2009/06/12(金) - 11:00
バッソとペッリツォッティのダブルエース体制
リクイガスはジロ制覇の熱い思いを胸に、水上都市ヴェネツィアに降り立った。当初からチームのオーダーは、2006年大会の覇者で出場停止処分明けのイヴァン・バッソ(イタリア)と前年度総合4位のフランコ・ペッリツォッティ(イタリア)の二枚看板。昨年海外勢に奪われたマリアローザを取り戻すべく、イタリアが最も注目を注いでいたのはバッソに違いない。
チーム力が問われる初日のチームタイムトライアルは、22チーム中8位というまずまずの成績でスタート。山岳での闘いに備えて平地のスピードマン抜きのチームとしては好成績だと言えるだろう。
やがてレースが山岳地帯へと移行すると、リクイガスが本領を発揮する。山岳アシストとして知られるシルヴェスタ・シュミット(ポーランド)の献身的な働きによりレースは動き、序盤戦最大の難所であるアルペ・ディ・シウージの頂上ゴールでバッソはステージ4位に食い込む。総合でも6位に順位を上げた。
賢者ペッリツォッティの躍進
ダブルエース体制に賛否両論あったのは確かだ。しかし監督や選手、スタッフに聞くと「状況を見ながらエースを決める。レースが進むに連れてそれはハッキリするだろう。とにかく総合を狙える選手が2人いることは、チームにとって大きな力になる」という自信にあふれた答えが返ってきた。バッソとペッリツォッティ。ともに31歳の2人の総合順位が逆転したのは、第12ステージのテクニカルなタイムトライアル。上りと下りしかない距離60kmオーバーの“時間との闘い”でペッリツォッティはステージ5位に入った。
一方ステージ11位と出遅れたバッソは、続く山岳ステージでリスクを背負ってアタックを連発。決定的なリードは奪えなかったが、バッソの攻撃により、ペッリツォッティは集団内で力を温存することになる。
大会5回目の頂上ゴールが設定されたブロックハウスで、名手シュミットが連れ出したのは「休息日明けのステージとしてはステージが短すぎた」と語るバッソではなく、総合4位のペッリツォッティ。ステージ優勝と総合順位ジャンプアップを狙うペッリツォッティは、追いすがるライバルを全て振るい落とし、そのまま霧に包まれる頂上まで猛進。ペッリツォッティは昨年のプラン・デ・コロネス山岳個人タイムトライアルに続く難関山岳制覇で、最終表彰台圏内の総合3位を射止めた。
終盤の山場で活きたダブルエース体制
総合争いが加熱する3週目は、各チームとも全力で残り少ないチャンスを狙って動いてくる。最後の難所ヴェスヴィオ頂上ゴールで、リクイガスのダブルエースは再び飛び立った。ステージ優勝を狙って真っ先にアタックを仕掛けたバッソは、元チームメイトのサストレに先行を許すと、自身の成績を棒に振ってまで後方のペッリツォッティを待った。バッソにアシストされたペッリツォッティは、ライバルからタイムを奪ってステージ2位でゴール。この日のバッソのアシストぶりをペッリツォッティは「イヴァンは真のチャンピオンとしての資質を見せてくれた」と賞賛。ダブルエース体制に対する批判をはね除け、力を合わせて総合3位の座を最後まで守り抜いた。
ペッリツォッティは総合3位に加えてポイント賞3位、山岳賞4位。ジロには過去7年間連続出場しており、総合トップ10でフィニッシュすること5回。7度目の挑戦で遂に表彰台に上った。その実力だけでなく真摯な態度や戦況を読む頭脳も評価され、イタリア国内のみならず、31歳にして世界的なグランツールレーサーとしての名声を手に入れた。
総合5位でローマにフィニッシュしたバッソ。しかしその名声が決して地に落ちたわけではない。むしろイタリア国内での評価は上がっている。総合優勝を諦め、後半の山岳ではペッリツォッティをアシストしながらステージ優勝を狙って何度もアタック。2年間のブランクも影響し、勝利には結びつかなかったが、これまで「バッソはアタックしない」という論評を打ち消すような積極的な走りが目立った。
ジロでのミッションを終えたリクイガスは、7月のツール・ド・フランスに向けて再び動き出す。ツールでは若きステージレーサーのロマン・クロイツィゲル(チェコ)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)をエースに立て、念願のマイヨジョーヌ獲得を目指す。リクイガスの闘いはまだまだ終わらない。