2013/07/14(日) - 18:03
予想に反した奇襲攻撃が勃発した波乱の一日が明け、アルプス突入を前にアタッカーのためのステージが用意された。逃げを成功させた18人の中でもっとも冷静にスプリントを待ったイタリア人が勝利を掴んだ。
昨日後輪交換で遅れたタイミングで総攻撃を喰らい、約10分遅れて総合を大きく落としたアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)にホアキン・ロドロゲス(カチューシャ)が話しかける。ベルキンやオメガファーマ・クイックステップの昨日の攻撃について話している。
”プリト”ロドリゲスはライバルであると同時にケースデパーニュ時代にバルベルデのアシストとして仕えた。それ以上に親友でもある。プリトは「許せないね」といった表情を浮かべる。チーム総合成績もモビスターからサクソ・ティンコフに移ったことで今日はサクソが黄色いヘルメットを被る。もともと黄色がベース色にあるチームだけに違和感は少ない。
逃げを決めるステージとして数少ないチャンスに賭けている選手たちがスタート前にローラー台でのウォームアップを終え、すっかり仕上がった状態でスタート地点に並ぶ。イェンス・フォイクト(レディオシャック・レオパード)もラルスイティング・バク(ロット・ベリソル)といったアタッカーたちは、今日挑戦することを隠さず表明する。
昨日のステージで肋骨の痛みを訴えていた新城幸也(ユーロップカー)。「痛みは?」の問には「大丈夫です」と否定するように応える。それより、ユキヤ自身もこの逃げステージでアタックに加わろうと意欲満々だ。そして「逃げるには残り少ないチャンス。チームとしてもたくさん仕事をしなければいけない日です」とも言う。
まだステージ優勝がない今年のユーロップカー。山岳賞ジャージをキープするピエール・ロランのアシストをこなしつつも、今日はある程度自分のために自由に動くことが許されたアタック担当に指名されているようだ。
まだ結果を残していないチームが多く、ステージ優勝への意欲が高いぶん逃げが決まる可能性が高いが、ゴールへ向けては平坦路で距離も十分あるためゴールスプリントの可能性も少なからずある。
191kmにはカテゴリー3級か4級の山が7つも詰め込まれた。とくに終盤、リヨン近郊のゴール前35kmは密度の濃いコース設定だ。大都市リヨンの中心部周辺の山がコースに設定され、高速道路の環状線と絡みあうように通る細い道路がコースになっている。
ロードブックにはラスト20kmの詳細図があえて記載され、狭くなった箇所や急カーブなど「危険箇所」だらけだ。当然大都市のため観客の数も多いはず。レースが最終の展開を迎えるタイミングでは落車のリスクが大きいことが予想された。
総合争いをするチームは明日からアルプスが待ったいるため、あえてリスクを避けるために逃げを追わないだろうという予想が多かった。しかし、昨日の奇襲をみても何があるのかわからないのがツールだが。
ゼロ㎞地点から繰り返されるアタック。逃げができては吸収され、を繰り返し、緩いアップダウンの続く序盤のコースに集団は伸び縮みを繰り返していた。その末に決まった18人の逃げ。ヤン・バケランツ(レディオシャック・ニッサン)が寸差で逃げ切った第2ステージを除けば、これがこのツールで14日目にして初めての逃げが決まったステージとなった。
どうやらメイン集団は追う気が無く、そして無駄足とも思える追走を続けたダミアーノ・クネゴとジョニー・フーガーランドが諦めた。ゴールが近づくと、リヨンのゴール地点はがぜん大歓声が沸いていた。今までのステージにないほどに…。
フランス人の勝利を渇望するリヨン しかし勝ったのはイタリア人
逃げた18人のうちシリル・ゴティエ(ユーロップカー)、ビエル・カドリ(アージェードゥーゼル)、ジュリアン・シモン(ソジャサン)、アルテュール・ヴィショ(FDJ)の4人がフランス人。つまり大多数のフランス人観客は、キャトーズ・ジュイエ(7月14日の革命記念日)の1日前にしてフランスの勝利を渇望していたのだ。
MCのダニエル・マンジャスさんが「フランス人の初勝利なるか!」と叫び、ヴィショの着る青・白・赤のマイヨトリコロールも目立つ! そしてラストの山でシモンがアタックすると、さらに盛り上がりを見せた。
しかしスプリントを締めくくったのはイタリア人のマッテーオ・トレンティン(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)だった。
フランス人の勝利がならなかった代わりにイタリア人が挙げた勝利。ツールでのイタリア人のステージ優勝は2010年ツール第4ステージでのアレッサンドロ・ペタッキの勝利(大会2勝目)以来3年ぶりの勝利だ。しばらく寂しい思いをしていたイタリア人関係者も大喜び。
共同インタビューにはイタリア国営放送Raiのアレッサンドラ・ステファノさんが駆り出される。しかし、ベルギーチームで走るトレンティンはイタリア人選手にしては珍しく英語が達者で、イタリア語通訳の必要はまったく無かった。
トレンティン「ラスト200mでスプリントをすることを決めていた」
プロ初勝利を挙げたトレンティン。決め手はラスト200mのスプリントだった。「ラスト200mで行こうと決めていた。僕のスプリントは200mでベストなことは知っていたから、そう決めていたんだ。チームではいつもこんなとき”冷静に””その瞬間を待て”と言い聞かせている。ラスト200mになるのをただ待ったよ。」
いつもの役回りはカヴェンデュッシュのリードアウト要員をつとめるだけあって、自分の脚とスプリントの持続距離を知り抜いている。「チームでのすべての経験が勝利に結びついた。なんといってもビッグチャンピオンたちー ”チームマーク”の一員として、そしてマルティンのそばにいつもいられるのだから。
2011年のU23チャンプで、2012年にオメガファーマでプロデビューしてから2シーズン目。ヴェローナの大学でスポーツ科学を学んでいる。「この勝利でどんなタイプの選手になれるか、将来像が見えるか?」と訊かれ応える。
「今はまだそんなことは考えられない。今までクラシックなどあらゆるレースに出てきた。グランツールはまだ2度めの経験で、同じ今年のこと(5月のジロに出場)。クラシックは好きだね。でもどんなタイプの走りが自分に向いているかは、まだ数年は決められない。」
奇しくもこの日、引退したはずのペタッキがオメガファーマ・クイックステップと8月に契約する予定であることをチームが認めた。勝利を期待されるエーススプリンターとしての契約を重荷に感じ、ランプレ・メリダとの契約を4月で打ち切って休止期間に入っていたペタッキ。カヴェンディッシュらのリードアウト役として走ることを続ける決意をしたという。
[img_assist|nid=112744|title=血管が浮き出たクリス・フルーム(スカイプロサイクリング)のレース後の脚|desc=(c)Makoto.AYANO|link=node|align=right|width=300|height=]逃げに乗れなかった新城幸也
逃げが決まるまで、何度もアタックを試みたというユキヤが「いっぱい動いたんですがダメでしたね」と悔しさを漏らす。ゴールしてから指は痛みがある様子だが、それは口にしない。そして時折脇から胸にかけて、打撲した肋骨を手で抑える。落車の影響は少なからずあるように見える。
Twitterを使って観客たちに呼びかけ 「観戦するときは安全に」
ツール・ド・フランス主催者A.S.O(アモリー・スポール・オルガニザシヨン)がデーヴィッド・ミラー(ガーミン・シャプ)たちにツィッターを使って観客たちに路上で観戦する際は安全に気を配るよう呼びかける「安全な観戦の手引き」をツィートするように依頼したという。
昨年も路肩の観客に選手が引っかかり大落車が発生した。今日のステージも独走したシモンが最後の山で観客と接触しかかった。しかし、「観客の間で気をつけよう」という声が挙がり始めている。ミラーのツィッターアカウントはこちら。
英語もフランス語もいけるミラーはさっそく「路肩に立たないで。選手たちは道路のすべてを使って走る」「子どもやペット、椅子などは何があっても避けられるところに」「カメラや携帯で選手を撮るときはクローズアップじゃなくロングショットで」「僕を応援してね。全部聞こえるから」とツィートした。
今までのところ雨のないどころか、曇り空だった時間も期間中わずかしか無いという超好天のツールとなっている。いよいよツールは明日242.5kmの最長距離と「悪魔の棲む山」モンバントゥーへ向かう。
photo&text:Makoto.AYANO
昨日後輪交換で遅れたタイミングで総攻撃を喰らい、約10分遅れて総合を大きく落としたアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)にホアキン・ロドロゲス(カチューシャ)が話しかける。ベルキンやオメガファーマ・クイックステップの昨日の攻撃について話している。
”プリト”ロドリゲスはライバルであると同時にケースデパーニュ時代にバルベルデのアシストとして仕えた。それ以上に親友でもある。プリトは「許せないね」といった表情を浮かべる。チーム総合成績もモビスターからサクソ・ティンコフに移ったことで今日はサクソが黄色いヘルメットを被る。もともと黄色がベース色にあるチームだけに違和感は少ない。
逃げを決めるステージとして数少ないチャンスに賭けている選手たちがスタート前にローラー台でのウォームアップを終え、すっかり仕上がった状態でスタート地点に並ぶ。イェンス・フォイクト(レディオシャック・レオパード)もラルスイティング・バク(ロット・ベリソル)といったアタッカーたちは、今日挑戦することを隠さず表明する。
昨日のステージで肋骨の痛みを訴えていた新城幸也(ユーロップカー)。「痛みは?」の問には「大丈夫です」と否定するように応える。それより、ユキヤ自身もこの逃げステージでアタックに加わろうと意欲満々だ。そして「逃げるには残り少ないチャンス。チームとしてもたくさん仕事をしなければいけない日です」とも言う。
まだステージ優勝がない今年のユーロップカー。山岳賞ジャージをキープするピエール・ロランのアシストをこなしつつも、今日はある程度自分のために自由に動くことが許されたアタック担当に指名されているようだ。
まだ結果を残していないチームが多く、ステージ優勝への意欲が高いぶん逃げが決まる可能性が高いが、ゴールへ向けては平坦路で距離も十分あるためゴールスプリントの可能性も少なからずある。
191kmにはカテゴリー3級か4級の山が7つも詰め込まれた。とくに終盤、リヨン近郊のゴール前35kmは密度の濃いコース設定だ。大都市リヨンの中心部周辺の山がコースに設定され、高速道路の環状線と絡みあうように通る細い道路がコースになっている。
ロードブックにはラスト20kmの詳細図があえて記載され、狭くなった箇所や急カーブなど「危険箇所」だらけだ。当然大都市のため観客の数も多いはず。レースが最終の展開を迎えるタイミングでは落車のリスクが大きいことが予想された。
総合争いをするチームは明日からアルプスが待ったいるため、あえてリスクを避けるために逃げを追わないだろうという予想が多かった。しかし、昨日の奇襲をみても何があるのかわからないのがツールだが。
ゼロ㎞地点から繰り返されるアタック。逃げができては吸収され、を繰り返し、緩いアップダウンの続く序盤のコースに集団は伸び縮みを繰り返していた。その末に決まった18人の逃げ。ヤン・バケランツ(レディオシャック・ニッサン)が寸差で逃げ切った第2ステージを除けば、これがこのツールで14日目にして初めての逃げが決まったステージとなった。
どうやらメイン集団は追う気が無く、そして無駄足とも思える追走を続けたダミアーノ・クネゴとジョニー・フーガーランドが諦めた。ゴールが近づくと、リヨンのゴール地点はがぜん大歓声が沸いていた。今までのステージにないほどに…。
フランス人の勝利を渇望するリヨン しかし勝ったのはイタリア人
逃げた18人のうちシリル・ゴティエ(ユーロップカー)、ビエル・カドリ(アージェードゥーゼル)、ジュリアン・シモン(ソジャサン)、アルテュール・ヴィショ(FDJ)の4人がフランス人。つまり大多数のフランス人観客は、キャトーズ・ジュイエ(7月14日の革命記念日)の1日前にしてフランスの勝利を渇望していたのだ。
MCのダニエル・マンジャスさんが「フランス人の初勝利なるか!」と叫び、ヴィショの着る青・白・赤のマイヨトリコロールも目立つ! そしてラストの山でシモンがアタックすると、さらに盛り上がりを見せた。
しかしスプリントを締めくくったのはイタリア人のマッテーオ・トレンティン(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)だった。
フランス人の勝利がならなかった代わりにイタリア人が挙げた勝利。ツールでのイタリア人のステージ優勝は2010年ツール第4ステージでのアレッサンドロ・ペタッキの勝利(大会2勝目)以来3年ぶりの勝利だ。しばらく寂しい思いをしていたイタリア人関係者も大喜び。
共同インタビューにはイタリア国営放送Raiのアレッサンドラ・ステファノさんが駆り出される。しかし、ベルギーチームで走るトレンティンはイタリア人選手にしては珍しく英語が達者で、イタリア語通訳の必要はまったく無かった。
トレンティン「ラスト200mでスプリントをすることを決めていた」
プロ初勝利を挙げたトレンティン。決め手はラスト200mのスプリントだった。「ラスト200mで行こうと決めていた。僕のスプリントは200mでベストなことは知っていたから、そう決めていたんだ。チームではいつもこんなとき”冷静に””その瞬間を待て”と言い聞かせている。ラスト200mになるのをただ待ったよ。」
いつもの役回りはカヴェンデュッシュのリードアウト要員をつとめるだけあって、自分の脚とスプリントの持続距離を知り抜いている。「チームでのすべての経験が勝利に結びついた。なんといってもビッグチャンピオンたちー ”チームマーク”の一員として、そしてマルティンのそばにいつもいられるのだから。
2011年のU23チャンプで、2012年にオメガファーマでプロデビューしてから2シーズン目。ヴェローナの大学でスポーツ科学を学んでいる。「この勝利でどんなタイプの選手になれるか、将来像が見えるか?」と訊かれ応える。
「今はまだそんなことは考えられない。今までクラシックなどあらゆるレースに出てきた。グランツールはまだ2度めの経験で、同じ今年のこと(5月のジロに出場)。クラシックは好きだね。でもどんなタイプの走りが自分に向いているかは、まだ数年は決められない。」
奇しくもこの日、引退したはずのペタッキがオメガファーマ・クイックステップと8月に契約する予定であることをチームが認めた。勝利を期待されるエーススプリンターとしての契約を重荷に感じ、ランプレ・メリダとの契約を4月で打ち切って休止期間に入っていたペタッキ。カヴェンディッシュらのリードアウト役として走ることを続ける決意をしたという。
[img_assist|nid=112744|title=血管が浮き出たクリス・フルーム(スカイプロサイクリング)のレース後の脚|desc=(c)Makoto.AYANO|link=node|align=right|width=300|height=]逃げに乗れなかった新城幸也
逃げが決まるまで、何度もアタックを試みたというユキヤが「いっぱい動いたんですがダメでしたね」と悔しさを漏らす。ゴールしてから指は痛みがある様子だが、それは口にしない。そして時折脇から胸にかけて、打撲した肋骨を手で抑える。落車の影響は少なからずあるように見える。
Twitterを使って観客たちに呼びかけ 「観戦するときは安全に」
ツール・ド・フランス主催者A.S.O(アモリー・スポール・オルガニザシヨン)がデーヴィッド・ミラー(ガーミン・シャプ)たちにツィッターを使って観客たちに路上で観戦する際は安全に気を配るよう呼びかける「安全な観戦の手引き」をツィートするように依頼したという。
昨年も路肩の観客に選手が引っかかり大落車が発生した。今日のステージも独走したシモンが最後の山で観客と接触しかかった。しかし、「観客の間で気をつけよう」という声が挙がり始めている。ミラーのツィッターアカウントはこちら。
英語もフランス語もいけるミラーはさっそく「路肩に立たないで。選手たちは道路のすべてを使って走る」「子どもやペット、椅子などは何があっても避けられるところに」「カメラや携帯で選手を撮るときはクローズアップじゃなくロングショットで」「僕を応援してね。全部聞こえるから」とツィートした。
今までのところ雨のないどころか、曇り空だった時間も期間中わずかしか無いという超好天のツールとなっている。いよいよツールは明日242.5kmの最長距離と「悪魔の棲む山」モンバントゥーへ向かう。
photo&text:Makoto.AYANO
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