2014/10/31(金) - 18:53
一部のコアなサイクリストが関心を持つスペシャルパーツであったのは過去の話。現在では3大メーカーの純正コンポーネントと併用されるほぼ唯一の存在として市民権を得つつあるローターの楕円チェーンリング「Q-RINGS」。今回のスペシャルコンテンツでは誕生の歴史、プロの使用実績、コンセプトを振り返り、インプレッションを通して改めてQ-RINGSの魅力に迫る。
今やスペインを代表するサイクルパーツメーカーの1つなったローター社。まずはその変遷について紹介しよう。その創業は2002年と比較的新しいブランドだが、その起源は更に7年前の1995年にまで遡る。スペイン国内最高峰とされるマドリード大学の航空工学科の学生達が、プロですらバイオメカニズムに興味を持っていなかった時代に、「人間による円運動と自転車のペダリング」をテーマに研究を始めたことが Q-RINGS誕生のきっかけだ。
その後学内のプロジェクトとして支援を受けながら「フレーム内蔵+ダブルチェーンリング」構造を採用した自転車を完成させ、ペダリング効率を最大限に高めることに成功する。4年後の1999年にはフレーム内蔵のみとした新構造を発表。ただ、専用のフレームが必要であった上に、とても重かったことから広く普及することなかったが、メディアからは大きな注目を集め、研究開発は継続されることに。
21世紀に入ると、スパイダーアームにスプリングを組み込むことでクランク長を可変させ、ペダリング効率の向上を図ったクランク「RCK(Rotor Concept Kit)」をリリース。無加工で一般的な規格のBBに取り付けられたことから一部のコアなサイクリストから受け入れられ、少量ではあるが日本にも輸入された。なお、cyclingnews.comが公開したレビュー記事によれば「スプリントを除けば、全てのシーンで誰もがメリットを享受できる」と高い評価を受けている。
そして2005年、ペダリング効率を高めつつも軽量化と他社クランクとの互換性向上にフォーカスした「Q-RINGS」が誕生する。その原理については次編で詳しく説明するが、一般的に真円のチェーンリングを楕円とすることで、大殿筋や大腿四頭筋、腓腹筋といった発達した筋肉を効率良く使用することが可能となり、理想とするパワー伝達が可能になるというものだ。
その効果はプロにも認められ、2008年にはカルロス・サストレ(スペイン、当時CSC)のツール・ド・フランス優勝に貢献したことで、ローターは一躍トップブランドへと成長を遂げる。
Q-RINGSが市販される様になった2006年から2007年にかけて、技術の強化を目的にチェーンリング以外のプロダクトの開発をスタートさせる。その最初の作品となったのが、アルミ削り出しのボディにイモネジを用いた固定方法を組み合わせることで軽さを追求した「S1」ステムだ。当時アレクサンドロ・ヴィノクロフ(カザフスタン)らが所属するアスタナプロチームがロゴを消して使用したことで話題に。
その過程で得られた技術をもとにQ-RINGSを改良すると同時に、Q-RINGSの性能をさらに引き出すアイテムとしてAgilisや3Dシリーズといったクランクを登場させ、コンポーネントメーカーとしての地位を確固たるものとした。
ローターを一躍トップブランドへと押し上げたのが、プロレースシーンへの積極的なサポートと、Q-RINGSを使用するプロライダー達の活躍である。上記でも述べたが、2008年のツール・ド・フランス個人総合優勝を筆頭にQ-RINGSと共にビッグレースを制したサストレの活躍は特にセンセーショナルであった。
ツール総合優勝者のバイクには当然大きな注目が集まるわけだが、中でもスポンサー外であったためにロゴが黒く塗りつぶされた「非円形」のチェーンリングが話題になったことを覚えている方は少なくないだろう。
また、グランツールではQ-RINGSと3Dクランクをセットで使用し、2011年のブエルタ・ア・エスパーニャで劇的な総合優勝を飾ったファンホセ・コーボ(スペイン、当時ジェオックス)も忘れてはならない。この勝利を記念して限定生産されたマイヨロホカラーの3Dクランクは、国内でも非常に人気が高く入手困難な状況となった。
チーム単位での活躍としては、前身のサーヴェロ・テストチーム時代から長きに渡ってローターのサポートを受けてきたガーミン・シャープがその筆頭だ。ヨハン・ファンスーメレン(ベルギー)による2011年のパリ~ルーベ、スプリンターのスティール・ヴォンホフ(オーストラリア)による2013年のジャパンカップクリテリウムやクリテリウム国内選手権、そしてネイサン・ハース(オーストラリア)による先日のジャパンカップとQ-RINGSは数多くの勝利をアーガイル柄のアメリカンチームにもたらしてきた。
もちろん、ロードレースとTTでそれぞれ真円のno-QとQ-Ringsを使い分けるイル・ロンバルディア2014覇者のダニエル・マーティン(アイルランド)や、3Dクランクを愛用した2010年の世界チャンピオントル・フースホフト(ノルウェー)などもローターが勝利に貢献してきたライダーの1人である。
こうしたQ-RINGSの実績の積み重ねによってプロチームからサポートのリクエストが増加。ガーミン・シャープを筆頭に、2013年ロードレース世界王者のルイ・コスタ(ポルトガル)擁するランプレ・メリダ、ブエルタでルイスレオン・サンチェス(スペイン)が山岳賞を獲得したカハルーラル、パリ~ツールを制したイェーレ・ワレイス(ベルギー)のトップスポートフラーンデレンなど2014シーズンは多くのトップチームをサポートした。
また、Q-RINGSはロード以外の種目のトップレーサーからも愛用されている。歴代最強の女子レーサーと称されるマリアンヌ・フォス(オランダ、ラボ・Liv)も長年に渡ってQ-RINGSを愛用する1人だ。チームとしてではなく個人でローターのサポートを受けロードレースとシクロクロスの両種目で使用。ロード/シクロクロスの両世界選手権を筆頭に、数えきれないほどの勝利を飾っている。チームとしてはケヴィン・パウエルス(ベルギー)ら数多くの有力ライダーを擁するサンウェブ・ナポレオンゲームスのサポートも行っている。
MTBではスペシャライズドファクトリーレーシングチームにサポートを行い、Q-RINGSを使用するクリストフ・サウザー(スイス)が2013年のMTBマラソンで世界王者を獲得。加えて、トライアスロンでもQ-RINGSを愛用するプロ選手はとても多い。
次回はQ-RINGSをPRするために来日したRotor社ゼネラルマネジャーのアントワン・ベルテ氏へのインタビューを通して、ロジックやテクノロジーを紹介すると共に、その魅力に迫る。
楕円チェーンリングの始まりはスペイン最高峰大学の学生による研究
今やスペインを代表するサイクルパーツメーカーの1つなったローター社。まずはその変遷について紹介しよう。その創業は2002年と比較的新しいブランドだが、その起源は更に7年前の1995年にまで遡る。スペイン国内最高峰とされるマドリード大学の航空工学科の学生達が、プロですらバイオメカニズムに興味を持っていなかった時代に、「人間による円運動と自転車のペダリング」をテーマに研究を始めたことが Q-RINGS誕生のきっかけだ。
その後学内のプロジェクトとして支援を受けながら「フレーム内蔵+ダブルチェーンリング」構造を採用した自転車を完成させ、ペダリング効率を最大限に高めることに成功する。4年後の1999年にはフレーム内蔵のみとした新構造を発表。ただ、専用のフレームが必要であった上に、とても重かったことから広く普及することなかったが、メディアからは大きな注目を集め、研究開発は継続されることに。
21世紀に入ると、スパイダーアームにスプリングを組み込むことでクランク長を可変させ、ペダリング効率の向上を図ったクランク「RCK(Rotor Concept Kit)」をリリース。無加工で一般的な規格のBBに取り付けられたことから一部のコアなサイクリストから受け入れられ、少量ではあるが日本にも輸入された。なお、cyclingnews.comが公開したレビュー記事によれば「スプリントを除けば、全てのシーンで誰もがメリットを享受できる」と高い評価を受けている。
そして2005年、ペダリング効率を高めつつも軽量化と他社クランクとの互換性向上にフォーカスした「Q-RINGS」が誕生する。その原理については次編で詳しく説明するが、一般的に真円のチェーンリングを楕円とすることで、大殿筋や大腿四頭筋、腓腹筋といった発達した筋肉を効率良く使用することが可能となり、理想とするパワー伝達が可能になるというものだ。
その効果はプロにも認められ、2008年にはカルロス・サストレ(スペイン、当時CSC)のツール・ド・フランス優勝に貢献したことで、ローターは一躍トップブランドへと成長を遂げる。
Q-RINGSが市販される様になった2006年から2007年にかけて、技術の強化を目的にチェーンリング以外のプロダクトの開発をスタートさせる。その最初の作品となったのが、アルミ削り出しのボディにイモネジを用いた固定方法を組み合わせることで軽さを追求した「S1」ステムだ。当時アレクサンドロ・ヴィノクロフ(カザフスタン)らが所属するアスタナプロチームがロゴを消して使用したことで話題に。
その過程で得られた技術をもとにQ-RINGSを改良すると同時に、Q-RINGSの性能をさらに引き出すアイテムとしてAgilisや3Dシリーズといったクランクを登場させ、コンポーネントメーカーとしての地位を確固たるものとした。
サストレ、ファンスーメレン、フォス Q-RINGSと共にビッグレースを制したプロライダーたち
ローターを一躍トップブランドへと押し上げたのが、プロレースシーンへの積極的なサポートと、Q-RINGSを使用するプロライダー達の活躍である。上記でも述べたが、2008年のツール・ド・フランス個人総合優勝を筆頭にQ-RINGSと共にビッグレースを制したサストレの活躍は特にセンセーショナルであった。
ツール総合優勝者のバイクには当然大きな注目が集まるわけだが、中でもスポンサー外であったためにロゴが黒く塗りつぶされた「非円形」のチェーンリングが話題になったことを覚えている方は少なくないだろう。
また、グランツールではQ-RINGSと3Dクランクをセットで使用し、2011年のブエルタ・ア・エスパーニャで劇的な総合優勝を飾ったファンホセ・コーボ(スペイン、当時ジェオックス)も忘れてはならない。この勝利を記念して限定生産されたマイヨロホカラーの3Dクランクは、国内でも非常に人気が高く入手困難な状況となった。
チーム単位での活躍としては、前身のサーヴェロ・テストチーム時代から長きに渡ってローターのサポートを受けてきたガーミン・シャープがその筆頭だ。ヨハン・ファンスーメレン(ベルギー)による2011年のパリ~ルーベ、スプリンターのスティール・ヴォンホフ(オーストラリア)による2013年のジャパンカップクリテリウムやクリテリウム国内選手権、そしてネイサン・ハース(オーストラリア)による先日のジャパンカップとQ-RINGSは数多くの勝利をアーガイル柄のアメリカンチームにもたらしてきた。
もちろん、ロードレースとTTでそれぞれ真円のno-QとQ-Ringsを使い分けるイル・ロンバルディア2014覇者のダニエル・マーティン(アイルランド)や、3Dクランクを愛用した2010年の世界チャンピオントル・フースホフト(ノルウェー)などもローターが勝利に貢献してきたライダーの1人である。
こうしたQ-RINGSの実績の積み重ねによってプロチームからサポートのリクエストが増加。ガーミン・シャープを筆頭に、2013年ロードレース世界王者のルイ・コスタ(ポルトガル)擁するランプレ・メリダ、ブエルタでルイスレオン・サンチェス(スペイン)が山岳賞を獲得したカハルーラル、パリ~ツールを制したイェーレ・ワレイス(ベルギー)のトップスポートフラーンデレンなど2014シーズンは多くのトップチームをサポートした。
また、Q-RINGSはロード以外の種目のトップレーサーからも愛用されている。歴代最強の女子レーサーと称されるマリアンヌ・フォス(オランダ、ラボ・Liv)も長年に渡ってQ-RINGSを愛用する1人だ。チームとしてではなく個人でローターのサポートを受けロードレースとシクロクロスの両種目で使用。ロード/シクロクロスの両世界選手権を筆頭に、数えきれないほどの勝利を飾っている。チームとしてはケヴィン・パウエルス(ベルギー)ら数多くの有力ライダーを擁するサンウェブ・ナポレオンゲームスのサポートも行っている。
MTBではスペシャライズドファクトリーレーシングチームにサポートを行い、Q-RINGSを使用するクリストフ・サウザー(スイス)が2013年のMTBマラソンで世界王者を獲得。加えて、トライアスロンでもQ-RINGSを愛用するプロ選手はとても多い。
次回はQ-RINGSをPRするために来日したRotor社ゼネラルマネジャーのアントワン・ベルテ氏へのインタビューを通して、ロジックやテクノロジーを紹介すると共に、その魅力に迫る。
編集:シクロワイアード 提供:ダイアテックプロダクツ