2013/02/04(月) - 13:37
直前になってエリート男子と女子のレースの開催日が、コースに隣接する川の水位の上昇から、予定よりも1日繰り上げられるという異例の措置がとられたシクロクロス世界選手権。日本ナショナルチームは、限られたスタッフながら最大限の対応をし、選手は無事に大きなトラブルなくレースを走りきることができた。
レース当日の朝、川の水位のほうが高く、コース内に入った水がポンプを使って外に出されている (C) Sonoko TANAKA
雪のなか洗車機のエンジンをかける日本ナショナルチームのスタッフたち (C) Sonoko TANAKA主催者の英断と、激務に追われた日本チーム
世界選手権の会場が浸水するかもしれない、という状況に、当然すべての関係者が驚いた。「どうして、そんな場所を会場に選んだのだろう?」と思わず言いたくなるが、これはあくまでも異常気象とも言える天候によるもので、開催日の変更に伴い、選手やチームスタッフだけでなく、テレビの放送枠や、観戦にやってくる観客たちなどにも大きな影響が生じるのは言うまでもないことであり、主催者たちにとって苦渋の選択だった。
レース会場にはUCI会長のパット・マックエイドもやってきた (C) Sonoko TANAKAその背景には、水位の上昇による川の氾濫が、“氾濫するかもしれない”というレベルではなく、現実的な差し迫ったものであった。レース当日の朝、会場に行くと川と接するエリアに水を堰き止めるバリアが作られていただけでなく、コース側から川へと水を戻す大きなポンプも稼働しており、じつのところ、土曜日だけでも安全にレースを開催することが大変だったのだ。
バイクに凍結防止のために不凍液を塗る (C) Sonoko TANAKA日本ナショナルチームにとって、1番の大きな問題となったのは、スタッフ、とくにメカニックの人手不足だった。今年は4カテゴリーすべてに出場選手がいて、コースはトラブルの多い泥のコンディション。かつ、選手たちはレース前にコンディションを確かめるために試走を行い、バイクは泥だらけになって戻ってくる。そして、チームエリアからピットは遠く、その行き来だけでも時間を要してしまう。そんな状況ながら、ナショナルチームのメカニックはわずか“2人”しかいなかったのだ。
前日の試走では、泥がバイクに付着して凍り付き、走れなくなるという状態で、洗車して調整して見ると、どのバイクも大きなダメージを受けていたと言う。つまり2人のメカニックは、1選手につき2台、合計14台ものバイクをしっかりと調整し直す必要があり、前日からレース当日にかけての仕事量の多さは想像を絶するものだった。
バイクの整備を行う石垣鉄也メカニック(東洋フレーム) (C) Sonoko TANAKAチーフメカニックの石垣鉄也氏は「してあげたいと思うことの60%くらいしかできなかったように感じている。選手には申し訳ない気持ち」と話す。
急遽、現地入りしていた日本人関係者に手伝いをお願いしたり、レースを終えた選手はホテルに戻らずに、スタッフの仕事を手伝うなどの措置をとり、厳しい状況ながら、ナショナルチームは一丸となって、無事にすべてのカテゴリーのレースを終えることができた。竹之内悠はレース後に「レース日程が変更になって、1日4種目あってスタッフの方がとても大変だったと思います。それでもいつもどおりレースをできる環境を整えてもらって感謝しています」と話した。
観客で埋め尽くされたアメリカでの世界選手権
どの選手にも温かい声援を送り続けたアメリカ人の観客たち (C) Sonoko TANAKA
いろんなコスチュームで観戦を楽しむアメリカのシクロクロスファン (C) Sonoko TANAKAアメリカでの開催、そしてレース日の変更ということで、集客を疑問視する声が聞かれていたが、蓋を開けてみると、思い思いのコスチュームに身を包んだアメリカ人ファンや、ヨーロッパから遥々やってきたコアなファンなどで、会場は大いに沸いた。
チームエリアに仮設のテントを作るベルギーナショナルチーム (C) Sonoko TANAKA入り組んだコンパクトなコースレイアウトのため、会場自体の面積はヨーロッパのものよりもやや小さい印象を受けたが、エリート男子の時間になると、場所によっては身動きができないほど、多くの観客が集まった。雪がちらつく天候も合わさり、フォトグラファーたちは会場の雰囲気を大絶賛し、私も鳥肌が立つような感覚を覚えた。シクロクロス人気がワールドワイドに広がっていることを実感する瞬間だった。
レース当日は未明から雪が降り始め、気温は0℃前後。最初の開催されたジュニアのレースでは雪の路面だったが、それが午後のエリート男子にかけて、しだいに融けて泥になっていった。コースの前評判では、とくに難しいセクションはなく、ジェットコースターのようなハイスピードコースになると言われていたが、この天候によりコースの難易度は増し、アメリカ人選手が有利という推測は覆り、過酷なレースを経験しているヨーロッパ人選手の活躍が目立つ結果となった。
今回、新しい試みであったアメリカでの世界選手権。ベルギーチームの監督ダニードゥビー氏は「アメリカでの世界選手権開催を、競技の普及という面からもポジティブに感じているよ。機材(バイク60台以上、ホイール140セット)を運ぶためにすごい金額がかかったけどね……」と話している。
2014年の世界選手権はオランダのホーガハイデ、2015年はチェコのタボール、2016年はベルギーのゾルダーでの開催が決まっている。どのサーキットも今シーズン、ワールドカップが開催され、世界選手権の開催実績もあるヨーロッパの定番サーキット。現状ではヨーロッパ外での開催は予定にないが、私個人的な意見としては、開催日の変更という前代未聞のトラブルもあったが、また世界選手権がヨーロッパ外で開催される日を楽しみに待ちたいと思う。
開催日変更にも関わらずコース横には大勢の観客が集まった (C) Sonoko TANAKA
photo & text : Sonoko Tanaka in Louisville, USA
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世界選手権の会場が浸水するかもしれない、という状況に、当然すべての関係者が驚いた。「どうして、そんな場所を会場に選んだのだろう?」と思わず言いたくなるが、これはあくまでも異常気象とも言える天候によるもので、開催日の変更に伴い、選手やチームスタッフだけでなく、テレビの放送枠や、観戦にやってくる観客たちなどにも大きな影響が生じるのは言うまでもないことであり、主催者たちにとって苦渋の選択だった。
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前日の試走では、泥がバイクに付着して凍り付き、走れなくなるという状態で、洗車して調整して見ると、どのバイクも大きなダメージを受けていたと言う。つまり2人のメカニックは、1選手につき2台、合計14台ものバイクをしっかりと調整し直す必要があり、前日からレース当日にかけての仕事量の多さは想像を絶するものだった。
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急遽、現地入りしていた日本人関係者に手伝いをお願いしたり、レースを終えた選手はホテルに戻らずに、スタッフの仕事を手伝うなどの措置をとり、厳しい状況ながら、ナショナルチームは一丸となって、無事にすべてのカテゴリーのレースを終えることができた。竹之内悠はレース後に「レース日程が変更になって、1日4種目あってスタッフの方がとても大変だったと思います。それでもいつもどおりレースをできる環境を整えてもらって感謝しています」と話した。
観客で埋め尽くされたアメリカでの世界選手権
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レース当日は未明から雪が降り始め、気温は0℃前後。最初の開催されたジュニアのレースでは雪の路面だったが、それが午後のエリート男子にかけて、しだいに融けて泥になっていった。コースの前評判では、とくに難しいセクションはなく、ジェットコースターのようなハイスピードコースになると言われていたが、この天候によりコースの難易度は増し、アメリカ人選手が有利という推測は覆り、過酷なレースを経験しているヨーロッパ人選手の活躍が目立つ結果となった。
今回、新しい試みであったアメリカでの世界選手権。ベルギーチームの監督ダニードゥビー氏は「アメリカでの世界選手権開催を、競技の普及という面からもポジティブに感じているよ。機材(バイク60台以上、ホイール140セット)を運ぶためにすごい金額がかかったけどね……」と話している。
2014年の世界選手権はオランダのホーガハイデ、2015年はチェコのタボール、2016年はベルギーのゾルダーでの開催が決まっている。どのサーキットも今シーズン、ワールドカップが開催され、世界選手権の開催実績もあるヨーロッパの定番サーキット。現状ではヨーロッパ外での開催は予定にないが、私個人的な意見としては、開催日の変更という前代未聞のトラブルもあったが、また世界選手権がヨーロッパ外で開催される日を楽しみに待ちたいと思う。
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photo & text : Sonoko Tanaka in Louisville, USA
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