2020/03/10(火) - 11:40
ジャイアントが誇るE-BIKE全モデルを総力特集。第一弾として国内最強パワー、国内最大容量バッテリーを誇るE-MTB2モデルを紹介します。フルサスモデルのTRANCE E+ PRO、そしてハードテールのFATHOM E+ PROを徹底的に乗り比べ、それぞれが秘めるポテンシャルを語り尽くした。
各ブランドが続々とグローバルモデルのE-BIKEを日本へ導入し、急激な成長を見せる2020年の国内E-BIKE市場。そんな中、2019年モデルとしてベストセラークロスバイクのESCAPEをベースとした「ESCAPE RX E+」を発表し、大きな反響を呼んだジャイアントが次なる一手として、2つのE-MTBを日本市場へと送り出した。
一つは前150mm/後ろ140mmストロークのフルサスペンションバイク「TRANCE E+ PRO」、もう一つが120mmストロークのハードテールバイク「FATHOM E+ PRO」。既に定評あるトレイルバイクの”TRANCE”および”FATHOM”をベースに開発されており、その完成度は折り紙つき。
TRANCE E+ PROは、ベースとなったトレイルバイクのTRANCE同様、ジャイアントの誇るリンケージシステムである”マエストロサスペンションテクノロジー”を採用している。リアトライアングルとショックユニットを2つのリンクと4つのピヴォットを介して繋ぐフローティングリンク構造により、高いペダリング効率、スムースで機敏な反応性、ブレーキングからの独立性という3つのメリットを実現し、多くのライダーから高い評価を得てきた信頼と実績のシステムを搭載した国内初のE-MTBだ。
一方、FATHOM E+ PROは、日本のトレイルにピッタリのハードテールモデル。120mmストロークのフロントフォークや純正装備の2.6インチタイヤを十分許容するクリアランス、下りも登りもこなせるジオメトリなど、初めてのMTBとしても十二分にトレイルを楽しめる性能を与えられたハイコストパフォーマンスな一台に仕上がっている。
E-BIKEの心臓とも言えるのがアシストユニット。ジャイアントはこの重要なパーツをヤマハと共同開発することで、国内最高レベルの出力特性を有するユニットを2台のE-MTBに与えた。発動機の雄であるヤマハとの協業の結果生まれた「SyncDrive Pro」は、最大トルク80Nmという強力なアシスト力を持つ、MTBライドにうってつけの高性能ユニットだ。
一方、自転車らしい挙動を実現するためには緻密な制御が必要となる。ただ速度に応じてアシスト量を変化させるだけでは、乗り手に違和感を与えてしまう。ジャイアントは、より自然でコントローラブルなアシストユニットを実現するために独自の「PedalPlus」センサーテクノロジーを開発した。
E-MTBに採用されるのは、「トルク」、「速度」、「モーター回転」、「ケイデンス」、「スロープ検出」、「加速度」という6つの要素を計測するセンサーだ。複雑に絡み合う6つの要素を独自のアルゴリズムで解析することで、最適なモーター出力を調整しパワフルかつ自然なアシストを実現する。
更に、速度センサーにおいては、日本独自のアシスト規制を知り尽くしたヤマハのノウハウが活かされている。海外仕様に対して12倍のデータを検知することで、より細かな制御を実現する国内限定の特別仕様となっている。
リチウムイオン電池に関して世界トップレベルの技術を有するパナソニック製のバッテリーセルを収めるのは、ジャイアント独自設計のアルミケーシングケース。オフロードライドという過酷な使用環境に耐えられるよう、放熱性と耐衝撃性を高めるヘビーデューティーな仕様となる。
ダウンチューブに完全内装されたバッテリーは、下側から装着する方式となる。万が一の脱落を防ぐために2段階の固定機構が備えられたフェイルセーフ設計が採用されているため、大きな振動や衝撃が加わるトレイルライドでも安心できる。
路面状況や勾配の変化、バッテリー残量に応じて、ECO、ECO+、SPORT、POWERという4つのアシストモードが用意されているが、それらを変更するためのコントロールユニットが「RideControl」だ。ハンドルバーから手を動かすことなくモード変更を行うことが出来るエルゴノミックデザインで、荒れたトレイルでも安心して操作できる設計だ。
E-MTBに採用されるのは、ディスプレイを廃したシンプルな「RideControl One」。グローブを着用していても操作しやすい大きさとクリック感のボタンと、選択中のアシストモードとバッテリー残量を一目で確認できるLEDライトインジケーターによるインターフェースを備えたコントロールユニットだ。また、ガーミンなどのサイクルコンピューターとAnt+接続することで、バッテリー残量やアシストモードを表示させることもできる。
実績あるジャイアントのトレイルバイクにパワフルでナチュラルなアシストシステムを組み合わせた「TRANCE E+ PRO」と「FATHOM E+ PRO」。国内でも未だ選択肢が少ない本格的なE-MTBとして、熱い視線を浴びる2台をインプレッション。インプレッションライダーはあらゆるトレイルライディングに精通するサイクルハウスミカミの三上店長と、多くのE-BIKEを試乗してきたシクロワイアード編集部の安岡だ。下部に紹介するテスト後対談も合わせて読み進めて欲しい。
TRANCE E+ PRO、FATHOM E+ PROともに駆動補助機付自転車(アシスト比率)の型式認定を取得済み
パワフルかつスムーズ。イメージ通りに動く/止まるアシスト
まずTRANCE E+ PROですが、重量配分に優れたバイクだなと感じました。車重があるのにコーナリング中も嫌な挙動をしないのは、重心バランスがBB周辺に集約されているからだと感じます。安定感もあるし、車重というデメリットをうまくプラス方向にまとめている印象を受けます。このバイクはベース車(ノーマル版27.5)と比べてヘッドアングルが0.5度寝かせているんですよね。ヘッドを寝かせる現在のトレンドをしっかり加味したジオメトリを採用しているところからも設計チームのこだわりを感じます。
前150mm/後140mmというトラベル量はよほど過酷なダウンヒルコースじゃない限り十分ですし、ジャイアントが研究し続けてきた伝統のマエストロサスペンションも自然なフィーリングです。ピュアレーシングバイクのサスペンションは路面追従性を上げるためのものですが、TRANCE E+ PROではショック吸収性も十分に確保されているので、例えば登りで難しい路面とE-BIKEのパワーが組み合わさる複雑な状況でも確実に路面を捉えてくれます。ある程度バイク任せでもスルスルと登ってしまうのは、基本設計が良いからなのでしょう。
一方のFATHOM E+ PROを一言で言うなら"レジャー要素を備えたMTB"でしょうか。山をがっつり走って楽しみたいなら走破性に優れるTRANCEですが、FATHOMは街乗りと山遊びの中間地点にいるバイクだと言えます。ジオメトリー的にもキビキビ走るし、信号の多い街中で使っても不満は無いでしょう。
ただしハードテールですから、荒れた路面でのリア追従性は低く、ちょっと不安定な路面でパワーをかけるとリアタイヤが横に逃げてしまうため、限界値で言えば圧倒的にTRANCEの方が高い。ですが、Eクロスバイクだとちょっと物足りない、どうせならもうちょっと遊び心が欲しいというアクティブ志向の方にはとても良い選択肢になると感じました。これがXTC(ピュアクロスカントリーバイク)のジオメトリーを使っていたらもっとピーキーで乗りづらいと思いますし、気負わずに選べる良いバイクに仕上げられているな、と感じます。
ジャイアントのパワーユニットの優れどころは、ペダリングへの反応性に優れていることです。過去の試乗会で他社バイクと比較した上で一番良かったのがジャイアントでした。例えば荒れた登りを走る時って、登りであってもペダルを止めて体重移動で凹凸を越えたりしますよね。反応の遅いEバイクだと止めたい場面で駆動してしまったり、逆に駆動が欲しい時に1テンポ遅れたり...イメージとバイクの動きがちぐはぐになると、めちゃくちゃ気持ち悪い。でも今回試したジャイアントのユニットは、クラッチとラチェットのノッチ数が細かいのでアシストの反応性が高く、「そうあってほしい」という乗り手の思い通りに駆動のオンオフが効いてくれるんです。だからもっと上手く走りたい、コントロールしたい、という気分にさせてくれました。
もう新しい遊びとしてE-MTBは絶対あり、ですよね。体力に関わらずMTB操作を楽しめるようになるので、例えば街を出発して山を越えて、もう一つ山を越えて戻ってくるような旅要素を含めた自転車遊びへの敷居が下がりますよね。E-MTBを含めてE-BIKEの面白さ、意味はその辺りにあるのだと思います。
2年前、ESCAPE RX E+発表時の試乗会で感じたのが、ジャイアントのユニットは反応の良さと自然な加速感が魅力だということ。新たに発表された2台のE-MTBは、その時の印象はそのままに更なる力強さがプラスされている。そのパワフルさは、テクニックに欠ける自分でも超低重心のE-MTBをフロントアップさせることが出来るほど、と言えば伝わるだろうか。
最大トルク80Nmという力強いアシストはオフロードライドで真価を発揮する。少しギア選択を間違えたくらいのミスはモノともせずにグイグイと急坂を登っていけるし、坂の途中でストップしてしまったとしてもギアを落として再発進できるのは、この太いトルクのおかげ。そうそう、細かいことだけれど、乗車した状態でも電源を入れることが出来るのはソコツな自分にピッタリだ。
バッテリーがダウンチューブに完全内装されるデザインも魅力的。大きな開口部を設けることになること、大容量のバッテリーを収めるための容積が必要になることもあり、ダウンチューブのボリュームはかなりのものとなるけれど、ルックスはかなり洗練されている。同じバッテリー内装式のバイクと比べても、下側から装着する方式は、フレームサイドから装着する方式と比べてバッテリーとフレームの境界線が見えづらいし、左右の剛性バランスにも優れているはず。
今回はフルサスのTRANCE E+ PROとハードテールのFATHOM E+ PROを乗り比べることとなったが、個人的に気に入ったのはFATHOM E+ PRO。絶対的な性能で見ればフルサスペンションのTRANCEが優れているのだけれど、アシストユニットによるサポートと低重心化が合わさることでハードテールバイクでありながら十分なスタビリティがある。さらに、ハードテールバイクらしいダイレクトな操作感も相まって、FATHOMの好印象に繋がった。
テストしたフィールドがスムースなコースであったことも大きく影響しているため、木の根や岩といった障害物が多いコースやドロップオフが登場する難易度の高いコースであれば、キャパシティーの大きなTRANCEに軍配が上がるはずだ。
ここの選択は突き詰めればE-MTBをどう楽しむか、という問題に行き着く。下りをもっと楽しむためにラクに登りをこなしたい、という人であればTRANCE E+ PROが魅力的だろう。一方で登りを攻めるという、E-MTBならではの楽しみ方に重点を置くのであれば、より軽やかなFATHOM E+ PROに惹かれる人も多いはず。FATHOMはキックスタンドも装着できるからサイクリングユースでも活躍できるだろう。
改めて感じたのは、オフロードでは大トルクは正義だということ。トルクの太さは七難隠す。ギア選択の失敗も、ラフなペダリングも、体重移動のミスも、登りであればパワフルなアシストでカバーしてくれる。もちろん上手くなるのが一番の解決策なのだけど、オフロードを楽しみたい初心者にとって、この2台のバイクは最良の選択肢となるはずだ。
安岡:まだまだ日本のE-MTBは台数が少なく、遊び方も定義付けされていない状況かと思いますが、今回2モデルの試乗を踏まえると日本のE-MTBカルチャーは今後育っていくと思いますか?
三上:そうですね。やっぱりノーマルバイクほど体力に関係なく、何本も登りと下りを楽しめるのは、Eバイクならではの喜びですよね。例えばENS(エンデューロシリーズ)ではEバイククラスが新設されているし、試走時間中にノーマルバイクよりもずっと多く上り下りできるんです。
今まで辛かった部分が、楽しみになる。できれば回避したいなと思っていた所が楽しくなっちゃうんですよね。特に下り系の方々って、上りは1漕ぎもしないぞ!という方も少なくないんですが(笑)、そういう人にはTRANCE E+ PROはぜひおすすめしたい。ジャイアントのE-MTBのパワーは遊びの範囲を広げてくれる味方になると思うんですよ。
E-BIKEならではのメリットの一つとして、体力差を埋めてくれることがあるでしょうね。重たいフルサスでもモーターが帳消しにしてくれるし、より安全な乗り物としてコースを楽しめる。今までクルマを使っていたアプローチ区間も自走で済んでしまうし、そういった新しい遊びを考えるとE-MTBはより活きるでしょう。それでも激坂だとパワーが足りなくなる場面はありますし、適切なギア選びやペダリング、バランス感などは、アシストがあるとは言えやっぱり自転車ですよね。将来的にはその辺りもオートマチックになるような気もするんですが(笑)。
安岡:将来的にはその仕組みを使って適切なギアをバイク側が選んでくれるような未来もあり得ますよね。ケイデンスとトルクを一定に保つのは乗り手の必須科目だから、そこを助けてくれたり、あるいは完全オート化されると更にハードルは低くなるかもしれません。
三上:MTBのチェーンリングってどんどん小型化してますが、例えば難しい登りをクリアする状況では、ギアが軽すぎるとトラクションが掛からなくて使えないんですよ。そういう場合はあえて一枚重たいギアを選ぶので根本的に脚力が必要なんですが、E-MTBだったらそれをトルクがサポートしてくれる。特にジャイアントのユニットは大トルクなので、単純な速さ以外にもそういう場面でメリットがあると感じました。
安岡:なるほど。つまりテクニックが要らない場面で体力を温存できるということですね。こここそ頑張ってクリアしたい!という時のために。
三上:そうですね。今回本気で試乗してみて分かったのが、E-MTBに乗るユーザーと走りに行く時は、絶対自分もE-MTBだな、ってこと。もし自分の方が体力とスキルがあったとしても、そこには絶対埋まらない差があるんです。趣味の道具として選ぶんですから、例えばE-MTBなら午前中フルに楽しんでも、午後は家族と遊ぶ体力を残せるし、月曜日仕事に向かう体力を残せる(笑)。多分この側面はトルク最強のジャイアントが一番だと思いますよ。例えばSDA王滝の100kmクラスでEバイク部門があったら楽しいんじゃないですかね?
安岡:そういう距離に対する安心感はありますよね。それと、あの道はどうなってるんだろう?と探索しに行く時の冒険心を後押ししてくれると思いました。カーブの先のアップダウンも怖くないですし。E-BIKE全般に言えることだと思いますが、特にE-MTBはその感覚が強かったですね。
三上:それは強いですよね。それからトレイルビルダーや林業を生業とする人。軽トラックが入れないような場所に重たい荷物を持って行くにはベストかな、と思います。転じてキャンプ道具を持って山で遊びたい人とか...。これだけパワーで助けてもらってるんですし、自転車人生が楽しくなっちゃうんですから、TRANCEの580,000円、FATHOMEの380,000円という価格は安いと思いますよ。
E-MTBの何が良いかと聞かれたら、「みんなで楽しく遊べるところ」に尽きると思います。そして、そういう場面でジャイアントならではのパワフルでスムーズなアシストは、他社よりも脚力差を埋めてくれると感じました。E-MTBの楽しさは今までのMTBとも違うし、オフロードのオートバイの面白さとも違う、完全に新しいジャンルものです。飛び跳ねてひねりを入れたい、とかそういうことを求めない限り重さは気になりません。E-MTBそのものが完全に新しいものですから、今までのMTB遊びの型に当てはめるのは違う。E-MTBだからこそできる遊び方がこれから普及していくことに期待したいですね。
ジャイアント/リブのE-BIKE店頭試乗キャンペーンを実施中
なお、ジャイアント・ジャパンでは5月10日(日)まで、E-BIKE試乗車を用意するジャイアントストア店頭にて、試乗後にアンケートに答えると、もれなくドリップバッグコーヒーをプレゼントする「E-BIKE乗りくらべ&飲みくらべキャンペーン」を実施中だ。休日に、仕事上がりに、サイクリング中に立ち寄って「乗らなきゃわからない面白さ」を体感してみては?実施店舗は下記リンクから「試乗車リスト」にて、「ブランドを選択(GIANTかLiv)→ 車種を選択(E-BIKE)」で検索できる。
「試乗車リスト」はコチラ
従来BMXの国際コースが設置されていた埼玉県秩父市にある秩父滝沢サイクルパーク。今回使用したのは2020シーズンに向けて整備されたMTBコースだ。緩斜面に造成されたトレイルはコース距離とは裏腹に下りあり、登りあり、スキルアップゾーンありと変化に富む内容の濃いもの。下りでもスピードが出過ぎないよう配慮されておりビギナーにもうってつけだ。BMXコースも含めて1日遊び放題1,080円と非常にリーズナブルな価格も嬉しい。レンタルバイクも用意され、将来的には敷地下まで伸びるコース造成を検討中という。これからに期待したい新しいコースだ。
公式HP: https://chichibu-cyclepark.localinfo.jp/
国内最強パワー、国内最大容量バッテリーを備える2つのE-MTB
各ブランドが続々とグローバルモデルのE-BIKEを日本へ導入し、急激な成長を見せる2020年の国内E-BIKE市場。そんな中、2019年モデルとしてベストセラークロスバイクのESCAPEをベースとした「ESCAPE RX E+」を発表し、大きな反響を呼んだジャイアントが次なる一手として、2つのE-MTBを日本市場へと送り出した。
一つは前150mm/後ろ140mmストロークのフルサスペンションバイク「TRANCE E+ PRO」、もう一つが120mmストロークのハードテールバイク「FATHOM E+ PRO」。既に定評あるトレイルバイクの”TRANCE”および”FATHOM”をベースに開発されており、その完成度は折り紙つき。
TRANCE E+ PROは、ベースとなったトレイルバイクのTRANCE同様、ジャイアントの誇るリンケージシステムである”マエストロサスペンションテクノロジー”を採用している。リアトライアングルとショックユニットを2つのリンクと4つのピヴォットを介して繋ぐフローティングリンク構造により、高いペダリング効率、スムースで機敏な反応性、ブレーキングからの独立性という3つのメリットを実現し、多くのライダーから高い評価を得てきた信頼と実績のシステムを搭載した国内初のE-MTBだ。
一方、FATHOM E+ PROは、日本のトレイルにピッタリのハードテールモデル。120mmストロークのフロントフォークや純正装備の2.6インチタイヤを十分許容するクリアランス、下りも登りもこなせるジオメトリなど、初めてのMTBとしても十二分にトレイルを楽しめる性能を与えられたハイコストパフォーマンスな一台に仕上がっている。
スマート・ナチュラル・パワフル ジャイアントのハイブリッドテクノロジー
最大トルク80Nmを誇る高性能なアシストユニット SyncDrive Pro
E-BIKEの心臓とも言えるのがアシストユニット。ジャイアントはこの重要なパーツをヤマハと共同開発することで、国内最高レベルの出力特性を有するユニットを2台のE-MTBに与えた。発動機の雄であるヤマハとの協業の結果生まれた「SyncDrive Pro」は、最大トルク80Nmという強力なアシスト力を持つ、MTBライドにうってつけの高性能ユニットだ。
一方、自転車らしい挙動を実現するためには緻密な制御が必要となる。ただ速度に応じてアシスト量を変化させるだけでは、乗り手に違和感を与えてしまう。ジャイアントは、より自然でコントローラブルなアシストユニットを実現するために独自の「PedalPlus」センサーテクノロジーを開発した。
E-MTBに採用されるのは、「トルク」、「速度」、「モーター回転」、「ケイデンス」、「スロープ検出」、「加速度」という6つの要素を計測するセンサーだ。複雑に絡み合う6つの要素を独自のアルゴリズムで解析することで、最適なモーター出力を調整しパワフルかつ自然なアシストを実現する。
更に、速度センサーにおいては、日本独自のアシスト規制を知り尽くしたヤマハのノウハウが活かされている。海外仕様に対して12倍のデータを検知することで、より細かな制御を実現する国内限定の特別仕様となっている。
国内最大容量の500Wh ダウンチューブと一体化するENERGYPAK SMART 500
高性能なモーターのポテンシャルを100%発揮するために欠かせないのが、高性能なバッテリーシステムだ。外部にバッテリーが露出しないスマートなルックスと国内最大容量の500Whを両立した「ENERGYPAK SMART 500」がパワフルなアシストの原動力となる。ECOモードで125km、POWERモードで75kmの航続距離(標準パターン測定時)を誇る大容量バッテリーが、心行くまでトレイルライドを楽しませてくれる。リチウムイオン電池に関して世界トップレベルの技術を有するパナソニック製のバッテリーセルを収めるのは、ジャイアント独自設計のアルミケーシングケース。オフロードライドという過酷な使用環境に耐えられるよう、放熱性と耐衝撃性を高めるヘビーデューティーな仕様となる。
ダウンチューブに完全内装されたバッテリーは、下側から装着する方式となる。万が一の脱落を防ぐために2段階の固定機構が備えられたフェイルセーフ設計が採用されているため、大きな振動や衝撃が加わるトレイルライドでも安心できる。
シンプルで操作しやすいコントロールユニット RideControl One
路面状況や勾配の変化、バッテリー残量に応じて、ECO、ECO+、SPORT、POWERという4つのアシストモードが用意されているが、それらを変更するためのコントロールユニットが「RideControl」だ。ハンドルバーから手を動かすことなくモード変更を行うことが出来るエルゴノミックデザインで、荒れたトレイルでも安心して操作できる設計だ。
E-MTBに採用されるのは、ディスプレイを廃したシンプルな「RideControl One」。グローブを着用していても操作しやすい大きさとクリック感のボタンと、選択中のアシストモードとバッテリー残量を一目で確認できるLEDライトインジケーターによるインターフェースを備えたコントロールユニットだ。また、ガーミンなどのサイクルコンピューターとAnt+接続することで、バッテリー残量やアシストモードを表示させることもできる。
実績あるジャイアントのトレイルバイクにパワフルでナチュラルなアシストシステムを組み合わせた「TRANCE E+ PRO」と「FATHOM E+ PRO」。国内でも未だ選択肢が少ない本格的なE-MTBとして、熱い視線を浴びる2台をインプレッション。インプレッションライダーはあらゆるトレイルライディングに精通するサイクルハウスミカミの三上店長と、多くのE-BIKEを試乗してきたシクロワイアード編集部の安岡だ。下部に紹介するテスト後対談も合わせて読み進めて欲しい。
TRANCE E+ PRO、FATHOM E+ PROスペック
車種 | TRANCE E+ PRO | FATHOM E+ PRO |
サイズ | 405(S)、432(M)mm | 405(S)、465(M)mm |
重量 | 24.3kg(405mm) | 23.6kg(405mm) |
フォーク | FOX 36 FLOAT RHYTHEM 27.5+ Boost OverDrive Column 150mm Travel 15mm Axle E-Bike Optimized | SR SUNTOUR RAIDON 32 Boost Air OverDrive Column 120mm Travel 15mm Axle |
リアショック | FOX FLOAT DPS PERFORMANCE EVO,TRUNNION MOUNT L : 185 T : 52.5 | - |
ドライブトレイン | シマノSLX | シマノ DEORE |
税抜価格 | 580,000円 | 380,000円 |
製品ページ | リンク | リンク |
パワフルかつスムーズ。イメージ通りに動く/止まるアシスト
:三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
まずTRANCE E+ PROですが、重量配分に優れたバイクだなと感じました。車重があるのにコーナリング中も嫌な挙動をしないのは、重心バランスがBB周辺に集約されているからだと感じます。安定感もあるし、車重というデメリットをうまくプラス方向にまとめている印象を受けます。このバイクはベース車(ノーマル版27.5)と比べてヘッドアングルが0.5度寝かせているんですよね。ヘッドを寝かせる現在のトレンドをしっかり加味したジオメトリを採用しているところからも設計チームのこだわりを感じます。
前150mm/後140mmというトラベル量はよほど過酷なダウンヒルコースじゃない限り十分ですし、ジャイアントが研究し続けてきた伝統のマエストロサスペンションも自然なフィーリングです。ピュアレーシングバイクのサスペンションは路面追従性を上げるためのものですが、TRANCE E+ PROではショック吸収性も十分に確保されているので、例えば登りで難しい路面とE-BIKEのパワーが組み合わさる複雑な状況でも確実に路面を捉えてくれます。ある程度バイク任せでもスルスルと登ってしまうのは、基本設計が良いからなのでしょう。
一方のFATHOM E+ PROを一言で言うなら"レジャー要素を備えたMTB"でしょうか。山をがっつり走って楽しみたいなら走破性に優れるTRANCEですが、FATHOMは街乗りと山遊びの中間地点にいるバイクだと言えます。ジオメトリー的にもキビキビ走るし、信号の多い街中で使っても不満は無いでしょう。
ただしハードテールですから、荒れた路面でのリア追従性は低く、ちょっと不安定な路面でパワーをかけるとリアタイヤが横に逃げてしまうため、限界値で言えば圧倒的にTRANCEの方が高い。ですが、Eクロスバイクだとちょっと物足りない、どうせならもうちょっと遊び心が欲しいというアクティブ志向の方にはとても良い選択肢になると感じました。これがXTC(ピュアクロスカントリーバイク)のジオメトリーを使っていたらもっとピーキーで乗りづらいと思いますし、気負わずに選べる良いバイクに仕上げられているな、と感じます。
ジャイアントのパワーユニットの優れどころは、ペダリングへの反応性に優れていることです。過去の試乗会で他社バイクと比較した上で一番良かったのがジャイアントでした。例えば荒れた登りを走る時って、登りであってもペダルを止めて体重移動で凹凸を越えたりしますよね。反応の遅いEバイクだと止めたい場面で駆動してしまったり、逆に駆動が欲しい時に1テンポ遅れたり...イメージとバイクの動きがちぐはぐになると、めちゃくちゃ気持ち悪い。でも今回試したジャイアントのユニットは、クラッチとラチェットのノッチ数が細かいのでアシストの反応性が高く、「そうあってほしい」という乗り手の思い通りに駆動のオンオフが効いてくれるんです。だからもっと上手く走りたい、コントロールしたい、という気分にさせてくれました。
もう新しい遊びとしてE-MTBは絶対あり、ですよね。体力に関わらずMTB操作を楽しめるようになるので、例えば街を出発して山を越えて、もう一つ山を越えて戻ってくるような旅要素を含めた自転車遊びへの敷居が下がりますよね。E-MTBを含めてE-BIKEの面白さ、意味はその辺りにあるのだと思います。
初心者がトレイルを楽しむための最良の選択肢 CW編集部・安岡
2年前、ESCAPE RX E+発表時の試乗会で感じたのが、ジャイアントのユニットは反応の良さと自然な加速感が魅力だということ。新たに発表された2台のE-MTBは、その時の印象はそのままに更なる力強さがプラスされている。そのパワフルさは、テクニックに欠ける自分でも超低重心のE-MTBをフロントアップさせることが出来るほど、と言えば伝わるだろうか。
最大トルク80Nmという力強いアシストはオフロードライドで真価を発揮する。少しギア選択を間違えたくらいのミスはモノともせずにグイグイと急坂を登っていけるし、坂の途中でストップしてしまったとしてもギアを落として再発進できるのは、この太いトルクのおかげ。そうそう、細かいことだけれど、乗車した状態でも電源を入れることが出来るのはソコツな自分にピッタリだ。
バッテリーがダウンチューブに完全内装されるデザインも魅力的。大きな開口部を設けることになること、大容量のバッテリーを収めるための容積が必要になることもあり、ダウンチューブのボリュームはかなりのものとなるけれど、ルックスはかなり洗練されている。同じバッテリー内装式のバイクと比べても、下側から装着する方式は、フレームサイドから装着する方式と比べてバッテリーとフレームの境界線が見えづらいし、左右の剛性バランスにも優れているはず。
今回はフルサスのTRANCE E+ PROとハードテールのFATHOM E+ PROを乗り比べることとなったが、個人的に気に入ったのはFATHOM E+ PRO。絶対的な性能で見ればフルサスペンションのTRANCEが優れているのだけれど、アシストユニットによるサポートと低重心化が合わさることでハードテールバイクでありながら十分なスタビリティがある。さらに、ハードテールバイクらしいダイレクトな操作感も相まって、FATHOMの好印象に繋がった。
テストしたフィールドがスムースなコースであったことも大きく影響しているため、木の根や岩といった障害物が多いコースやドロップオフが登場する難易度の高いコースであれば、キャパシティーの大きなTRANCEに軍配が上がるはずだ。
ここの選択は突き詰めればE-MTBをどう楽しむか、という問題に行き着く。下りをもっと楽しむためにラクに登りをこなしたい、という人であればTRANCE E+ PROが魅力的だろう。一方で登りを攻めるという、E-MTBならではの楽しみ方に重点を置くのであれば、より軽やかなFATHOM E+ PROに惹かれる人も多いはず。FATHOMはキックスタンドも装着できるからサイクリングユースでも活躍できるだろう。
改めて感じたのは、オフロードでは大トルクは正義だということ。トルクの太さは七難隠す。ギア選択の失敗も、ラフなペダリングも、体重移動のミスも、登りであればパワフルなアシストでカバーしてくれる。もちろん上手くなるのが一番の解決策なのだけど、オフロードを楽しみたい初心者にとって、この2台のバイクは最良の選択肢となるはずだ。
インプレッションを終えて:「いつどこで、E-MTBをどう遊ぶ?」
安岡:まだまだ日本のE-MTBは台数が少なく、遊び方も定義付けされていない状況かと思いますが、今回2モデルの試乗を踏まえると日本のE-MTBカルチャーは今後育っていくと思いますか?
三上:そうですね。やっぱりノーマルバイクほど体力に関係なく、何本も登りと下りを楽しめるのは、Eバイクならではの喜びですよね。例えばENS(エンデューロシリーズ)ではEバイククラスが新設されているし、試走時間中にノーマルバイクよりもずっと多く上り下りできるんです。
今まで辛かった部分が、楽しみになる。できれば回避したいなと思っていた所が楽しくなっちゃうんですよね。特に下り系の方々って、上りは1漕ぎもしないぞ!という方も少なくないんですが(笑)、そういう人にはTRANCE E+ PROはぜひおすすめしたい。ジャイアントのE-MTBのパワーは遊びの範囲を広げてくれる味方になると思うんですよ。
E-BIKEならではのメリットの一つとして、体力差を埋めてくれることがあるでしょうね。重たいフルサスでもモーターが帳消しにしてくれるし、より安全な乗り物としてコースを楽しめる。今までクルマを使っていたアプローチ区間も自走で済んでしまうし、そういった新しい遊びを考えるとE-MTBはより活きるでしょう。それでも激坂だとパワーが足りなくなる場面はありますし、適切なギア選びやペダリング、バランス感などは、アシストがあるとは言えやっぱり自転車ですよね。将来的にはその辺りもオートマチックになるような気もするんですが(笑)。
安岡:将来的にはその仕組みを使って適切なギアをバイク側が選んでくれるような未来もあり得ますよね。ケイデンスとトルクを一定に保つのは乗り手の必須科目だから、そこを助けてくれたり、あるいは完全オート化されると更にハードルは低くなるかもしれません。
三上:MTBのチェーンリングってどんどん小型化してますが、例えば難しい登りをクリアする状況では、ギアが軽すぎるとトラクションが掛からなくて使えないんですよ。そういう場合はあえて一枚重たいギアを選ぶので根本的に脚力が必要なんですが、E-MTBだったらそれをトルクがサポートしてくれる。特にジャイアントのユニットは大トルクなので、単純な速さ以外にもそういう場面でメリットがあると感じました。
安岡:なるほど。つまりテクニックが要らない場面で体力を温存できるということですね。こここそ頑張ってクリアしたい!という時のために。
三上:そうですね。今回本気で試乗してみて分かったのが、E-MTBに乗るユーザーと走りに行く時は、絶対自分もE-MTBだな、ってこと。もし自分の方が体力とスキルがあったとしても、そこには絶対埋まらない差があるんです。趣味の道具として選ぶんですから、例えばE-MTBなら午前中フルに楽しんでも、午後は家族と遊ぶ体力を残せるし、月曜日仕事に向かう体力を残せる(笑)。多分この側面はトルク最強のジャイアントが一番だと思いますよ。例えばSDA王滝の100kmクラスでEバイク部門があったら楽しいんじゃないですかね?
安岡:そういう距離に対する安心感はありますよね。それと、あの道はどうなってるんだろう?と探索しに行く時の冒険心を後押ししてくれると思いました。カーブの先のアップダウンも怖くないですし。E-BIKE全般に言えることだと思いますが、特にE-MTBはその感覚が強かったですね。
三上:それは強いですよね。それからトレイルビルダーや林業を生業とする人。軽トラックが入れないような場所に重たい荷物を持って行くにはベストかな、と思います。転じてキャンプ道具を持って山で遊びたい人とか...。これだけパワーで助けてもらってるんですし、自転車人生が楽しくなっちゃうんですから、TRANCEの580,000円、FATHOMEの380,000円という価格は安いと思いますよ。
E-MTBの何が良いかと聞かれたら、「みんなで楽しく遊べるところ」に尽きると思います。そして、そういう場面でジャイアントならではのパワフルでスムーズなアシストは、他社よりも脚力差を埋めてくれると感じました。E-MTBの楽しさは今までのMTBとも違うし、オフロードのオートバイの面白さとも違う、完全に新しいジャンルものです。飛び跳ねてひねりを入れたい、とかそういうことを求めない限り重さは気になりません。E-MTBそのものが完全に新しいものですから、今までのMTB遊びの型に当てはめるのは違う。E-MTBだからこそできる遊び方がこれから普及していくことに期待したいですね。
ジャイアント/リブのE-BIKE店頭試乗キャンペーンを実施中
なお、ジャイアント・ジャパンでは5月10日(日)まで、E-BIKE試乗車を用意するジャイアントストア店頭にて、試乗後にアンケートに答えると、もれなくドリップバッグコーヒーをプレゼントする「E-BIKE乗りくらべ&飲みくらべキャンペーン」を実施中だ。休日に、仕事上がりに、サイクリング中に立ち寄って「乗らなきゃわからない面白さ」を体感してみては?実施店舗は下記リンクから「試乗車リスト」にて、「ブランドを選択(GIANTかLiv)→ 車種を選択(E-BIKE)」で検索できる。
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ロケ地パーク紹介:秩父滝沢サイクルパーク
従来BMXの国際コースが設置されていた埼玉県秩父市にある秩父滝沢サイクルパーク。今回使用したのは2020シーズンに向けて整備されたMTBコースだ。緩斜面に造成されたトレイルはコース距離とは裏腹に下りあり、登りあり、スキルアップゾーンありと変化に富む内容の濃いもの。下りでもスピードが出過ぎないよう配慮されておりビギナーにもうってつけだ。BMXコースも含めて1日遊び放題1,080円と非常にリーズナブルな価格も嬉しい。レンタルバイクも用意され、将来的には敷地下まで伸びるコース造成を検討中という。これからに期待したい新しいコースだ。
公式HP: https://chichibu-cyclepark.localinfo.jp/
提供:ジャイアント・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部