2019/07/10(水) - 13:06
ハンドメイドバイクによるグラベルレース、ジャパンバイクテクニーク。ツーリングバイクとしての総合力を競い合うユニークなレースのレポートが届きました。
軽い自転車、というのは自転車乗りの永遠の夢だ。
そして、それはツーリングバイクであっても同じこと。必要な機能を満たしていれば、軽い方がいいに決まっている。その軽さとツーリングバイクとしての機能の、両方を競ってしまおうという欲張りなイベントが長野県高山村で開催されたジャパンバイクテクニークだ。
距離75km、累積標高差2300m、スタートは朝4時。だからライト必須だ。コースには16kmのダートが含まれ、そのダートの手前でお土産(実は温泉饅頭)を渡される。これを積載できるバッグやキャリア(積載は身体ではなく自転車に、という規定)、そしてそのお饅頭をフィニッシュまで型崩れしないで運べたかも採点の対象になる。バッグやツールを含めた自転車の基準重量は10kg、これを超えると減点される。
全行程がタイムを競うレースではなく、23km地点、標高1900mの笠ヶ岳峠に到着順に上位10チームにポイントが与えられるほかは、足切りにさえあわなければいい。このあたりがツーリングバイクのコンテストたる証だ。峠の1位通過ポイントは1000pだが、これはドロヨケを前後とも装着して得られるボーナスポイントの1000pと同じ。それに、フィニッシュ直後に行われる輪行タイムトライアルの1位が得る500pとも天秤にかける必要がある。なんとお饅頭を完璧に運べたチームにも500pという頭脳戦だった。
つまり、旧来のツーリングバイク(ランドナー)が勝てるという保証はまるでなく、グラベルロードが有利なのか、もしかしてEバイクも来たりして? そんな日本初のイベントがこのジャパンバイクテクニークだ。企画したのはサイクルグランボア(https://japanbiketechnique.org)の土屋郁夫さんだ。
メイン会場となった長野県高山村、YOU游ランドには同村の内山信行村長が駆けつけ、参加者を激励。初日のバイクプレゼンテーションを観に来た100人弱の熱心な自転車ファンが、16チームの凝りに凝ったバイクを見守った。
絹自転車製作所が持ち込んだ「テンションシルク」は、ジャイアントの名作折りたたみMR-4の開発者である天才荒井正氏の集大成。「今日は自転車で自転車を運んできました」という語り出しに度肝を抜かれる。自転車のサイドバッグから出てくるフロントフォーク(キャリアとボトルケージを兼ねている)、畳まれたメインフレーム(ダウンチューブはダイニーマを使った「紐」)、それらを瞬く間に組み立てて、太いチューブラーを履いたツーリングバイクが登場した。フル装備で8291gと重量では圧倒的な首位だ!
自作自転車秘密研究所を名乗る服部伸一氏はホビービルダーで、スチールや木、カーボンでこれまで7台を製作、出場するのは8台目のバイクだ。スチールラグのカーボンフレームで前三角は四角断面、ドロヨケもカーボンを積層して自作したという超意欲作。応援団も全出場チームのなかでダントツに多く、熱狂的なファンの存在はホビーの域を遙かに超えた実力の証だ。
そして東京サイクルデザイン専門学校からは3チームが出場。その1チーム、TCDはついにハンドメイドのEバイクを持ち込んだ! 装備を含む規定の総重量は18540g、がっつり8500pの減点だが、走りはおそらく1チームだけ異次元のはず。翌日朝4時のスタートが待ち遠しい!
小雨にけぶる午前4時。少し前に先導のクルマが行ってしまったはずなのに、かなり明るいライトを持った複数の車両が動き始めた。観戦していた筆者含め何人もが「クルマが来た」と思い込んだ。これが現代のツーリングバイクの実力(ハブダイナモを含む)だ!
スタート直後からレースモードの8人ほどが「もう脚パンパンだ」と聞き慣れた三味線を弾きながら上りにかかる。中でもダントツはやはりチームTCDのEバイク、ライダー広江さんと思いきや、柳サイクルのライダー小林さんがすぐ後ろを猛追。期待されたパナソニックのJCF登録ライダー伊藤さんは何と分岐をミスコース、ただ一人20km多く走るハメになった。
笠ヶ岳峠を下り熊ノ湯から渋峠を越える区間はリエゾンなので無理をする必要はないが、梅雨時の天気は容赦してくれない。稜線をいく風に吹かれながら走るライダーたちは、時に小グループとなってこのサイクリングイベントを楽しんだ。
万座温泉から高山村に向かう道に入り、下降路として指定された湯沢林道を右に見て、毛無峠へと寄り道する。ここではハンドルメーカーで知られる日東のスタッフがお土産を渡してくれる。もちろん地元高山村の山田温泉恵豆倉商店の温泉まんじゅうだ。ご丁寧にも10個パックから2個抜いて8個入り、ダートの下りで揺れやすくしてある(笑)。フィニッシュ後のお饅頭の審査は同じく日東の吉川章社長が「お土産として他人に渡せるレベルかどうか」を基準に5段階評価で採点した。
先頭のフィニッシュは8時12分、ケルビムのライダー関谷さんだ。破損した部分はないか検車を受け、お饅頭の審査の後、ギャラリーの前でさっそく輪行を披露。分解し袋詰めして担いで終了、ではなく、そのまま再度組み立てて乗れる状態にするまでのタイムトライアルだ。このお饅頭運搬コンテストと輪行タイムトライアルはジャパンバイクテクニークのオリジナル。特に輪行はそれぞれのチームのカラーが色濃く出た部分で、優勝は固定ギヤで臨んだCスピード小山さんの11分46秒だ。
総合成績は、前日のプレゼンテーションで重量やプレゼンテーション、ボーナスポイントを総合して1位となっていたベロクラフトが、2日目の走行会でもリードを守り切り1位。2位はテンションシルク、3位は山音製輪所のmontsonとなった。
実はこのジャパンバイクテクニークにはお手本となったイベントがある。フランスで今年4回目を迎えるコンクール・マシーンという大会は、2017年には軽量ランドナーをテーマに2日間に渡って開催され、その初日は225kmのうち80%がグラベル(!)、さらに朝4時半スタートという強烈なものだった。出場したサイクルグランボアの土屋さん、そしてライダーの前野さんらが伝道師となって、このJBTをスタートさせたというわけだ。
そもそも、1903年にツールドフランスを始めたレキップ社(ロト社)が、1935年にはコンクール・デュラルミンという軽量車のコンペティションを主催していて、古い自転車雑誌でその記事を読んだマニアもいるはずだ。
このときの出場車の重量制限は9キロで、これを超えると減点。しかも前後に点灯式のライト、最低3kgの荷物を積むキャリア、前後の泥除けの長さまで規定されていたという、軽量ツーリングバイクのイベントだった。80年以上前のランドナーということを考えると、これは相当に厳しい重量制限だ。
過酷なのはコースもだ。走行ルートは4日間で643km、累積標高差10500mという過酷なもので、当時まだダートだったはずのクロワドフェールやガリビエ峠を越えるステージが、軽量車を痛めつけた。タイヤの太さも40mmを基準としていたという。
こんなバックグラウンドがあって開催された、日本初の軽量ツーリングバイクのコンテスト。早くも次回のことで頭がいっぱいになっているメーカーやビルダー、プロショップもいるに違いない。
text&photo:Hitoshi OMAE
軽い自転車、というのは自転車乗りの永遠の夢だ。
そして、それはツーリングバイクであっても同じこと。必要な機能を満たしていれば、軽い方がいいに決まっている。その軽さとツーリングバイクとしての機能の、両方を競ってしまおうという欲張りなイベントが長野県高山村で開催されたジャパンバイクテクニークだ。
距離75km、累積標高差2300m、スタートは朝4時。だからライト必須だ。コースには16kmのダートが含まれ、そのダートの手前でお土産(実は温泉饅頭)を渡される。これを積載できるバッグやキャリア(積載は身体ではなく自転車に、という規定)、そしてそのお饅頭をフィニッシュまで型崩れしないで運べたかも採点の対象になる。バッグやツールを含めた自転車の基準重量は10kg、これを超えると減点される。
全行程がタイムを競うレースではなく、23km地点、標高1900mの笠ヶ岳峠に到着順に上位10チームにポイントが与えられるほかは、足切りにさえあわなければいい。このあたりがツーリングバイクのコンテストたる証だ。峠の1位通過ポイントは1000pだが、これはドロヨケを前後とも装着して得られるボーナスポイントの1000pと同じ。それに、フィニッシュ直後に行われる輪行タイムトライアルの1位が得る500pとも天秤にかける必要がある。なんとお饅頭を完璧に運べたチームにも500pという頭脳戦だった。
つまり、旧来のツーリングバイク(ランドナー)が勝てるという保証はまるでなく、グラベルロードが有利なのか、もしかしてEバイクも来たりして? そんな日本初のイベントがこのジャパンバイクテクニークだ。企画したのはサイクルグランボア(https://japanbiketechnique.org)の土屋郁夫さんだ。
メイン会場となった長野県高山村、YOU游ランドには同村の内山信行村長が駆けつけ、参加者を激励。初日のバイクプレゼンテーションを観に来た100人弱の熱心な自転車ファンが、16チームの凝りに凝ったバイクを見守った。
絹自転車製作所が持ち込んだ「テンションシルク」は、ジャイアントの名作折りたたみMR-4の開発者である天才荒井正氏の集大成。「今日は自転車で自転車を運んできました」という語り出しに度肝を抜かれる。自転車のサイドバッグから出てくるフロントフォーク(キャリアとボトルケージを兼ねている)、畳まれたメインフレーム(ダウンチューブはダイニーマを使った「紐」)、それらを瞬く間に組み立てて、太いチューブラーを履いたツーリングバイクが登場した。フル装備で8291gと重量では圧倒的な首位だ!
自作自転車秘密研究所を名乗る服部伸一氏はホビービルダーで、スチールや木、カーボンでこれまで7台を製作、出場するのは8台目のバイクだ。スチールラグのカーボンフレームで前三角は四角断面、ドロヨケもカーボンを積層して自作したという超意欲作。応援団も全出場チームのなかでダントツに多く、熱狂的なファンの存在はホビーの域を遙かに超えた実力の証だ。
そして東京サイクルデザイン専門学校からは3チームが出場。その1チーム、TCDはついにハンドメイドのEバイクを持ち込んだ! 装備を含む規定の総重量は18540g、がっつり8500pの減点だが、走りはおそらく1チームだけ異次元のはず。翌日朝4時のスタートが待ち遠しい!
小雨にけぶる午前4時。少し前に先導のクルマが行ってしまったはずなのに、かなり明るいライトを持った複数の車両が動き始めた。観戦していた筆者含め何人もが「クルマが来た」と思い込んだ。これが現代のツーリングバイクの実力(ハブダイナモを含む)だ!
スタート直後からレースモードの8人ほどが「もう脚パンパンだ」と聞き慣れた三味線を弾きながら上りにかかる。中でもダントツはやはりチームTCDのEバイク、ライダー広江さんと思いきや、柳サイクルのライダー小林さんがすぐ後ろを猛追。期待されたパナソニックのJCF登録ライダー伊藤さんは何と分岐をミスコース、ただ一人20km多く走るハメになった。
笠ヶ岳峠を下り熊ノ湯から渋峠を越える区間はリエゾンなので無理をする必要はないが、梅雨時の天気は容赦してくれない。稜線をいく風に吹かれながら走るライダーたちは、時に小グループとなってこのサイクリングイベントを楽しんだ。
万座温泉から高山村に向かう道に入り、下降路として指定された湯沢林道を右に見て、毛無峠へと寄り道する。ここではハンドルメーカーで知られる日東のスタッフがお土産を渡してくれる。もちろん地元高山村の山田温泉恵豆倉商店の温泉まんじゅうだ。ご丁寧にも10個パックから2個抜いて8個入り、ダートの下りで揺れやすくしてある(笑)。フィニッシュ後のお饅頭の審査は同じく日東の吉川章社長が「お土産として他人に渡せるレベルかどうか」を基準に5段階評価で採点した。
先頭のフィニッシュは8時12分、ケルビムのライダー関谷さんだ。破損した部分はないか検車を受け、お饅頭の審査の後、ギャラリーの前でさっそく輪行を披露。分解し袋詰めして担いで終了、ではなく、そのまま再度組み立てて乗れる状態にするまでのタイムトライアルだ。このお饅頭運搬コンテストと輪行タイムトライアルはジャパンバイクテクニークのオリジナル。特に輪行はそれぞれのチームのカラーが色濃く出た部分で、優勝は固定ギヤで臨んだCスピード小山さんの11分46秒だ。
総合成績は、前日のプレゼンテーションで重量やプレゼンテーション、ボーナスポイントを総合して1位となっていたベロクラフトが、2日目の走行会でもリードを守り切り1位。2位はテンションシルク、3位は山音製輪所のmontsonとなった。
実はこのジャパンバイクテクニークにはお手本となったイベントがある。フランスで今年4回目を迎えるコンクール・マシーンという大会は、2017年には軽量ランドナーをテーマに2日間に渡って開催され、その初日は225kmのうち80%がグラベル(!)、さらに朝4時半スタートという強烈なものだった。出場したサイクルグランボアの土屋さん、そしてライダーの前野さんらが伝道師となって、このJBTをスタートさせたというわけだ。
そもそも、1903年にツールドフランスを始めたレキップ社(ロト社)が、1935年にはコンクール・デュラルミンという軽量車のコンペティションを主催していて、古い自転車雑誌でその記事を読んだマニアもいるはずだ。
このときの出場車の重量制限は9キロで、これを超えると減点。しかも前後に点灯式のライト、最低3kgの荷物を積むキャリア、前後の泥除けの長さまで規定されていたという、軽量ツーリングバイクのイベントだった。80年以上前のランドナーということを考えると、これは相当に厳しい重量制限だ。
過酷なのはコースもだ。走行ルートは4日間で643km、累積標高差10500mという過酷なもので、当時まだダートだったはずのクロワドフェールやガリビエ峠を越えるステージが、軽量車を痛めつけた。タイヤの太さも40mmを基準としていたという。
こんなバックグラウンドがあって開催された、日本初の軽量ツーリングバイクのコンテスト。早くも次回のことで頭がいっぱいになっているメーカーやビルダー、プロショップもいるに違いない。
text&photo:Hitoshi OMAE
リンク
Amazon.co.jp
This item is no longer valid on Amazon.