2022/02/01(火) - 09:26
12速化&無線化を果たした新型R8100系アルテグラ。同時発表されたデュラエースの影に隠れがちだが、目を凝らしてみるとそこにはデュラエースとは違う方向性への正当進化があった。これからの「ロードバイク」のあり方を示す新型コンポの魅力と用途に迫る。
「この新型アルテグラは、変速性能だけじゃなくすべてにおいて11速デュラより良くなっていますよ」と、なるしまフレンド神宮店でメカニックチーフを務める小西祐介さんは驚きを隠さない。20年以上のレース経験を持つ強豪ホビーレーサーの顔も持つ彼が、一世代前のデュラエースより良いと語るその真意は?
「11速のデュラエースを使っているときは、最高だと思っていたんです。文句はなかったですよ。しかし、このR8100系アルテグラはそれを超える良さだと感じました。変速性能も、ブラケットの握りやすさ、扱いやすさも。11速の時にはデュラとアルテの性能差は明確にありましたが、今回の12速ではそこまで感じないというのが正直なところです。デュラには期待も大きいので、単純比較は難しいですが」
ここからは、新型R8100系アルテグラのポイントを小西さんに伺っていく。
「やはり一番の変化は、完全ではなくとも無線化を果たしたことですね。ワイヤレス化によりジャンクションAを無くせることはユーザーメリットも大きいです。輪行時や、ライトとの接触などで断線してお店に持ち込まれるケースがしばしばあるんですが、こうしたトラブルが少なくなりますね。
ショップ目線では、ハンドル周りが無線化したことで組み立てやすくなるのはメリットです。また、E-tubeプロジェクトも無線で使えるようになります。既存モデルではワイヤレスユニットが必要だったこともあり利用率は高くありませんでしたが、これでPCとバイクを無理に近づけなくてもDI2の設定が容易になります。」
「『変速時に足の力を抜く』という技術を過去のものにしてしまった感のあるDI2の変速性能ですが、このR8100系アルテグラにおける進化には目を見張りますね。デュラとの差もほとんど感じません。すでにMTBコンポで採用されていたHYPERGRIDE+(ハイパーグライドプラス)を導入、さらにロード向けにブラッシュアップしたことの効果も大きいでしょう。
低速で乗った時は、さらにその性能向上が際立ちます。ワイヤー式だと変速しきれなかったり、機材に負担をかけてしまったりしますが、10〜15km/hでの走行時でも変速がスムーズなのには驚きました。
アプリE-TUBE PROJECT Cyclistを使用して変速速度を変えることができるのですが、これはケイデンスの高い人は変速を速くし、低い人は遅くすることで機材に負担の無い変速をするという調整機構ですが、それが不要に感じるほどの変速性能の高さです。」
「ブラケットレバーは握りやすいですね。ボタンの押しやすさとクリック感がいい。これに関してはデュラエースが9070から9150に変わったときに大きく改善しました。でも今回はよりボタンの押しやすさが明確になる進化を遂げていて、初めて乗る方にもわかりやすいくらいだと思います。ボタンに段差がつけられて、冬用グローブでも操作しやすい。
レバー自体は数字では4mm長くなっていますが、乗った時に握っているところの距離感は違いを感じませんでした。ブラケットの上の方を握れば肘を絞ってのエアロポジションもとりやすく、独走する時の握り方に合います。以前の型のレバーだと段差で不意に手が外れて浮いちゃうことがあったんですが、こちらは握りがいいので心配が減りますね」
「リアディレーラーのケージが長くなっていますね。これは2種類のスプロケット11-30Tと11-34Tに対応するためですね。12速化にともなうワイドレシオギアが選択できることで、どんな道でも走れるようになります。フロントは脚力に応じて、52-36Tか50x34Tを選びながら、ある程度オンロードで道のわかる「怪しくない」ライドなら11-30T、未知のルートやグラベルを含む時には11-34Tを使い分けたいですね。
ギアの選択肢が増えたことは、入門者や女性サイクリストの増加にも一役買うと思います。今日ではフレームの剛性が増して走り方のトレンドが変わってきました。フォームを崩さず、ケイデンスを保つ効率の良い走り方。今ではプロ選手だってローに30Tをメインで使っているのですから、その有用性は疑いようがありません」
隣で作業を見守っていたなるしまフレンドのメカニック、小畑さんも新型R8100系アルテグラを触ってみての感想を語ってくれた。
「軽量化を追求しているデュラエースよりもアルテグラの方がリアメカは大きく、キャパシティがありますよね。つまりワイドレシオを多用する人はアルテがいいんです。それは、アルテグラではインナートップに入るけれど、デュラは入らない設定になっていることにも現れています。前作まではアルテグラもインナートップに入らなかったんですが、変わりましたね。『本当に2x12のギアをすべて使い切れる』のはアルテグラ。ユーザーの多様な使い方に対応している、ということでしょう。
リアがトップに入らないのって、ホイールの着脱がしにくい問題にもつながります。チェーンのテンションが高いとホイールをつける時にローターをキャリパーに入れにくいですから」
「クリアランスを10%向上したという触れ込み通り、ブレーキパッドとローターとのコンタクト感も良くなりました。クリス・フルームが言っていた『下りでのローターの熱膨張でシャリシャリと接触音がするようになる』という問題はだいぶ解消されました。もっともこれは、ローターもMTBのXTグレードと同様のものにして熱に強くなったことも大きいですね」
あと、セミワイヤレスになったことで、ブラケットにボタン電池を搭載するようになりましたが、そのバッテリー残量が確認できるのはシマノならではの機能。案外見落としがちで、度々お客さんからも受ける『変速しなくなった』というトラブルの原因がこの電池切れであることも多いんです。」
新型アルテグラの描く大きな絵
ここまで見てきた新型R8100系アルテグラの進化のポイントをみていると、シマノがコンポメーカーとしてこのアルテグラで描きたい絵が見えてくるようだ。
これまでアルテグラはデュラエースに次ぐセカンドグレードであることが存在意義であり、いかにデュラエースに近い性能を持ちつつコストパフォーマンスを発揮するかが、ユーザーにとっても焦点だった。
しかし、「ワイドレシオギアが選択できることで、どんな道でも走れる」という小西さんの言葉に象徴されるように、アルテグラはその活躍するフィールドを、ロードレースの外側へと拡張しているようにみえる。北米に発するグラベルカルチャーや、バイクパッキングの世界的な流行を経て、ロードバイクはもはや、レースをするためだけの自転車ではなくなった。
いまや、『ピュアロードレーサー』は定義できても、『ロードバイク』は定義できない時代に突入した。走るべき道はもはや舗装路に限定されない。その領域には未舗装路もあり、時速40km/h以上で走る必要などなく、ライダーのファッションだってピタピタのサイクルジャージに限定されない。
ロードバイクが今謳歌し始めているこの自由と歩調を合わせ、さらに推進するようなコンポーネントを、グローバルリーディングカンパニーのシマノが発表した意義は計り知れない。
ロードレースを20年にわたり楽しみ、日々ロードバイクのトレンドに触れている小西さんの言葉が印象的だ。
「ワイドレシオギアに、30Cのようなワイドタイヤ。ロードバイクはこうなるだろうな、というのが率直な感想です。自分が始めた頃、21Cのタイヤに9気圧を入れて乗っていた時代からすると、乗り心地の良さや走れる場所が増えたことに感動しています。それも当然で、自分が乗っていたのは『ロードレーサー』だったわけです。
そういうバイクに乗っていると『ここは行けない、行くべきではない』と考えがちです。全ての道は繋がっているけれど、自分からその選択肢を切っていたわけです。でも今回のアルテグラが出てきて、また太いタイヤの履ける広義のロードバイクが出てきたことで、山道のようなマウンテンバイクの領域を除けばどんなところにも行けるようになったと思います。」
とかく私達は最新テクノロジーが投入された新型コンポを、1秒でも速く走るための機材として捉えがちだ。しかしこのアルテグラにあっては、テクノロジーはライダーの速度はもちろんとして、自転車の自由を自由たらしめるためにあるようにみえる。
次記事では、実際にライドでアルテグラの使用感とともに、このコンポの目指す地平を感じ、レビューしたい。果たして、待っているのはどんな道なのだろうか。
製品詳細については新製品情報 R8100系ULTEGRA登場を参照。
「この新型アルテグラは、変速性能だけじゃなくすべてにおいて11速デュラより良くなっていますよ」と、なるしまフレンド神宮店でメカニックチーフを務める小西祐介さんは驚きを隠さない。20年以上のレース経験を持つ強豪ホビーレーサーの顔も持つ彼が、一世代前のデュラエースより良いと語るその真意は?
「11速のデュラエースを使っているときは、最高だと思っていたんです。文句はなかったですよ。しかし、このR8100系アルテグラはそれを超える良さだと感じました。変速性能も、ブラケットの握りやすさ、扱いやすさも。11速の時にはデュラとアルテの性能差は明確にありましたが、今回の12速ではそこまで感じないというのが正直なところです。デュラには期待も大きいので、単純比較は難しいですが」
ここからは、新型R8100系アルテグラのポイントを小西さんに伺っていく。
セットアップが容易で、トラブルを減らす無線化
「やはり一番の変化は、完全ではなくとも無線化を果たしたことですね。ワイヤレス化によりジャンクションAを無くせることはユーザーメリットも大きいです。輪行時や、ライトとの接触などで断線してお店に持ち込まれるケースがしばしばあるんですが、こうしたトラブルが少なくなりますね。
ショップ目線では、ハンドル周りが無線化したことで組み立てやすくなるのはメリットです。また、E-tubeプロジェクトも無線で使えるようになります。既存モデルではワイヤレスユニットが必要だったこともあり利用率は高くありませんでしたが、これでPCとバイクを無理に近づけなくてもDI2の設定が容易になります。」
スムーズさに磨きをかけた変速性能
「『変速時に足の力を抜く』という技術を過去のものにしてしまった感のあるDI2の変速性能ですが、このR8100系アルテグラにおける進化には目を見張りますね。デュラとの差もほとんど感じません。すでにMTBコンポで採用されていたHYPERGRIDE+(ハイパーグライドプラス)を導入、さらにロード向けにブラッシュアップしたことの効果も大きいでしょう。
低速で乗った時は、さらにその性能向上が際立ちます。ワイヤー式だと変速しきれなかったり、機材に負担をかけてしまったりしますが、10〜15km/hでの走行時でも変速がスムーズなのには驚きました。
アプリE-TUBE PROJECT Cyclistを使用して変速速度を変えることができるのですが、これはケイデンスの高い人は変速を速くし、低い人は遅くすることで機材に負担の無い変速をするという調整機構ですが、それが不要に感じるほどの変速性能の高さです。」
ポジションの自由度を高めるブラケット形状
「ブラケットレバーは握りやすいですね。ボタンの押しやすさとクリック感がいい。これに関してはデュラエースが9070から9150に変わったときに大きく改善しました。でも今回はよりボタンの押しやすさが明確になる進化を遂げていて、初めて乗る方にもわかりやすいくらいだと思います。ボタンに段差がつけられて、冬用グローブでも操作しやすい。
レバー自体は数字では4mm長くなっていますが、乗った時に握っているところの距離感は違いを感じませんでした。ブラケットの上の方を握れば肘を絞ってのエアロポジションもとりやすく、独走する時の握り方に合います。以前の型のレバーだと段差で不意に手が外れて浮いちゃうことがあったんですが、こちらは握りがいいので心配が減りますね」
ワイド化したギア比が道を選ばない
「リアディレーラーのケージが長くなっていますね。これは2種類のスプロケット11-30Tと11-34Tに対応するためですね。12速化にともなうワイドレシオギアが選択できることで、どんな道でも走れるようになります。フロントは脚力に応じて、52-36Tか50x34Tを選びながら、ある程度オンロードで道のわかる「怪しくない」ライドなら11-30T、未知のルートやグラベルを含む時には11-34Tを使い分けたいですね。
ギアの選択肢が増えたことは、入門者や女性サイクリストの増加にも一役買うと思います。今日ではフレームの剛性が増して走り方のトレンドが変わってきました。フォームを崩さず、ケイデンスを保つ効率の良い走り方。今ではプロ選手だってローに30Tをメインで使っているのですから、その有用性は疑いようがありません」
隣で作業を見守っていたなるしまフレンドのメカニック、小畑さんも新型R8100系アルテグラを触ってみての感想を語ってくれた。
「軽量化を追求しているデュラエースよりもアルテグラの方がリアメカは大きく、キャパシティがありますよね。つまりワイドレシオを多用する人はアルテがいいんです。それは、アルテグラではインナートップに入るけれど、デュラは入らない設定になっていることにも現れています。前作まではアルテグラもインナートップに入らなかったんですが、変わりましたね。『本当に2x12のギアをすべて使い切れる』のはアルテグラ。ユーザーの多様な使い方に対応している、ということでしょう。
リアがトップに入らないのって、ホイールの着脱がしにくい問題にもつながります。チェーンのテンションが高いとホイールをつける時にローターをキャリパーに入れにくいですから」
熱に強く、扱いやすいブレーキ
「クリアランスを10%向上したという触れ込み通り、ブレーキパッドとローターとのコンタクト感も良くなりました。クリス・フルームが言っていた『下りでのローターの熱膨張でシャリシャリと接触音がするようになる』という問題はだいぶ解消されました。もっともこれは、ローターもMTBのXTグレードと同様のものにして熱に強くなったことも大きいですね」
簡便になった変速調整
「フロントディレーラーの位置調整の方法は、すべてDI2で対応する方向に変わりました。これまでは、調整ボルトでこれ以上動かないようにと物理的に制限していたのですが、それを無くしました。アウタートップにしてフロントディレーラー位置を調整、記憶させてあげて、次にアウターローにしてチェーンが当たらないように位置を調整。そしてインナーに変えて、ここでも位置調整をして追い込んであげればOK。作業がシンプルに、わかりやすくなりました。あと、セミワイヤレスになったことで、ブラケットにボタン電池を搭載するようになりましたが、そのバッテリー残量が確認できるのはシマノならではの機能。案外見落としがちで、度々お客さんからも受ける『変速しなくなった』というトラブルの原因がこの電池切れであることも多いんです。」
新型アルテグラの描く大きな絵
ピュアロードレーサーから幅広い用途に対応するロードバイクへ
ここまで見てきた新型R8100系アルテグラの進化のポイントをみていると、シマノがコンポメーカーとしてこのアルテグラで描きたい絵が見えてくるようだ。
これまでアルテグラはデュラエースに次ぐセカンドグレードであることが存在意義であり、いかにデュラエースに近い性能を持ちつつコストパフォーマンスを発揮するかが、ユーザーにとっても焦点だった。
しかし、「ワイドレシオギアが選択できることで、どんな道でも走れる」という小西さんの言葉に象徴されるように、アルテグラはその活躍するフィールドを、ロードレースの外側へと拡張しているようにみえる。北米に発するグラベルカルチャーや、バイクパッキングの世界的な流行を経て、ロードバイクはもはや、レースをするためだけの自転車ではなくなった。
いまや、『ピュアロードレーサー』は定義できても、『ロードバイク』は定義できない時代に突入した。走るべき道はもはや舗装路に限定されない。その領域には未舗装路もあり、時速40km/h以上で走る必要などなく、ライダーのファッションだってピタピタのサイクルジャージに限定されない。
ロードバイクが今謳歌し始めているこの自由と歩調を合わせ、さらに推進するようなコンポーネントを、グローバルリーディングカンパニーのシマノが発表した意義は計り知れない。
ロードレースを20年にわたり楽しみ、日々ロードバイクのトレンドに触れている小西さんの言葉が印象的だ。
「ワイドレシオギアに、30Cのようなワイドタイヤ。ロードバイクはこうなるだろうな、というのが率直な感想です。自分が始めた頃、21Cのタイヤに9気圧を入れて乗っていた時代からすると、乗り心地の良さや走れる場所が増えたことに感動しています。それも当然で、自分が乗っていたのは『ロードレーサー』だったわけです。
そういうバイクに乗っていると『ここは行けない、行くべきではない』と考えがちです。全ての道は繋がっているけれど、自分からその選択肢を切っていたわけです。でも今回のアルテグラが出てきて、また太いタイヤの履ける広義のロードバイクが出てきたことで、山道のようなマウンテンバイクの領域を除けばどんなところにも行けるようになったと思います。」
とかく私達は最新テクノロジーが投入された新型コンポを、1秒でも速く走るための機材として捉えがちだ。しかしこのアルテグラにあっては、テクノロジーはライダーの速度はもちろんとして、自転車の自由を自由たらしめるためにあるようにみえる。
次記事では、実際にライドでアルテグラの使用感とともに、このコンポの目指す地平を感じ、レビューしたい。果たして、待っているのはどんな道なのだろうか。
製品詳細については新製品情報 R8100系ULTEGRA登場を参照。
お話を伺った人
小西祐介さん(なるしまフレンド神宮店)
なるしまフレンドのメカニックチーフにして20年以上のレース経験を持つ。かつてはホビーレーサーとしてツール・ド台湾などの国際レースにも参戦。現在はピナレロDOGMA F12を相棒に、険しい林道や山間部のロングライド、プチグルメを求めての休日ライドなどを楽しんでいる。
なるしまフレンド神宮店HP
CWレコメンドショップページ
なるしまフレンドのメカニックチーフにして20年以上のレース経験を持つ。かつてはホビーレーサーとしてツール・ド台湾などの国際レースにも参戦。現在はピナレロDOGMA F12を相棒に、険しい林道や山間部のロングライド、プチグルメを求めての休日ライドなどを楽しんでいる。
なるしまフレンド神宮店HP
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text:小俣雄風太、写真:綾野 真、提供:シマノセールス