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スラムがリリースした話題の新型RED AXSをインプレッション。大変化を遂げたレバー/ブラケット形状に、恐ろしいほどチューニングされたブレーキフィール。先代RED eTap AXS、そしてForce eTap AXSを所有するCWスタッフが愛をもって最新の「エフォートレス」コンポーネントを語り尽くす。

スラムならではの「先を行ってる感」

新型RED AXSをフル搭載したスコットADDICT RC。ジップ353NSWホイールとグッドイヤーVECTOR R NSWタイヤで武装する。 photo:Naoki Yasuoka

今もよく覚えているけれど、「REDを手に入れよう」と心に決めたのは、2019年1月に米アリゾナ州で開催されたグローバルプレスキャンプでRED eTap AXS(先代)の実物を見てすぐだった。

12速化とトップ10T化による新時代のX-RANGEギアや、フロントシングル化の邁進といった先進性はもちろんのこと、グラベルやMTBまでを含むオフロード用コンポとの互換性など、いかにもアメリカンブランドらしい合理性にはたいそう心を動かされた。もう少し前の話をすれば、まだ11速時代の2018年にアクアブルースポートがぶち上げた「スラムのフロントシングルコンポーネントでプロレースを戦う」というコンセプト(結果的に時代を先取りしすぎて無理が祟りチーム解散へ)に衝撃を受け、すぐに不退の決意と共にマイバイクのフロントディレイラー台座(溶接付け)を削り落としてForce 1を組み付けた自分にとって、スラムの「一歩先を行ってる感」は何よりも魅力的だった。

もちろんシマノのDURA-ACEが絶対王者であることは分かりきった事だし、当時のインプレ記事に書いた通り、絶対的な変速スピードは対R9100シリーズであってもDURA-ACEの方が速い(R9200シリーズで更に良くなったし、今所有するULTEGRA R8200シリーズでもそれは同じだ)。しかし、それを差し置いてもRED eTap AXSは手に入れるべきコンポだと感じたのだった。
だから、新型RED AXSもすぐ試してみたい。そう思った。全体的な進化っぷりは先代ほどではないけれど、変化著しいシフト/ブレーキレバーとブラケット形状は、フード部分を握ってエアロポジションを取る選手が多くなってきたプロレース界のトレンドを敏感に反映したもの。さらには「面倒なペアリングを一切無くした」と言う、同時開発のハンマーヘッド製コンピューターとのコネクティビリティ。プレゼンテーションを聞くたびにスラムらしい先進性に心躍らされたのだった。

手元に届いた新型RED AXSフルセット搭載バイク。思う存分フィールドテストを行った photo:Naoki Yasuoka

手元にはスラム本社からスコットのADDICT RCに新型RED AXSをフルセット(前48/35T、後10-33T)で組み付け、ジップの353NSWホイールと、それらジップホイールと完璧なフィットするよう新規開発されたグッドイヤーのVECTOR R NSWタイヤで武装したマシンが届いた。上ハンドル下側には追加シフトスイッチ「Wireless Blips」を搭載したフルパッケージモデルだ。

大変化したレバー/ブラケット、ライバルを置き去りにするブレーキフィール

大変化を遂げたレバーとブラケット。最新のエアロポジションを叶えつつ、あらゆる側面でエフォートレスを達成した photo:Naoki Yasuoka

デフォルトのレバー位置。先代に慣れた身としてはかなり遠く感じる photo:Naoki Yasuoka
リーチアジャストを活用すれば最大30mmほど手元に近づく。手の小さな人でも握れるず photo:Naoki Yasuoka


件の手元形状とブレーキフィールは、ウェブで画像を見る以上に大変化を遂げていた。ピストンを内蔵したブラケットは前後方向に長くなり、デフォルト状態のブレーキレバーとシフトスイッチは先代イメージのまま乗ると空打ちしてしまうほど遠い。手が大きい人ベースで設計したんだろうなと思ったものの、いざリーチアジャストを試してみればレバーは実測30mmも前後したので一切問題はなかった。

ブラケットの頭が小さくなったこともあってキチンと調整すれば握りやすさは先代REDを遥かに上回るし、よほど手の小さい人でも握り込めるだろうと思う。ダウンヒルを攻める上でレバーをなるべく手元に引き寄せてブレーキを操作したい僕としてもたいへん具合が良いし、編集スタッフのレーサー高木に言わせれば「今市場にあるどのコンポーネントよりもブラケットが長く、ブラケットを握りながらでも深いエアロポジションが取れる」と言う。まさに今、世界のレースシーンで求められているのはこの形なのだ。

ブラケットが遠くなり、より深くて遠いエアロポジションが取れるようになった。レーサーにとって歓迎すべきポイントだ photo:Naoki Yasuoka

リーチアジャストを調整中。2.5mmの六角レンチを使う作業自体は非常に簡単 photo:Naoki Yasuoka
ボーナスボタンは想像以上に使いやすいものだった。握り変えることなくシフト操作が可能だ photo:Naoki Yasuoka


ブレーキフィールは飛躍的に良くなった。コントロールしやすく、トルクフル。そしてレバーの引きが軽い photo:Naoki Yasuoka

形状変化もさることながら、新型REDの白眉はブレーキフィールだ。良い。本当に良い。良すぎてびっくりした。とにかくレバーの引きが軽くスムーズで、一直線に制動力が立ち上がる(ように感じる)DURA-ACEとは異なり、効き始めはマイルドでブレーキを引くにつれて二次曲線的に制動力が増す、スラムならではのトルク感溢れるブレーキタッチがよりクリアなものとして指に伝わってくる。

プレゼンでは特に触れられなかった部分だが、スラム本国スタッフによれば意図しないブレーキタッチ(音鳴り)を防ぐため、ブレーキキャリパーのピストン周辺の素材と加工方法を徹底的に突き詰めて摺動抵抗を減らし、パッドを確実に戻しきる工夫が施されているという。パッド間のクリアランスを広げて音鳴りを遠ざけたシマノと異なるアプローチが面白いと思ったが、今思い返せばその工夫がブレーキタッチにも効いているのだろう。スラムが言う「80%もレバーを軽く引けるようになった」は、あながち大げさではない、のかもしれない。

最小ギアは前35T/後33T。どんなに長く厳しい登坂でもこなすことができる photo:Naoki Yasuoka

シフト操作もブレーキフィールほどではないにせよ品質向上を感じた部分。前後ともにディレイラーの動きが速くなり、特にフロント側にオートトリム機能が搭載されたことでメンタルストレスが大きく緩和されたように感じる。引き続きリアディレイラーにはチェーン暴れを抑制する油圧ダンパー「Orbit(オービット)」が組み込まれているが、これは変速ショックの少なさにも繋がっている。機械式ダンパーで抑えるのとは異なるまろやかなフィーリングはシマノ製品には無いものだ。

ジップ353NSWホイールの走りに感嘆

ジップの353NSWホイール。波型リムに先鞭をつけたジップが誇る最高級オールラウンドホイールだ photo:Naoki Yasuoka

REDのグループセットではないものの、今回のテストバイクセットアップで感心したのがジップ(スラム傘下)353NSWホイールだった。今や各社が追従する波型リムに先鞭をつけた同社のハイエンドホイールは、40-45mmという浅めのリムハイトであることが信じられないほど、パワーの大小を問わず、平地や登りなど走る場所を問わずぐんぐんスピードが伸びる。

具体的に言えばリムは硬すぎずしなるタイプだが、ペア重量1308gという圧倒的な軽さとホイールバランスの良さによってほぼタメを作らず、背中を押すかのごとく想像以上にスピードを乗せてくれる。内幅25mmの極太リムに最適化された専用設計タイヤ(VECTOR R NSW)が用意されていることもライドの安心感を高めるポイント。税込78.5万円という価格には驚きを隠せないが、硬すぎず、かつ登りも楽々こなせるホイールだから贅沢なロングライド用ホイールとして選ぶのも大いにアリ。誰にとっても驚きと自信を与えてくれる極めて優秀なホイールだと思う。

スラムが誇る最新最高のコンポーネント

「是非とも手に入れたいコンポーネント」 photo:Naoki Yasuoka

新型REDは先代をより研ぎ澄ませた、現在スラムが誇る最新最高のロードコンポーネントだ。しつこいくらい何度も言いたくなるほどブレーキフィールの良さは群を抜いていて、それをより多くのユーザーが体感できるよう、先代REDやForceのブレーキ系統を新型REDに換装できるアップグレードキット(レバーとキャリパー、Karooを同封して税込302,900円)が発売されるのは大歓迎すべきこと。それほど開発陣もブレーキの出来に自信を持っているのだろう。

Force1に始まり、先代RED eTap AXSを手に入れ、その後グラベルバイク用にForce eTap AXSを手に入れた自分にとって、新型RED AXSは是が非でも手にいれるべきコンポーネントになった。どんなに高くても良いから、と思えるほどに。
text:So Isobe 提供:メニーズ