2018/07/04(水) - 10:54
2016年に登場したミシュランのロードバイクタイヤ用トップモデル、「POWER」に改めてフォーカスを当てる。圧倒的な数値的飛躍で広く支持を受け、今なお輝きを失わないPOWERシリーズを、詳細解説、そして登場時から愛用している二人の元全日本選手権覇者へのインタビューを通して掘り下げていきたい。
2016年春に満を持してデビューしたPOWERシリーズ。レース用クリンチャータイヤの先駆者たるミシュランが作り上げた自信作だ photo:Makoto.AYANO
ミシュランはクリンチャータイヤの変革に大きく関わってきたリーディングカンパニーだ。
1832年(1863年説もあり)の創業当初は農機具やゴム製品を製造販売していたが、アンドレとエドワールのミシュラン兄弟が経営に加わり、1889年に社名をミシュランへと変更。この時エドワールが修理のために持ち込まれた空気入り自転車タイヤの乗り心地に感動し、1991年に「もっと簡単に修理できるようになれば必ず普及するはず」と、15分で可能交換が可能な空気入り自転車タイヤ「ミシュラン デモンターブル」を開発したのだった。
ミシュラン本社横に併設された歴史博物館。ミシュランはありとあらゆるタイヤ、果てはオリジナルの鉄道車両(中央の白い車体)まで手がけていた photo:So.Isobe
日本でもお馴染みのビバンダム。登場当初は現在とは異なる、怪物チックな風貌だった photo:So.Isobe
17本のボルトナットでリムにタイヤを留め、15分でタイヤ交換を可能とした「ミシュランデモンターブル」
デモンターブルを装着し、第1回パリ〜ブレスト〜パリを圧勝した自転車 photo:So.Isobe
デモンターブルを装着したシャルル・テロン(フランス)は第1回パリ〜ブレスト〜パリで2位に9時間近い大差を付けて優勝。その12月には2分でタイヤ交換可能な「デモンターブル2号」を発表し、現代クリンチャータイヤの礎を作り上げた。
そして、世界で初めてクリンチャータイヤを製造したのがミシュランなら、世界で初めて"競技用クリンチャータイヤ"を定義したのもミシュランだ。
チューブラータイヤが100%を占めていた1970年代のロードレース界に、初めてミシュランがクリンチャータイヤ「エランTS」を投入したのが1976年のこと。これをきっかけに着脱の容易さからクリンチャータイヤは一般に広く普及していくこととなる。
アクシアルプロを使って2000年の世界選手権を制したロマンス・ヴァインシュタインス(ラトビア) (c)CorVos
当時の世界最強チーム、マペイの足元をミシュランブルーのタイヤが支えていた (c)CorVos
アージェードゥーゼルが2011年のツール・ド・フランスで使用したPRO4サービスクルス photo:(c)Makoto.AYANO
次いで1980年台にリリースした「ハイライト」がジロ・デ・イタリア総合優勝や世界選手権連覇など輝かしい戦績を残したことでその実力はお墨付きとなり、1990年台後半にデビューした「アクシアルプロ」は、2000年の世界選手権でロマンス・ヴァインシュタインス(ラトビア)のアルカンシエル獲得をサポート。ヴァインシュタインスやアンドレア・ターフィ(イタリア)、パオロ・ベッティーニ(イタリア)ら、当時最強メンバーを抱えていたマペイチームが使う鮮やかなミシュランブルーのタイヤは羨望の的となり、後のカラータイヤムーブメントのきっかけともなった。
2002年には総合力を高めた「PRO RACE」がデビューしたことで、その人気は確固たるものとなる。以降は3年毎にPRO2 RACE、PRO3、PRO4と進化を遂げつつ、そしてバリエーションを広げながら、長きに渡り「高級クリンチャータイヤならミシュラン」と、レーサーからアマチュアユーザーまで幅広く支持を集めてきた。
2016年、満を侍して登場したPOWERシリーズ。ミシュラン本社でプレゼンテーションが開催された Photo:Jérôme Cambier/Michelin
そして2016年の4月には、性能面で追随する各ライバルブランドとの差を再び広げるべく、今回フィーチャーする「POWER」シリーズが披露されることとなる。先代から飛躍的進化を遂げたことで13年間受け継がれてきた名称"PRO"から脱却し、オートバイレースの最高峰MotoGPで使われるモデルと同じ名称に。更にはフランスにあるミシュラン本社で世界各国のメディアを招いたプレゼンテーションを行ったことからもその自信ぶりが窺えよう。
披露された「POWER」。コンペティション、エンデュランス、オールシーズンという3種類をラインナップする photo:Michelin
POWERシリーズの屋台骨を支えるのは、究極の転がり抵抗低減を目指したピュアレーシング用の「POWER COMPETITION(コンペティション)」と、性能を維持しながら耐摩耗性と耐パンク性を向上させた「POWER ENDURANCE(エンデュランス)」、そしてウェットグリップを強化した「POWER ALL SEASON(オールシーズン)」という3種類。いずれもPRO4世代のラインナップを踏襲しつつ、飛躍的な性能向上が図られている。
例を挙げればCOMPETITIONは-10ワットの路面抵抗セーブ、ENDURANCEは+20%の耐パンク性獲得、ALL SEASONは+15%のグリップ性能向上(全てPRO4比較、外部テスト)など、激動のロードバイクタイヤ市場においてもその数値は未だトップクラスだ。
POWERシリーズのために3種類の専用コンパウンドを開発。いずれもディスクブレーキに対応する強力なグリップ力を誇る (c)Michelin
性能向上を握るキーフィーチャーは、ミシュランのオートバイや自動車など他部署(特にレース用製品開発部門)と協力し、3種類それぞれに専用開発のコンパウンドとTPI値の異なるケーシングを投入したことにある。企業秘密だけに詳細は非公開だが、素材の配合を工夫し、コンパウンドの変形量を少なくすることで抵抗低減を叶えているという。
高いグリップ力、特に優れたウェットグリップ力ゆえに「ディスクブレーキレディ」とアピールされていることも特徴だ。現在ほどロードバイク用ディスクブレーキが普及していなかった2011年の開発当初からディスクブレーキ対応を念頭に置いたことは、ミシュランの先見の明の表れだ。雨天レース時でコンマ1秒を争う場面や、危険を回避する場合での安全マージンが予め高められている。
POWERシリーズ各モデルの特徴。用途にあった性能を有している
800を超えるラボテストや、過酷な状況が再現されたミシュラン試験場での実走テスト、そしてフランスのハイアマチュアやセミプロチームに所属する選手200人によるテストなどを踏まえて発売されたPOWERシリーズ。重量に関してはCOMPETITIONの23cでも195gと驚くほどではないが、これこそミシュランがタイヤに求める総合力の明。POWERの何れもが、どんな場面でも安心した性能を発揮する実戦機材そのものだ。
また、この記事が公開された7月4日から、POWERシリーズはより多くの人に届きやすいよう大幅な値下げが行われている。いずれも1本あたり1,000円以上、28Cモデルでは1,200円も買い求めやすくなったことはユーザーにとっては有り難い限りだ。
今回POWERシリーズ3モデルのインプレッションを担当して頂いたのは、登場時からPOWERシリーズを愛用している大石一夫さん(シクロオオイシ ラヴニール)と藤野智一さん(なるしまフレンド)。現役時代に全日本王者を経験し、現在でも全国屈指の走れるショップ店長として活躍する二人の評価を次ページから紹介していきます。
クリンチャータイヤを発明し、歴史を変えてきたミシュラン

ミシュランはクリンチャータイヤの変革に大きく関わってきたリーディングカンパニーだ。
1832年(1863年説もあり)の創業当初は農機具やゴム製品を製造販売していたが、アンドレとエドワールのミシュラン兄弟が経営に加わり、1889年に社名をミシュランへと変更。この時エドワールが修理のために持ち込まれた空気入り自転車タイヤの乗り心地に感動し、1991年に「もっと簡単に修理できるようになれば必ず普及するはず」と、15分で可能交換が可能な空気入り自転車タイヤ「ミシュラン デモンターブル」を開発したのだった。




デモンターブルを装着したシャルル・テロン(フランス)は第1回パリ〜ブレスト〜パリで2位に9時間近い大差を付けて優勝。その12月には2分でタイヤ交換可能な「デモンターブル2号」を発表し、現代クリンチャータイヤの礎を作り上げた。
そして、世界で初めてクリンチャータイヤを製造したのがミシュランなら、世界で初めて"競技用クリンチャータイヤ"を定義したのもミシュランだ。
チューブラータイヤが100%を占めていた1970年代のロードレース界に、初めてミシュランがクリンチャータイヤ「エランTS」を投入したのが1976年のこと。これをきっかけに着脱の容易さからクリンチャータイヤは一般に広く普及していくこととなる。



次いで1980年台にリリースした「ハイライト」がジロ・デ・イタリア総合優勝や世界選手権連覇など輝かしい戦績を残したことでその実力はお墨付きとなり、1990年台後半にデビューした「アクシアルプロ」は、2000年の世界選手権でロマンス・ヴァインシュタインス(ラトビア)のアルカンシエル獲得をサポート。ヴァインシュタインスやアンドレア・ターフィ(イタリア)、パオロ・ベッティーニ(イタリア)ら、当時最強メンバーを抱えていたマペイチームが使う鮮やかなミシュランブルーのタイヤは羨望の的となり、後のカラータイヤムーブメントのきっかけともなった。
2002年には総合力を高めた「PRO RACE」がデビューしたことで、その人気は確固たるものとなる。以降は3年毎にPRO2 RACE、PRO3、PRO4と進化を遂げつつ、そしてバリエーションを広げながら、長きに渡り「高級クリンチャータイヤならミシュラン」と、レーサーからアマチュアユーザーまで幅広く支持を集めてきた。

そして2016年の4月には、性能面で追随する各ライバルブランドとの差を再び広げるべく、今回フィーチャーする「POWER」シリーズが披露されることとなる。先代から飛躍的進化を遂げたことで13年間受け継がれてきた名称"PRO"から脱却し、オートバイレースの最高峰MotoGPで使われるモデルと同じ名称に。更にはフランスにあるミシュラン本社で世界各国のメディアを招いたプレゼンテーションを行ったことからもその自信ぶりが窺えよう。
性能全てがトップレベル 3種類からなるPOWERシリーズ

POWERシリーズの屋台骨を支えるのは、究極の転がり抵抗低減を目指したピュアレーシング用の「POWER COMPETITION(コンペティション)」と、性能を維持しながら耐摩耗性と耐パンク性を向上させた「POWER ENDURANCE(エンデュランス)」、そしてウェットグリップを強化した「POWER ALL SEASON(オールシーズン)」という3種類。いずれもPRO4世代のラインナップを踏襲しつつ、飛躍的な性能向上が図られている。
例を挙げればCOMPETITIONは-10ワットの路面抵抗セーブ、ENDURANCEは+20%の耐パンク性獲得、ALL SEASONは+15%のグリップ性能向上(全てPRO4比較、外部テスト)など、激動のロードバイクタイヤ市場においてもその数値は未だトップクラスだ。

性能向上を握るキーフィーチャーは、ミシュランのオートバイや自動車など他部署(特にレース用製品開発部門)と協力し、3種類それぞれに専用開発のコンパウンドとTPI値の異なるケーシングを投入したことにある。企業秘密だけに詳細は非公開だが、素材の配合を工夫し、コンパウンドの変形量を少なくすることで抵抗低減を叶えているという。
高いグリップ力、特に優れたウェットグリップ力ゆえに「ディスクブレーキレディ」とアピールされていることも特徴だ。現在ほどロードバイク用ディスクブレーキが普及していなかった2011年の開発当初からディスクブレーキ対応を念頭に置いたことは、ミシュランの先見の明の表れだ。雨天レース時でコンマ1秒を争う場面や、危険を回避する場合での安全マージンが予め高められている。

800を超えるラボテストや、過酷な状況が再現されたミシュラン試験場での実走テスト、そしてフランスのハイアマチュアやセミプロチームに所属する選手200人によるテストなどを踏まえて発売されたPOWERシリーズ。重量に関してはCOMPETITIONの23cでも195gと驚くほどではないが、これこそミシュランがタイヤに求める総合力の明。POWERの何れもが、どんな場面でも安心した性能を発揮する実戦機材そのものだ。
また、この記事が公開された7月4日から、POWERシリーズはより多くの人に届きやすいよう大幅な値下げが行われている。いずれも1本あたり1,000円以上、28Cモデルでは1,200円も買い求めやすくなったことはユーザーにとっては有り難い限りだ。
今回POWERシリーズ3モデルのインプレッションを担当して頂いたのは、登場時からPOWERシリーズを愛用している大石一夫さん(シクロオオイシ ラヴニール)と藤野智一さん(なるしまフレンド)。現役時代に全日本王者を経験し、現在でも全国屈指の走れるショップ店長として活躍する二人の評価を次ページから紹介していきます。
ミシュラン POWERシリーズ スペック一覧
POWER COMPETITION
サイズ | 700×23C、700×25C |
カラー | ブラック |
重量 | 195g(23C)、215g(25C) |
ケーシング | 3×180TPI |
税抜価格 | 6,500円(23C)、6,700円(25C) |
POWER ENDURANCE
サイズ | 700×23C、700×25C、700×28C |
カラー | ブラック、ブルー、レッド、ホワイト |
重量 | 200g(23C)、230g(25C)、255g(28C) |
ケーシング | 3×110TPI |
税抜価格 | 6,500円(23C)、6,700円(25C)、7,000円(28C) |
POWER ALL SEASON
サイズ | 700×23C、700×25C、700×28C |
カラー | ブラック |
重量 | 235g(23C)、270g(25C)、295g(28C) |
ケーシング | 3×60TPI |
税抜価格 | 6,500円(23C)、6,700円(25C)、7,000円(28C) |
提供:日直商会 制作:シクロワイアード編集部