2021/09/01(水) - 09:58
いよいよシマノが誇るロードコンポーネントの頂点、「DURA-ACE」がフルモデルチェンジを果たす。12速化とセミワイヤレス方式の採用、こだわり抜かれたギア形状による更なる変速スピード向上、コントロール性を増したブレーキとSTIレバー、そしてラインナップを総刷新した3種類のホイール。時代を切り拓き、牽引してきたシマノが放つ新たなるDURA-ACEの詳細を掘り下げる。
1973年にデビューした初代DURA-ACEから数えて実に48年。ツール・ド・フランスを始めとしたグランツールや世界選手権、オリンピック、モニュメントと呼ばれる格式あるクラシックレースといった数々のビッグレース制覇に貢献してきたシマノが、第10世代となるDURA-ACEをデビューさせた。
DURA-ACEのフルモデルチェンジはスポーツバイク界にとってのビッグニュース。今年のツール・ド・フランス前哨戦ではチームDSMによってプロトタイプが運用され、その存在が世界中のファンの知るところになった。ツールでの実戦投入こそなかったものの、限りなく製品版に近い完成度のプロトタイプの姿はデビューが近いことを匂わせており、期待度が最高潮に達する中で今回の発表へと繋がった。
先代となったR9100系デビューからじつに5年。12速化とセミワイヤレスシステムという大きな変革を遂げ、R9200系DURA-ACEはR9100系登場を上回るインパクトと共にベールを脱ぐ。
記念すべき第10世代DURA-ACEが掲げたテーマは「SCIENCE of SPEED(サイエンス・オブ・スピード)」。「進化した新しいDI2プラットフォーム」、「洗練されたインターフェイス」、「最先端のドライブトレイン」、「ブレーキシステムの強化」、「ロードレーシングホイールの再定義」という5つの柱を軸において開発され、全てにおいて妥協を許さないドライブトレインへと進化したという。
12速化もさることながら、最大の注目点はDI2の変速システムがセミワイヤレス化を遂げたことだろう。STIレバーの変速スイッチとリアディレイラーが無線接続、リアディレイラーとフロントディレイラーはフレーム内蔵バッテリーを介して有線接続されることで、従来のフル有線接続に対して組み付け時の利便性と軽量化を、フル無線接続に対しては充電の利便性と確実な電力供給、そしてシフトパフォーマンス向上といった多くの利点を叶えるに至った。
スイッチとリアディレイラー間の接続はシマノ独自開発のワイヤレスICであり、セキュリティを保ちながら高速処理と消費電力低減を実現。カセットにも工夫を凝らすことで従来に対して変速スピードをリア58%、フロント45%短縮と圧倒的な変速スピードを実現するに至った。R9100世代ですら変速スピードは絶対的だったが、その約半分という短縮ぶりはプロアマ問わず世界中のサイクリストにとって絶対的なアドバンテージとなりうる。
12速化を果たしたリアカセットにはXTRで初採用されたHYPERGLIDE+(ハイパーグライドプラス)が取り入れられ、シフト中にもトルクを掛けた状態でペダリングが続けられるようになった。カセット歯数は11-30Tと11-34Tの2種類に統合され、それに伴いフロントチェーンリングは従来の50-34Tと52-36Tに加え、54-40Tが加わった。なお12速カセットは従来の11速ハブのフリーボディにも対応するため、手持ちのホイールをそのまま12速化させることが可能だ。
UCIルールの変更を踏まえ、ブラケットを握るエアロポジションにフィットするよう進化したSTIレバーや、ブレーキコントロールの範囲を拡大し、より扱いやすくなったディスクブレーキなど、その変更点は細部にまで渡り、まさに全方位的な完全進化を成し遂げた。なおディスクローターはXTRグレードとして開発されたRT-MT900が標準仕様となる。
12速化を遂げたこと、そして駆動剛性向上を図ったクランクやロングケージ化したリアディレイラーなど一部重量を増やしたパーツがあるものの、小型化したフロントディレイラーなど細部の軽量化によってトータル重量は2,508g。R9100との比較では34Tスプロケットを使用する際の微増を除き、ほぼ同重量に抑えている。
また、プロレーサーや市場の趣向を踏まえ、R9200系DURA-ACEはDI2のみのラインナップとなり、リムブレーキ版DI2コンポも継続される。デュアルコントロールレバーは新しいE-TUBEに対応したポートに変更され、ブレーキキャリパーはR9100シリーズからのコスメ(仕上げ)変更程度のマイナーチェンジに抑えられている。
それでは以下より、DURA-ACEの細部に宿る「SCIENCE of SPEED」の5本柱のテクノロジー詳細を見ていきたい。
なおワイヤレス化に伴い従来のジャンクションAとワイヤレスユニット、そして充電器(受け側)は全てリアディレイラー(RD-R9250)に統合されたため、リアディレイラーがDI2の全てを司る頭脳に。充電ポートもディレイラー本体に装備され、従来より細く軽くなったE-tubeケーブルを介してバッテリーに給電するよう変化した。
プレゼンテーションの言葉を借りればこのシステムは「安定した電力供給とシフトパフォーマンスを叶える信頼の置けるもの」であり、R9100系に対する変速時間短縮は前述のとおりリア58%、フロント45%。E-tubeケーブルも細く、ヘッド(差し込み口)も小型化したことで軽量化を叶えたほか、組み付け時のルーティング作業もより容易になっている。
シマノ独自開発のワイヤレスIC(集積回路)はZigBeeに対して処理速度が4倍、消費電力を75%削減し、さらに電波干渉によるトラブルも起こりにくい。目安として1回の充電で約1,000kmを走り抜くことができ、STIのボタン電池は1.5年から2年の使用が可能だ。さらにオプションとして従来通りのワイヤード(有線)オプションも用意しており、ワイヤレスと比較して使用可能時間を50%延長。ワイヤレスのバックアップシステムとしても機能する。
バイク全体のビジュアルに大きく影響するSTIレバーも大きく見直された。高速化するロードレースでのエアロポジションは重要度を増す一方、UCIルールで"スーパータック"が禁止されるなどポジションが模索される中で、シマノはプロチームの意見を汲み、油圧ディスクブレーキ用のDI2コントロールレバー「ST-R9270」を開発。ブラケットポジションでエアロフォームが取りやすいよう配慮されている。
具体的にはR9100シリーズよりもブラケットフードをやや内側に倒すことでエルゴノミクスを追求し、プロ選手間で流行する「幅狭ハンドル+内向きレバー」のセッティングにも対応するようになった。無線送信機が組み込まれたことで僅かに大ぶりとなったものの、その差は手が小さいユーザーでも安心してコントロールできる範囲内と言える。
STIレバーのフード部「グリップエリア」と呼ばれるブレーキレバーとハンドルの間には指三本が余裕をもって入るよう4.6mm拡大された一方、変速スイッチが下方に5.1mm伸ばされたことで下ハンドルを握った際のアクセスが向上したほか、しっかりと握り込んだ際も掌に痛みが出ないよう裏側がスムージングされている。片側に2つずつ用意されるDI2ボタンは押し間違いを防ぐためにオフセット量を増加させている。
リモートスイッチはハンドルのドロップ(SW-RS801-S)、上ハンドル(SW-RS801-T)、オプションとしてハンドルバーを加工してスイッチユニットを埋め込む3パターンのいずれかを使用可能。DI2の幅広いカスタマイズが可能なスマートフォンアプリ「E-tubeプロジェクト」は新しいプラットフォームとなることでユーザビリティを向上させている。
クランクと前後ディレイラー、そしてチェーンからなる12速化したドライブトレインは、ギア構成、変速性能、駆動剛性など各項目が最適化され、「新しいベンチマーク」へと昇華している。
高速化を遂げ、さらに下りも勝負所となっている現代のロードレース事情に対応するべく、クランクセットには新たに54-40Tが用意された。その一方でトップ11Tを継続する12速リアカセットは11-30Tと11-34Tの2つを用意。11-30Tでは中間ギアに16Tを追加することで11Tから17Tまでロー側1T刻みというクロスレシオを実現。11-34Tはフロントインナー34Tと組み合わせれば1×1のローギアを実現する。
12速化とセミワイヤレス化を遂げた第10世代DURA-ACE
1973年にデビューした初代DURA-ACEから数えて実に48年。ツール・ド・フランスを始めとしたグランツールや世界選手権、オリンピック、モニュメントと呼ばれる格式あるクラシックレースといった数々のビッグレース制覇に貢献してきたシマノが、第10世代となるDURA-ACEをデビューさせた。
DURA-ACEのフルモデルチェンジはスポーツバイク界にとってのビッグニュース。今年のツール・ド・フランス前哨戦ではチームDSMによってプロトタイプが運用され、その存在が世界中のファンの知るところになった。ツールでの実戦投入こそなかったものの、限りなく製品版に近い完成度のプロトタイプの姿はデビューが近いことを匂わせており、期待度が最高潮に達する中で今回の発表へと繋がった。
先代となったR9100系デビューからじつに5年。12速化とセミワイヤレスシステムという大きな変革を遂げ、R9200系DURA-ACEはR9100系登場を上回るインパクトと共にベールを脱ぐ。
テーマは「SCIENCE of SPEED」 妥協を許さずさらなる高みへ
記念すべき第10世代DURA-ACEが掲げたテーマは「SCIENCE of SPEED(サイエンス・オブ・スピード)」。「進化した新しいDI2プラットフォーム」、「洗練されたインターフェイス」、「最先端のドライブトレイン」、「ブレーキシステムの強化」、「ロードレーシングホイールの再定義」という5つの柱を軸において開発され、全てにおいて妥協を許さないドライブトレインへと進化したという。
12速化もさることながら、最大の注目点はDI2の変速システムがセミワイヤレス化を遂げたことだろう。STIレバーの変速スイッチとリアディレイラーが無線接続、リアディレイラーとフロントディレイラーはフレーム内蔵バッテリーを介して有線接続されることで、従来のフル有線接続に対して組み付け時の利便性と軽量化を、フル無線接続に対しては充電の利便性と確実な電力供給、そしてシフトパフォーマンス向上といった多くの利点を叶えるに至った。
スイッチとリアディレイラー間の接続はシマノ独自開発のワイヤレスICであり、セキュリティを保ちながら高速処理と消費電力低減を実現。カセットにも工夫を凝らすことで従来に対して変速スピードをリア58%、フロント45%短縮と圧倒的な変速スピードを実現するに至った。R9100世代ですら変速スピードは絶対的だったが、その約半分という短縮ぶりはプロアマ問わず世界中のサイクリストにとって絶対的なアドバンテージとなりうる。
12速化を果たしたリアカセットにはXTRで初採用されたHYPERGLIDE+(ハイパーグライドプラス)が取り入れられ、シフト中にもトルクを掛けた状態でペダリングが続けられるようになった。カセット歯数は11-30Tと11-34Tの2種類に統合され、それに伴いフロントチェーンリングは従来の50-34Tと52-36Tに加え、54-40Tが加わった。なお12速カセットは従来の11速ハブのフリーボディにも対応するため、手持ちのホイールをそのまま12速化させることが可能だ。
UCIルールの変更を踏まえ、ブラケットを握るエアロポジションにフィットするよう進化したSTIレバーや、ブレーキコントロールの範囲を拡大し、より扱いやすくなったディスクブレーキなど、その変更点は細部にまで渡り、まさに全方位的な完全進化を成し遂げた。なおディスクローターはXTRグレードとして開発されたRT-MT900が標準仕様となる。
12速化を遂げたこと、そして駆動剛性向上を図ったクランクやロングケージ化したリアディレイラーなど一部重量を増やしたパーツがあるものの、小型化したフロントディレイラーなど細部の軽量化によってトータル重量は2,508g。R9100との比較では34Tスプロケットを使用する際の微増を除き、ほぼ同重量に抑えている。
また、プロレーサーや市場の趣向を踏まえ、R9200系DURA-ACEはDI2のみのラインナップとなり、リムブレーキ版DI2コンポも継続される。デュアルコントロールレバーは新しいE-TUBEに対応したポートに変更され、ブレーキキャリパーはR9100シリーズからのコスメ(仕上げ)変更程度のマイナーチェンジに抑えられている。
それでは以下より、DURA-ACEの細部に宿る「SCIENCE of SPEED」の5本柱のテクノロジー詳細を見ていきたい。
圧倒的な変速性能を叶える新DI2プラットフォーム
R9200系DURA-ACEの肝点は「Fastest shifting ever」、つまり最速のシフト性能を目指したセミワイヤレスシステムだ。変速スイッチ(ST-R9270)とリアディレイラー(RD-R9250)を無線通信させ、エレクトリックワイヤー(EW-SD300)とバッテリー(BT-DN300)を介してフロントディレイラー(FD-R9250)と接続する。なおワイヤレス化に伴い従来のジャンクションAとワイヤレスユニット、そして充電器(受け側)は全てリアディレイラー(RD-R9250)に統合されたため、リアディレイラーがDI2の全てを司る頭脳に。充電ポートもディレイラー本体に装備され、従来より細く軽くなったE-tubeケーブルを介してバッテリーに給電するよう変化した。
プレゼンテーションの言葉を借りればこのシステムは「安定した電力供給とシフトパフォーマンスを叶える信頼の置けるもの」であり、R9100系に対する変速時間短縮は前述のとおりリア58%、フロント45%。E-tubeケーブルも細く、ヘッド(差し込み口)も小型化したことで軽量化を叶えたほか、組み付け時のルーティング作業もより容易になっている。
シマノ独自開発のワイヤレスIC(集積回路)はZigBeeに対して処理速度が4倍、消費電力を75%削減し、さらに電波干渉によるトラブルも起こりにくい。目安として1回の充電で約1,000kmを走り抜くことができ、STIのボタン電池は1.5年から2年の使用が可能だ。さらにオプションとして従来通りのワイヤード(有線)オプションも用意しており、ワイヤレスと比較して使用可能時間を50%延長。ワイヤレスのバックアップシステムとしても機能する。
エアロトレンドを取り入れ、より扱いやすくなったインターフェイス
バイク全体のビジュアルに大きく影響するSTIレバーも大きく見直された。高速化するロードレースでのエアロポジションは重要度を増す一方、UCIルールで"スーパータック"が禁止されるなどポジションが模索される中で、シマノはプロチームの意見を汲み、油圧ディスクブレーキ用のDI2コントロールレバー「ST-R9270」を開発。ブラケットポジションでエアロフォームが取りやすいよう配慮されている。
具体的にはR9100シリーズよりもブラケットフードをやや内側に倒すことでエルゴノミクスを追求し、プロ選手間で流行する「幅狭ハンドル+内向きレバー」のセッティングにも対応するようになった。無線送信機が組み込まれたことで僅かに大ぶりとなったものの、その差は手が小さいユーザーでも安心してコントロールできる範囲内と言える。
STIレバーのフード部「グリップエリア」と呼ばれるブレーキレバーとハンドルの間には指三本が余裕をもって入るよう4.6mm拡大された一方、変速スイッチが下方に5.1mm伸ばされたことで下ハンドルを握った際のアクセスが向上したほか、しっかりと握り込んだ際も掌に痛みが出ないよう裏側がスムージングされている。片側に2つずつ用意されるDI2ボタンは押し間違いを防ぐためにオフセット量を増加させている。
リモートスイッチはハンドルのドロップ(SW-RS801-S)、上ハンドル(SW-RS801-T)、オプションとしてハンドルバーを加工してスイッチユニットを埋め込む3パターンのいずれかを使用可能。DI2の幅広いカスタマイズが可能なスマートフォンアプリ「E-tubeプロジェクト」は新しいプラットフォームとなることでユーザビリティを向上させている。
トレンドに対応した最先端のドライブトレイン
クランクと前後ディレイラー、そしてチェーンからなる12速化したドライブトレインは、ギア構成、変速性能、駆動剛性など各項目が最適化され、「新しいベンチマーク」へと昇華している。
高速化を遂げ、さらに下りも勝負所となっている現代のロードレース事情に対応するべく、クランクセットには新たに54-40Tが用意された。その一方でトップ11Tを継続する12速リアカセットは11-30Tと11-34Tの2つを用意。11-30Tでは中間ギアに16Tを追加することで11Tから17Tまでロー側1T刻みというクロスレシオを実現。11-34Tはフロントインナー34Tと組み合わせれば1×1のローギアを実現する。
CS-R9200スプロケット 歯数一覧
Top | 11th | 10th | 9th | 8th | 7th | 6th | 5th | 4th | 3rd | 2nd | Low | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
11-30T | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 19 | 21 | 24 | 27 | 30 |
11-34T | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 17 | 19 | 21 | 24 | 27 | 30 | 34 |
なお、R9100シリーズではカセットのロー側スパイダーにカーボン素材を採用していたものの、12速化に伴ってより高い工作精度が求められたためアルミ製へと変更されている。軽量性を追い求めるためにロー側のコグにチタン素材を使うのは従来と共通だ。シフト中にもペダリングを続けられるHYPERGLIDE+により、従来システムの1/3の変速時間を叶えつつ、トルクを掛けながらでもスムーズで高精度なシフト操作が可能になった。
変速時間を45%短縮したフロントディレイラー、FD-R9250が小型化したことはR9200シリーズの大きな特徴の一つ。モーターとのリンク構造を見直すことで小型軽量化を叶え、前方投影面積は-33%、そして97gという軽量化を成し遂げた。
コンポーネントの顔とも言えるクランクは構造から見直しが図られ、駆動剛性を増すために先代比較で左右クランクアームが太くなった。さらに従来接着工法を採用していた左クランクは中空鍛造による一体成型品に進化。アームの中央部分にくぼみがつけられているのは、剛性を高めつつシューズとの接触を最小限にとどめるよう配慮されているためだという。
クランク長は160mm、165mm、167.5mm、170mm、172.5mm、175mm、177.5mmが用意された。小柄なユーザーや流行のショートクランク化の要望さえ受け止める長さのラインアップを揃えた。
クランクと一体化するパワーメーターはより正確なデータ収集能力(測定精度は±1.5%)と、最大300時間使用可能なバッテリーのロングライフ化が図られた。パワーメーターがセットされたクランクは後日のリリースとなる。
コントロール性と整備性を高めたブレーキシステム
プロレースの高速化によるギア構成の変化は上に記した通りだが、それ以上に重要度を増すのがブレーキング性能だ。これまでシマノのディスクブレーキシステムはパワフルな制動力に定評を得てきたが、今回はブレーキキャリパーのパッドクリアランスを10%拡大し、レバー(ST-R9270)もST-R9170に対して「コントロールエリア」を13%広げることで、ブレーキパッドとローターが接触してからフルブレーキまでの範囲に余裕を持たせた。パッドクリアランスの拡大はストレスとなるローター接触による音鳴りの改善にも繋がっている。
「あらゆるコーナーや下りをチャンスに変える」とは発表会で語られた言葉。ホイールロックしづらくなったことで、レーサーのみならず一般ユーザーにもコーナーやダウンヒルでのスピードコントロールが容易になった。ブレーキローターは従来XTR用としてラインナップされながら、軽さやブレーキ熱によるローター変形のしずらさゆえにプロチームに採用されてきたRT-MT900がDURA-ACEとしても標準採用されることとなった。
ワンピース構造による小型軽量化を遂げたブレーキキャリパー(BR-R9270)はブリーディングホースの接続位置が見直され、フレームからキャリパーを外さずともブリーディングが可能になったほか、ネジとボスが分離されたことでブリーディングプロセスそのものも改善する。また、ブレーキピストンはセラミックからレジン製へと変更されている。
3種類のリムハイトを揃える、進化したホイールラインナップ
ドライブトレインやブレーキシステムと同じく、多数のヨーロッパプロチームで使われ、勝利を挙げてきたホイールラインナップが総刷新された。従来40mmと60mmのリムハイトが用意されていたが、R9200シリーズでは36mm、50mm、60mmという3種類のリムハイトによって役割を明確にし、超級山岳の登りから平坦レースの高速巡航まであらゆるシチュエーションをカバーする。いずれもディスクブレーキモデルとリムブレーキモデルが用意され、リムブレーキはプロユースを踏まえてチューブラーモデルのみの設定だ。
シマノ曰く、ラインナップの中核は50mmハイトのC50であり、C36はヒルクライムに特化したモデルで、C60はルーラーやスプリンターに向けたもの。C60はフロントに左右2:1の専用スポークパターン(C36とC50は左右1:1の標準パターン)を採用し、さらに1.8mm(C36とC50は1.5mm)のスポークで組み上げることで横剛性の向上が図られた。
これら新型ホイールのフリーハブボディは従来のチタンからアルミ製に変更することで極限まで軽量化(-45g)。リアハブにはXTRに採用されたものとほぼ共通のフェイスラチェット式フリーハブ「ダイレクトエンゲージメント」を用いることで、軽量化はもちろん駆動効率の向上(C40-TL比で63%)が図られている。シマノによればC50-TLの空気抵抗はC40-TL比で-5.1ワット、C60-TL比でも-1.0ワット(実際のレースシーンに基づくシマノ調査)を叶えつつ、さらに157gという軽量化を達成している。
開発テストを担った木村圭佑選手(シマノレーシング)に聞く
DURA-ACEの開発にあたっては、開発者に近く秘密を守れることでシマノレーシングの選手たちも開発に協力したという。製品化前のプロトタイプをテストしてきた木村圭佑キャプテンにもテストで感じたこと、製品の印象を語ってもらった。木村:製品テストには約4年前から取り組んでいました。ブレーキなら測定装置を背負って峠を登ったり下ったり。ほぼ完成に近い製品版になってからも1週間で1,000km乗り込むテストライドを行い、製造部門へフィードバックしてきました。僕らの役割は欧州のワールドツアー選手に渡す前の”マイナートラブル出し”です。
91デュラですでに不満が無かったんですが、92デュラを渡されて使ってみると、進化しているのがわかります。とくに変速が良くなっている。今までは変速の際に脚のトルクを無意識に抜いていたんですが、スプリントでも踏みっぱなしでギアをシフトアップしていくことができます。パチパチ変わってショックが無く、確実に決まる。変速にストレスを感じないですね。フロントがとにかく速くなっています。坂を登り切ったピークでインナーからアウターに変速してすぐ加速を始められるんです。
ブレーキもコントロールしやすい。下りでレバーを握り込んでもパワーが分散されず、最後までしっかりブレーキングできる。そしてスピードコントロールがしやすい。テスト中に激坂下りでチームメイトの横山航太を離したんです。普段は絶対にテクニシャンの彼に僕が遅れるのに、彼を離すことができたのは驚きでした。レバーフードを持ってもしっかりブレーキングできるし、今までより少ない力で制動できる。ブラケットポジションでも怖くないです。
エアロポジションを取りやすいレバー形状もいいですね。レバーを内側に倒すセッティングが流行っていますが、制動力に支障が出るもの。しかしそれが無い。エアロフォームを好む選手は嬉しいでしょうね。
12速化は重量増加や変速に弊害があるならごめんですが、重量も変わらない。ロー30Tなら中間ギアに16Tが増えたし、ロー34Tなら富士山でのレースでも軽く回して登れます。今までチェーンホイールは53×39Tでしたが、早く54×40Tで試してみたいですね。前後大きなギアの組み合わせはスピードの速いプロレースの要望。レースのスタンダードになると思います。
プロトタイプをテストしては会議に参加して技術者とディスカッションを重ねてきました。選手から希望を出せばすぐに反映されるし、変更についてのわがままな一言でもすぐに計算して変更してくれたり、素材から作り直してくれたり。デュラエースはそんなプロセスを経て生まれた間違いない製品です。新しい製品の良さを知ると、もう戻れない。外観は似たように見えて、まったく進化しているのがR9200系デュラエースです。
R9200シリーズDURA-ACE価格表
重量 | メーカー希望小売価格(税込) | |
---|---|---|
シフト/ブレーキレバー | ||
ST-R9250(リム/DI2) | - | 左右各:43,313円 |
ST-R9270(ディスク/DI2) | 350g ( /ペア) | 左右各:56,018円 |
フロントディレイラー | ||
FD-R9250 | 96g | 49,550円 |
リアディレイラー | ||
RD-R9250 | 215g | 88,704円 |
クランクセット | ||
FC-R9200 | 714g (54-40T)/692g (52-36T)/685g (50-34T) | 67,452円 |
FC-R9200-P | 774g (54-40T)/752g (52-36T)/745g (50-34T) | 176,253円 |
FC-R9200-P(ギア別売) | - | 156,849円 |
カセットスプロケット | ||
CS-R9200-12 | 223g (11-30T)/253g (11-34T) | 39,270円 |
ディスクブレーキ | ||
BR-R9270 | 120g (フロント)/110g (リア) | フロント:18,711円 / リア:18,249円 |
リムブレーキ | ||
BR-R9200 | 327g ( /ペア) | 43,890円 |
BR-R9210-F | 156g ( /個) | 23,216円 |
BR-R9210-RS | 154g ( /個) | 23,216円 |
ホイール(ディスクブレーキ) | ||
WH-R9270-C60-HR-TU-F / R | 667g (フロント)/770g (リア) | フロント:107,690円 / リア:125,840円 |
WH-R9270-C60-HR-TL-F / R | 751g (フロント)/858g (リア) | フロント:107,690円 / リア:125,840円 |
WH-R9270-C50-TU-F / R | 610g (フロント)/723g (リア) | フロント:107,690円 / リア:125,840円 |
WH-R9270-C50-TL-F / R | 674g (フロント)/787g (リア) | フロント:107,690円 / リア:125,840円 |
WH-R9270-C36-TU-F / R | 522g (フロント)/632g (リア) | フロント:107,690円 / リア:125,840円 |
WH-R9270-C36-TL-F / R | 620g (フロント)/730g (リア) | フロント:107,690円 / リア:125,840円 |
ホイール(リムブレーキ) | ||
WH-R9200-C60-HR-TU-F / R | 653g (フロント)/796g (リア) | フロント:107,690円 / リア:125,840円 |
WH-R9200-C50-TU-F / R | 586g (フロント)/773g (リア) | フロント:107,690円 / リア:125,840円 |
WH-R9200-C36-TU-F / R | 602g (フロント)/684g (リア) | フロント:107,690円 / リア:125,840円 |
提供:シマノ、制作:シクロワイアード編集部