージを着たロバが沿道で選手たちを待つ! photo:Makoto Ayano革命記念日に、スタートから動いたのはフランス人のティエリー・ウポン(スキル・シマノ)だ。

逃げのスペシャリスト、ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)とブノワ・ヴォグルナール(フランス、フランセーズデジュー)が合流。そして昨年ステージ優勝を挙げた小さなサミュエル・ドゥムラン(フランス、コフィディス)が合流し、逃げグループができた。フランス人3人とロシア人ひとり!

この逃げはゴール直前まで続くが、しかしタイム差は常に大きく開かず、集団がいつでもコントロールできる範囲に収められたようだ。状況が分からない状態に陥るリスクをとらなかったプロトンの選手たち。常にリカバリー可能な逃げしか許さなかった。それは多分、無線が無いことが影響したとも言えそうだ。


楽々カヴ、スプリントは敵ナシ

トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ)を振り切ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームコロンビア・HTC)が先頭でゴールへトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ)を振り切ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームコロンビア・HTC)が先頭でゴールへ photo:Cor Vos集団スプリントは早めに仕掛けたカヴェンディッシュが楽々フィニッシュ。アシストのマーク・レンショーとのコンビネーションもバッチリ。もうまったく他を寄せ付けない強さがある。ゴールラインを割りながらサングラスのグリーンをアピールするポーズは余裕がありすぎて、フースホフトのマイヨヴェールがかすんで見える。

イギリス人選手で過去フランス革命記念日に優勝したことがあるのはバリー・ホーバン。カヴはその2人目に名を連ねた。

中間ポイントを重ねるフースホフトと、ステージ勝利だけを狙いフィニッシュポイントでポイントを稼ぐカヴ。最終的にシャンゼリゼでマイヨヴェールを着るのはどちらだろうか? この先の平坦ステージや中級山岳ステージで早めの逃げが決まると都合が悪いのはフースホフトだ。

ウポンが敢闘賞獲得 遅すぎたステージ?

大歓声の中を逃げ続けるサミュエル・ドゥムラン(フランス、コフィディス)やティエリー・ウポン(フランス、スキル・シマノ)大歓声の中を逃げ続けるサミュエル・ドゥムラン(フランス、コフィディス)やティエリー・ウポン(フランス、スキル・シマノ) photo:Makoto Ayanoゴール前1.5kmで捕まるも、敢闘賞を獲得したウポン。プロ入り2年目のまだ23歳。ステージ優勝を上げることとパリまで完走することが目標。ヴィランクがモルツィーヌで勝った2003年のステージを観客として観て感動し、プロ選手を目指す。ヒーローはエディ・メルクス。「ツール勝者というだけでなく、打倒できない無敵ぶりだから」。

「最初から逃げ切るのは難しいと思っていた。観客がずっと名前を呼んでくれ、応援してくれたのは素晴らしい体験だった。最後は希望が沸いてきたけど、あっという間に差が縮まってしまった。また狙うよ」。

しっかりと集団前方に陣取るチームコロンビア・HTC勢しっかりと集団前方に陣取るチームコロンビア・HTC勢 photo:Makoto Ayanoウポンは第19ステージに近いシャヴァノス出身で、だから第19ステージでの逃げも狙っている。

フミ、ユキヤは難なく集団ゴール。スプリントに期待の掛かったユキヤだが、今日はいまひとつ調子が出ずにスプリントはしなかった。26位でゴール。フミは35位と、2人とも十分上位だ。

平坦基調のステージだというのに、最終的な平均時速は40km/hを割って39.117km/hだった。これは遅い。ユキヤも「集団が遅くて変な感じがした」とか。無線が無いことについては「とくにそういう(必要な)展開にならなかった。良いことは(背中が)軽くなったぐらい」。

総合争いは変動がないと思われたのに、しかし落車の影響をうけた中切れが発生してライプハイマーとウィギンスがそこに含まれ、総合順位をライプハイマーが1位、ウィギンスが2位落とすことになった。そしてアルヴェセンが落車で鎖骨骨折。シュレク兄弟の貴重なアシストがひとり減ってしまった。ノチェンティーニのマイヨジョーヌはまだ続きそうだ。

ウポンの活躍で目だったスキル・シマノ。初参加にして十分なアピールだ。ピレネーで連日タイムアウトと闘ってきたケニー・ファンヒュンメルもスプリントで7位。試練を越えると、自分向きの日が待っている。

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