2013/05/31(金) - 08:14
イタリアのロードバイクシーンを語る上で外すことのできない2つのブランド、「デローザ」と「カンパニョーロ」。両社の深い関係から生み出されたバイクが今回インプレッションを行う電子式コンポーネントEPS専用バイク「SUPERKING E」だ。早速、イタリアの二代巨頭が奏でるハーモニーを味わってみよう。
デローザとカンパニョーロが出会ったのは1960年代のこと。レースの現場でフレームビルダーの傍らメカニックとして懸命に働くデローザ創業者のウーゴの姿に、カンパニョーロ社が目を付けたことから現在まで続くパートナーシップが始まった。当時、ウーゴは駆け出しのフレームビルダーだったのにも関わらず、その真摯な仕事ぶりで信頼を得て、カンパニョーロからパーツや製品情報の提供を受け、自らの「作品」を進化させていった。
このパートナーシップの恩恵を受けた選手は数知ず、エディ・メルクスや1997年のジロの覇者エフゲニー・ベリツィン、ステファノ・ガルゼッリ、2000年世界選手権覇者ロマンス・ヴァインシュタインス、アレッサンドロ・ペタッキなどそうそうたる面々が顔を揃える。そして、現在は日本とつながりが強いチームNIPPO・デローザに、デローザ×カンパニョーロのセットで機材が供給され、先のツアー・オブ・ジャパンでは総合優勝と新人賞を勝ち取っている。
2013年、半世紀に及ぶデローザとカンパニョーロのコラボレーションは新たな世代を迎える。その主役となるのはカンパニョーロが長年の開発の末に完成させた電子式コンポーネント「EPS」。様々なメーカーがEPS対応と謳うフレームを発表するなか、デローザはEPSの心臓部分であるパワーユニットをダウンチューブに内蔵するという、高難度の設計を打ち出した。
ダウンチューブは人間の骨で例えると「背骨」にあたる部分と言える。その重要な部分にパワーユニットの入り口を設けた場合、レースに使用できる剛性や強度を確保することが難しいことは想像に難くない。しかし、デローザはEPSのプロジェクトマネージャーであるフラビオ・クラッコ氏の全面協力のもと、デローザが持つ様々な技術を駆使して、パワーユニットを内蔵出来る美しいフレーム「SUPERKING E」の開発・製造に成功した。
SUPERKING EはプロトスやキングRSと共にデローザのハイエンドラインナップの一角をなすモデル。コンポーネントはカンパニョーロEPSにのみ対応しており、ダウンチューブの表側にはパワーユニットをフレームから取り出すことなく充電するためのジャック、裏側にはパワーユニットの入口が設けられていることが特徴だ。では、SUPERKING Eに使用されたテクノロジーについて解説していこう。
まずはマテリアルとなるカーボン。3種類の弾性率の異なるカーボンを使用し、パワーユニットの内臓場所近辺など、より大きなストレスがかかる箇所に合成した高弾性カーボンファイバーを用いて補強。加えて、樹脂に直径50~200ナノメートルの粒子(コアシェルポリマー)を添加することにより、振動を減衰させる技術「Harmonic Active Damping」を取り入れている。
フレームの形状はその美しさとユニークな塗装が話題を呼んだ先代モデル「アイドル」のデザインを引き継いでいる。トラディショナルながら、美しく、ボトルの取り易さなど実用面でも多くの利点を有するホリゾンタルを採用。曲線を多用したダウンチューブは、高い剛性を確保できる多角形断面ながら、エッジを感じさせない滑らかな形状になっている。
トップチューブやシートステー、チェーンステーは断面を変化させながら剛性と乗り心地の両立に貢献している。また、各部のシャープさ、特にピンヒールのようなシートステーの細さはフレームの美しさをより際立たせることに貢献。加えて、シートピラーの固定を内蔵のウスを用いる方式にしたことで、さらにスッキリとした造形になっている。
ヘッド回りは下側1-1/2インチのベアリングを備える上下異型テーパーヘッドチューブになっているが、HADテクノロジーを搭載したストレートフォークと一体設計のスムーズな形状になっており、翼断面のシートチューブと合わせて空気抵抗を減少させる設計がなされている。ボトムブラケットはカンパニョーロのクランクを装着する際に、アダプターがフレームから大きくはみ出さないBB86を採用している。
SUPERKING Eはフレームセットの販売となる。カラーはマットブラックのみで、サイズは46~54cmまで2cm刻みの5種類。価格は299,250円(税込)で、カンパニョーロSUPER RECORD EPSとBORA ULTRA TWOをアッセンブルした完成車の参考価格は1,270,500円(税込)となる。
また、機械式コンポーネントに対応した“SUPERKING SR”と“SUPERKING R”もラインナップ。
「なぜホリゾンタルなのか、なぜバッテリー内蔵なのか?」そう質したところ、クリスティアーノ・デローザ氏(ウーゴ直系の息子で、同社の広報担当)は次のように答えた。
「なぜなら美しいからです。ケーブルやバッテリー、シートを留めるクランプまでデザインしたかった。スーパーキングは我が社と特別な関係をもつカンパニョーロ社とともに創りあげた、イタリアのプライドの結晶のようなものなのです」。
さて、デローザとカンパニョーロの協奏曲を、テストライダー両氏はどう判断するのだろうか。さっそくインプレッションをお届けしよう。なお、インプレッションはカンパニョーロRECORD EPSとバレットULTRAをアッセンブルして行った。
ーインプレッション
「レースからロングライドまで何でもこなせる不思議なバイク」品川真寛(YOU CAN)
快適性と剛性のバランスが絶妙で、レースからロングライドまで何でもこなせる不思議なバイクと言うのがスーパーキングの第一印象です。
乗り始めは同社のR838と似たようなマイルドさや乗り心地の良さを感じましたが、いざ踏み始めると踏んだ分だけスッと進んでくれることに、印象がガラッと変わりました。ここまで乗り心地が良くて、かつ入力を逃がさない、しっかりしたフレームは初めての体験です。さらに、フロント回りの剛性感が絶妙だったので、下りも安心して攻めることが出来ました。
まず勢いよくもがいてみたのですが、自分の足では使いきれないくらいの剛性感があって、パワーをスポイルすること無く路面へ伝えてくれる印象がありました。これはBB周りの高い剛性感と細いシートステーの振動吸収性がうまくかみ合っているからだと予想します。荒れた路面でもがいても、入力の9割は路面にパワーを伝えているのではないかと思うくらいトラクションも抜群です。そして、50km/hからの加速でも問題なく反応してくれました。
最も驚いた点は、路面が悪いところであえてギアを掛けて踏んだ時に、しっかりと加速してくれたことです。個人的にはこのような性格のバイクが好きなので、すごくいい印象を受けました。また、荒れた路面の上りなど、フロントにトラクションがかかりにくい場面でのダッシュも、非常にかかりが良いです。これは、うまく振動を逃がして跳ねないようにしているからでしょう。それでいて後輪もスリップせず、常にトラクションがかかっているので、まるで高性能のサスペンションが付いているかのような錯覚を覚えました。
今回の試乗車にアッセンブルされていたカンパニョーロ・バレットは平地に向いた重量のあるホイールなので、上りではあまり期待をしていませんでした。しかし、このフレームとの組み合わせではものすごく良く、オールマイティーに使うことができると思います。また、上りの厳しい場合には同じくカンパニョーロのユーラスやハイペロンのような軽量ホイールをアッセンブルして、加速性能をさらに生かすと面白いのではないでしょうか。
短時間の試乗ではこれといった欠点を感じることはありませんでしたが、強いて言えばダンシングの時に感じた僅かな振りずらさでしょうか。縦剛性が少し強いせいか、自転車が前へ前へ進んで行く力が強いことが原因かと思います。ポジティブにとらえると直進安定性が強いということでしょう。ただ、3日も乗れば馴染むと思うので、全く問題視する必要はないと思います。
このバイクはまさしく万人におススメできますね。デローザのラインナップの中では上から3番目ということですが、逆にこのくらいのグレードのほうが、フレームの肉厚がしっかりしているので安心で乗りやすいのかも知れません。20km/hぐらいでのポタリングから、普段のサイクリング、Jプロツアーのようなトップレースまで、どんな乗り方も出来るフレームです。レースで使うのであれば200km以上の長いレース、同様にロングライドに関しても、より長い距離や荒れた石畳が出てくるようなイベントでの使用がおススメですね。
「カーボンフレームの新しい時代を感じるバイク」山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)
個人的には、デローザと言えばガチガチにレーシーなイメージを持っていましたが、素材や剛性をしっかりコントロールしたことで、とても乗りやすいバイクに仕上げたな、というのが第一印象です。
ただ軽い・硬いだけではダメな時代にあって、カーボンフレームの新しい時代を感じました。また、入門グレードにはない上質な乗り味も魅力ですね。乗り心地や踏みこんだ時の掛り、軽さのどれをとってもネガティブな要素は感じませんでした。
乗り心地はスチールフレームをベースに、バネ感を残しながら重量を軽くした印象。スチールフレームが全盛だったころから乗っている人でも違和感なく乗れるはずです。時代や素材が変わっても、デローザが考えるレースマシーンの基本はスチールが全盛のころから変わっていないんだな、と感じました。
冒頭で「新しい時代を感じた」と述べましたが、昔からレースの現場で製品開発しているメーカーは、素材が変わっても形状が変わっても、目指している所にブレがないですね。これは、昔からロードレーサーに求められる性能が一貫して変わらないからでしょう。
素材の問題で軽さと剛性の犠牲になっていた乗り心地が良くなっているので、長距離を走った後でも結果的に速く走れるのではないかと思います。様々な性能をバランスよく高い次元で実現出来るようになったのは、ここ1、2年のことではないでしょうか。
入門グレードと比べて形状に特徴があるわけではないですし、ボリュームもあまり変わらない。だけど、実際に乗ると一段も二段も軽い印象を受けました。これは、高弾性の素材をむやみに使うだけではなくて、必要な所は硬く、必要な所はしならせることが出来ているからだと考えます。カーボンの積層数や、積層するカーボンの種類の組み合わせかた、方向などの特性に対するノウハウも蓄積されてきたからではないでしょうか。
また、フレームを見て、特に気になったのはシートステーの細さやその複雑な形状ですね。乗り心地の良さには貢献しながらも、力が逃げるような軟らかさではありませんでした。これは、コンピュータによる解析の賜物で、今まで行われてきた、目的とする乗り味にするための素材と形状の組み合わせの研究がようやく結実してきたのではないかと予想します。
重量のある平地向けなホイールがアッセンブルされているにも関わらず、上りではそのことを忘れてしまうくらい軽い印象を受けました。シッティングでもダンシングでも、軽いギアで回しても、ギアをかけても踏んでも、どんな乗り方にも対応してくれます。サイズの問題で多少腰高に感じましたが、それ故にダンシングが振りやすかったのかも知れません。
全体的にバランスがとれていますが、唯一、高負荷を与えた時のフォークのねじれだけが気になりました。一定のリズムで刻んでいる時は問題ないものの、体重を掛けるようなダンシングをした際にハブ軸とヘッドの間で若干のねじれが起こって、ブレードの中心が少しだけ縦横にねじれる様な感じがありました。これは平地でも同様の感覚がありましたね。
シッティングからダンシングに移る瞬間や、コーナーでハンドルをきった瞬間、コーナーが連続するような峠の下りでワンテンポ遅れて反応してしまう点があるかもしれません。とはいえ、バイク全体の評価が変わるほどの癖ではなく、他のバイクと比較した時にわずかに感じる程度の癖ですから、慣れてしまえば問題はないでしょう。
フォークが柔らかい分だけ、振動吸収性やトラクションに関してはとても良好な感触でした。これはフォークの形状による効果だと思います。路面が悪い場所ではフォークが横にこじれず、「フロントセンターが縮まっているのではないか」と思うくらい、縦方向だけに動いてくれる印象がありました。
予算があるのであれば、デローザの名前だけで買ったとしても十分に満足できるバイクだと思います。エントリーユーザーから本来このバイクがターゲットとするシリアスなレーサーまで、誰が乗っても乗りやすいバイクだと感じるはずです。ただ、カンパニョーロの電子式コンポーネントEPS専用なので、見栄えがよくなる反面、トラブルが出た時に対処しずらい点が出てくる可能性も否めません。この点には少し留意が必要かもしれませんね。
デローザ SUPERKING E
サイズ:46、48、50、52、54
カラー:マットブラック
BB規格:BB86
フレーム価格:299,250円(本体価格)
インプレライダーのプロフィール
品川真寛(YOU CAN)
2003年に日本鋪道よりプロデビュー。2005年からシマノ・メモリーコープに移籍し、ヨーロッパに活躍の舞台を移す。パリ~ルーベやヘント〜ウェヴェルヘムをはじめ春のクラシックレースに多数出場。2008年から愛三工業レーシングに移籍。アジアのレースで入賞歴多数を誇る。2012年限りで引退し、現在はYOU CAN大磯店にて勤務する。愛称は「しなしな」。
YOU CAN
山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)
神奈川県厚木市に1996年にオープンしたロード系プロショップ、スポーツバイスクル・スキップの店主。脚質はスプリンターで、過去にいわきクリテリウムBR-2で優勝した経験を持つ。走り系ショップとして有名だが、クラブ員と一緒にグルメツーリングを行うなど、「自転車で走る楽しみ」も同時に追求している。
スポーツバイスクル スキップ
ウェア協力:VALETTE(バレット)
text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
デローザとカンパニョーロが出会ったのは1960年代のこと。レースの現場でフレームビルダーの傍らメカニックとして懸命に働くデローザ創業者のウーゴの姿に、カンパニョーロ社が目を付けたことから現在まで続くパートナーシップが始まった。当時、ウーゴは駆け出しのフレームビルダーだったのにも関わらず、その真摯な仕事ぶりで信頼を得て、カンパニョーロからパーツや製品情報の提供を受け、自らの「作品」を進化させていった。
このパートナーシップの恩恵を受けた選手は数知ず、エディ・メルクスや1997年のジロの覇者エフゲニー・ベリツィン、ステファノ・ガルゼッリ、2000年世界選手権覇者ロマンス・ヴァインシュタインス、アレッサンドロ・ペタッキなどそうそうたる面々が顔を揃える。そして、現在は日本とつながりが強いチームNIPPO・デローザに、デローザ×カンパニョーロのセットで機材が供給され、先のツアー・オブ・ジャパンでは総合優勝と新人賞を勝ち取っている。
2013年、半世紀に及ぶデローザとカンパニョーロのコラボレーションは新たな世代を迎える。その主役となるのはカンパニョーロが長年の開発の末に完成させた電子式コンポーネント「EPS」。様々なメーカーがEPS対応と謳うフレームを発表するなか、デローザはEPSの心臓部分であるパワーユニットをダウンチューブに内蔵するという、高難度の設計を打ち出した。
ダウンチューブは人間の骨で例えると「背骨」にあたる部分と言える。その重要な部分にパワーユニットの入り口を設けた場合、レースに使用できる剛性や強度を確保することが難しいことは想像に難くない。しかし、デローザはEPSのプロジェクトマネージャーであるフラビオ・クラッコ氏の全面協力のもと、デローザが持つ様々な技術を駆使して、パワーユニットを内蔵出来る美しいフレーム「SUPERKING E」の開発・製造に成功した。
SUPERKING EはプロトスやキングRSと共にデローザのハイエンドラインナップの一角をなすモデル。コンポーネントはカンパニョーロEPSにのみ対応しており、ダウンチューブの表側にはパワーユニットをフレームから取り出すことなく充電するためのジャック、裏側にはパワーユニットの入口が設けられていることが特徴だ。では、SUPERKING Eに使用されたテクノロジーについて解説していこう。
まずはマテリアルとなるカーボン。3種類の弾性率の異なるカーボンを使用し、パワーユニットの内臓場所近辺など、より大きなストレスがかかる箇所に合成した高弾性カーボンファイバーを用いて補強。加えて、樹脂に直径50~200ナノメートルの粒子(コアシェルポリマー)を添加することにより、振動を減衰させる技術「Harmonic Active Damping」を取り入れている。
フレームの形状はその美しさとユニークな塗装が話題を呼んだ先代モデル「アイドル」のデザインを引き継いでいる。トラディショナルながら、美しく、ボトルの取り易さなど実用面でも多くの利点を有するホリゾンタルを採用。曲線を多用したダウンチューブは、高い剛性を確保できる多角形断面ながら、エッジを感じさせない滑らかな形状になっている。
トップチューブやシートステー、チェーンステーは断面を変化させながら剛性と乗り心地の両立に貢献している。また、各部のシャープさ、特にピンヒールのようなシートステーの細さはフレームの美しさをより際立たせることに貢献。加えて、シートピラーの固定を内蔵のウスを用いる方式にしたことで、さらにスッキリとした造形になっている。
ヘッド回りは下側1-1/2インチのベアリングを備える上下異型テーパーヘッドチューブになっているが、HADテクノロジーを搭載したストレートフォークと一体設計のスムーズな形状になっており、翼断面のシートチューブと合わせて空気抵抗を減少させる設計がなされている。ボトムブラケットはカンパニョーロのクランクを装着する際に、アダプターがフレームから大きくはみ出さないBB86を採用している。
SUPERKING Eはフレームセットの販売となる。カラーはマットブラックのみで、サイズは46~54cmまで2cm刻みの5種類。価格は299,250円(税込)で、カンパニョーロSUPER RECORD EPSとBORA ULTRA TWOをアッセンブルした完成車の参考価格は1,270,500円(税込)となる。
また、機械式コンポーネントに対応した“SUPERKING SR”と“SUPERKING R”もラインナップ。
「なぜホリゾンタルなのか、なぜバッテリー内蔵なのか?」そう質したところ、クリスティアーノ・デローザ氏(ウーゴ直系の息子で、同社の広報担当)は次のように答えた。
「なぜなら美しいからです。ケーブルやバッテリー、シートを留めるクランプまでデザインしたかった。スーパーキングは我が社と特別な関係をもつカンパニョーロ社とともに創りあげた、イタリアのプライドの結晶のようなものなのです」。
さて、デローザとカンパニョーロの協奏曲を、テストライダー両氏はどう判断するのだろうか。さっそくインプレッションをお届けしよう。なお、インプレッションはカンパニョーロRECORD EPSとバレットULTRAをアッセンブルして行った。
ーインプレッション
「レースからロングライドまで何でもこなせる不思議なバイク」品川真寛(YOU CAN)
快適性と剛性のバランスが絶妙で、レースからロングライドまで何でもこなせる不思議なバイクと言うのがスーパーキングの第一印象です。
乗り始めは同社のR838と似たようなマイルドさや乗り心地の良さを感じましたが、いざ踏み始めると踏んだ分だけスッと進んでくれることに、印象がガラッと変わりました。ここまで乗り心地が良くて、かつ入力を逃がさない、しっかりしたフレームは初めての体験です。さらに、フロント回りの剛性感が絶妙だったので、下りも安心して攻めることが出来ました。
まず勢いよくもがいてみたのですが、自分の足では使いきれないくらいの剛性感があって、パワーをスポイルすること無く路面へ伝えてくれる印象がありました。これはBB周りの高い剛性感と細いシートステーの振動吸収性がうまくかみ合っているからだと予想します。荒れた路面でもがいても、入力の9割は路面にパワーを伝えているのではないかと思うくらいトラクションも抜群です。そして、50km/hからの加速でも問題なく反応してくれました。
最も驚いた点は、路面が悪いところであえてギアを掛けて踏んだ時に、しっかりと加速してくれたことです。個人的にはこのような性格のバイクが好きなので、すごくいい印象を受けました。また、荒れた路面の上りなど、フロントにトラクションがかかりにくい場面でのダッシュも、非常にかかりが良いです。これは、うまく振動を逃がして跳ねないようにしているからでしょう。それでいて後輪もスリップせず、常にトラクションがかかっているので、まるで高性能のサスペンションが付いているかのような錯覚を覚えました。
今回の試乗車にアッセンブルされていたカンパニョーロ・バレットは平地に向いた重量のあるホイールなので、上りではあまり期待をしていませんでした。しかし、このフレームとの組み合わせではものすごく良く、オールマイティーに使うことができると思います。また、上りの厳しい場合には同じくカンパニョーロのユーラスやハイペロンのような軽量ホイールをアッセンブルして、加速性能をさらに生かすと面白いのではないでしょうか。
短時間の試乗ではこれといった欠点を感じることはありませんでしたが、強いて言えばダンシングの時に感じた僅かな振りずらさでしょうか。縦剛性が少し強いせいか、自転車が前へ前へ進んで行く力が強いことが原因かと思います。ポジティブにとらえると直進安定性が強いということでしょう。ただ、3日も乗れば馴染むと思うので、全く問題視する必要はないと思います。
このバイクはまさしく万人におススメできますね。デローザのラインナップの中では上から3番目ということですが、逆にこのくらいのグレードのほうが、フレームの肉厚がしっかりしているので安心で乗りやすいのかも知れません。20km/hぐらいでのポタリングから、普段のサイクリング、Jプロツアーのようなトップレースまで、どんな乗り方も出来るフレームです。レースで使うのであれば200km以上の長いレース、同様にロングライドに関しても、より長い距離や荒れた石畳が出てくるようなイベントでの使用がおススメですね。
「カーボンフレームの新しい時代を感じるバイク」山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)
個人的には、デローザと言えばガチガチにレーシーなイメージを持っていましたが、素材や剛性をしっかりコントロールしたことで、とても乗りやすいバイクに仕上げたな、というのが第一印象です。
ただ軽い・硬いだけではダメな時代にあって、カーボンフレームの新しい時代を感じました。また、入門グレードにはない上質な乗り味も魅力ですね。乗り心地や踏みこんだ時の掛り、軽さのどれをとってもネガティブな要素は感じませんでした。
乗り心地はスチールフレームをベースに、バネ感を残しながら重量を軽くした印象。スチールフレームが全盛だったころから乗っている人でも違和感なく乗れるはずです。時代や素材が変わっても、デローザが考えるレースマシーンの基本はスチールが全盛のころから変わっていないんだな、と感じました。
冒頭で「新しい時代を感じた」と述べましたが、昔からレースの現場で製品開発しているメーカーは、素材が変わっても形状が変わっても、目指している所にブレがないですね。これは、昔からロードレーサーに求められる性能が一貫して変わらないからでしょう。
素材の問題で軽さと剛性の犠牲になっていた乗り心地が良くなっているので、長距離を走った後でも結果的に速く走れるのではないかと思います。様々な性能をバランスよく高い次元で実現出来るようになったのは、ここ1、2年のことではないでしょうか。
入門グレードと比べて形状に特徴があるわけではないですし、ボリュームもあまり変わらない。だけど、実際に乗ると一段も二段も軽い印象を受けました。これは、高弾性の素材をむやみに使うだけではなくて、必要な所は硬く、必要な所はしならせることが出来ているからだと考えます。カーボンの積層数や、積層するカーボンの種類の組み合わせかた、方向などの特性に対するノウハウも蓄積されてきたからではないでしょうか。
また、フレームを見て、特に気になったのはシートステーの細さやその複雑な形状ですね。乗り心地の良さには貢献しながらも、力が逃げるような軟らかさではありませんでした。これは、コンピュータによる解析の賜物で、今まで行われてきた、目的とする乗り味にするための素材と形状の組み合わせの研究がようやく結実してきたのではないかと予想します。
重量のある平地向けなホイールがアッセンブルされているにも関わらず、上りではそのことを忘れてしまうくらい軽い印象を受けました。シッティングでもダンシングでも、軽いギアで回しても、ギアをかけても踏んでも、どんな乗り方にも対応してくれます。サイズの問題で多少腰高に感じましたが、それ故にダンシングが振りやすかったのかも知れません。
全体的にバランスがとれていますが、唯一、高負荷を与えた時のフォークのねじれだけが気になりました。一定のリズムで刻んでいる時は問題ないものの、体重を掛けるようなダンシングをした際にハブ軸とヘッドの間で若干のねじれが起こって、ブレードの中心が少しだけ縦横にねじれる様な感じがありました。これは平地でも同様の感覚がありましたね。
シッティングからダンシングに移る瞬間や、コーナーでハンドルをきった瞬間、コーナーが連続するような峠の下りでワンテンポ遅れて反応してしまう点があるかもしれません。とはいえ、バイク全体の評価が変わるほどの癖ではなく、他のバイクと比較した時にわずかに感じる程度の癖ですから、慣れてしまえば問題はないでしょう。
フォークが柔らかい分だけ、振動吸収性やトラクションに関してはとても良好な感触でした。これはフォークの形状による効果だと思います。路面が悪い場所ではフォークが横にこじれず、「フロントセンターが縮まっているのではないか」と思うくらい、縦方向だけに動いてくれる印象がありました。
予算があるのであれば、デローザの名前だけで買ったとしても十分に満足できるバイクだと思います。エントリーユーザーから本来このバイクがターゲットとするシリアスなレーサーまで、誰が乗っても乗りやすいバイクだと感じるはずです。ただ、カンパニョーロの電子式コンポーネントEPS専用なので、見栄えがよくなる反面、トラブルが出た時に対処しずらい点が出てくる可能性も否めません。この点には少し留意が必要かもしれませんね。
デローザ SUPERKING E
サイズ:46、48、50、52、54
カラー:マットブラック
BB規格:BB86
フレーム価格:299,250円(本体価格)
インプレライダーのプロフィール
品川真寛(YOU CAN)
2003年に日本鋪道よりプロデビュー。2005年からシマノ・メモリーコープに移籍し、ヨーロッパに活躍の舞台を移す。パリ~ルーベやヘント〜ウェヴェルヘムをはじめ春のクラシックレースに多数出場。2008年から愛三工業レーシングに移籍。アジアのレースで入賞歴多数を誇る。2012年限りで引退し、現在はYOU CAN大磯店にて勤務する。愛称は「しなしな」。
YOU CAN
山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)
神奈川県厚木市に1996年にオープンしたロード系プロショップ、スポーツバイスクル・スキップの店主。脚質はスプリンターで、過去にいわきクリテリウムBR-2で優勝した経験を持つ。走り系ショップとして有名だが、クラブ員と一緒にグルメツーリングを行うなど、「自転車で走る楽しみ」も同時に追求している。
スポーツバイスクル スキップ
ウェア協力:VALETTE(バレット)
text:Yuya.Yamamoto
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