2018/05/10(木) - 11:45
170gという驚きの数値でサイクルモードの話題をさらったカブトの意欲作、「FLAIR(フレアー)」のデリバリーがいよいよ始まった。MOSTRO(モストロ)の登場から11年。開発陣へのインタビューや先行テストを行った選手たちのインプレッションを介し、超軽量ヘルメット戦線の新たな境地を切り開く意欲作を掘り下げていきたい。
軽量ヘルメットの歴史を語る上で絶対に欠かせない存在が、カブトが2007年にデビューさせたMOSTROだ。250g程度が主流だった当時に190gという衝撃的な数値を引っさげてデビューし、2009年には新城幸也が所属していたブイグテレコムが正式採用したことでヨーロッパにおける知名度も飛躍的にアップ。その後リニューアルを遂げつつ、2018年の発売終了まで軽量ヘルメットのベンチマークとして君臨してきた。
近年になってようやくMOSTROの重量を下回るライバル製品が出現してきたが、カブトは2017年のサイクルモード東京にて、11年間軽量カテゴリーを守ってきたMOSTROに代わるFLAIRを初披露。アウターシェルまで肉抜きしたアグレッシブなデザインは、170gという数値と共に驚きを持って迎え入れられた。FLAIRのキャッチコピーは「カブト史上」最軽量と若干控えめだが、2018年4月時点では文句無しの世界最軽量ヘルメットであり、カブトは再び軽量ナンバーワンの称号を手にしたのである。
そしてFLAIRのデビューは同時に、クーリング性能を最重視したフラッグシップモデルのZENARD(ゼナード)、オートバイ用製品で培った空力技術を投入したエアロモデルのAERO-R1、そしてヒルクライマー待望のFLAIRと、カブトのロードヘルメット3本柱が確立したことも意味している。
つまりユーザーが「今日は登りが多いからFLAIR」、「暑い日のロングライドにはZENARD」、「レースの日にはR1」と、それぞれの用途に合わせてヘルメットを選択できるようになった。3種類全てが信頼のプロユースモデルであり、かつFLAIRの価格が19,500円(税抜)とリーズナブルな値段設定となった背景には、カブト開発陣の「目的にマッチする製品を選ぶことで最高のパフォーマンスを発揮してほしい」という想いが込められているのだ。
170gという圧倒的な軽さを叶えた第一の要素は、ヘルメット内側の衝撃吸収ライナーに日本メーカーが新開発した高性能ポリスチレン(EPS)素材を採用したことだ。素材自体の衝撃吸収性能が上がったことで、強度を落とさず飛躍的な軽量化が実現したという。
加えてポリカーボネイト製のアウターシェルも強度とのバランスを考慮しながら可能な限り肉抜きを行ない、プラスチック部品を省いたあごひもや、調整機能を簡素化し可能な限り軽さを突き詰めた決戦用アジャスター「SLW-1」を同封するなど、徹底的なダイエットが図られている。
FLAIRの軽さが最も活きるヒルクライム中はスピードが落ちるため、前からだけではなく横方向からも風を取り入れ排気できる放射状のエアインテーク構造を採用し、熱ごもりを排除。さらに前を見やすくするために前頭部を切り上げたシェルデザインを採用し、フラッグシップモデルのZENARD比で15°の上方視界増を獲得するなど、登坂中の使い勝手を徹底的に追及しているのだ。
ヒルクライム派や、ロングライドでの疲労を軽減したい方にとって見逃せないFLAIR。今回シクロワイアード編集部はカブト本社を訪ね、FLAIRの開発を担当した吉田健さん、広報の口野彰義さん、契約チームとの橋渡し役を行う柳原啓秀さんにお話を伺った。開発経緯やコンセプト、そして大幅な軽量化を叶えた理由など、興味深いインタビューを是非読み進めて欲しい。
― 待望された新型軽量ヘルメットのデビューですね。初披露されたサイクルモードではもの凄い注目度だったことが印象に残っています。
サイクルモードではお客様が途切れず嬉しい悲鳴状態で、やはり軽量ヘルメットの需要は高いと再認識する機会にもなりましたね。前年にエアロモデルのR1を発売したので、次は軽量だろうと。今ある技術をフル導入し、MOSTROを越えるものを作ろうと開発が始まりました。
― MOSTROで既に200gを切っていたので、相当難しいチャレンジだったと思うのですが。
やはり「軽量=ヒルクライム」ですから、コンセプトが決まってすぐに日本屈指のヒルクライマーである森本誠さんに話を聞きに行きました。相当手厳しい要求が出てきたのですが、こちらもメーカーの意地があるので、可能な限りやってやろう!となったわけです。
ヘルメットの安全性とは、衝撃を受けた際の潰れしろを確保することなので、厚みは必然的に決まってしまいます。でもちょうどその頃、日本メーカーから従来製品を上回る高性能のEPS(高性能ポリスチレン)樹脂が出てきた。これを使ってテストしたところ、従来製品よりも10%くらい衝撃吸収の値が良かったわけです。これならば安全性はそのままにもっと軽くできると確証を得たので、性能の余裕分を軽さに使ったんですね。
更にその上に被せるアウターシェルにも肉抜きを行なうことで数グラムの軽量化。あごひもからも樹脂パーツを排除して、パッドなど内装もあえて簡素化。デザインにおいて後端部を尖がらせなかったことも主に軽量化のためです。更にアジャスターも超軽量なものを付属させるなど、細かい軽量化を積み重ねることで170gという軽さを達成できました。
その通りです。よほどのブレイクスルーがない限り、今の技術でこれ以上軽くするのは難しいでしょう。削るとしたらシェルの厚さですが、安全上ギリギリのラインは攻められません。サイクルモードで発表した時に森本さんにも満足してもらえたので、開発者として嬉しかったですね。
製品版を選手に供給したのはつい最近ですが、マトリックスには3Dプリンター製モックアップの時点でフィッティングのテストをお願いしました。シーズンイン前の合宿でプロトタイプを使ってもらったり、企画時点ではどんな機能が欲しいかなど意見を吸い上げていますね。プロ選手と一般ユーザーでは返ってくる意見が大きく異なりますが、その辺りは社内で議論を重ねることで方向性を決めていきます。
― 安全性についてはどのように研究されているのでしょう。
長年に渡る技術と経験の蓄積があるので、この素材でこれくらいの厚みなら安全性を保持できる、という裏付けがあります。軽さと強度は相反する要素ですが、当然JCFの試験に対しても余裕を持ってクリアしています。軽さを追求したからといって、検査基準ギリギリのラインを狙うことはしません。これまで毎年300人以上にサポートし、プロチームにも供給してきた中でヘルメットが割れた落車もありましたが、頭部にダメージが残った事例は一つも無いんです。そういった実績からも安心して手にとってほしいと思います。
ヒルクライム中の平均速度は圧倒的に落ちるので、横風や追い風でも効率よく内部に取り込み、上側に抜けていくような構造を採用しました。全体的なフォルムが丸みを帯びているのも、軽量化と共に風がどこから吹いても抵抗にならない意味ももたせているんです。
プロレースだと平均速度が40km/hを超えるのでZENARDやR1が使われますが、登りの多いJプロツアー修善寺やツール・ド・とちぎ第2ステージでは選手達が選んでくれました。一般の方だと信号待ちがあって平均速度が30km/hを超えることも少ないでしょうから、よりマッチすると思いますよ。トライアスロンのアイアンマンディスタンスも平均速度30km/h程度ですし、TTポジションを取った時でも前部をカットオフしているので視界を妨げません。軽いことで肩首への負担も少ないですし、日常での使い勝手はかなり良いと自負しています。
ただし、もちろん通気性ではZENARDですし、高速域でアドバンテージになるのはR1。用途別に3種類を使い分けてもらうことで、最高のパフォーマンスを発揮するお手伝いができれば非常に嬉しいですね。2万円弱という値段設定も、買い求めやすいようにと企業努力を行った頑張りの証です(笑)。
― FLAIRはカブトの自信作なのですね。
その通りです。2年弱の開発期間を掛けて、登りでの軽さを重視する方、長距離を走る上での疲労を軽減したい方にとっては特におススメしたい製品に仕上がりました。4月からは破損交換店での優先販売も始まりましたし、実際に手にすれば直感的にメリットを感じてもらえると思います。ぜひ一度試してもらいたいですね。
ー 次編ではFLAIRを使用した選手たちなどによるインプレッションを紹介する予定です。
名作を凌ぐ、僅か170gの史上最軽量モデル FLAIR
軽量ヘルメットの歴史を語る上で絶対に欠かせない存在が、カブトが2007年にデビューさせたMOSTROだ。250g程度が主流だった当時に190gという衝撃的な数値を引っさげてデビューし、2009年には新城幸也が所属していたブイグテレコムが正式採用したことでヨーロッパにおける知名度も飛躍的にアップ。その後リニューアルを遂げつつ、2018年の発売終了まで軽量ヘルメットのベンチマークとして君臨してきた。
近年になってようやくMOSTROの重量を下回るライバル製品が出現してきたが、カブトは2017年のサイクルモード東京にて、11年間軽量カテゴリーを守ってきたMOSTROに代わるFLAIRを初披露。アウターシェルまで肉抜きしたアグレッシブなデザインは、170gという数値と共に驚きを持って迎え入れられた。FLAIRのキャッチコピーは「カブト史上」最軽量と若干控えめだが、2018年4月時点では文句無しの世界最軽量ヘルメットであり、カブトは再び軽量ナンバーワンの称号を手にしたのである。
そしてFLAIRのデビューは同時に、クーリング性能を最重視したフラッグシップモデルのZENARD(ゼナード)、オートバイ用製品で培った空力技術を投入したエアロモデルのAERO-R1、そしてヒルクライマー待望のFLAIRと、カブトのロードヘルメット3本柱が確立したことも意味している。
つまりユーザーが「今日は登りが多いからFLAIR」、「暑い日のロングライドにはZENARD」、「レースの日にはR1」と、それぞれの用途に合わせてヘルメットを選択できるようになった。3種類全てが信頼のプロユースモデルであり、かつFLAIRの価格が19,500円(税抜)とリーズナブルな値段設定となった背景には、カブト開発陣の「目的にマッチする製品を選ぶことで最高のパフォーマンスを発揮してほしい」という想いが込められているのだ。
170gという圧倒的な軽さを叶えた第一の要素は、ヘルメット内側の衝撃吸収ライナーに日本メーカーが新開発した高性能ポリスチレン(EPS)素材を採用したことだ。素材自体の衝撃吸収性能が上がったことで、強度を落とさず飛躍的な軽量化が実現したという。
加えてポリカーボネイト製のアウターシェルも強度とのバランスを考慮しながら可能な限り肉抜きを行ない、プラスチック部品を省いたあごひもや、調整機能を簡素化し可能な限り軽さを突き詰めた決戦用アジャスター「SLW-1」を同封するなど、徹底的なダイエットが図られている。
FLAIRの軽さが最も活きるヒルクライム中はスピードが落ちるため、前からだけではなく横方向からも風を取り入れ排気できる放射状のエアインテーク構造を採用し、熱ごもりを排除。さらに前を見やすくするために前頭部を切り上げたシェルデザインを採用し、フラッグシップモデルのZENARD比で15°の上方視界増を獲得するなど、登坂中の使い勝手を徹底的に追及しているのだ。
FLAIRの開発チームにインタビュー
「今ある技術をフル導入して、MOSTROを超える軽さを目指した」
ヒルクライム派や、ロングライドでの疲労を軽減したい方にとって見逃せないFLAIR。今回シクロワイアード編集部はカブト本社を訪ね、FLAIRの開発を担当した吉田健さん、広報の口野彰義さん、契約チームとの橋渡し役を行う柳原啓秀さんにお話を伺った。開発経緯やコンセプト、そして大幅な軽量化を叶えた理由など、興味深いインタビューを是非読み進めて欲しい。
― 待望された新型軽量ヘルメットのデビューですね。初披露されたサイクルモードではもの凄い注目度だったことが印象に残っています。
サイクルモードではお客様が途切れず嬉しい悲鳴状態で、やはり軽量ヘルメットの需要は高いと再認識する機会にもなりましたね。前年にエアロモデルのR1を発売したので、次は軽量だろうと。今ある技術をフル導入し、MOSTROを越えるものを作ろうと開発が始まりました。
― MOSTROで既に200gを切っていたので、相当難しいチャレンジだったと思うのですが。
やはり「軽量=ヒルクライム」ですから、コンセプトが決まってすぐに日本屈指のヒルクライマーである森本誠さんに話を聞きに行きました。相当手厳しい要求が出てきたのですが、こちらもメーカーの意地があるので、可能な限りやってやろう!となったわけです。
ヘルメットの安全性とは、衝撃を受けた際の潰れしろを確保することなので、厚みは必然的に決まってしまいます。でもちょうどその頃、日本メーカーから従来製品を上回る高性能のEPS(高性能ポリスチレン)樹脂が出てきた。これを使ってテストしたところ、従来製品よりも10%くらい衝撃吸収の値が良かったわけです。これならば安全性はそのままにもっと軽くできると確証を得たので、性能の余裕分を軽さに使ったんですね。
更にその上に被せるアウターシェルにも肉抜きを行なうことで数グラムの軽量化。あごひもからも樹脂パーツを排除して、パッドなど内装もあえて簡素化。デザインにおいて後端部を尖がらせなかったことも主に軽量化のためです。更にアジャスターも超軽量なものを付属させるなど、細かい軽量化を積み重ねることで170gという軽さを達成できました。
「よほどのブレイクスルーがない限り、これ以上の軽さは難しい」
― もうできることは全てやり尽くした、と言っても過言ではないのですね。その通りです。よほどのブレイクスルーがない限り、今の技術でこれ以上軽くするのは難しいでしょう。削るとしたらシェルの厚さですが、安全上ギリギリのラインは攻められません。サイクルモードで発表した時に森本さんにも満足してもらえたので、開発者として嬉しかったですね。
製品版を選手に供給したのはつい最近ですが、マトリックスには3Dプリンター製モックアップの時点でフィッティングのテストをお願いしました。シーズンイン前の合宿でプロトタイプを使ってもらったり、企画時点ではどんな機能が欲しいかなど意見を吸い上げていますね。プロ選手と一般ユーザーでは返ってくる意見が大きく異なりますが、その辺りは社内で議論を重ねることで方向性を決めていきます。
― 安全性についてはどのように研究されているのでしょう。
長年に渡る技術と経験の蓄積があるので、この素材でこれくらいの厚みなら安全性を保持できる、という裏付けがあります。軽さと強度は相反する要素ですが、当然JCFの試験に対しても余裕を持ってクリアしています。軽さを追求したからといって、検査基準ギリギリのラインを狙うことはしません。これまで毎年300人以上にサポートし、プロチームにも供給してきた中でヘルメットが割れた落車もありましたが、頭部にダメージが残った事例は一つも無いんです。そういった実績からも安心して手にとってほしいと思います。
「軽さと疲労軽減、ヒルクライムやアイアンマンにはベストマッチ」
― 前方だけではなく全方向からの風を取り入れるよう設計されている点も特徴的ですね。ヒルクライム中の平均速度は圧倒的に落ちるので、横風や追い風でも効率よく内部に取り込み、上側に抜けていくような構造を採用しました。全体的なフォルムが丸みを帯びているのも、軽量化と共に風がどこから吹いても抵抗にならない意味ももたせているんです。
プロレースだと平均速度が40km/hを超えるのでZENARDやR1が使われますが、登りの多いJプロツアー修善寺やツール・ド・とちぎ第2ステージでは選手達が選んでくれました。一般の方だと信号待ちがあって平均速度が30km/hを超えることも少ないでしょうから、よりマッチすると思いますよ。トライアスロンのアイアンマンディスタンスも平均速度30km/h程度ですし、TTポジションを取った時でも前部をカットオフしているので視界を妨げません。軽いことで肩首への負担も少ないですし、日常での使い勝手はかなり良いと自負しています。
ただし、もちろん通気性ではZENARDですし、高速域でアドバンテージになるのはR1。用途別に3種類を使い分けてもらうことで、最高のパフォーマンスを発揮するお手伝いができれば非常に嬉しいですね。2万円弱という値段設定も、買い求めやすいようにと企業努力を行った頑張りの証です(笑)。
― FLAIRはカブトの自信作なのですね。
その通りです。2年弱の開発期間を掛けて、登りでの軽さを重視する方、長距離を走る上での疲労を軽減したい方にとっては特におススメしたい製品に仕上がりました。4月からは破損交換店での優先販売も始まりましたし、実際に手にすれば直感的にメリットを感じてもらえると思います。ぜひ一度試してもらいたいですね。
ー 次編ではFLAIRを使用した選手たちなどによるインプレッションを紹介する予定です。
提供:オージーケーカブト 制作:シクロワイアード編集部