2015/05/09(土) - 22:53
MORGAW クラウドファンディングで実現したアイデアサドル
東ヨーロッパはスロバキアから新たなサドルブランドが日本に上陸する。その名はMORGAW(モーガウ)。クッションとベースの変形がショック吸収を担っていた従来サドルより構造を一新し、エラストマーを用いることで快適性を飛躍的に向上させたことが特徴だ。常識を変える革新的コンフォートサドルの全貌をインプレッションと共に紹介していこう。モーガウは、共に元プロMTBライダーであり、古くからの友人というスロバキア人のマーティン・モラヴィック氏とポーランド人のスラヴェック・ガウリク氏が興したサドル専業ブランド。ちなみに、ブランド名は2人の苗字(MoravcikとGawlik)の先頭3文字を組み合わせたものである。
その創業は2008年で、本格的なプロダクトをリリースしたのは2年後の2010年のこと。処女作となったフルカーボンモデルは合皮のカバーや衝撃吸収材をあわせても100gという凄まじい軽さを誇った。その次にモーガウが注力したのは快適性。2010年の末からは今回紹介するサドル群の開発に専念していき、翌年からは現役プロライダーとの共同開発をスタートさせる。
ここでモーガウは開発費を調達するために、クラウドファンディングを使用する。国内ではまだまだ聞き慣れないクラウドファンディングとは不特定多数の人がインターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力を行うこと。
モーガウは30,000ドルの資金調達を目標とし、最終的に目標の154%となる46,258ドルを集めることに成功する。資金が集まりきらず頓挫することが多いクラウドファンディングにおいては異例であり、世界中の熱心なサイクリストが如何にモーガウへ期待を寄せているかを伺い知ることができるといえよう。
元MTB選手のアイデアを詰め込んだ革新的プロダクト
快適性と軽さ サドルの基本を追求し誕生したサスペンション機構
世界中のコアなサイクリストから注目を集めるモーガウ。その開発コンセプトは「より軽量でより快適」というサドルの基本にある。これを実現するために、モーガウでは多種多様な他ブランドのサドルを研究し、更なる性能向上を果たすためには、これまでとは異なる構造が必要であると判断。その結果として誕生したのが、ベースとレールの間にエラストマーを挟み込んだサスペンション機構である。
これまでも、エラストマーをベースとレールの間に挟み込んだサドルは存在した。しかし、モーガウは筒状のエラストマーをベースで半径方向から、レールで軸方向から挟みこんだ独自の構造を開発。設計の自由度が少なく、フォームの厚みや硬さによって快適性を高めた従来のサドルとは異なり、サドルトップを薄手としながらも高い快適性と軽量性を実現したのだ。
また、この独自構造により垂直方向に動くことはもちろんのこと、ペダリング時の足腰の動きと連動して左右に傾くこともモーガウのサドルの大きな特徴である。この「リアル・アクティブ・コンフォート」と呼ぶ動きは、ペダルを漕ぐ際に腰骨から背骨にかかる負荷を大きく軽減。出力したパワーをよりダイレクトにペダルへと伝えることができるという。
なおエラストマーはベース及びレールと別体になっていることから好みに合わせて乗り心地が調整可能な点も大きな特徴である。ソフト、ミディアム、ハードの3種類が用意され、それぞれ40~70kg用、70~80kg用、80~100kg用とライダーの体重を目安としている。
多様な用途に対応する8種類の座面形状
国内で先行して展開される座面形状はロード用1種類とオフロード用2種類の計3モデル。それぞれ共通する点はマイクロファイバーを使用した表皮とナイロングラスファイバー製のベースという2点で、形状やクッションの厚みを変化させることで、それぞれの用途に最適化している。ロード用の「FORSAGE」は、ロープロファイルなフォルムながら快適性との両立を図ったモデル。フラットな座面にはしびれや痛みの原因となる会陰部の圧迫を和らげる座面の中央部に窪みを設けられている。
MTBクロスカントリー/マラソン用の「TRIAN」は、後端部が若干反り上がったトラディショナルな座面形状をもつサドル。マイクロファイバー製の表皮にはエンボス加工を施し、座面形状とあわせてロスの原因となるスリップを徹底的に防止したことが特徴だ。なお、中央部には会陰部の圧迫を和らげるための窪みが貫かれている。また、「TRIAN」にはクッション量を増やしショック吸収性を高めたMTBエンデューロ/ダウンヒル用の「TRIAN ENDURO」もラインアップ。
なお、今後続々とラインアップが増える予定で、国内でも順次新モデルのリリースされるとのこと。各モデルともエラストマーはMIDIUMが標準装備となり、SOFTとHARDはオプション(税抜価格3,600円)とされている。
バイクにあわせたカスタマイズ
先にも述べた様に、モーガウのサドルはベース、エラストマー、レール、そしてこれらを束ねるボルトが別体となっている。この独自機構を利用したオプションのカスタムパーツが用意されており、レールはUDカーボンとアルミ合金から、ボルトは10種類のアルマイトカラーから選択することが可能。なお、レールの寸法はアルミ合金製も一般的なカーボンレールと同じ7×9mmとしている。
インプレッション
最後にロード向け「FORSAGE」、MTB XC向け「TRAIL」、MTBエンデューロ向け「TRIAN ENDURO」という3種類のインプレッションをCW編集部員のレポートと共に紹介する。また「TRIAN ENDURO」とロードバイクという様に用途外の組み合わせや、体重による推奨よりも硬いエラストマーの使用についても検証を行った。
Case1 FORSAGE+MIDIUMエラストマーをロードで使用
「トルクフルなペダリング時により大きな力を掛けられる」安岡直輝
エラストマーがあるからといってショック吸収性が高いかといわれれば、そうではない。あえて自分よりも体重が重いライダーに最適な「MIDIUM」とロード用モデル「FORSAGE」を組み合わせてみたが、見た目どおりに硬い乗り心地で、この辺りはフラットな座面形状を持つサドルらしい。しかし、エラストマーは完全に動作していない訳では無く、左右に動きながら足の動きに追従してくれる。全体的に細身な造りとあわせて、特に引き足を使いつつグイグイと踏み込んだ際のペダリングが軽快であったという印象。適度なグリップ感を持たせたビニールレザー系の表皮も左右の動きに一役買っていそうだ。
つまりは骨盤を回転させながらトルクフルにペダリングする様なライダーにMORGAWサドルはマッチすると言い得る。対照的にハイケイデンスではサドル自体に負荷が掛からないため、エラストマーがうまく作動してくれなかったたが、その原因はエラストマーが硬すぎたためだろう。
モーガウが提唱するとおりのエラストマー選択を行えば、ケイデンスに関わらず誰でも「リアル・アクティブ・コンフォート」の効果を体感することができるはずだ。
また、セッティングする際にはボルトの締付けトルクに注意したいところ。ボルト自体にMAX1.25Nmと書いてあり、私もその通りに取り付けた所、すぐに緩んでしまった。このため、破損には十分に注意しながらメーカーの指定よりもやや高いトルクで締め付けて挙げる必要がある。
Case2 TRIAN ENDURO+MIDIUMエラストマーをロードで使用
「MTB用ながらロードで使用しても快適性は高い」山本雄哉
「TRIAN ENDURO」はMTB用の中でも下り系のバイク向けモデルとされている。しかし結論から述べると、今回の様にあえてロードバイクに装着して使用してみても充分に独自のショック吸収機構の恩恵を感じ取ることができた。「FORSAGE」とMTBクロスカントリー/マラソン系の「TRIAN」は共に横方向にフラットな昨今主流の座面形状を持つ。しかし私の様に横方向に丸みを帯びたトラディショナルな座面形状を好む方は、推奨用途に囚われず、いきなり「TRIAN ENDURO」を試してみるのみ良いかもしれない。エラストマーは体重70kg台中盤ということでMIDIUMを選択。ロードでの使用ということで、縦方向のエラストマーの働きは正確に感じ取れなかった。しかしパッド自体の量がしっかりと確保されているため振動吸収性に不満を感じることは無い。それでいて、ロードバイクと組み合わせても違和感のないレーシーなルックスに仕上がっている。
むしろノーズ部分はTT用サドルの様にクッションが多く配されているため、前乗りで踏みこんだ際の快適性は普段使用するロード用サドルよりも高く、デリーケートゾーンへの圧迫がないため安心してサドルに体重をかけることができた。一方、横方向のエラストマーの働きはしっかりと体感することができた。特にサドルにどっしりと座ってグイっと踏み込んだ際の坐骨の圧迫が少なく、心なしかハムストリングの疲労も低減されている様な印象を受ける。総じて「TRIAN ENDURO」はMTB用ながら、レースからロングラライドまでロードバイクでの使用にもオススメだ。
Case3 TRIAN ENDURO+SOFTエラストマーをマウンテンバイクで使用
「トレイルライドでは左右の動きがバランス向上に役立つ」綾野真
主な用途がマウンテンバイク、やや下り系のエンデューロにカテゴライズされているTRIAN ENDUROをSOFTエラストマーで試してみた。装着したバイクはジャイアントのXTC ADVANCED 27.5の2014モデル。フルカーボンのリアリジッドクロカンバイクである。下り系というわけではないが、オールラウンドな標準的マルチモデルという位置づけのMTBだ。(バイク自体のインプレッション記事はこちら。)実際に取り付けてまたがると、動画などで観るよりソリッドな第一印象を受ける。座り心地はややハード。手で押し込むと大きく動くにもかかわらず、だ。ペダリングを始めてみると、ベースの後部が左右にしなる感じがある。ロードに取り付けた感じよりもそれは顕著に感じられる。トレイルに出て、アップダウン、テクニカルな地形でのスラロームなどを意識しながら数時間遊んでみた。すると、だんだんと美点が見えてくる。
トレイルでのマウンテンバイキングにおいては、腰や尻回りの動きを使って体重移動を行う乗り方をする。とくにテクニカルセクションではクイッ、クイッっとお尻回りを小刻みに動かしてバランスをとる。その際にサドルベース自体がしなってお尻の動きにうまく追従してくれるのだ。これは非常に具合がいい。慣れてくると、サドルが動くことを利用してバランスを上手くとることができるようになる。上半身や腰回りの小刻みな動きをより有効に使えるようになるのだ。
ベース後部は上下方向にも大きくしなるが、ど真ん中に座っている際にはそれほど沈み込むわけではない。上下方向のしなり(沈み込み)は最小限だ。硬いというわけではないが、過度の快適性を期待するのはお門違いだと思う。動くことがクッション性向上に大きくつながっているわけではないので、快適性を上げてくれるメリットはそれほど大きくない。しかしサドルの動きがバイクのコントロール性向上につながるという意外なメリットを発見した。腰を大きく引いた時はサドル後部が上下方向にもよくしなるので、これもドロップオフ下りなどで積極的に使いたい特性だ。
サドル表皮はビニールレザーのような素材だが、スリップが少なく、バイクパンツによく喰いついてくれる。泥汚れの際にも気兼ねなく洗浄できる素材なので、メンテナンス性も非常に良さそうだ。クロスカントリーあるいはテクニカルなトレイルライドのようなシーンで、モーガウのサドルには大きなメリットが有ると感じた。
Case4 TRIAN+SOFTエラストマーをシクロクロスで使用
「至って自然な使用感 骨盤が左右に振れるライダーにオススメ」磯部聡
舗装路からグラベル、トレイルとあらゆる路面コンディションで100kmほどテスト。その結果、独自構造ながら良い意味で「普通のサドル」という印象を受けた。ペダリングにあわせてサドル自体が動いているというのは確かだが、動き自体が至って自然で、違和感がないのである。いわゆる「フレキシブルなコンフォートサドル」とは大きく異なり、振動吸収性に特化しているという訳ではない。やはりモーガウのサドルが持つメリットは左右の動きにあり、ペダリング中に骨盤が左右に大きく振れる私の様なライダーには、とてもオススメでき、高いフィット感を得ることができるはずだ。
また、左右の動きによるパワーロスは全くなく、表皮が適度なグリップ感を持っていることから、後方が反り上がっているサドルの様に腰を一点にスポッと落ち着けることができる。なお、ロード用の「FORSAGE」もシクロクロスでテストしたものの、パッドがとても薄いため、フィットする方は限られてくるだろう。
3種類のエラストマーによる違いを動画でチェック
MORGAWサドルの主なラインアップ
TRIAN(MTB XC/マラソン用)
用途 | MTB XC/マラソン向け |
表皮 | マイクロファイバー |
ベース | グラス+ナイロンファイバー |
レール | アルミ(オプションでカーボンに交換可) |
衝撃吸収材 | エラストマーポリマー |
実測重量 | 208g |
カラー | ホワイト、ブラック |
税別価格 | 12,000円 |
FORSAGE
(ロード用)
用途 | ロードバイク向け |
表皮 | マイクロファイバー |
ベース | グラス+ナイロンファイバー |
レール | アルミ、カーボン |
衝撃吸収材 | エラストマーポリマー |
実測重量 | 217g |
カラー | ホワイト、ブラック、シルバー |
税別価格(レール) | 12,000円(アルミ)、16,000円(カーボン) |
TRIAN ENDURO
(MTB エンデューロ/DH用)
用途 | MTB エンデューロ/DH向け |
表皮 | マイクロファイバー |
ベース | グラス+ナイロンファイバー |
レール | アルミ(カーボン仕様もラインアップ) |
衝撃吸収材 | エラストマーポリマー |
実測重量 | 208g |
カラー | ホワイト、ブラック |
税別価格 | 12,000円 |
提供:フタバ商店 編集:シクロワイアード編集部