2018/10/19(金) - 13:36
香港で開催された総合サイクルイベント「香港サイクロソン」に参加してきた。ハンマーシリーズを招致したことでも話題の大会は、一般参加だけでも5000人を超える政府主導の一大イベントだった。まずは前編の現地レポートから紹介したい。
飲茶やショッピング、活気溢れる市街地を走るトラム、華やかな夜の街、あるいはイギリス統治時代の文化が入り混じる独特の文化...。香港といえばこういったイメージが中心で、そこにスポーツサイクルを思い浮かべる人はほぼゼロに近いだろう。
しかし10月14日、香港の街は自転車一色に染め上げられた。早朝スタートのライドイベントでは合計5400人もの参加者が市街地や高速道路を封鎖した特設コースを埋め尽くし、市民レースでは熱い勝負が繰り広げられ、とどめは15のトップチームが参加したアジア初開催となるハンマーシリーズの開催だ。多分この日、今年で4回目となる総合自転車イベント「香港サイクロソン」を迎えた香港は、世界で最も自転車に湧いた場所だった。
東京から空路で4時間半。「東洋の真珠」とも「食の都」とも、あるいは「眠らない街」とも呼ばれる香港は、かくも近かった。下調べをほとんどできないまま取材に赴いたのだが、空港から市街地に向かうタクシーから見た香港は、予想よりもずっと広く、そして背後に控える山々の急峻さに驚かされる。神戸の街並みをぎゅっと凝縮した感じかも、とぼんやり考えているうちに、香港サイクロソンが開催される九龍半島の中心街「尖沙咀 (チムサアチョイ)」に到着した。
今年で4回目を迎える香港サイクロソンは、ライドイベントやレースなどを含めた総合自転車イベントだ。主催の香港政府観光局は各月それぞれで国際スポーツイベントを開催することを目標にしており、自転車が10月に割り当てられたというのが始まりだという。
しかしその成長ぶりは著しく、今年の参加者は国内外合わせて5400名。昨年大会が4900名だったというから、その伸び率は素晴らしいレベルと言えるだろう。ヨーロッパ文化の名残でサイクリストも多く、オーダーウェアで世界的なシェアを誇るチャンピオンシステムの本拠地だったり、もともとサイクリングカルチャーは根付いていたが、サイクロソンの開催によって急激に認知度が高まったそう。そもそも4年目にしてハンマーシリーズを呼び込んでしまうとは何とパワフルなことだろうか。
さて、そんな香港だが、「自転車が走り回ってる中国大陸」というステレオタイプなイメージを持ち込むと、実際のギャップに驚かされることになる。モータリゼーションの発達によってクルマと地下鉄、トラム、そして歩きが香港ローカルの足となっているため、自転車は街中にただの一台も見当たらない。どの香港人に聞いても「尖沙咀や香港市街地を走るなんてお願いだから止めておいた方が良い」という返事が返ってくる。
というのも香港の道路は高速道路との境目があいまいで、(パッと見自転車が走って良いのかどうか不明な)海底トンネルや大きな橋が多く、そしてドライバーが結構アグレッシブで、自転車に対して慣れていないのが理由だという。それだけに市街地を封鎖して思う存分走れて観戦できるサイクロソンの開催は、普段クルマの少ないエリアに追いやられているローカルの目にも魅力的に映るのだそう。
今回は観光局のバックアップを受けて取材させてもらったのだが、同じように隣国の中国台湾はもちろんのこと、地理的に近いタイやインドネシア、シンガポールといった東南アジア諸国、オーストラリア、そして遠くフランスやイギリスなどヨーロッパ各国からもメディアが招待されるなど、PRに対する意識の高さ(そして当然資金力も)を感じる。
更にスペシャルゲストとして過去にツール・ド・フランスを制し、世界王者にも輝いたカデル・エヴァンス(オーストラリア)や、「アジアの虎」として名高い国民的スター(日本でいう中野浩一クラスの認知度らしい)のワン・カンポーも登場し、早朝のライドイベントからハンマーシリーズの現地ゲスト解説、そしてサイン攻めまで超多忙な時間を過ごしていた。
50kmと30kmの市民ライドイベントが終わると、尖沙咀市街地ど真ん中に用意された周回コースに舞台が移る。インターコンチネンタルやクラウンプラザといった高級ホテルが立ち並ぶ海沿いエリアを封鎖して作られたコースは、90度コーナーが連続する区間や180度の折り返し、超高速区間まで用意されるバリエーションに富んだものだ。
キッズレースに始まり、三輪車ライド、チャリティー目的ゆえに参加料金50万円(!)とも噂される「CEOライド」なるプログラムが行われ、昼頃には男女それぞれの市民レースがスタートする。徐々にレースのレベルが上がるにつれて沿道のテンションも上がり、ハンマーシリーズ最終戦の第1種目、ハンマースプリントのスタートでその興奮は最高潮に達した。
参加チームの多くはUCIワールドツアー最終戦のツアー・オブ・広西との連戦、更にはハンマーシリーズ最終戦とあって各チームは豪華メンバーを揃えてきた。ジロ・デ・イタリア覇者のトム・ドゥムラン(オランダ、サンウェブ)を筆頭に、フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)、欧州王者マッテーオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)、怪我空けのリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)などなど、これだけのフルメンバーが本気で戦う機会はアジアでは滅多に無い。
それだけにコンパクトなサーキットの沿道は自転車ファンや観光客、そして香港ローカルで埋め尽くされ、常にアタックが掛かり続ける息をつかせない展開と合わせて大歓声が市街地を駆け巡る。その中で善戦したアジア人の中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ)には惜しみない「加油」が送られ、訪れやすさゆえに日本から観戦に来た熱心なロードレースファンの姿も多かった。
ハンマーシリーズの展開は辻啓によるレースレポートをご覧いただきたいが、結果的には今季ハンマーシリーズで猛威を振るったミッチェルトン・スコットがクイックステップフロアーズを引き離して優勝。プレートをハンマーで打ち込む名物の表彰式が終わってもなお、会場の熱気は盛り下がることを知らなかった。
「香港でトップレースが開催されたのは大きな意味があると思う。今回は市街地の平坦コースだったけれど、すぐ近くには本格的な山もあるからあらゆるレースにも対応できる。アジアやオセアニアの競技レベルを上げるためにも、ロードレースの人気を高めるためにも良いイベントだった」と、秒刻みのスケジュールをこなしていたエヴァンスは言う。
正直私も香港と言えばトラック競技が盛んなくらいのイメージだったが、1日を通して体験したボリュームと熱意は、未だ成長著しい香港パワーを大いに感じる、とても魅力的なものだった。
さて、騎自行車享受香港(香港を自転車で楽しむ)Vol.2では、実際にサイクロソンを走ったレポートをご紹介。ごく早朝スタートのタイムフローや、香港への自転車旅行ハウツー、自転車観光スポット、そして(筆者が勝手に選ぶ)イチオシグルメ情報なども合わせてレポートする予定です。
text:So.Isobe
photo:Zhizhao Wu/2018 Getty Images,So.Isobe
取材協力:香港政府観光局
飲茶やショッピング、活気溢れる市街地を走るトラム、華やかな夜の街、あるいはイギリス統治時代の文化が入り混じる独特の文化...。香港といえばこういったイメージが中心で、そこにスポーツサイクルを思い浮かべる人はほぼゼロに近いだろう。
しかし10月14日、香港の街は自転車一色に染め上げられた。早朝スタートのライドイベントでは合計5400人もの参加者が市街地や高速道路を封鎖した特設コースを埋め尽くし、市民レースでは熱い勝負が繰り広げられ、とどめは15のトップチームが参加したアジア初開催となるハンマーシリーズの開催だ。多分この日、今年で4回目となる総合自転車イベント「香港サイクロソン」を迎えた香港は、世界で最も自転車に湧いた場所だった。
東京から空路で4時間半。「東洋の真珠」とも「食の都」とも、あるいは「眠らない街」とも呼ばれる香港は、かくも近かった。下調べをほとんどできないまま取材に赴いたのだが、空港から市街地に向かうタクシーから見た香港は、予想よりもずっと広く、そして背後に控える山々の急峻さに驚かされる。神戸の街並みをぎゅっと凝縮した感じかも、とぼんやり考えているうちに、香港サイクロソンが開催される九龍半島の中心街「尖沙咀 (チムサアチョイ)」に到着した。
今年で4回目を迎える香港サイクロソンは、ライドイベントやレースなどを含めた総合自転車イベントだ。主催の香港政府観光局は各月それぞれで国際スポーツイベントを開催することを目標にしており、自転車が10月に割り当てられたというのが始まりだという。
しかしその成長ぶりは著しく、今年の参加者は国内外合わせて5400名。昨年大会が4900名だったというから、その伸び率は素晴らしいレベルと言えるだろう。ヨーロッパ文化の名残でサイクリストも多く、オーダーウェアで世界的なシェアを誇るチャンピオンシステムの本拠地だったり、もともとサイクリングカルチャーは根付いていたが、サイクロソンの開催によって急激に認知度が高まったそう。そもそも4年目にしてハンマーシリーズを呼び込んでしまうとは何とパワフルなことだろうか。
さて、そんな香港だが、「自転車が走り回ってる中国大陸」というステレオタイプなイメージを持ち込むと、実際のギャップに驚かされることになる。モータリゼーションの発達によってクルマと地下鉄、トラム、そして歩きが香港ローカルの足となっているため、自転車は街中にただの一台も見当たらない。どの香港人に聞いても「尖沙咀や香港市街地を走るなんてお願いだから止めておいた方が良い」という返事が返ってくる。
というのも香港の道路は高速道路との境目があいまいで、(パッと見自転車が走って良いのかどうか不明な)海底トンネルや大きな橋が多く、そしてドライバーが結構アグレッシブで、自転車に対して慣れていないのが理由だという。それだけに市街地を封鎖して思う存分走れて観戦できるサイクロソンの開催は、普段クルマの少ないエリアに追いやられているローカルの目にも魅力的に映るのだそう。
今回は観光局のバックアップを受けて取材させてもらったのだが、同じように隣国の中国台湾はもちろんのこと、地理的に近いタイやインドネシア、シンガポールといった東南アジア諸国、オーストラリア、そして遠くフランスやイギリスなどヨーロッパ各国からもメディアが招待されるなど、PRに対する意識の高さ(そして当然資金力も)を感じる。
更にスペシャルゲストとして過去にツール・ド・フランスを制し、世界王者にも輝いたカデル・エヴァンス(オーストラリア)や、「アジアの虎」として名高い国民的スター(日本でいう中野浩一クラスの認知度らしい)のワン・カンポーも登場し、早朝のライドイベントからハンマーシリーズの現地ゲスト解説、そしてサイン攻めまで超多忙な時間を過ごしていた。
50kmと30kmの市民ライドイベントが終わると、尖沙咀市街地ど真ん中に用意された周回コースに舞台が移る。インターコンチネンタルやクラウンプラザといった高級ホテルが立ち並ぶ海沿いエリアを封鎖して作られたコースは、90度コーナーが連続する区間や180度の折り返し、超高速区間まで用意されるバリエーションに富んだものだ。
キッズレースに始まり、三輪車ライド、チャリティー目的ゆえに参加料金50万円(!)とも噂される「CEOライド」なるプログラムが行われ、昼頃には男女それぞれの市民レースがスタートする。徐々にレースのレベルが上がるにつれて沿道のテンションも上がり、ハンマーシリーズ最終戦の第1種目、ハンマースプリントのスタートでその興奮は最高潮に達した。
参加チームの多くはUCIワールドツアー最終戦のツアー・オブ・広西との連戦、更にはハンマーシリーズ最終戦とあって各チームは豪華メンバーを揃えてきた。ジロ・デ・イタリア覇者のトム・ドゥムラン(オランダ、サンウェブ)を筆頭に、フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)、欧州王者マッテーオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)、怪我空けのリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)などなど、これだけのフルメンバーが本気で戦う機会はアジアでは滅多に無い。
それだけにコンパクトなサーキットの沿道は自転車ファンや観光客、そして香港ローカルで埋め尽くされ、常にアタックが掛かり続ける息をつかせない展開と合わせて大歓声が市街地を駆け巡る。その中で善戦したアジア人の中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ)には惜しみない「加油」が送られ、訪れやすさゆえに日本から観戦に来た熱心なロードレースファンの姿も多かった。
ハンマーシリーズの展開は辻啓によるレースレポートをご覧いただきたいが、結果的には今季ハンマーシリーズで猛威を振るったミッチェルトン・スコットがクイックステップフロアーズを引き離して優勝。プレートをハンマーで打ち込む名物の表彰式が終わってもなお、会場の熱気は盛り下がることを知らなかった。
「香港でトップレースが開催されたのは大きな意味があると思う。今回は市街地の平坦コースだったけれど、すぐ近くには本格的な山もあるからあらゆるレースにも対応できる。アジアやオセアニアの競技レベルを上げるためにも、ロードレースの人気を高めるためにも良いイベントだった」と、秒刻みのスケジュールをこなしていたエヴァンスは言う。
正直私も香港と言えばトラック競技が盛んなくらいのイメージだったが、1日を通して体験したボリュームと熱意は、未だ成長著しい香港パワーを大いに感じる、とても魅力的なものだった。
さて、騎自行車享受香港(香港を自転車で楽しむ)Vol.2では、実際にサイクロソンを走ったレポートをご紹介。ごく早朝スタートのタイムフローや、香港への自転車旅行ハウツー、自転車観光スポット、そして(筆者が勝手に選ぶ)イチオシグルメ情報なども合わせてレポートする予定です。
text:So.Isobe
photo:Zhizhao Wu/2018 Getty Images,So.Isobe
取材協力:香港政府観光局
リンク
Amazon.co.jp
anan特別編集 休日、香港 アンアン特別編集
マガジンハウス