2013/07/07(日) - 18:26
連日の酷暑。南仏の眩しい太陽が今日も選手たちに容赦なく照りつける。今年、異常気象に見舞われ冬が長びいた欧州。身体が暑さに順応できない選手も多いのではないだろうか。
昼前からすでに過酷な一日になることが分かるような晴天。エキップアサダ時代にカストル近くに住んだ新城幸也が「今日も暑いですね~」とにこやかにスタートラインに並ぶ。フランスの故郷で誇らしい白と赤が映えるこのナショナルジャージはまだ1着しか無く、生地もメッシュではないので少々暑いとのことだ。
クリス・フルーム(スカイプロサイクリング)は網目の大きな透け透けのメッシュジャージで登場。スタート前には観客のサインに応じる余裕もある。最初の勝負となる山岳ステージだが、勝負どころのピレネーの山麓までの道のりはあまりに長いから神経質にはなれないのだろう。
フランス南部、ピレネーにかけてのこの一帯はこの時期ツールの象徴ともいえるひまわり畑が延々と広がるエリアだ。しかしどこを見回しても黄色い絨毯はみつからず。これも今年の異常気象のせいだろう。春が短く、いきなり来た盛夏にフランスの大地も対応できていないようだ。
序盤に決まった4人の逃げに、3年前のアクス・トロワ・ドメーヌ山頂を制したクリストフ・リブロン(アージェードゥーゼル)の姿。リブロンはこの日、チームから前回ステージ覇者として逃げる許可をもらい、リピート勝利を目指していた。フランス人の活躍がないこれまでのツール。沿道の観客からのリブロンの再びの勝利を期待する声援が飛ぶ。
総合争いのバトルで今日ダリル・インピーのマイヨジョーヌを失う覚悟がほぼできているオリカ・グリーンエッジは、集団先頭に出て一応は役割を果たすも、レースをコントロールする意志は弱かった。120kmの平坦路をこなし、超級山岳パイエール峠、そして山頂ゴールの待つ1級山岳アクス・トロワ・ドメーヌへ。スペイン、バスク地方が近いこの一帯。自転車競技への熱を感じる応援団が大挙して詰めかけた。
オレンジのシャツを着たエウスカルテル・エウスカディ応援団は見慣れた風景、紫のシャツはミケル・アスタルロサ応援団、「Purito」と入ったシャツはホアキン・ロドリゲス応援団だ。最近は仮装グループの過激度も増し、大音量で音楽を流しながらビールをあおる。その横で保守的な応援スタイルを貫くのはユーロップカー応援団。緑のチーム旗をたくさん用意したのだろう、今年は例年以上に熱い応援だ。
アクス・トロワ・ドメーヌの2km手前の激坂地点には人のトンネルができた。その脇に陣取るのはお馴染み自転車でツールを追いかけるイラストレーターの小河原正晴さん。今年はニースからスタートし、今日は近くのキャンプ場に泊まるとのこと。もちろん日の丸の用意は欠かさない。
無敵のスカイ すでにツールは決まったのだろうか?
ただただスカイが強すぎた。パイエール峠でのナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)とピエール・ローラン(フランス、ユーロップカー)の今大会の山岳での活躍に期待がかかるふたりのアタックも、スカイの黒い列車は逃げ切りを許さなかった。
2012年オリンピックのトラック競技の金メダリスト、ツール初出場のピーター・ケノー(イギリス)、そしてパリ~ニース覇者のリッチー・ポルト(オーストラリア)がハイペースを刻むと、アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・レオパード)やカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)が次々と遅れだす。
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とアルベルト・コンタドール(スペイン)、ロマン・クロイツィゲル(チェコ)のサクソ・ティンコフのふたりが残るが、クインターナを吸収するとフルームのアタックが炸裂した。手脚の長い、グレイハウンドのような肢体をしならせてハイケイデンス&ハイスピードで飛ばす“フルーミー・ドッグ”。総合優勝を争うと言われたライバルたちをすべて置き去りにしても、フルームはペダルに込める力を緩めなかった。昨年、ブラドレー・ウィギンズのために待ったをかけたチームからの指示は今年は無い。
勝利を確実なものにしてもなお全開で踏み続け、ライバルたちに一切の容赦なくゴールに飛び込んだ。2位にはフルームをアシストしてなお余力ある“タスマニアデビル” ポルト。スカイのワンツーはすでにツールの表彰台のふたつを決めたかに思える。
クロイツィゲルにアシストされたコンタドールは、いつもの華麗なダンシングには程遠い、キレのない走りで登ってきた。無線でクロイツィゲルにペースを落とすように指示。グランツールの山岳の王者は、フルームに完全に打ちのめされていた。
コルシカ島に入った時点で「体調は90%。徐々に上げていく」と語り、絶好調でないことは認めていたコンタドール。一方で「スーパーコンディション」と豪語したフルームとスカイに徹底的に叩きのめされた。もうコンタドールの総合優勝は無い。表彰台も無いかもしれない。「クロイツィゲルには感謝しなくては。今夜はしっかり食べて明日のために休むよ」と言い残してすぐに登ってきた道を戻った。
ビャルヌ・リース監督はコンタドールのこの遅れについて「こんなことになるなんて驚きだ。呼吸のトラブルがあったのかもしれないが、分からない」としながらも、「ツールはまだ終わっていない。最も厳しい部分はこれからだし、チーム戦略を変えるには時期尚早だ。アルベルトは変わらず我々のチームのリーダーだ」と言う。
すっかり表彰台を諦めざるをえない状況になったのはカデル・エヴァンス(オーストラリア)とBMCレーシングだ。パイエール峠で早々にセカンドエースのティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)が脱落し、12分15秒の遅れを喫する。エヴァンスもフルームに苦しめられ、ゴールでは4分13秒遅れという大差を喫した。
エヴァンスは言う「健康な状態で走ったツールで最悪な日になった。小さな問題はいくつかあったし、自分がベストな体調でないことは知っていた。けれどこんなにも悪いなんて。スカイのペースはパイエール峠から速くて、すでに苦しんでいた。それに対抗できる選手は少なかった。アクス・トロワ・ドメーヌへの7kmは、総合を争う者が問題にするような登りじゃないんだ...。」
バルロワールド時代のチームメイト、ダリル・インピーからマイヨジョーヌを引き継いだケニア生まれのイギリス人、フルーム。クリテリウム・ドーフィネで見慣れたマイヨジョーヌだが、ツールでは初めて袖を通す待望のマイヨだ。「今シーズン、すでにいくつもリーダージャージを着たけれど、ツールのこれとは比べられない!」
フルームとスカイのあまりの強さに、記者会見ではお決まりの質問が飛んだ。マイヨジョーヌを決める勝利があったとき、必ずドーピングを疑う質問をする記者からだ。「世界はあなたの強さをどうして信じられるのか?完全にクリーンな状態だと、我々に保証できるのか?」
「ぼくは100%クリーンだ」フルームは言い切る。「自転車競技のここまでの歴史で人がそう疑うのは自然なことだ。ぼくはこのスポーツが変わったことを知っている。この競技の体質が変わっていなければ、ぼくがこの成績をあげることなんて絶対に不可能だった。ぼくにとって、この競技が変わったことを証明することが個人的な使命だと感じている。ぼくは今日勝ち取ったリザルトが10年、20年先も剥奪されないことを確かに知っている」。
アタックは最後にスカイに潰されたが、新人賞ジャージを獲得したナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)。昨年のクリテリウム・ドーフィネでジュプラーヌ峠でスカイ勢を翻弄したコロンビア人クライマーはあれから13ヶ月後のツールデビュー戦で定評通りの山岳の強さを見せた。
山岳賞ポイントでもフルームに6ポイント差の4位につける。「スカイは強すぎるけれど、どこかで大きなアタックを決めるつもりだ。彼らを破壊できるかどうか、見ていてほしい。新人賞ジャージはこのままパリまで着続けたい。山岳賞ジャージはレース次第。一日一日、レースを走って様子を見ていく」。
アシストとしての役割が重要になるユキヤ
マイヨアポアへの可能性を残しつつ、総合を狙って走ったピエール・ロラン(ユーロップカー)。総合の可能性が少し薄くなったことで、山岳賞狙いに方向を変えていくことになりそうだ。ロランはフルームと同じ31ポイント。ロランのアシストとしてそばにいることが第一の役割のユキヤの存在が大きくなる。明日の厳しい山岳が続く第9ステージも、ユキヤが事前にすべての峠を試走しているステージだ。
この日グルペットでゴールしたユキヤは言う「とにかくピエール(ロラン)のアシストに徹することが仕事。ピエールはいつもありがとうって言ってくれたし、試走したかいがあったと思う。アシストの仕事を終えた後、今日の自分たちが登っていたペースの集団にいれば、消耗することなく峠を越えられる。特に疲労感もないし、まだまた働けるってことかな!」。
photo&text:Makoto.AYANO
昼前からすでに過酷な一日になることが分かるような晴天。エキップアサダ時代にカストル近くに住んだ新城幸也が「今日も暑いですね~」とにこやかにスタートラインに並ぶ。フランスの故郷で誇らしい白と赤が映えるこのナショナルジャージはまだ1着しか無く、生地もメッシュではないので少々暑いとのことだ。
クリス・フルーム(スカイプロサイクリング)は網目の大きな透け透けのメッシュジャージで登場。スタート前には観客のサインに応じる余裕もある。最初の勝負となる山岳ステージだが、勝負どころのピレネーの山麓までの道のりはあまりに長いから神経質にはなれないのだろう。
フランス南部、ピレネーにかけてのこの一帯はこの時期ツールの象徴ともいえるひまわり畑が延々と広がるエリアだ。しかしどこを見回しても黄色い絨毯はみつからず。これも今年の異常気象のせいだろう。春が短く、いきなり来た盛夏にフランスの大地も対応できていないようだ。
序盤に決まった4人の逃げに、3年前のアクス・トロワ・ドメーヌ山頂を制したクリストフ・リブロン(アージェードゥーゼル)の姿。リブロンはこの日、チームから前回ステージ覇者として逃げる許可をもらい、リピート勝利を目指していた。フランス人の活躍がないこれまでのツール。沿道の観客からのリブロンの再びの勝利を期待する声援が飛ぶ。
総合争いのバトルで今日ダリル・インピーのマイヨジョーヌを失う覚悟がほぼできているオリカ・グリーンエッジは、集団先頭に出て一応は役割を果たすも、レースをコントロールする意志は弱かった。120kmの平坦路をこなし、超級山岳パイエール峠、そして山頂ゴールの待つ1級山岳アクス・トロワ・ドメーヌへ。スペイン、バスク地方が近いこの一帯。自転車競技への熱を感じる応援団が大挙して詰めかけた。
オレンジのシャツを着たエウスカルテル・エウスカディ応援団は見慣れた風景、紫のシャツはミケル・アスタルロサ応援団、「Purito」と入ったシャツはホアキン・ロドリゲス応援団だ。最近は仮装グループの過激度も増し、大音量で音楽を流しながらビールをあおる。その横で保守的な応援スタイルを貫くのはユーロップカー応援団。緑のチーム旗をたくさん用意したのだろう、今年は例年以上に熱い応援だ。
アクス・トロワ・ドメーヌの2km手前の激坂地点には人のトンネルができた。その脇に陣取るのはお馴染み自転車でツールを追いかけるイラストレーターの小河原正晴さん。今年はニースからスタートし、今日は近くのキャンプ場に泊まるとのこと。もちろん日の丸の用意は欠かさない。
無敵のスカイ すでにツールは決まったのだろうか?
ただただスカイが強すぎた。パイエール峠でのナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)とピエール・ローラン(フランス、ユーロップカー)の今大会の山岳での活躍に期待がかかるふたりのアタックも、スカイの黒い列車は逃げ切りを許さなかった。
2012年オリンピックのトラック競技の金メダリスト、ツール初出場のピーター・ケノー(イギリス)、そしてパリ~ニース覇者のリッチー・ポルト(オーストラリア)がハイペースを刻むと、アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・レオパード)やカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)が次々と遅れだす。
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とアルベルト・コンタドール(スペイン)、ロマン・クロイツィゲル(チェコ)のサクソ・ティンコフのふたりが残るが、クインターナを吸収するとフルームのアタックが炸裂した。手脚の長い、グレイハウンドのような肢体をしならせてハイケイデンス&ハイスピードで飛ばす“フルーミー・ドッグ”。総合優勝を争うと言われたライバルたちをすべて置き去りにしても、フルームはペダルに込める力を緩めなかった。昨年、ブラドレー・ウィギンズのために待ったをかけたチームからの指示は今年は無い。
勝利を確実なものにしてもなお全開で踏み続け、ライバルたちに一切の容赦なくゴールに飛び込んだ。2位にはフルームをアシストしてなお余力ある“タスマニアデビル” ポルト。スカイのワンツーはすでにツールの表彰台のふたつを決めたかに思える。
クロイツィゲルにアシストされたコンタドールは、いつもの華麗なダンシングには程遠い、キレのない走りで登ってきた。無線でクロイツィゲルにペースを落とすように指示。グランツールの山岳の王者は、フルームに完全に打ちのめされていた。
コルシカ島に入った時点で「体調は90%。徐々に上げていく」と語り、絶好調でないことは認めていたコンタドール。一方で「スーパーコンディション」と豪語したフルームとスカイに徹底的に叩きのめされた。もうコンタドールの総合優勝は無い。表彰台も無いかもしれない。「クロイツィゲルには感謝しなくては。今夜はしっかり食べて明日のために休むよ」と言い残してすぐに登ってきた道を戻った。
ビャルヌ・リース監督はコンタドールのこの遅れについて「こんなことになるなんて驚きだ。呼吸のトラブルがあったのかもしれないが、分からない」としながらも、「ツールはまだ終わっていない。最も厳しい部分はこれからだし、チーム戦略を変えるには時期尚早だ。アルベルトは変わらず我々のチームのリーダーだ」と言う。
すっかり表彰台を諦めざるをえない状況になったのはカデル・エヴァンス(オーストラリア)とBMCレーシングだ。パイエール峠で早々にセカンドエースのティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)が脱落し、12分15秒の遅れを喫する。エヴァンスもフルームに苦しめられ、ゴールでは4分13秒遅れという大差を喫した。
エヴァンスは言う「健康な状態で走ったツールで最悪な日になった。小さな問題はいくつかあったし、自分がベストな体調でないことは知っていた。けれどこんなにも悪いなんて。スカイのペースはパイエール峠から速くて、すでに苦しんでいた。それに対抗できる選手は少なかった。アクス・トロワ・ドメーヌへの7kmは、総合を争う者が問題にするような登りじゃないんだ...。」
バルロワールド時代のチームメイト、ダリル・インピーからマイヨジョーヌを引き継いだケニア生まれのイギリス人、フルーム。クリテリウム・ドーフィネで見慣れたマイヨジョーヌだが、ツールでは初めて袖を通す待望のマイヨだ。「今シーズン、すでにいくつもリーダージャージを着たけれど、ツールのこれとは比べられない!」
フルームとスカイのあまりの強さに、記者会見ではお決まりの質問が飛んだ。マイヨジョーヌを決める勝利があったとき、必ずドーピングを疑う質問をする記者からだ。「世界はあなたの強さをどうして信じられるのか?完全にクリーンな状態だと、我々に保証できるのか?」
「ぼくは100%クリーンだ」フルームは言い切る。「自転車競技のここまでの歴史で人がそう疑うのは自然なことだ。ぼくはこのスポーツが変わったことを知っている。この競技の体質が変わっていなければ、ぼくがこの成績をあげることなんて絶対に不可能だった。ぼくにとって、この競技が変わったことを証明することが個人的な使命だと感じている。ぼくは今日勝ち取ったリザルトが10年、20年先も剥奪されないことを確かに知っている」。
アタックは最後にスカイに潰されたが、新人賞ジャージを獲得したナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)。昨年のクリテリウム・ドーフィネでジュプラーヌ峠でスカイ勢を翻弄したコロンビア人クライマーはあれから13ヶ月後のツールデビュー戦で定評通りの山岳の強さを見せた。
山岳賞ポイントでもフルームに6ポイント差の4位につける。「スカイは強すぎるけれど、どこかで大きなアタックを決めるつもりだ。彼らを破壊できるかどうか、見ていてほしい。新人賞ジャージはこのままパリまで着続けたい。山岳賞ジャージはレース次第。一日一日、レースを走って様子を見ていく」。
アシストとしての役割が重要になるユキヤ
マイヨアポアへの可能性を残しつつ、総合を狙って走ったピエール・ロラン(ユーロップカー)。総合の可能性が少し薄くなったことで、山岳賞狙いに方向を変えていくことになりそうだ。ロランはフルームと同じ31ポイント。ロランのアシストとしてそばにいることが第一の役割のユキヤの存在が大きくなる。明日の厳しい山岳が続く第9ステージも、ユキヤが事前にすべての峠を試走しているステージだ。
この日グルペットでゴールしたユキヤは言う「とにかくピエール(ロラン)のアシストに徹することが仕事。ピエールはいつもありがとうって言ってくれたし、試走したかいがあったと思う。アシストの仕事を終えた後、今日の自分たちが登っていたペースの集団にいれば、消耗することなく峠を越えられる。特に疲労感もないし、まだまた働けるってことかな!」。
photo&text:Makoto.AYANO
フォトギャラリー
Amazon.co.jp