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ミシュランのハイエンドロード用レーシングタイヤが刷新。「コンペティション」「オールシーズン」「エンデュランス」という3バリエーションを擁する”POWER”シリーズが登場した。披露の場となったフランスはラドゥー、ミシュランテクノロジーセンターでのプレゼンテーションの模様と共に詳細をレポートしたい。

新たなるハイエンドタイヤ「POWER」の登場

ミシュランのテクノロジーセンターで開催された発表会

「自動車も含めた、ミシュランが持てる技術のすべてを投入した新機軸。ロードタイヤのベンチマークになると確信しているタイヤです」と言うのは、自転車部門チーフを務めるカール・ド・クイック氏。そんな自信たっぷりの言葉と共に、ミシュランの新型ハイエンドロードタイヤ「POWER」のプレゼンテーションが始まった。

真新しいミシュランのテクノロジーセンター。ミシュラン製品開発の中枢を担う場所真新しいミシュランのテクノロジーセンター。ミシュラン製品開発の中枢を担う場所 各国から招待された主要自転車メディアのジャーナリストたち各国から招待された主要自転車メディアのジャーナリストたち Photo:Jérôme Cambier/Michelin

POWERのプレゼンテーション。会場にはフランス公共放送局のテレビカメラも駆け付けたPOWERのプレゼンテーション。会場にはフランス公共放送局のテレビカメラも駆け付けた Photo:Jérôme Cambier/Michelin
POWERのメディア向け発表会の場となったのは、フランスはパリから空路で1時間ほど、歴史あるクレルモン=フェランの街から10kmほどのラドゥー(Ladoux)に拠点を置く、ミシュランのテクノロジーセンター。自動車はもちろん、オートバイ、トラック・バス、建設・産業車両用タイヤ、さらには鉄道車両なども手掛ける世界最大級タイヤブランドが本拠地で自転車用製品のプレゼンテーションを開催するとは、その力の入れようが窺い知れる。

POWERについて触れる前に、まずはミシュランの歴史について紹介したいと思う。

ミシュランがタイヤ事業を手掛けたのは今から125年ほど前、エドワール・ミシュランが空気入り自転車のタイヤに出会ったことに端を発する。当時発明されたばかりの空気入りタイヤは性能こそ素晴らしいものの、パンク修理に数時間も掛かる事に疑問を感じたエドワールが、1891年に15分で可能交換が可能な空気入り自転車タイヤ「ミシュランデモンターブル」という、当時としては画期的な製品を生み出した。その年の第1回パリ〜ブレスト〜パリではデモンターブル装着したシャルル・テロン選手が2位に9時間近い大差を得て優勝。パンク修理の時間を大幅に短縮したことの有効性が証明されたのだった(その12月には2分でタイヤ交換可能、とうたった現代クリンチャータイヤの原型である"デモンターブル2号"を発表したことも特筆されるだろう)。

デモンターブルを装着し、第1回パリ〜ブレスト〜パリを圧勝した自転車デモンターブルを装着し、第1回パリ〜ブレスト〜パリを圧勝した自転車 17本のボルトナットでリムにタイヤを留め、15分でタイヤ交換を可能とした「ミシュランデモンターブル」17本のボルトナットでリムにタイヤを留め、15分でタイヤ交換を可能とした「ミシュランデモンターブル」


そしてミシュランは1980年代、再び自転車タイヤ界に新たな旋風を巻き起こすことになる。チューブラータイヤの独壇場だったロードレースシーンに、クリンチャータイヤ「ハイライトシリーズ」を投入するという思い切った策に出たのだ。結果的にこのチャレンジはジロ・デ・イタリアや世界選手権連覇など輝かしい戦績とともに成功を収め、クリンチャータイヤの有効性を世に証明したのだった。

それ以来ミシュランのレーシングクリンチャータイヤは「Axial pro」に代替わりし、現在にまで至るレースシリーズの礎「PRO RACE」が発売されたのは2002年のこと。以来3年毎にPRO2 RACE、PRO3、PRO4と進化を遂げつつ、長きに渡りハイエンドモデルとしてプロレーサーを含む幅広い層に支持されてきた。そして2016年、満を持して発表されたクリンチャーラインナップが、今回紹介を行うPOWERシリーズである。

披露された「POWER」。コンペティション、エンデュランス、オールシーズンという3種類をラインナップする披露された「POWER」。コンペティション、エンデュランス、オールシーズンという3種類をラインナップする photo:Michelin
開発ライダーを務めた元AG2Rのプロ選手「レースで安心して使えるラインナップ」開発ライダーを務めた元AG2Rのプロ選手「レースで安心して使えるラインナップ」 耐久性においてもPOWERは前作を大きく上回っている耐久性においてもPOWERは前作を大きく上回っている photo:Michelin「”PRO5”ではなくPOWERとしたのは、従来品から革命的な進化を遂げたことを表しています」。とプレゼンテーションを続けるクイック氏。各国メディアの視線が注がれる中、従来モデル比較で-10ワットの路面抵抗セーブ、+15%のグリップ性能向上、+20%の耐パンク性という文言が次々と語られていった。

POWERのラインナップは、レースでの使用を前提とした「コンペティション」と、耐久性を上げ長寿命化を図った「エンデュランス」、そして特にウェットコンディションでのグリップ力を向上させた「オールシーズン」という3種類。いずれもディスクブレーキ対応としていること、新しいアラミド繊維を投入して耐パンク性を向上させたことが共通点で、同じPOWERシリーズながら、それぞれが専用開発されたコンパウンドを使用し、TPI値の異なるケーシングを組み合わせていることが大きな特徴だ。

「自転車だけでなくオートバイ・自動車など他部門と技術協力し、ミシュラン全体のノウハウを投入した製品(クイック氏)」であるPOWERシリーズ。2年間という開発期間の中で、800を超えるラボテストや、セミプロチームへの供給を含む200,000kmにも及ぶ実走テストを経て、今回の製品化に繋げている。

重量に関してはコンペティションの23cで195gと、数ある軽量タイヤマーケットに切り込むほどではない。これはあくまで耐久性も含めた総合力の高い製品を生み出すためで、これまでの経験則から軽量化よりも抵抗低減が重視された結果という。

POWERシリーズ各モデルの特徴。用途にあった性能を有しているPOWERシリーズ各モデルの特徴。用途にあった性能を有している
プレゼンテーションで強調されたのは、POWERシリーズはそのどれもがハイエンドタイヤとしての性能を持つべく開発されたということ。「Go faster and further(より速く、より遠くへ)」というコンセプトを実現する、一歩抜きんでた最高峰ラインナップが登場したのだ。それでは各モデルの詳細に迫っていこう。

用途に合わせた3つの「POWER」

POWER COMPETITION
-10W削減 ハイスピードを追求したピュアレーシングタイヤ

POWER COMPETITION:-10W削減 ハイスピードを追求したピュアレーシングタイヤPOWER COMPETITION:-10W削減 ハイスピードを追求したピュアレーシングタイヤ photo:Michelin
モトGP由来のテクノロジーを投入した新型コンパウンドで抵抗を抑えるコンペティションモトGP由来のテクノロジーを投入した新型コンパウンドで抵抗を抑えるコンペティション 今回のPOWERシリーズの中で核となるのがこのコンペティション。文字通りハイスピードを追求した競技向けタイヤであり、グリップ力を与えながら、徹底的に転がり抵抗の削減を狙ったモデルだ。

キーとなるのはRaceコンパウンドと名付けられた、2輪ロードレース最高峰であるモトGP由来のテクノロジーを投入した新型コンパウンドだ。詳細についてはトップシークレットとして語られなかったものの、シリカ由来の成分を中心に走行中の変形を抑える特殊な配合を行ったことで、PRO4サービスクルスに対して-10W(25c、ライダー+バイクで80kg、45km/hで40kmを走行した場合)という類い稀な出力低減をマークするに至った。レースにおける極限の場面では、10Wという数値が生み出すアドバンテージは計り知れない。

ケーシングは180TPIの3層構造とし、剛性を上げることでディスクブレーキの強力なストッピングパワーに対応。コンパウンドとの組み合わせによって縦方向に10%、横方向には35%のグリップ力向上(上記と同条件)を果たしている。新開発のアラミドプロテックにより、耐パンク性向上は+13%だ。

POWER ENDURANCE
耐久性向上が命題 200,000kmのテストでノーパンク

POWER ENDURANCE:耐久性向上が命題 200,000kmのテストでノーパンクPOWER ENDURANCE:耐久性向上が命題 200,000kmのテストでノーパンク photo:Michelin
耐久性・耐パンク性の向上を重視したエンデュランス耐久性・耐パンク性の向上を重視したエンデュランス ラインナップ中、最も幅広いユーザーに向けてリリースされるのがエンデュランスだ。耐久性・耐パンク性の向上を重視したモデルで、特殊素材を配合し磨耗に強いX-milesコンパウンドと、より強化を果たした耐パンクベルト アラミドプロテックプラス、コンペティションから繊維密度を下げた3×110TPIケーシングを組み合わせることで、PRO4エンデュランスに比べ耐パンク性を20%向上させている。

このモデルは「高速化している現在のプロレースでは、一つのパンクが致命的な遅れになってしまう」という選手からの意見を踏まえたものであり、試験では200人のテスターが計200,000kmを走行してもノーパンクだったという。もちろん総合的な性能向上も果たしており、転がり抵抗はPRO4エンデュランスに対して8.6W低減(上記コンペティションと同条件)させており、新型のトレッドパターンによってコーナリングスピードも向上させている。

エンデュランスは23c、25c、28cの3種類が用意され、それぞれ重量は220g、230g、255g(ホワイトは他カラーに比べて5g増)。ブラックに加えてレッド、ブルー、ホワイトとフランス国旗をイメージした4カラー展開となり、28cのみブラック1カラーだ。

POWER ALL SEASON
いかなる路面もいとわない、卓越したグリップ性能

POWER ALL SEASON:いかなる路面もいとわない、卓越したグリップ性能POWER ALL SEASON:いかなる路面もいとわない、卓越したグリップ性能 photo:Michelin
ウェットグリップを最重視したオールシーズンウェットグリップを最重視したオールシーズン テストコースでのウェットテスト。オールシーズンは圧倒的な安心感でテストができたというテストコースでのウェットテスト。オールシーズンは圧倒的な安心感でテストができたという 最後に紹介するオールシーズンは、いかなる状況下においても問題なく走り切れるよう、特にウェット路面でのグリップ力向上を最重要視したタイヤだ。開発にあたってはプロトタイプがAG2Rラモンディアールにも手渡され、幾多の実走テストを経て製品化されているという。

キーとなるのは濡れた路面を考慮し低温でも食いつきが低下しないよう配合されたGRIPコンパウンドを採用したこと。ここにモトGPタイヤから発想を得た特殊なトレッドパターンによって雨天時のグリップ力をもう一段引き上げている。結果的にPRO4SCとの比較では15%のグリップ力向上(素材で13%向上、トレッドパターンで2%向上)を果たしており、コンペティションとエンデュランスに対しても圧倒的なアドバンテージを得た。

しかしコンパウンドで圧倒的なグリップ力を得ることができても、タイヤ自体の剛性が低ければその長所を活かしきることができない。そこでオールシーズンではあえて密度の低い60TPIのケーシングを3層構造にすることで強化を行い、これによってディスクブレーキの高い制動力に対応。ミシュランの数値によれば、ライバル製品比較で縦方向に40%、横方向には86%のグリップ力向上を図っている。

もちろん走りの軽さも忘れられておらず、PRO4GRIPとの比較で5Wのパワーセーブを実現。耐パンク性に関してはエンデュランスと同じアラミドプロテックプラスを投入することで安心感を与えている。オールシーズンのラインナップは23c、25c、28cの3種類で、カラーはブラック1種類。



「Go faster and further(より速く、より遠くへ)」というコンセプトを実現する、一歩抜きんでた最高峰ラインナップ「Go faster and further(より速く、より遠くへ)」というコンセプトを実現する、一歩抜きんでた最高峰ラインナップ photo:Michelin
他部門との連携によって生まれた、ミシュラン渾身のハイエンドロードタイヤ「POWER」シリーズ。CWでは開発陣が自信たっぷりに「革新的」と謳う、その性能を引き出すための工夫についてインタビューをプレゼンテーションで行った。次項ではその模様を紹介したい。
提供:日直商会、深谷産業 text : 磯部聡 制作:シクロワイアード編集部