2013/07/06(土) - 17:24
雲ひとつない晴天。南仏ならではの強烈な日差しが照りつけた。乾いた大地に火が点きそうな昨日の熱暑よりはいくぶんかましだが、それでも過酷な一日には違いない。
4つのカテゴリー山岳が登場し、獲得標高差が2700mに達するアップダウンコースは、逃げが生まれるのは必至。しかしゴールスプリントで決まるスプリンター向けのステージと思われていた。
早めに決まった逃げを後半にかけて追い込み、最後は列車を組んでゴールスプリントに持ち込む。それが有力スプリンターを抱えるチームの戦い方のセオリーだ。
逃げるほうは最後に追いつかれることを覚悟のうえで計算間違いのハプニングに期待し、スプリンターのチームは逃げを認めつつも中間スプリントの残りポイントを細かく集める。流しながら追いかけ、最後にきっちりまとめる。ー そんな予想されたレースを完全に崩したのがこの日のキャノンデール・プロサイクリングの走りだった。
序盤、11km地点でクリスティアン・ヴァンデヴェルデ(アメリカ)が落車してリタイア。マルセイユにゴールする第5ステージでも落車して古傷の鎖骨をつなぐプレートのネジが外れて苦しんでいたが、この落車が「自身最後のツール」と決めたレースにピリオドを打つことになった。
”VDV”は1999年にアームストロングのアシストとしてUSポスタルでツールデビュー。リベルティセグロス、チームCSCを経てガーミンに加入した2008年は総合4位の結果を残した。グランツールでの表彰台を期待されるオールラウンダーだったが、グランツールでの落車リタイアの多さがそれを阻んだ。
序盤の平坦区間でブレル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)とイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・レオパード)の2人の逃げが決まり、落ち着くと思われたメイン集団。しかし2級山岳に差し掛かる頃、メイン集団の先頭にはライムグリーンのキャノンデールの一団が集結し、ペースを上げ始めた。サガンが狙う中間スプリントポイントは、2級山岳を越えて下った遥か遠く、45km以上も先だというのに!
キャノンデール勢に守られたペーター・サガンは楽そうにペダルを回すが、集団は続々と中切れが発生し、長く伸びる。中間スプリントポイントへのアシスト列車というよりは、2級山岳の上りを利用して他のスプリンターたちを排除する総攻撃アタックだ。
ラジオツールが「カヴェンディッシュ、ディスタンセ(遅れる)!」の一声を皮切りに、「キッテル、グライペル、ディスタンセ」と、トップスプリンターたちが次々に遅れる様を伝える。ライムグリーンの軍団とのタイム差は1分、2分とジリジリと広がっていく。
キャノンデール勢がチームプレイによる総攻撃を掛けるなら、他のスプリンターチームもチームプレイで対抗する。長く伸び、バラバラになったプロトンのなかに、苦しむアンドレ・グライペルをアシストするロット・ベリソルのトレイン、そしてマーク・カヴェンディッシュをアシストするオメガファーマ・クイックステップのトレインが形成される。レース半ばの山岳で繰り広げられるには珍しい光景だ。
アルゴス・シマノは遅れたマルセル・キッテル(ドイツ)にここで見切りをつけ、「もうひとりの登れるスプリンター」、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ)にスプリントを任せるプランに集中することに。登れるスプリンターのサガンを有利にするために、登れないスプリンターたちをふるいにかけるキャノンデール。このプランは当初、中間スプリントポイントまでのものだった。しかしせっかくならそのままゴールまで行こうと、チームはさらに意欲的になった。
連日勝てない日が続いたサガン。フラストレーションは彼だけでなく、チーム全体にも広がっていたようだ。ゴール前で列車が組めないと批判されたことが、チームメイトにも火を点けた。カドリとフォイクト。上手くいくと思えた逃げはこのキャノンデールの動きで封じられることに。しかしカドリは山岳賞ジャージをピエール・ロラン(ユーロップカー)から奪うことに成功。ロランは残りポイントを取りに行くも、カドリのチームメイト、ロメン・バルデの機転に阻まれた。
中間スプリントを当然のように1位通過したサガン。次なる目標はゴールスプリントだ。マイヨジョーヌ奪還を狙うヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード)のアタックを皮切りに、シリル・ゴティエ(フランス、ユーロップカー)とフアンホセ・オロス(スペイン、エウスカルテル)の3人の逃げはマイヨジョーヌを守りたいオリカ・グリーンエッジが追走を見せた。
スピードが落ちないサガン&マイヨジョーヌ集団に、後続のロット、オメガファーマは43km地点で脚をゆるめ、ついに追走を諦めた。ゴールスプリントまでアシストに残ったファビオ・サバティーニ(イタリア)に牽かれ、早めに仕掛けたデゲンコルブの後輪に飛びつき、余裕をもってゴールを制したサガン。チームからのフルサポートの仕事に勝利で報いる完璧な一日に仕上げた。
ゴールシーンでは期待された奇抜なポーズはなく、胸のキャノンデールのチームロゴを示しながらの「お行儀の良い」フィニッシュ。サガンは言う「これは自分の勝利ではなくて、チーム全員の勝利。チームなしでは勝てなかった。これは彼らの勝利なんだ。だから勝利のポーズはそのことを示したかったんだ」。
今年のツールはサガン向きのステージが序盤から多くあるはずだったが、第1ステージの怪我の影響が残り、勝利はここまで待たなければならなかった。面白いポーズを待った人には期待はずれだったが、不調とプレッシャーから開放してくれたチームメイトたちに感謝の意を表すには優等生的なポーズだった。
「ゴールのポーズは面白いものを用意しているけど、何をするかは事前には言わないからお楽しみに」ー コルシカでの開幕前記者会見でのサガンの言葉が思い返される。ツール初勝利をクリアして、ポイントもフルに獲得。2位のグライペルに94点差をつけて余裕のポジションについた今、これから勝利するたびのフィニッシュポーズに期待しよう!
兄の処遇に怒るアンディ チーム離脱を示唆
レディオシャック・レオパードが謹慎処分明けのフランク・シュレクとの再契約を行わないと前日に発表したことで、弟アンディにもメディアが集中している。
アンディは隠れることなく、むしろ積極的にマイクの前に立ち質問に答え、意志を表明している。「11ヶ月に及ぶ彼へのサポートの後、チームから追い出す決定をしたことがただ理解できない。この決定の裏にはきっと何かがある。ドーピングの一件に対する処置ということだけではないはずだ」とアンディは話す。
もっともチームはフランクの陽性発覚以来、彼への継続的なサポートを表明していた。それが今回、突然の解雇通知ともとれる発表。チーム側は「決定は熟考と内部規定によるもの」としているが、新しいチームの体制を構築中の今、チーム都合を優先させた感は否めない。
トレックがライセンスを引続ぐ次期チームは、まずファビアン・カンチェラーラと契約したことで春のクラシックに向けた体制づくりをする。カンチェラーラの目標達成とその周辺に予算の多くを使うことは確かだ。
そしてオーナーがルクセンブルクの資産家フラヴィオ・ベッカ氏の手を離れてトレックに移ることでルクセンブルクカラーは薄くなり、アメリカンカラーは強まる。あとはセカンドスポンサーの意向次第でメンバー構成にも影響があるとみられる。
ライセンス引継ぎ時には「ほとんどのメンバーは残留する方向だ」と発表されたが、兄と仲のいいアンディが今まで他のチームに所属したことはない。
チームバスの前でのインタビューが続く。アンディの少し離れた場所ではキム・アンデルセン監督が別の取材に答えている異様な状況だ。
「チームはここまでぼくのツールの準備をフルサポートしてくれたんだ。でも、兄と一緒に僕も追い出したいんだろうね」。そんな言葉もアンディからでている。
ツール100回記念大会のレースの真っ最中だというのに。
photo&text:Makoto.AYANO
4つのカテゴリー山岳が登場し、獲得標高差が2700mに達するアップダウンコースは、逃げが生まれるのは必至。しかしゴールスプリントで決まるスプリンター向けのステージと思われていた。
早めに決まった逃げを後半にかけて追い込み、最後は列車を組んでゴールスプリントに持ち込む。それが有力スプリンターを抱えるチームの戦い方のセオリーだ。
逃げるほうは最後に追いつかれることを覚悟のうえで計算間違いのハプニングに期待し、スプリンターのチームは逃げを認めつつも中間スプリントの残りポイントを細かく集める。流しながら追いかけ、最後にきっちりまとめる。ー そんな予想されたレースを完全に崩したのがこの日のキャノンデール・プロサイクリングの走りだった。
序盤、11km地点でクリスティアン・ヴァンデヴェルデ(アメリカ)が落車してリタイア。マルセイユにゴールする第5ステージでも落車して古傷の鎖骨をつなぐプレートのネジが外れて苦しんでいたが、この落車が「自身最後のツール」と決めたレースにピリオドを打つことになった。
”VDV”は1999年にアームストロングのアシストとしてUSポスタルでツールデビュー。リベルティセグロス、チームCSCを経てガーミンに加入した2008年は総合4位の結果を残した。グランツールでの表彰台を期待されるオールラウンダーだったが、グランツールでの落車リタイアの多さがそれを阻んだ。
序盤の平坦区間でブレル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)とイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・レオパード)の2人の逃げが決まり、落ち着くと思われたメイン集団。しかし2級山岳に差し掛かる頃、メイン集団の先頭にはライムグリーンのキャノンデールの一団が集結し、ペースを上げ始めた。サガンが狙う中間スプリントポイントは、2級山岳を越えて下った遥か遠く、45km以上も先だというのに!
キャノンデール勢に守られたペーター・サガンは楽そうにペダルを回すが、集団は続々と中切れが発生し、長く伸びる。中間スプリントポイントへのアシスト列車というよりは、2級山岳の上りを利用して他のスプリンターたちを排除する総攻撃アタックだ。
ラジオツールが「カヴェンディッシュ、ディスタンセ(遅れる)!」の一声を皮切りに、「キッテル、グライペル、ディスタンセ」と、トップスプリンターたちが次々に遅れる様を伝える。ライムグリーンの軍団とのタイム差は1分、2分とジリジリと広がっていく。
キャノンデール勢がチームプレイによる総攻撃を掛けるなら、他のスプリンターチームもチームプレイで対抗する。長く伸び、バラバラになったプロトンのなかに、苦しむアンドレ・グライペルをアシストするロット・ベリソルのトレイン、そしてマーク・カヴェンディッシュをアシストするオメガファーマ・クイックステップのトレインが形成される。レース半ばの山岳で繰り広げられるには珍しい光景だ。
アルゴス・シマノは遅れたマルセル・キッテル(ドイツ)にここで見切りをつけ、「もうひとりの登れるスプリンター」、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ)にスプリントを任せるプランに集中することに。登れるスプリンターのサガンを有利にするために、登れないスプリンターたちをふるいにかけるキャノンデール。このプランは当初、中間スプリントポイントまでのものだった。しかしせっかくならそのままゴールまで行こうと、チームはさらに意欲的になった。
連日勝てない日が続いたサガン。フラストレーションは彼だけでなく、チーム全体にも広がっていたようだ。ゴール前で列車が組めないと批判されたことが、チームメイトにも火を点けた。カドリとフォイクト。上手くいくと思えた逃げはこのキャノンデールの動きで封じられることに。しかしカドリは山岳賞ジャージをピエール・ロラン(ユーロップカー)から奪うことに成功。ロランは残りポイントを取りに行くも、カドリのチームメイト、ロメン・バルデの機転に阻まれた。
中間スプリントを当然のように1位通過したサガン。次なる目標はゴールスプリントだ。マイヨジョーヌ奪還を狙うヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード)のアタックを皮切りに、シリル・ゴティエ(フランス、ユーロップカー)とフアンホセ・オロス(スペイン、エウスカルテル)の3人の逃げはマイヨジョーヌを守りたいオリカ・グリーンエッジが追走を見せた。
スピードが落ちないサガン&マイヨジョーヌ集団に、後続のロット、オメガファーマは43km地点で脚をゆるめ、ついに追走を諦めた。ゴールスプリントまでアシストに残ったファビオ・サバティーニ(イタリア)に牽かれ、早めに仕掛けたデゲンコルブの後輪に飛びつき、余裕をもってゴールを制したサガン。チームからのフルサポートの仕事に勝利で報いる完璧な一日に仕上げた。
ゴールシーンでは期待された奇抜なポーズはなく、胸のキャノンデールのチームロゴを示しながらの「お行儀の良い」フィニッシュ。サガンは言う「これは自分の勝利ではなくて、チーム全員の勝利。チームなしでは勝てなかった。これは彼らの勝利なんだ。だから勝利のポーズはそのことを示したかったんだ」。
今年のツールはサガン向きのステージが序盤から多くあるはずだったが、第1ステージの怪我の影響が残り、勝利はここまで待たなければならなかった。面白いポーズを待った人には期待はずれだったが、不調とプレッシャーから開放してくれたチームメイトたちに感謝の意を表すには優等生的なポーズだった。
「ゴールのポーズは面白いものを用意しているけど、何をするかは事前には言わないからお楽しみに」ー コルシカでの開幕前記者会見でのサガンの言葉が思い返される。ツール初勝利をクリアして、ポイントもフルに獲得。2位のグライペルに94点差をつけて余裕のポジションについた今、これから勝利するたびのフィニッシュポーズに期待しよう!
兄の処遇に怒るアンディ チーム離脱を示唆
レディオシャック・レオパードが謹慎処分明けのフランク・シュレクとの再契約を行わないと前日に発表したことで、弟アンディにもメディアが集中している。
アンディは隠れることなく、むしろ積極的にマイクの前に立ち質問に答え、意志を表明している。「11ヶ月に及ぶ彼へのサポートの後、チームから追い出す決定をしたことがただ理解できない。この決定の裏にはきっと何かがある。ドーピングの一件に対する処置ということだけではないはずだ」とアンディは話す。
もっともチームはフランクの陽性発覚以来、彼への継続的なサポートを表明していた。それが今回、突然の解雇通知ともとれる発表。チーム側は「決定は熟考と内部規定によるもの」としているが、新しいチームの体制を構築中の今、チーム都合を優先させた感は否めない。
トレックがライセンスを引続ぐ次期チームは、まずファビアン・カンチェラーラと契約したことで春のクラシックに向けた体制づくりをする。カンチェラーラの目標達成とその周辺に予算の多くを使うことは確かだ。
そしてオーナーがルクセンブルクの資産家フラヴィオ・ベッカ氏の手を離れてトレックに移ることでルクセンブルクカラーは薄くなり、アメリカンカラーは強まる。あとはセカンドスポンサーの意向次第でメンバー構成にも影響があるとみられる。
ライセンス引継ぎ時には「ほとんどのメンバーは残留する方向だ」と発表されたが、兄と仲のいいアンディが今まで他のチームに所属したことはない。
チームバスの前でのインタビューが続く。アンディの少し離れた場所ではキム・アンデルセン監督が別の取材に答えている異様な状況だ。
「チームはここまでぼくのツールの準備をフルサポートしてくれたんだ。でも、兄と一緒に僕も追い出したいんだろうね」。そんな言葉もアンディからでている。
ツール100回記念大会のレースの真っ最中だというのに。
photo&text:Makoto.AYANO
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