レーサーを駆り立てるS-WORKS Tarmac

これほど世界のトップレーサーを支えて勝利を重ね、速くなることを誓うホビーレーサーを駆り立てるマシンも他にないだろう。

イラン・ファンウィルデル(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が駆るS-WORKS Tarmac SL8 photo:So Isobe

スペシャライズドが誇る「Tarmac」は、先駆けであるS-WORKS E5 AEROTECH(2003年デビュー)や、同社初のフルカーボンフレームとなった初代モデルSL1(2006年デビュー)から現行のSL8まで、ただひたすらにずっと「速さ」を追い求めてきたピュアレースマシンだ。

Vengeのデビューと統合にディスクブレーキ化といった大きな変遷を遂げつつ足掛け18年。ツール・ド・フランスを筆頭にするグランツールの総合優勝とステージ優勝、幾多の世界選手権優勝、オリンピック金メダルに、歴史深いクラシックレースでの勝利の数々...。その中でも、スペシャライズドと相思相愛のパートナーシップを組み、輝かしい功績を重ねてきたチームがベルギーの常勝軍団、スーダル・クイックステップだ。

2020年、2021年の世界王者であるジュリアン・アラフィリップ(フランス) photo:CorVos
2022年、アラフィリップからのチーム内世界王者リレーに成功したレムコ・エヴェネプール(ベルギー) photo:CorVos


2024年、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)は圧巻の独走でパリ五輪を制覇。金メダリストに輝いた photo:CorVos

名将パトリック・ルフェーブル氏が采配を振るう「ウルフパック」は、スペシャライズドとタッグを組んだ初年度の2007年にパオロ・ベッティーニによって世界選手権を制覇。そこから時代が流れてもなお、Tarmac、そして2011年にデビューしたVengeを駆る狼たちは立て続けにビッグレースを制してきたし、SL7(2020年)でTarmacレースバイクの一本柱となってからもなお、ジュリアン・アラフィリップとレムコ・エヴェネプールによる世界選手権3連覇、そしてパリ五輪優勝を達成するなど、その勢いは留まるところを知らない。

シクロワイアードでは、スペシャライズド・ジャパン協力のもと、ジャパンカップのために来日したスーダル・クイックステップのメンバーにインタビューを行う機会に恵まれた。彼らはTarmacをどう感じ、どう評価しているのか?レースマシンが一本化されたこと、ツール・ド・フランスで新規投入されたロヴァールの軽量ホイールについて、そして開発中だという次世代タイヤについて、忌憚なく、興味深い意見を聞くことができた。

ジャパンカップに参戦したスーダル・クイックステップ。古賀志林道頂上地点にて photo:Makoto AYANO

ジャパンカップのクリテリウム前に話を聞いたのは、ともにベルギー出身のイヴ・ランパールトとイラン・ファンウィルデルという2人。屈強な石畳クラシックハンターとして名を上げベルギー王者経験も持つランパールトと、若くしてエヴェネプールの頼れる山岳アシストとして活躍するファンウィルデルは、良き先輩後輩というイメージそのものだった。

ランパールトと、ファンウィルデルに聞くTarmac SL8

「あらゆるレーシングバイクの中で最もオールマイティ」

イヴ・ランパールトとイラン・ファンウィルデル。トップ選手2人にTarmac SL8について話を聞いた photo:So Isobe

現チームでかれこれ10年、ジュニア時代まで含めれば12年もスペシャライズドのレースバイクに乗っているというランパールト。Tarmac SL8の印象を聞くと「良いバイクであることは当たり前だけど、SL8はSL7と比べて快適性が向上したように感じる。SL7は乗り味が硬かったから、SL8に乗り換えた時にいろいろな場面でメリットがあると分かった」という答えが返ってきた。

「Tarmacは今現在のオールラウンドバイクの中でベストチョイスの一つだと思う。山岳ステージの平坦区間では速いし、登りでは当然アドバンテージがある。もちろん最軽量というわけではないし、超エアロというわけでもないけれど、カバー領域が広くて万能なんだ。あらゆるレーシングバイクの中で最も武器になってくれる」。

イラン・ファンウィルデル(ベルギー)。2000年生まれの若手クライマー。ジャパンカップでは登坂力を武器に2位に入った photo:So Isobe

前方に突き出たヘッドチューブを除き、先代モデルSL7と瓜二つのフォルムを持つSL8だが、エアロ性能はSL7比で距離40kmの走行で16.6秒速く、15%軽く(フレーム重量685g)、重量剛性比を33%向上させ、縦方向の柔軟性も6%良くなった。つまりSL8は速く軽く効率的で、さらに快適。ジャパンカップで2位に入ったファンウィルデルは「僕がSL8に乗って最初に感じた違いはフロントの剛性。芯が通ったような乗り味になったので、SL7よりもずっと反応性が良くなった。ワイドなヘッドチューブと、よりエアロ化したハンドル(ロヴァール Rapide Cockpit)の空力も相まって速さに繋がっていると思う」と評価した。

「加えて言えば、ハンドリングも良くなったね。例えば、SL7はレース中にハンドルから手を離してジャケットを着るのが難しかったけれど、SL8はそういう状況でも体幹だけでバイクをコントロールすることが簡単になった。脚でダイレクトにバイクを操ることができるんだ。ストレスを除いて体力をセーブするとレースでは大きなメリットになる」と、傍に置いたレースバイクに目を落とす。

山岳から平坦、パヴェまでを範疇に収めるレーシングバイク

古賀志林道を登るファンウィルデル。「モデルチェンジによってTarmacの反応性はすごく向上した」と言う photo:Makoto AYANO

今年スーダル・クイックステップが挙げたシーズン通算勝利数は34勝(ナショナルチームで出場したエヴェネプールのパリ五輪制覇は未カウント)。これはUAEチームエミレーツとリドル・トレックに次いで勝利数ランキング3位に入る数字であり、その記録を見ると、平坦から山岳、クラシックレースまでありとあらゆる状況下で勝っていることが分かる。

SL7登場時にVengeが廃止され、Tarmacへと一本化されたことは人々に衝撃を与えたが、今シーズンは世界屈指のスプリンターであるティム・メルリール(ベルギー)がシーズン16勝(個人勝利数ランキング2位)をマークするなど、SL8は70km/hを超える超高速バトルでも一戦級のマシンであることが実証されている。

「Tarmacはベストバイな一台」と語るイヴ・ランパールト(ベルギー)。クラシックハンターとして名を馳せ、ベルギー国内王者も経験した photo:So Isobe

ファンウィルデルは1モデルで戦うことを評価する一人だ。「以前のチーム(チームDSM)ではエアロバイクとクライミングバイクを併用していたけれど、バイクをコロコロ変えるのが好きじゃない。僕はクライマーだからそこまでエアロ性能を求めないし、細部までポジションを煮詰めて乗車感覚を研ぎ澄ませる必要がある。だから一貫して1モデルに乗りたいんだ」とスペシャライズド開発陣の姿勢を評価する。

一方、意外にもランパールトは「あくまで個人的な意見だけど、プロレースではコースによってバイクを変える必要はあると思う」と2モデル体制の復活を望んでいた。「だってF1とWRCでは違うマシンを使うだろう?ロードレースはクルマで表現すれば、整ったサーキットコースも荒れたターマックラリーのようなコースも走る。だからSL8の他にスプリントバイクもあるともっと嬉しいね」とも。しかしSL8については先述の通り高く評価しており、「ティム(メルリール)がスプリントで16勝していることは揺るぎない事実。出力を出せるし、素晴らしいバイクだ」と、すでに1年半を共に戦った相棒を讃える。

「新型ホイールは加速が鋭い。僕らの意見を反映してくれた」

クリテリウム前にファンの声援に応えるスーダル・クイックステップ。数名が軽量ホイールを履いていることが分かる photo:Kei Tsuji

2人の話題はTarmacから離れ、ロヴァールのホイールやタイヤ、シマノのコンポーネントにも及んだ。

中でも話が弾んだのが「130g軽く、0.5W速い」を謳い文句に、今夏のツール・ド・フランスで投入されたスペシャルホイール「Rapide CLX II TEAM」だ。それは、カーボンレイアップはもちろん、ハブボディや塗装に至るまで緻密に設計され、ペア重量1,360gを達成するとともに、並外れた剛性と耐久性を兼ね備えたロヴァールの意欲作。2人は「間違いなく武器になるホイール」と口を揃える。

「見た目こそあまり変わらないけど、乗り味はすごく良くなっている。重量が軽いし、加速も良い。登りでも速くなっていることはもちろんだけど、鋭角で速度が落ちるコーナーを抜けてからの加速が速いんだ」とランパールト。ファンウィルデルも「"もっと軽いホイールが欲しい"という、僕らの意見をスペシャライズドが反映してくれた結果生まれたホイールだから嬉しいね。選手全員が使えるほど数がないけれど、本当に素晴らしいものだ」と、先輩の声に同調する。

スペシャライズドのテストライダーを務めるカスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)。彼の声が製品開発に強く生かされていると言う photo:CorVos

スペシャライズドにとって、プロチームは単にブランドのイメージアップを狙うものではなく、いつだって、ともに高みを目指すパートナーだ。初代Tarmacを駆ったベッティーニやボーネンも、歴代Tarmacの性能向上に貢献してきたし、現在ではスーダルのTTスペシャリストとして知られるカスパー・アスグリーン(デンマーク)が、持ち前の深い機材ノウハウを生かしてメインテストライダーを務めている。

「チームは一年を通してスペシャライズドと密接にコミュニケーションを取っているし、開発陣は僕らの意見に耳を傾けてくれている。このホイールはその証拠だね。それに、ここ最近は新型タイヤのテストも行ったんだ」とランパールト。詳細は彼ら自身も分からないと言うが、28〜30Cのチューブレスタイヤをベルギーのパヴェで試し、その感想を伝えたとのこと。極めて完成度が高いタイヤだったとのことで、今後のリリースが楽しみでならない。
ライダーファーストで、いつの時代もプロアマ問わずレーサーから広く支持されるTarmac SL8と、スペシャライズドが誇るコンポーネントたち。「すべてを制する一台」「世界最速のレースバイク」という謳い文句に違わぬ、「Made In Racing」を貫くピュアレーシングマシンだ。

S-WORKS TARMAC SL8

S-Works Tarmac SL8 Shimano Dura-Ace Di2 (c)スペシャライズド

DURA-ACE DI2完成車RED AXS完成車フレームセット
フレームS-Works Tarmac SL8 FACT 12r Carbon, Rider First Engineered™, Win Tunnel Engineered, Clean Routing, Threaded BB, 12x142mm thru-axle, flat-mount disc
フォークS-Works FACT 12r Carbon, 12x100mm thru-axle, flat-mount disc
ハンドルバーRoval Rapide Cockpit, Integrated Bar/Stem-
バーテープSupacaz Super Sticky Kush-
サドルS-Works Power, carbon fiber rails, carbon fiber baseS-Works Power with Mirror-
シートポストS-Works Tarmac SL8 Carbon seat post, FACT Carbon, 15mm offset
ブレーキShimano Dura-Ace R9270, hydraulic discNEW SRAM RED AXS, hydraulic disc-
ディレイラーShimano Dura-Ace R9250NEW SRAM RED AXS, 12-speed-
スプロケットShimano Dura-Ace, 12-speed, 11-30tNEW SRAM RED XG-1290, 12-speed, 10-33t-
クランクセットShimano Dura-Ace R9200 with 4iiii Precision 3+ Pro dual-sided powermeterNEW SRAM RED AXS Power Meter-
チェーンリング52/36T48/35T-
ホイールRoval Rapide CLX II, (フロントリムハイト)51mm,(リアリムハイト)61mm-
タイヤS-Works Turbo Rapidair 2BR, 700x26mm-
重量6.62kg6.66 kg1.37kg
税込価格1,793,000円1,793,000円792,000円

TARMAC SL8

Tarmac SL8 Pro SRAM Force eTap AXS (c)スペシャライズド

PROPROEXPERTフレームセット
フレームTarmac SL8 FACT 10r Carbon, Rider First Engineered™, Win Tunnel Engineered, Clean Routing, Threaded BB, 12x142mm thru-axle, flat-mount disc
フォークFACT 10r Carbon, 12x100mm thru-axle, flat-mount disc
ハンドルバーRoval Rapide Cockpit, Integrated Bar/StemRoval Rapide Handlebar, carbonSpecialized Expert Shallow Drop, alloy, 125mm drop x 75mm reach-
ステム同上Tarmac integrated stem, 6-degreeTarmac integrated stem, 6-degree
バーテープSupacaz Super Sticky Kush-
サドルPower Pro with MirrorPower Pro, hollow titanium railsPower Expert-
シートポストS-Works Tarmac SL8 Carbon seat post, FACT Carbon, 15mm offset
ブレーキShimano Ultegra Di2 R8170, hydraulic discSRAM Force eTAP AXS, hydraulic discShimano Ultegra Di2 R8170, hydraulic disc-
ディレイラーShimano Ultegra Di2 R8150, 12-speedSRAM Force eTAP AXS, 12-speedShimano Ultegra Di2 R8150, 12-speed-
スプロケットShimano Ultegra, 12-speed, 11-30tSRAM Force, 12-speed, 10-33tShimano Ultegra, 12-speed, 11-30t-
クランクセットShimano Ultegra R8100 with 4iiii power meterSRAM Force DUB, Power MeterShimano Ultegra R8100-
チェーンリング52/36T48/35T52/36T-
ホイールRoval Rapide CL IIRoval C38, 21mm internal width carbon rim-
タイヤS-Works Turbo, 2BR, 700x26mmS-Works Turbo, folding bead, 700x26mm-
重量7.16 kg-7.20kg1.71kg
税込価格1,133,000円1,045,000円825,000円495,000円
text:So Isobe
提供:スペシャライズド・ジャパン