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チューブラーからチューブレスへ。目まぐるしく変化するロードレース界のレーシングタイヤだが、一部チームではTT用のスペシャルセットとしてクリンチャータイヤも使われ始めている。そして国内の強豪チームとして知られるキナンレーシングも今シーズンからiRCの新型クリンチャータイヤを実戦投入しているのだ。

新型ASPITE PRO特集の第3弾として、2021年よりキナンの一員としてiRCタイヤを実戦使用と開発フィードバックを行ってきた畑中勇介と、今期チームに加入した孫崎大樹へのインタビューを紹介したい。国内トッププロが、あえてクリンチャーで走るその理由や魅力とは?

キナンレーシングの主力選手が語るASPITE PROの実力とは

iRCの新型クリンチャータイヤ「ASPITE PRO」 photo:KINAN Racing Team / Syunsuke FUKUMITSU


インプレッションライダー・プロフィール

iRCのASPITE PROを使用するキナンレーシングの孫崎大樹と畑中勇介 photo:Syunsuke FUKUMITSU

畑中勇介

2021年シーズンよりキナンレーシングに所属し、チームの躍進に大きく貢献するベテラン選手。2017年には全日本チャンピオン、2011年のツール・ド・おきなわ(第2ステージ、ロードレース)で優勝、2010年のジャパンカップでは3位表彰台を獲得するなど国内の主要UCIレースで好成績を残す。Jプロツアーでも2010年、2011年で年間総合優勝を果たしたトップレーサーだ。

畑中勇介オフィシャルブログ公式Twitterアカウント

孫崎大樹

2023年シーズンよりキナンレーシングに加入したパンチャー系スプリンター。初戦のニュージーランド・サイクルクラシックではステージ4位、JCL宇都宮清原クリテリウムでは2位を獲得するなどシーズン序盤より好調。2018年から2020年までブリヂストン、2021から2022年はスパークルおおいたに所属し、今年は新規キナンへ。iRCのタイヤと共に国内レースを戦ってきた実力者。

孫崎大樹公式Twitterアカウント公式Instagramアカウント
キナンレーシングチーム


―クリンチャーのASPITE PROを使うのは意外な印象があります。キナンはオセアニアのレースで一足早くシーズンインしましたが、そこから今までに感じた、タイヤの印象を教えてください。

畑中:グリップ力の良さが際立っています。iRCのASPITEはモデルチェンジまで長い時間を要しましたが、その間に培ってきた技術と最新のスペックをしっかりと詰め込んできていることが分かります。現代のレーシングタイヤに仕上がっていると思います。

例えば、前作よりもタイヤの横幅の広さ。最新のディスクブレーキバイクとリム内幅が広いホイールに適合する設計が採用されており、自転車の進化に合わせてタイヤも進化している印象があります。クリンチャータイヤでフックレスリム対応という他社にはないスペックも目新しいですよね。

孫崎:クリンチャータイヤはその構造に由来する硬さがあるので、チューブレスのようなしなやかさは期待できないと思っていました。でも。ASPITE PROの乗り味はチューブレスに匹敵していて非常に驚きました。その柔軟性も過度ではなく、程よくコシがある理想的なレベルです。コーナリング中も安心して曲がれるタイヤという印象が強いんです。

畑中:コーナリング中でもタイヤが柔軟に変形し、ショックを上手に吸収してくれるんですよね。タイヤに大きな荷重がかかるような攻めたラインを通しても不安な挙動が一切出ません。実は、この部分に関しては開発段階で技術者の方と綿密に話し合ったんです。僕たち選手の要望を見事に形にしてくれていますね。

高性能タイヤ実現の秘訣は選手との密なコミュニケーション

クリンチャータイヤもレースで使えるほど進化を遂げている photo:Syunsuke FUKUMITSU

―タイヤ開発にはどのように関わったのでしょうか?

畑中:開発の初期段階は選手のフィーリングと開発データが一致しないこともしばしばありました。データ上では良くなっているにも関わらず、選手としてはもう一歩物足りなさを感じるというズレがあったので、選手のコメントが何を意味しているのかを可視化してもらうことからのスタートです。そこから何度も試作品が作られ、それに対して僕ら選手が評価を伝えるというサイクル。そうやって性能を煮詰めてくれたおかげで、今では良いフィーリングで扱えるタイヤを実現できたんです。

特に感覚とデータを突き合わせる作業は重要でした。自分なりに空気圧を調整しながら走らせていくと、あるセッティングでデータで示されている通りの性能を感じる瞬間が訪れたんです。その時に転がり抵抗が低く「レースで使えるタイヤ」だと自信を持つことができました。

孫崎:昨年まで在籍していたスパークルおおいたでもテストとフィードバックは行っていました。その時からASPITE PROの転がりの軽さとしなやかさはチューブレスタイヤに匹敵するような感覚があり、チーム内で最初から評価は高かったですよ。先ほど言ったように実際に使う前には疑問も感じていたのですが、いざ使ってみるとレースでも武器となる性能を備えていて、ファーストフィーリングは衝撃的でした。

一般的にクリンチャーはチューブレスに対して転がり抵抗が大きいと言われますよね。でも、ASPITE PROのS-LIGHT(軽量モデル)を試した時に「これはフォーミュラプロと同じなのでは?」と思いました。この時にレースでクリンチャータイヤを使うことへの不安は消え去りましたね。使うチューブも普通のブチルですし、S-LIGHTの薄さが生むしなやかさが活きる部分だと感じます。

新型のグリップ力はコンパウンドとしなやかな設計が生み出している

「レースの終盤、コーナーで勝負をかける必要がある場面で安心感のあるタイヤは武器になる」孫崎大樹 photo:KINAN Racing Team / Syunsuke FUKUMITSU

―iRCがASPITE PROの性能で強く謳うのがグリップ力なのですが、これは選手からのリクエストがあったのでしょうか。

畑中:選手から具体的な性能をリクエストすることはありませんでしたが、グリップ力の高さは際立っていると感じます。ブレーキングでもコンパウンドがしっかりと路面に食らいつきますし、すでに何度か走っている雨のレースでも不安になることはありません。

選手は非常に感覚的なので、「コーナーを攻めて一番タイヤに負荷がかかるところで怖さを感じる」というような違和感や、同じシチュエーションでもどのようなタイヤが理想かを伝えます。その表現をデータに落とし込んで開発を行ってくれたので、最も理想的なグリップ力を実現していると思います。

孫崎:確かに曖昧な表現になってしまいますよね。ASPITE PROが進化して良くなったと感じるところは、コーナリング中に自分がイメージする理想通りにタイヤが潰れていき、コーナーからの立ち上がりでも自然に起き上がっていくようなフィーリングです。テストする中にはタイヤが潰れるタイミングが遅く、コーナリング中に違和感を感じる物もあったので、ASPITE PROの仕上がりは自分好みになっています。

キナンレーシングは年初より荒れた路面の海外レースを転戦。ASPITE PROはその実力をいかんなく発揮した photo:KINAN Racing Team / Syunsuke FUKUMITSU

畑中:空気圧を落として走行できるという設計もしなやかさに寄与していて、タイヤ全体でグリップ力を高める狙いがあります。ハイグリップに仕上がっていると同時に、トレードオフとして砂利がトレッド表面に付着してしまうことは、性能を突き詰めたレーシングタイヤのトレードオフの部分です。

―孫崎選手は年始から海外のレースにも参戦しています。日本国内とは違う路面を多く走ったと思いますが、パンク経験はありましたか?

孫崎:大きな釘を踏むなど明らかに大きな傷が入る状況以外で目立ったパンクはありませんでした。今作は従来のASPITEより空気圧を落とせるのですが、低圧が原因でのパンクもほとんど経験しなかったんです。それよりもリム打ちパンクしない程度に低圧にセッティングできるので、荒れた路面でもストレスが小さく走れたというアドバンテージを感じました。

今までよりも空気圧を下げられるクリンチャータイヤに進化を遂げる

ニュージーランド・サイクルクラシックで孫崎大樹が4位に入った photo:KINAN Racing Team / Syunsuke FUKUMITSU

―お二人の空気圧セッティングを教えてもらえますか?

孫崎:流石にチューブレスほど落とすことはできないのですが、今までのクリンチャーと比べたら低いですよ。25Cで6〜5.8気圧前後で、雨の時は5.4気圧まで落とすことができた。ここも新型の美点だと思っています。28Cの場合はこの空気圧より0.2気圧ずつ低い設定ですね。

僕がレースで使っているタイヤ幅は28Cです。重量も大切ですが、28Cの方が転がりが軽くなっているような感覚がありますし、レース終盤のコーナリングで安心して攻められる幅を選んでいます。下りでのストレスやコーナリングでの不安要素は結果に直結するので、躊躇することのないタイヤであることが選ぶ基準となっています。

今シーズンはすでに雨天のレースを数度経験しているキナンレーシング photo:KINAN Racing Team / Syunsuke FUKUMITSU

畑中:自分の空気圧は5.5〜5.8気圧の間で、天気と路面状況を確認した上で決めています。昔のASPITEでは7気圧を入れて走っていたので、現在の空気圧は自分の経験からすると相当低い設定です。

ただ、昔の機材で5気圧台まで落としても、タイヤの性能は引き出せないでしょう。当時の機材は当時の使い方、今の機材は今の使い方が間違いなくあるので、ASPITE PROの性能を活かすためには幅広のホイールや、それを装着できるフレームを使用することをおすすめします。

クリンチャータイヤはトッププロの武器になり得るか?

「データと感覚を突き合わせ、素晴らしい性能を備えていることを実感した」畑中勇介 photo:KINAN Racing Team / Syunsuke FUKUMITSU

―これまではチューブラー、現在はほぼチューブレスに切り替わったレース界ですが、その中で見た時、クリンチャーのASPITE PROはどこまで使える、戦える、あるいは武器になるタイヤなのでしょうか。

孫崎:シーズン始まって3ヶ月経過した今、クリンチャーで十分レースは戦えるという実感がありますね。これからもクリンチャーでレースすることに抵抗はありませんし、これで戦えると自信を持って言えます。

畑中:時代に適応していくことが重要と感じています。昔のクリンチャーを知っている僕からすると最初は訝しく思っていたのですが、iRCは「本当にレースユースできる」素晴らしいタイヤを実現してくれました。頭が硬い僕でもクリンチャーでも戦えると気がつかせてくれるような(笑)。

レーサーとしては速く、そして安全に曲がれるタイヤであれば、それがどんなタイプのものであってもいいと思っています。チューブラーの時代があって、チューブレスの時代があって、それぞれに適した機材がどんどん開発されていきます。その中でASPITE PROはどのタイプのレーシングタイヤにも引けを取らない性能ですから、レースに投入することに迷いは無いですよ。

「イメージ通りにタイヤが動くので、安心して攻められる」孫崎大樹 photo:KINAN Racing Team / Syunsuke FUKUMITSU

孫崎:クリンチャーが他のタイプのタイヤに追いついてきています。シーンによって使い分けられるほど成熟していますし、軽いチューブが増えてきた今はクリンチャーのネガティブな部分も消えますよね。

畑中:数年前まではコストの面も踏まえてレース用はチューブラー、練習用はクリンチャーと使い分けていたので、練習とレースでは感覚が違うなんてことは普通でした。でも、1種類でレース、練習、サイクリングをカバーできれば感覚をアジャストする必要も無いので、誰にとっても理想的ですよね。

ちなみに、グリップするタイヤは消耗が早いイメージがありますよね。でも、他社のハイグリップタイヤと比べるとASPITE PROは耐久性能が高い。自分の場合は荷重がかからないフロントの場合は2〜3ヶ月に交換し、リアは1ヶ月に1回、距離約2500km〜3000kmで交換しています。

タイヤは命を預けるパーツ 高い精度で安全性を担保するASPITE PRO

「タイヤは路面と接する唯一のパーツなので信頼できる物を選んでもらいたい」孫崎大樹 photo:Syunsuke FUKUMITSU

畑中:さらに言えばフックレスリムに対応するのも魅力の一つだと思います。精度が高くないと対応させられないものですから、これは精度に妥協しないiRCの実直さが表れている部分でしょうね。それゆえ脱着が難しいという声も聞こえてますが、iRCのタイヤレバーを使い、ビードをリムの中央に落としたり、ビードを入れ替えたりという手順を守れば問題なく扱えるかと思います。公式でも手順については動画で広報されているので、自分で作業するユーザーなら一度は視聴しておくべきでしょう。

孫崎:僕はそこまで硬く感じないので、慣れてしまっているのかもしれません。言われてみれば硬いのかなとは思いますが、それでも少しだけだと感じる程度です。

「最新の技術を使いグリップ力に際立つタイヤに仕上がっている」畑中勇介 photo:Syunsuke FUKUMITSU

孫崎:自転車のパーツ選びをするときって、当然フレームやホイールが真っ先に悩むところ。でもその前に、地面との唯一の接点であるタイヤは妥協しないで選んでほしいと思います。

畑中:本当にそうだよね。iRCの信頼性の高さは非常に優れている部分ですし、クリンチャータイヤの中でASPITE PROのグリップ力や耐久性は突出しています。信頼してレースユースできる、安全で優秀なタイヤだと言えますね。

提供:iRC 制作:シクロワイアード編集部