2015/08/17(月) - 11:15
プレゼンテーションにおいてSUPERSIX EVO Hi-MODのテクノロジーについて説明を受けた後、ジャーナリストたちは用意された各自のサイズのバイクでテストライドを行うべく走りだした。フィールドはオーストリア、キッツビュール周辺のアップダウン。サイクリストならば誰もが憧れるシチュエーションで、多いにSUPERSIX EVO Hi-MODをテストしてみた。
風光明媚な山岳が続くキッツビュールを駆け巡るコースは80kmほど。ロングヒルクライムこそ組み込まれなかったが、無限に続くワインディングはインプレッションに最適である。渡欧前には2015年モデルのSUPERSIX EVOをキャノンデール・ジャパンから借り受けて乗り込み、その違いを体感しようと意気込んできた。
世界中から集まったサイクルジャーナリスト達は、脚力別のグループに別れ、いそいそとインプレッションライドに出発していく。私が加わったファストグループはペースを落とすこと無く、ジェットコースターのようなアップダウンを駆け抜けていく(ライドの様子は以下のムービーを参照頂きたい)。
まず感心したのが、乗ってすぐに乗り馴れたバイクかのようにSUPERSIX EVO Hi-MODが身体に馴染んだこと。違和感を覚えやすい腰高感や各所の不自然なたわみが一切無く、各性能がバランス良くまとまっていることを実感させられる。
談笑しながらのスローペースでは先代との違いを大きく感じなかったが、いよいよスピードが上がっていくと、その差は如実に現れてくる。しなりを残しつつもヘッドやBB周辺の剛性が強化されているため、踏み込んだ際の反応性がかなり向上したように感じた。
そんな中でも筆者にとって一番驚いたのは、コーナリング時の挙動。先代モデルはかなりパリッとしたフィーリングで、そのため落ち着かなさを少しだけ感じていた。しかしSUPERSIX EVO Hi-MODは倒し込んだ際にリアバックがギュッとしなり、後輪にもごく僅かに舵角が与えられているような、前後輪の一体感を伴ってコーナーを脱出できる。
謳い文句通り、細かい凹凸であればサドルへの突き上げを感じさせないほど快適性が向上しているのだが、このしなりはライドフィールの濃密さにも大きく貢献したようだ。ハンドリング自体は軽め。切り返しの速さも先代譲りだが、その柔軟性によって走りの安定感が際立つようになっている。
登りでは車体の軽量感も手伝って軽快な印象だ。BBが僅かにウィップするため、疲れでペダリングがバラついても補正してくれるようにも感じる。強い踏み込みに対して突っ張ることも無くなり、受容性が広くなったのだろう。ヘッドチューブ剛性の高さと組み合わされることで、全体的なバランスは素晴しいレベルにまで達していると感じた。
先代よりも細身だが、よりパワフルな走りにも対応したSUPERSIX EVO Hi-MOD。オールラウンドな強みはそのままに、ダン・マーティンの鋭いアタックや、ネイサン・ハースのゴールスプリントにもよりベクトルが向いたように思う。
レース機材としてはもちろん、深みの増した走り心地はホビーライダーの相棒として、山岳グランフォンドやロングライドでは最高の味方になってくれるのではないだろうか。ナチュラルな性格を持っているため、組み合わせるホイール次第で性格もがらっと変化するかもしれない。
もちろんエンデュランスモデルのシナプスと比較すれば乗り心地や脚への反発はハードだが、硬すぎてホビーライダーが乗りこなせない、ということも絶対に無い。とにかくワインディングを走るのが気持ちよく、可能であれば丸一日ずっと乗っていたいと感じてしまうほどだった。
— SUPERSIX EVO Hi-MODのキーワードはバランス感ですが、開発する上で非常に難しいターゲットだったのではないでしょうか?
その通り。本当に難しい課題でした。なぜならば従来のモデルで既に十分な戦闘力を持ったバイクだったからです。小さな進歩を着実に重ね、結果的には飛躍的な進化を成し遂げました。
例えば「軽量」や「高剛性」というのはある意味簡単にできることですし、マーケティング的ににも響きが良いし、ストーリーが作りやすい。しかしEVOに関しては、従来モデルから既にそのバランス感が高い評価を得ていました。それはプロ選手からも同じだったわけです。登り、下り、平坦、スプリント。どこでも一台でこなせるということは、プロにとってはもちろん、趣味として楽しむ方には大きなアドバンテージがある。だから技術的にもマーケティングにも難しい「バランス」をより極めてみようと決断したのです。
— 剛性が上がったのはもちろんのこと、スムーズさにも驚きました。まさに路面を掴んでいる感じですね。
そう言ってくれて嬉しいですね。剛性一辺倒だと、レースで使うにしてもコーナリングでバイクが暴れたりと怖い思いをすることがあります。オートバイのモトGPが良い例です。アルミフレームが出始めた頃は剛性強化一辺倒でしたが、それだと速く走れず、結果的に少し剛性を落としたフレームが使われるようになりました。それは人間が乗る以上、ロードバイクにも同じことが言えるのです。その上で、緻密なコントロールができるバリステックカーボン構造は非常にアドバンテージがありました。
開発に一番時間を掛けたのがフォークです。ほぼフレームと同じくらいの労力を割いたのではないでしょうか。フレームはいわゆる「ダイヤモンド形状」ですが、フォークはフレームから補強無しで独立しているため、製作が非常に難しいのです。
— プロ選手からの要求とはどのようなものでしたか?
やはりコーナーでの安定感や、過酷なレースで疲れが必要以上に溜まらないこと。それは私たちが主眼を置いていたこととほぼ共通でした。でも興味深いことに「もっとエアロを!」というニーズが出なかった。恐らくエアロに特化することで全体のバランスが崩れる可能性があることを知っているのだと思います。
それからシフトワイヤーを外出しにしたのも、プロメカニックからの要求によるものです。なによりも素早い調整や交換が可能となりますし、ワイヤーのテンションを指で確認することができる。当然内装化も検討しましたが、インナートンネルを設けることで重量増にも繋がってしまうのです。ダウンチューブ下中央部に2つのワイヤーを寄せたのは空力のためです。従来のようにヘッドチューブ横にワイヤーを沿わせると、かなり空力的なロスが生まれてしまいますから。内装化と比較し、今回のエアロロスは1gほど。だったら整備性を優先するべきだと判断したのです。
ケーブルルーティングと言えば、今回はリアブレーキワイヤーの出し口をサイズによって変更しています。通常はシートポスト根本の後ろに出し口がありますが、50サイズ以下では少し前方に移しルーティングがキツくならないよう配慮しました。
— プレスフィットを廃し、トラディショナルなスレッドBBに戻したブランドもありますが、それについてはどう思いますか?
それは各ブランドの考え方の違いですから、良いとも悪いとも言えません。でもキャノンデールとしてはBB30に自信を持っていますし、スピンドルを拡張しベアリングも大きく、そして当たり面積が増したBB30Aは剛性向上と軽量化、音の防止も可能としました。それにスレッドBBにすることで重量増加にも繋がります。
— 開発に当たって意識したブランド、メーカーはありますか?
もちろんあります。しかし数年前と違って、現在は本当にたくさんの高性能バイクが出てきました。でもちょっと待って下さい。クルマで例えてみましょう。アウディとBMWを比較したとき、フェラーリとランボルギーニを比べたとき、どちらがより優れているか判断するのは人によって異なります。どのブランドも優れていて、どのブランドも微妙に考え方が異なるわけですから。これは自転車でも同じことが言えます。
スプリントだけしか考えないのであれば高剛性を、平坦をロケットのように飛ばしたいだけであればエアロを求めるでしょう。でもキャノンデールとしては、「True Road Bike(=本当のロードバイク)」こそが人々のニーズであると考えています。今回掲げた「A BALANCE OF POWER」の意味はそこにこそあるのです。
チロル地方のワインディングロードを駆けるテストライド
今回テストライドに準備されたのは、キャノンデール・ガーミンの選手達が使うものとほぼ同仕様のパーツがアッセンブルされた市販完成車「SUPERSIX EVO Hi-MOD TEAM」。駆動系はデュラエースDi2にホログラムSiSL2クランクを組み合わせ、ホイールはマヴィックのコスミックカーボン40。ハンドル周りはFSAで統一されていた。135万円という価格だが、実際にバイクを手に取ってみれば、前作からシェイプアップされたためか高級感も一段と増したように感じる。風光明媚な山岳が続くキッツビュールを駆け巡るコースは80kmほど。ロングヒルクライムこそ組み込まれなかったが、無限に続くワインディングはインプレッションに最適である。渡欧前には2015年モデルのSUPERSIX EVOをキャノンデール・ジャパンから借り受けて乗り込み、その違いを体感しようと意気込んできた。
世界中から集まったサイクルジャーナリスト達は、脚力別のグループに別れ、いそいそとインプレッションライドに出発していく。私が加わったファストグループはペースを落とすこと無く、ジェットコースターのようなアップダウンを駆け抜けていく(ライドの様子は以下のムービーを参照頂きたい)。
まず感心したのが、乗ってすぐに乗り馴れたバイクかのようにSUPERSIX EVO Hi-MODが身体に馴染んだこと。違和感を覚えやすい腰高感や各所の不自然なたわみが一切無く、各性能がバランス良くまとまっていることを実感させられる。
談笑しながらのスローペースでは先代との違いを大きく感じなかったが、いよいよスピードが上がっていくと、その差は如実に現れてくる。しなりを残しつつもヘッドやBB周辺の剛性が強化されているため、踏み込んだ際の反応性がかなり向上したように感じた。
際立つ軽快感、不安を感じない濃密なライディングフィール
そんな中でも筆者にとって一番驚いたのは、コーナリング時の挙動。先代モデルはかなりパリッとしたフィーリングで、そのため落ち着かなさを少しだけ感じていた。しかしSUPERSIX EVO Hi-MODは倒し込んだ際にリアバックがギュッとしなり、後輪にもごく僅かに舵角が与えられているような、前後輪の一体感を伴ってコーナーを脱出できる。
謳い文句通り、細かい凹凸であればサドルへの突き上げを感じさせないほど快適性が向上しているのだが、このしなりはライドフィールの濃密さにも大きく貢献したようだ。ハンドリング自体は軽め。切り返しの速さも先代譲りだが、その柔軟性によって走りの安定感が際立つようになっている。
登りでは車体の軽量感も手伝って軽快な印象だ。BBが僅かにウィップするため、疲れでペダリングがバラついても補正してくれるようにも感じる。強い踏み込みに対して突っ張ることも無くなり、受容性が広くなったのだろう。ヘッドチューブ剛性の高さと組み合わされることで、全体的なバランスは素晴しいレベルにまで達していると感じた。
先代よりも細身だが、よりパワフルな走りにも対応したSUPERSIX EVO Hi-MOD。オールラウンドな強みはそのままに、ダン・マーティンの鋭いアタックや、ネイサン・ハースのゴールスプリントにもよりベクトルが向いたように思う。
レース機材としてはもちろん、深みの増した走り心地はホビーライダーの相棒として、山岳グランフォンドやロングライドでは最高の味方になってくれるのではないだろうか。ナチュラルな性格を持っているため、組み合わせるホイール次第で性格もがらっと変化するかもしれない。
もちろんエンデュランスモデルのシナプスと比較すれば乗り心地や脚への反発はハードだが、硬すぎてホビーライダーが乗りこなせない、ということも絶対に無い。とにかくワインディングを走るのが気持ちよく、可能であれば丸一日ずっと乗っていたいと感じてしまうほどだった。
開発陣に聞くSUPERSIX EVO Hi-MOD「本当のロードバイクこそが人々のニーズ」
メディア発表会でのプレゼンテーションを担当したプロダクトマーケティングディレクター、マレー・ウォッシュバーン氏にへのインタビューを紹介します。3年半に渡る開発期間を経て登場したSUPERSIX EVO Hi-MODの開発秘話と、筆者の質問をぶつけてみた。— SUPERSIX EVO Hi-MODのキーワードはバランス感ですが、開発する上で非常に難しいターゲットだったのではないでしょうか?
その通り。本当に難しい課題でした。なぜならば従来のモデルで既に十分な戦闘力を持ったバイクだったからです。小さな進歩を着実に重ね、結果的には飛躍的な進化を成し遂げました。
例えば「軽量」や「高剛性」というのはある意味簡単にできることですし、マーケティング的ににも響きが良いし、ストーリーが作りやすい。しかしEVOに関しては、従来モデルから既にそのバランス感が高い評価を得ていました。それはプロ選手からも同じだったわけです。登り、下り、平坦、スプリント。どこでも一台でこなせるということは、プロにとってはもちろん、趣味として楽しむ方には大きなアドバンテージがある。だから技術的にもマーケティングにも難しい「バランス」をより極めてみようと決断したのです。
— 剛性が上がったのはもちろんのこと、スムーズさにも驚きました。まさに路面を掴んでいる感じですね。
そう言ってくれて嬉しいですね。剛性一辺倒だと、レースで使うにしてもコーナリングでバイクが暴れたりと怖い思いをすることがあります。オートバイのモトGPが良い例です。アルミフレームが出始めた頃は剛性強化一辺倒でしたが、それだと速く走れず、結果的に少し剛性を落としたフレームが使われるようになりました。それは人間が乗る以上、ロードバイクにも同じことが言えるのです。その上で、緻密なコントロールができるバリステックカーボン構造は非常にアドバンテージがありました。
開発に一番時間を掛けたのがフォークです。ほぼフレームと同じくらいの労力を割いたのではないでしょうか。フレームはいわゆる「ダイヤモンド形状」ですが、フォークはフレームから補強無しで独立しているため、製作が非常に難しいのです。
— プロ選手からの要求とはどのようなものでしたか?
やはりコーナーでの安定感や、過酷なレースで疲れが必要以上に溜まらないこと。それは私たちが主眼を置いていたこととほぼ共通でした。でも興味深いことに「もっとエアロを!」というニーズが出なかった。恐らくエアロに特化することで全体のバランスが崩れる可能性があることを知っているのだと思います。
それからシフトワイヤーを外出しにしたのも、プロメカニックからの要求によるものです。なによりも素早い調整や交換が可能となりますし、ワイヤーのテンションを指で確認することができる。当然内装化も検討しましたが、インナートンネルを設けることで重量増にも繋がってしまうのです。ダウンチューブ下中央部に2つのワイヤーを寄せたのは空力のためです。従来のようにヘッドチューブ横にワイヤーを沿わせると、かなり空力的なロスが生まれてしまいますから。内装化と比較し、今回のエアロロスは1gほど。だったら整備性を優先するべきだと判断したのです。
ケーブルルーティングと言えば、今回はリアブレーキワイヤーの出し口をサイズによって変更しています。通常はシートポスト根本の後ろに出し口がありますが、50サイズ以下では少し前方に移しルーティングがキツくならないよう配慮しました。
— プレスフィットを廃し、トラディショナルなスレッドBBに戻したブランドもありますが、それについてはどう思いますか?
それは各ブランドの考え方の違いですから、良いとも悪いとも言えません。でもキャノンデールとしてはBB30に自信を持っていますし、スピンドルを拡張しベアリングも大きく、そして当たり面積が増したBB30Aは剛性向上と軽量化、音の防止も可能としました。それにスレッドBBにすることで重量増加にも繋がります。
— 開発に当たって意識したブランド、メーカーはありますか?
もちろんあります。しかし数年前と違って、現在は本当にたくさんの高性能バイクが出てきました。でもちょっと待って下さい。クルマで例えてみましょう。アウディとBMWを比較したとき、フェラーリとランボルギーニを比べたとき、どちらがより優れているか判断するのは人によって異なります。どのブランドも優れていて、どのブランドも微妙に考え方が異なるわけですから。これは自転車でも同じことが言えます。
スプリントだけしか考えないのであれば高剛性を、平坦をロケットのように飛ばしたいだけであればエアロを求めるでしょう。でもキャノンデールとしては、「True Road Bike(=本当のロードバイク)」こそが人々のニーズであると考えています。今回掲げた「A BALANCE OF POWER」の意味はそこにこそあるのです。
提供:キャノンデール・ジャパン 製作:シクロワイアード編集部