2023/02/23(木) - 00:00
DOGMAを頂点とするイタリアの雄ピナレロのラインナップが、レーシングモデルのFシリーズ、そしてエンデュランスモデルのXシリーズとして総刷新。現在(いま)のピナレロとそのラインナップ、注目モデルのインプレッション、そして日本のピナレロファンへのメッセージなど、これから4編に渡り、スペインで開催されたインターナショナルプレスキャンプの模様をお伝えします。
ピナレロ本社から「Pinarello-an Invite」と銘打ったメールを受け取ったのは昨年12月半ばのことだった。世界的に新車発表会が開催されず、それまでコンスタントにヨーロッパやアメリカ行きのフライトに乗ってきた自分にとってまるまる3年ぶりの海外取材。スペインで開催されたピナレロの発表会は、久々にパンデミック以前の感覚を取り戻す素晴らしい機会となった。
発表会が行われたのは、ヨーロッパチームのオフシーズン定番合宿地であるバレンシア。冬でも温暖、かつ周囲に絶好のサイクリング環境が広がり、大きな室内ガレージやジム、アスリートに配慮した食事の提供など「サイクリングフレンドリー」を謳うホテルには、ピナレロスタッフや我々メディア勢の他、ロット・ディステニーやグルパマ・FDJといったチームの面々も同宿。すぐ近くではシーズンイン定番レースである「ヴォルタ・バレンシアナ」も開催中であり、地域全体がプロサイクリングに活気付く中での新車披露だ。
ピナレロファンや、ブランドの動向に詳しい方であれば、ピナレロがLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)傘下となったことをご存じだろう。
ヴィトン傘下となったことで地元トレヴィーゾに根ざした古き良き規模感や、北米ブランドとは異なる独自性といったピナレロ「らしさ」がどう変化するのか心配だったものの、取締役会長となったファウスト・ピナレロ氏は相変わらず人懐こい笑顔を浮かべてそこにいて、ピナレロはピュアなほどにピナレロのまま。今回のニューラインナップも、新しい風を纏った伝統と革新の中から誕生したものだと、新しくピナレロ社のCEOに就任したアントニオ・ドゥス氏は念を押す。
これまでピナレロはハイエンドモデルのDOGMAを筆頭に、その血統を引き継ぐPRINCEシリーズ、サンデーライダー向けに快適性向上を図ったPARIS、エントリーモデルのRAZHAと様々なバリエーションを揃えてきたが、2023年モデルでは「サイクリストの多種多様なニーズに対応するため」、ロードバイクラインナップの抜本的改革を図った。
レーシングモデルはDOGMAを頂点とする「Fシリーズ」に集約され、エンデュランスモデルは「Xシリーズ」へ一本化。継続販売される「RAZHA」を除く全モデルに(そう、グラベルモデルやTTモデルにも)「F」あるいは「X」がラベリングされ、様々な用途に合ったバイクが一目で分かるように変化した。2023年モデルからフレームに刻まれる「F」と「X」は、ピナレロの新章幕開けを告げる狼煙となる。
限界に挑戦し、ライバルや記録に打ち勝つことを目標にするレーサーに向けたFシリーズには、イネオス・グレナディアーズが駆る「DOGMA F」を筆頭に、ニューモデルの「F9」と「F7」そして「F5」がラインナップされる。F9とF7(フレームは共通)は東レのトレカカーボンをオリジナルミックスした「T900」が使われ、F5には同じくオリジナルミックスの「T700」を採用。各ターゲットユーザーにとって最良の選択となるよう配慮が尽くされた。
従来のPRINCEはDOGMA F10をベースにしていたが、これら新世代Fシリーズは現行フラグシップモデルであるDOGMA Fの設計思想を存分に取り入れ、それでいて新型のエアロフォルムや最大30mmのタイヤクリアランスなど細やかなアップデートが図られた。トップモデル譲りのテクノロジーとレーシングジオメトリーを備え、クラス最高レベルの重量対性能を、一目でピナレロと分かる美しくアグレッシブなルックスで包み込んでいる(詳しいテクノロジー解説は続編にて)。
1秒1ワットの速さこそ追求しない代わりに、レーシングモデル譲りのパフォーマンスと快適性、そしてアップライトなジオメトリーを求めるユーザーに向けたシリーズがXだ。従来PARISが担ってきたこのカテゴリーには、トレカの「T600」カーボンを採用した「X3」と「X1(価格/スペックおよび発売時期未定)」の2モデル(フレームは共通)が登場し、セルフチャレンジや、仲間とのライドを楽しむユーザーを強力にバックアップする。
完全ニューモデルとなるXシリーズだが、Fと異なるフォルムのリアステーやジオメトリーは、かつてピナレロがパリ〜ルーベに投入したDOGMA Kシリーズや、DOGMA FSのアイデンティティを受け継ぐもの。エアロロードではないが、DOGMAと同じくケーブルフル内装を叶えるTiCRケーブルを投入するなど細部に至るまで配慮が尽くされている。
プレゼンテーションでピナレロ首脳陣が強くアピールしたのは、Xシリーズが単なる入門用モデルではないということ。例えレースに出ないユーザーであっても、レースからのR&Dに裏打ちされたハイブランドによるプレミアムエンデュランスモデルを求め、ピナレロにとってはこれがその答え。人気モデルだったPARISを引き継ぎ、さらに幅広い層が満足できるように走りを引き上げたと彼らは胸を張る。
また、付け加えられたのが、X3とX1からスタートするXシリーズは将来的にFシリーズ同様のラインナップになるということ。これ以上は明言されなかったものの、当然期待するのはX5やX9など、ハイグレードカーボンを使ったモデルの登場。このXシリーズこそ、新世代ピナレロの象徴と言えるアイコニックな存在だ。
従来のラインナップを総刷新するFとX。ピナレロはDOGMAに11種類ものフレームサイズバリエーションを設け、新型のFとXも最小425、最大590と合計9種類という豊富なサイズ設定を誇る。FシリーズはDOGMAとほぼ同じジオメトリーを採用しているが、DOGMAと比べて中間サイズと最大サイズを1つずつ減らしたことで、その差を埋めるための微調整が施されている。
ピナレロは両シリーズを同列に扱い、DOGMAやF9、F7といったハイエンドグレードはもちろんのことミドル〜エントリーモデルの存在感を押し上げ、フィットネスとしてスポーツバイクを楽しむユーザーへの訴求力をかつてないレベルに高めてきた。DOGMAやイネオス・グレナディアーズに代表されるピュアレーシングブランドのDNAは、ラインナップの隅々にまで息づいているのだ。
以下は、2023年2月23日に公開されたピナレロ2023モデルのフルラインナップ。DOGMA Fを筆頭にするロードバイクラインナップはF9、F7、F5、X3、X1、RAZHAと合計7モデル、グラベルロードがGREVIL FとGRENGER Xの2モデル、そしてフィリッポ・ガンナを支えるTTバイクBOLIDE F、トーマス・ピドコックを支えるシクロクロスマシンCROSSISTA Fを加えた合計11モデルがラインナップを支える。
次章ではピナレロ首脳陣が「パワープッシュモデル」と推すF7のインプレッションを紹介。DOGMA F譲りのルックスとテクノロジーを詰め込んだバイクは、DOGMA Fが上に存在することを忘れるほどに"走る"、超一級品のレーシングバイクだった。
スペイン、バレンシアで開催された新車発表会
ピナレロ本社から「Pinarello-an Invite」と銘打ったメールを受け取ったのは昨年12月半ばのことだった。世界的に新車発表会が開催されず、それまでコンスタントにヨーロッパやアメリカ行きのフライトに乗ってきた自分にとってまるまる3年ぶりの海外取材。スペインで開催されたピナレロの発表会は、久々にパンデミック以前の感覚を取り戻す素晴らしい機会となった。
発表会が行われたのは、ヨーロッパチームのオフシーズン定番合宿地であるバレンシア。冬でも温暖、かつ周囲に絶好のサイクリング環境が広がり、大きな室内ガレージやジム、アスリートに配慮した食事の提供など「サイクリングフレンドリー」を謳うホテルには、ピナレロスタッフや我々メディア勢の他、ロット・ディステニーやグルパマ・FDJといったチームの面々も同宿。すぐ近くではシーズンイン定番レースである「ヴォルタ・バレンシアナ」も開催中であり、地域全体がプロサイクリングに活気付く中での新車披露だ。
ピナレロファンや、ブランドの動向に詳しい方であれば、ピナレロがLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)傘下となったことをご存じだろう。
ヴィトン傘下となったことで地元トレヴィーゾに根ざした古き良き規模感や、北米ブランドとは異なる独自性といったピナレロ「らしさ」がどう変化するのか心配だったものの、取締役会長となったファウスト・ピナレロ氏は相変わらず人懐こい笑顔を浮かべてそこにいて、ピナレロはピュアなほどにピナレロのまま。今回のニューラインナップも、新しい風を纏った伝統と革新の中から誕生したものだと、新しくピナレロ社のCEOに就任したアントニオ・ドゥス氏は念を押す。
FとX:2つのニューシリーズでラインナップを総刷新
これまでピナレロはハイエンドモデルのDOGMAを筆頭に、その血統を引き継ぐPRINCEシリーズ、サンデーライダー向けに快適性向上を図ったPARIS、エントリーモデルのRAZHAと様々なバリエーションを揃えてきたが、2023年モデルでは「サイクリストの多種多様なニーズに対応するため」、ロードバイクラインナップの抜本的改革を図った。
レーシングモデルはDOGMAを頂点とする「Fシリーズ」に集約され、エンデュランスモデルは「Xシリーズ」へ一本化。継続販売される「RAZHA」を除く全モデルに(そう、グラベルモデルやTTモデルにも)「F」あるいは「X」がラベリングされ、様々な用途に合ったバイクが一目で分かるように変化した。2023年モデルからフレームに刻まれる「F」と「X」は、ピナレロの新章幕開けを告げる狼煙となる。
COMPETITION F:DOGMA譲りの走りを叶えるピュアレーサー
限界に挑戦し、ライバルや記録に打ち勝つことを目標にするレーサーに向けたFシリーズには、イネオス・グレナディアーズが駆る「DOGMA F」を筆頭に、ニューモデルの「F9」と「F7」そして「F5」がラインナップされる。F9とF7(フレームは共通)は東レのトレカカーボンをオリジナルミックスした「T900」が使われ、F5には同じくオリジナルミックスの「T700」を採用。各ターゲットユーザーにとって最良の選択となるよう配慮が尽くされた。
従来のPRINCEはDOGMA F10をベースにしていたが、これら新世代Fシリーズは現行フラグシップモデルであるDOGMA Fの設計思想を存分に取り入れ、それでいて新型のエアロフォルムや最大30mmのタイヤクリアランスなど細やかなアップデートが図られた。トップモデル譲りのテクノロジーとレーシングジオメトリーを備え、クラス最高レベルの重量対性能を、一目でピナレロと分かる美しくアグレッシブなルックスで包み込んでいる(詳しいテクノロジー解説は続編にて)。
ENDURANCE X:走りと快適性を両立するエンデュランスモデル
1秒1ワットの速さこそ追求しない代わりに、レーシングモデル譲りのパフォーマンスと快適性、そしてアップライトなジオメトリーを求めるユーザーに向けたシリーズがXだ。従来PARISが担ってきたこのカテゴリーには、トレカの「T600」カーボンを採用した「X3」と「X1(価格/スペックおよび発売時期未定)」の2モデル(フレームは共通)が登場し、セルフチャレンジや、仲間とのライドを楽しむユーザーを強力にバックアップする。
完全ニューモデルとなるXシリーズだが、Fと異なるフォルムのリアステーやジオメトリーは、かつてピナレロがパリ〜ルーベに投入したDOGMA Kシリーズや、DOGMA FSのアイデンティティを受け継ぐもの。エアロロードではないが、DOGMAと同じくケーブルフル内装を叶えるTiCRケーブルを投入するなど細部に至るまで配慮が尽くされている。
プレゼンテーションでピナレロ首脳陣が強くアピールしたのは、Xシリーズが単なる入門用モデルではないということ。例えレースに出ないユーザーであっても、レースからのR&Dに裏打ちされたハイブランドによるプレミアムエンデュランスモデルを求め、ピナレロにとってはこれがその答え。人気モデルだったPARISを引き継ぎ、さらに幅広い層が満足できるように走りを引き上げたと彼らは胸を張る。
また、付け加えられたのが、X3とX1からスタートするXシリーズは将来的にFシリーズ同様のラインナップになるということ。これ以上は明言されなかったものの、当然期待するのはX5やX9など、ハイグレードカーボンを使ったモデルの登場。このXシリーズこそ、新世代ピナレロの象徴と言えるアイコニックな存在だ。
DOGMAでなくとも一切妥協なし。全モデルにレーシングブランドの魂が宿る
従来のラインナップを総刷新するFとX。ピナレロはDOGMAに11種類ものフレームサイズバリエーションを設け、新型のFとXも最小425、最大590と合計9種類という豊富なサイズ設定を誇る。FシリーズはDOGMAとほぼ同じジオメトリーを採用しているが、DOGMAと比べて中間サイズと最大サイズを1つずつ減らしたことで、その差を埋めるための微調整が施されている。
ピナレロは両シリーズを同列に扱い、DOGMAやF9、F7といったハイエンドグレードはもちろんのことミドル〜エントリーモデルの存在感を押し上げ、フィットネスとしてスポーツバイクを楽しむユーザーへの訴求力をかつてないレベルに高めてきた。DOGMAやイネオス・グレナディアーズに代表されるピュアレーシングブランドのDNAは、ラインナップの隅々にまで息づいているのだ。
以下は、2023年2月23日に公開されたピナレロ2023モデルのフルラインナップ。DOGMA Fを筆頭にするロードバイクラインナップはF9、F7、F5、X3、X1、RAZHAと合計7モデル、グラベルロードがGREVIL FとGRENGER Xの2モデル、そしてフィリッポ・ガンナを支えるTTバイクBOLIDE F、トーマス・ピドコックを支えるシクロクロスマシンCROSSISTA Fを加えた合計11モデルがラインナップを支える。
ピナレロ 2023年モデルフルラインナップ
展開モデル | コンポーネント | ホイール | 税込価格 |
DOGMA F | フレームセット | - | レギュラーカラー:979,000円、MYWAY SOLID:1,122,000円、MYWAY BOREALIS:1,232,000円 |
DOGMA F | シマノDURA-ACE DI2 | フルクラム SPEED 40 LITE | 2,035,000円 |
F9 | シマノ DURA-ACE DI2 | MOST ULTRAFAST | 1,606,000円 |
F7 | シマノ Ultegra DI2 | MOST ULTRAFAST | 1,298,000円 |
F7 | シマノ Ultegra DI2 | フルクラム Racing 800 | 1,155,000円 |
F5 | シマノ 105 DI2 | フルクラム Racing 800 | 836,000円 |
X3 | シマノ 105 DI2 | フルクラム Racing 800 | 700,700円 |
RAZHA | シマノ 105 機械式 | シマノ RS171 | 465,300円 |
GREVIL F | フレームセット | - | 572,000円 |
GREVIL F | シマノ GRX600 | フルクラム RAPID RED 900 | 635,800円 |
GRENGER X | シマノ GRX600 | フルクラム RAPID RED 900 | 544,500円 |
BOLIDE F | フレーム+カーボンハンドルセット | - | 2,310,000円 |
BOLIDE F | フレーム+3Dチタンハンドルセット | - | 7,480,000円 |
CROSSISTA F | フレームセット | - | 737,000円 |
次章ではピナレロ首脳陣が「パワープッシュモデル」と推すF7のインプレッションを紹介。DOGMA F譲りのルックスとテクノロジーを詰め込んだバイクは、DOGMA Fが上に存在することを忘れるほどに"走る"、超一級品のレーシングバイクだった。
提供:カワシマサイクルサプライ
text:So Isobe
text:So Isobe