2021/09/22(水) - 18:20
北海道のグラベルは、生きている。羊蹄山の裾野に広がるそば畑の中を、一直線に貫く未舗装路に車輪を踏み入れた時、僕は確かにそう感じた。日常的な往来を感じさせる整った路面と、瑞々しい森の中に点在する生活の拠点や放牧地。僕たちグラベルライダーにとってのフロンティアがそこにはあった。
北海道の道央地方西部にある後志(しりべし)地方の中でも、ニセコの存在感は際立っていると言って良い。ウインタースポーツに通じる方なら世界有数のパウダースノーの魅力を知っていることであろうし、蝦夷富士として親しまれる羊蹄山は、古くから神が宿る山として特別な存在感を醸し出してきた。
そして今、ニセコエリアを中心とするこの地域は自転車乗りの聖地として芽吹こうとしている。もとより雄大な自然を楽しめるロケーションが広がるこの地に誕生した「ニセコクラシック」は、最長150kmのラインレースとしてロードレーサーたちの心を掴み、さらに無数の未舗装路を使ったグラベルイベント「ニセコグラベル」もテストイベントを経て今年初開催。もはやこの地を訪れない理由を探す方が難しい、とさえ思えた。
千歳空港で「やっぱり北海道の空気は肌に合う」と喜ぶキャノンデールのカズこと山本和弘さんと合流し、まず向かった先はニセコではなく、小樽。今回の案内役を務めてくれる写真家の渡辺洋一さんと、山岳ガイドの立本明広さんを訪ねるためだ。石狩湾から潮の香りが吹き上げる、春香山(はるかやま)の裾野にタッチー(立本)さんの素敵な自宅はあった。
いかにも雪山の男を感じさせる、たっぷりと日焼けした顔をくしゃっと笑わせて出迎えてくれたお二人。さあ自己紹介、と思いきや、「挨拶は走りながらしようよ!」。バイタリティの塊のようなお二人に勧められるがまま、あれよあれよとタッチーさんのホームコースに出かけることとなった。
美しく整った未舗装林道から小高い丘を登り、頂上で石狩湾を望む眺望を堪能し、声を上げたくなるようなハイスピードダウンヒルで15kmのループを取る。「冬なら自宅のドアtoドアでバックカントリースキーを楽しめる場所なんです」と笑うタッチーさんの"ホーム"コースは、グラベルロードやMTBにも素晴らしいレイアウト。そしてその最後には、筋金入りのマウンテンバイク乗りであることを何よりも主張する、自宅の庭に作り上げたお手製トレイルを走らせてもらうこともできた。
ドイツ語で自転車乗りを意味する名が付けられたビールで乾杯し、奥様が作る美味しい料理に舌鼓を打ちながら、ライド本番となる明日の工程に胸躍らせた。目指すのは、ニセコに根を下ろし、グラベルバイクでコース開拓に勤しむ渡辺(洋一)さんがイチ押しする、羊蹄山の麓の未舗装路。明日は朝6時起きの予定だ。
他と似ているようで、どことも違う。ニセコという場所は、雄大で、どこか優しさを感じさせる唯一無二の場所だった。中心街は外資投入による高級リゾートとして発展を続けているものの、ふと中心街から離れれば、開拓使が切り開いた牧歌的な農村風景が延々と続く。その中にすっくと佇む羊蹄山は、格別な存在感をもって僕たちを迎えてくれた。
洋一さんのアトリエであり、奥様の和菓子工房でもある自宅で準備を進めた。庭に群生しているペパーミントを摘まみ、手で揉んでからボトルに入れるのが洋一さん流だ。ものの5分も走らず尻別川のほとりに到着すると、そこにはすぐ近くの高級リゾートの存在を感じさせない、素敵な道の入り口が待っていた。
幻の魚とも呼ばれるイトウが棲む尻別川沿いを離れ、収穫の時期が近づくじゃがいもや蕎麦、あるいは小麦の畑沿いを駆け抜ける爽快なグラベルライドを楽しむ。さっきまで遠く感じていた羊蹄山があっと言う間に目の前に迫り、いよいよその山裾に分け入っていく。そしてこの林道もまた、グラベルタイヤに適した整った極上ルートだった。
どーんと登り、どーんと下る。北海道にまっすぐな道が多い理由は、入植時代の屯田区画に基づき、原野に一直線を引いて道を作ったからだ。しかしその方程式はどうやら林道作りにも引き継がれているらしく、谷沿いや急勾配区間でもない限り、本州ではなかなか見ない一直線のルートが続いていた。上りは結構辛いけれど、行き先をまっすぐに見通せるハイスピードダウンヒルに、僕とカズさんは「やばい!」の連続。あまりの楽しさに語彙力が低下していくのを禁じ得ない。
日頃の往来を感じさせる整った路面はグリップも良く、ノブが低くエアボリューム豊富なグラベルタイヤにこそベストマッチする。何度か走ったアメリカのグラベルもこうだったな...と思い浮かべているうちに、スピード狂を自負するタッチーさんとカズさんは、水を得た魚のようにどんどん加速し、土煙の向こう側に消えていった。
関東の未舗装路と言えば半ば廃道化していることも少なくないけれど、ニセコは全くもって事情が違うらしい。「かつての道を繋ぐことができれば、羊蹄山を1周する50kmコースも夢じゃない」という洋一さんの言葉に思わずワクワクしてしまう。そして聞くところによれば、この周囲にはどうやらMTBで走れるロングトレイルも伸びている、とも。
旧びた、それでいてきちんとメンテナンスが行き届いた北海道らしいトラックとすれ違いながら丘を越え、休憩場所で自転車北海道旅行中だという若者2人組と会話を楽しんだ。この日の工程を終え、シャワーを浴び、明日のニセコグラベルのために現地入りしたグラベルライダーも合流して地ビールとワインで乾杯。イベント前日独特の高揚感高まる中で、若干飲みすぎた頭を抱えながらホテルに戻った。
一言で言えば、第一回目となるニセコグラベルは、もうすでに素晴らしいイベントだった。初回らしい荒削りさは感じたけれど、前日走った羊蹄周辺とはまた違った風景を見ながら、地元北海道を中心に、日本全国から集まった同志とともにペダルを回した。
みんな自転車も、体力も、タイヤの太さもバラバラだったけれど、共通したのは「ニセコは凄い」という強烈な印象。急勾配上りあり、緩いコーナーが続く、みんなが「最高」と口をそろえる長大ダウンヒルあり。80kmで獲得標高1600mという文字以上の満足感と疲労感を感じながら、たっぷり時間をかけてコースを走りきった。来年はよりパワーアップして開催するとのことで、ぜひその進化ぶりをこの目で見ようと誓ったのであった。
ところで、3日半のニセコ滞在を通じて強く私の心に残ったのが、案内役である洋一さんが繰り返した「シェアトレイル」という言葉だった。シェアトレイルとは、地元の方々の通行はもちろん、自転車や山歩き、ホースライディングなど、様々な目的を持つ人々と山道を共有し、保全していくという考えのこと。基本的にハイカー優先であり、MTB乗りのマナー問題が取り沙汰される日本ではまだまだ共有されていない。
でも、ずっと山と共に過ごしてきた洋一さんとタッチーさんは、この概念が言葉になる前から率先して取り組んできた。「難しく考えなくて良いんですよ。自転車に乗って、地元の人が見えたら、減速して、停まって、道を譲り、こんにちはと声を掛けるだけ。それは向こうが交通強者のクルマでも同じこと。田舎では"自転車がびゅんびゅん走って危ないんだよ"と発言されるだけでのけものにされてしまう。自分たちの遊びを守るためじゃなくて、遊ばせて"もらっている"という認識をみんなが持てば、より良い環境ができていくんですよ」と洋一さんは言う。
自転車に乗る豊かさの一つが、自由気ままに自然の中を走ること。しかし、特に自然と近いオフロードライドを楽しむライダー一人一人が、フィールドをシェアするという認識を持って走る、そして行動するというタイミングに来ているのではないだろうか。今まで漠然と頭の中にあった考えは、お二人のスタイルを見るにつれ使命感のようなものに変化するのを感じていた。
ロードはもちろん、グラベルバイクにも絶好のライド環境が広がるだけでなく、食事や温泉も楽しめるニセコ周辺は、改めてサイクリストにとっての天国だと感じた。タッチーさんのガイドオフィス「NORTE(ノルテ)」
では、スキーはもちろんのこと、MTBで春香山やニセコのツアートリップを定期的に実施しているから、興味のある方はぜひ問い合わせてみてほしい。きっと素晴らしい旅になるはずだから。
数あるTopstoneシリーズの中でも、整ったニセコのグラベルにぴったりな一台がリジッドフォークを備えたノンLeftyのTopstone Carbon 5。Lefty搭載モデルと同じ、軽量かつ柔軟性に富むカーボンフレームに、シマノ GRXの上級コンポーネントを組み合わせつつ、322,300円という買い求めやすい価格を実現した一台。700cホイールと37cスリックタイヤの組み合わせは、未舗装路や荒れた林道を組み込んだロードライドに最適だ。搭載コンポ違いの286,000円モデル「Topstone Carbon 6」もラインナップされている。
Topstone Carbon 5詳細
北海道の道央地方西部にある後志(しりべし)地方の中でも、ニセコの存在感は際立っていると言って良い。ウインタースポーツに通じる方なら世界有数のパウダースノーの魅力を知っていることであろうし、蝦夷富士として親しまれる羊蹄山は、古くから神が宿る山として特別な存在感を醸し出してきた。
そして今、ニセコエリアを中心とするこの地域は自転車乗りの聖地として芽吹こうとしている。もとより雄大な自然を楽しめるロケーションが広がるこの地に誕生した「ニセコクラシック」は、最長150kmのラインレースとしてロードレーサーたちの心を掴み、さらに無数の未舗装路を使ったグラベルイベント「ニセコグラベル」もテストイベントを経て今年初開催。もはやこの地を訪れない理由を探す方が難しい、とさえ思えた。
千歳空港で「やっぱり北海道の空気は肌に合う」と喜ぶキャノンデールのカズこと山本和弘さんと合流し、まず向かった先はニセコではなく、小樽。今回の案内役を務めてくれる写真家の渡辺洋一さんと、山岳ガイドの立本明広さんを訪ねるためだ。石狩湾から潮の香りが吹き上げる、春香山(はるかやま)の裾野にタッチー(立本)さんの素敵な自宅はあった。
いかにも雪山の男を感じさせる、たっぷりと日焼けした顔をくしゃっと笑わせて出迎えてくれたお二人。さあ自己紹介、と思いきや、「挨拶は走りながらしようよ!」。バイタリティの塊のようなお二人に勧められるがまま、あれよあれよとタッチーさんのホームコースに出かけることとなった。
美しく整った未舗装林道から小高い丘を登り、頂上で石狩湾を望む眺望を堪能し、声を上げたくなるようなハイスピードダウンヒルで15kmのループを取る。「冬なら自宅のドアtoドアでバックカントリースキーを楽しめる場所なんです」と笑うタッチーさんの"ホーム"コースは、グラベルロードやMTBにも素晴らしいレイアウト。そしてその最後には、筋金入りのマウンテンバイク乗りであることを何よりも主張する、自宅の庭に作り上げたお手製トレイルを走らせてもらうこともできた。
ドイツ語で自転車乗りを意味する名が付けられたビールで乾杯し、奥様が作る美味しい料理に舌鼓を打ちながら、ライド本番となる明日の工程に胸躍らせた。目指すのは、ニセコに根を下ろし、グラベルバイクでコース開拓に勤しむ渡辺(洋一)さんがイチ押しする、羊蹄山の麓の未舗装路。明日は朝6時起きの予定だ。
他と似ているようで、どことも違う。ニセコという場所は、雄大で、どこか優しさを感じさせる唯一無二の場所だった。中心街は外資投入による高級リゾートとして発展を続けているものの、ふと中心街から離れれば、開拓使が切り開いた牧歌的な農村風景が延々と続く。その中にすっくと佇む羊蹄山は、格別な存在感をもって僕たちを迎えてくれた。
洋一さんのアトリエであり、奥様の和菓子工房でもある自宅で準備を進めた。庭に群生しているペパーミントを摘まみ、手で揉んでからボトルに入れるのが洋一さん流だ。ものの5分も走らず尻別川のほとりに到着すると、そこにはすぐ近くの高級リゾートの存在を感じさせない、素敵な道の入り口が待っていた。
幻の魚とも呼ばれるイトウが棲む尻別川沿いを離れ、収穫の時期が近づくじゃがいもや蕎麦、あるいは小麦の畑沿いを駆け抜ける爽快なグラベルライドを楽しむ。さっきまで遠く感じていた羊蹄山があっと言う間に目の前に迫り、いよいよその山裾に分け入っていく。そしてこの林道もまた、グラベルタイヤに適した整った極上ルートだった。
どーんと登り、どーんと下る。北海道にまっすぐな道が多い理由は、入植時代の屯田区画に基づき、原野に一直線を引いて道を作ったからだ。しかしその方程式はどうやら林道作りにも引き継がれているらしく、谷沿いや急勾配区間でもない限り、本州ではなかなか見ない一直線のルートが続いていた。上りは結構辛いけれど、行き先をまっすぐに見通せるハイスピードダウンヒルに、僕とカズさんは「やばい!」の連続。あまりの楽しさに語彙力が低下していくのを禁じ得ない。
日頃の往来を感じさせる整った路面はグリップも良く、ノブが低くエアボリューム豊富なグラベルタイヤにこそベストマッチする。何度か走ったアメリカのグラベルもこうだったな...と思い浮かべているうちに、スピード狂を自負するタッチーさんとカズさんは、水を得た魚のようにどんどん加速し、土煙の向こう側に消えていった。
関東の未舗装路と言えば半ば廃道化していることも少なくないけれど、ニセコは全くもって事情が違うらしい。「かつての道を繋ぐことができれば、羊蹄山を1周する50kmコースも夢じゃない」という洋一さんの言葉に思わずワクワクしてしまう。そして聞くところによれば、この周囲にはどうやらMTBで走れるロングトレイルも伸びている、とも。
旧びた、それでいてきちんとメンテナンスが行き届いた北海道らしいトラックとすれ違いながら丘を越え、休憩場所で自転車北海道旅行中だという若者2人組と会話を楽しんだ。この日の工程を終え、シャワーを浴び、明日のニセコグラベルのために現地入りしたグラベルライダーも合流して地ビールとワインで乾杯。イベント前日独特の高揚感高まる中で、若干飲みすぎた頭を抱えながらホテルに戻った。
一言で言えば、第一回目となるニセコグラベルは、もうすでに素晴らしいイベントだった。初回らしい荒削りさは感じたけれど、前日走った羊蹄周辺とはまた違った風景を見ながら、地元北海道を中心に、日本全国から集まった同志とともにペダルを回した。
みんな自転車も、体力も、タイヤの太さもバラバラだったけれど、共通したのは「ニセコは凄い」という強烈な印象。急勾配上りあり、緩いコーナーが続く、みんなが「最高」と口をそろえる長大ダウンヒルあり。80kmで獲得標高1600mという文字以上の満足感と疲労感を感じながら、たっぷり時間をかけてコースを走りきった。来年はよりパワーアップして開催するとのことで、ぜひその進化ぶりをこの目で見ようと誓ったのであった。
ところで、3日半のニセコ滞在を通じて強く私の心に残ったのが、案内役である洋一さんが繰り返した「シェアトレイル」という言葉だった。シェアトレイルとは、地元の方々の通行はもちろん、自転車や山歩き、ホースライディングなど、様々な目的を持つ人々と山道を共有し、保全していくという考えのこと。基本的にハイカー優先であり、MTB乗りのマナー問題が取り沙汰される日本ではまだまだ共有されていない。
でも、ずっと山と共に過ごしてきた洋一さんとタッチーさんは、この概念が言葉になる前から率先して取り組んできた。「難しく考えなくて良いんですよ。自転車に乗って、地元の人が見えたら、減速して、停まって、道を譲り、こんにちはと声を掛けるだけ。それは向こうが交通強者のクルマでも同じこと。田舎では"自転車がびゅんびゅん走って危ないんだよ"と発言されるだけでのけものにされてしまう。自分たちの遊びを守るためじゃなくて、遊ばせて"もらっている"という認識をみんなが持てば、より良い環境ができていくんですよ」と洋一さんは言う。
自転車に乗る豊かさの一つが、自由気ままに自然の中を走ること。しかし、特に自然と近いオフロードライドを楽しむライダー一人一人が、フィールドをシェアするという認識を持って走る、そして行動するというタイミングに来ているのではないだろうか。今まで漠然と頭の中にあった考えは、お二人のスタイルを見るにつれ使命感のようなものに変化するのを感じていた。
ロードはもちろん、グラベルバイクにも絶好のライド環境が広がるだけでなく、食事や温泉も楽しめるニセコ周辺は、改めてサイクリストにとっての天国だと感じた。タッチーさんのガイドオフィス「NORTE(ノルテ)」
では、スキーはもちろんのこと、MTBで春香山やニセコのツアートリップを定期的に実施しているから、興味のある方はぜひ問い合わせてみてほしい。きっと素晴らしい旅になるはずだから。
使用バイク:Topstone Carbon 5
数あるTopstoneシリーズの中でも、整ったニセコのグラベルにぴったりな一台がリジッドフォークを備えたノンLeftyのTopstone Carbon 5。Lefty搭載モデルと同じ、軽量かつ柔軟性に富むカーボンフレームに、シマノ GRXの上級コンポーネントを組み合わせつつ、322,300円という買い求めやすい価格を実現した一台。700cホイールと37cスリックタイヤの組み合わせは、未舗装路や荒れた林道を組み込んだロードライドに最適だ。搭載コンポ違いの286,000円モデル「Topstone Carbon 6」もラインナップされている。
Topstone Carbon 5詳細
提供:キャノンデール・ジャパン、
text:So.Isobe photo:Yoichi Watanabe
text:So.Isobe photo:Yoichi Watanabe