前回の編集会議で、自分の体が痛んだ事の腹いせのような宿題を残していったメタボ会長。あの嬉しそうに理不尽な課題を押し付けてくるメタボ会長の表情を思い出すだけで、私の心中には憎悪にも似た怒りが込み上げてくる。

今回の問題を解決すべく投入されたフルカーボンMTB今回の問題を解決すべく投入されたフルカーボンMTB とは言え一応は我々編集部の事業主からの要求と云う事実は変わらないので、悔しながらも無理難題に対しての対応をせざるを得ないのが現状である。

私達サラリーマンはとっても可哀想な生き物なのだ。トホホ...。

通常業務の隙間を見つけ、憎きメタボ会長の宿題に向けて簡単な会議を始める私達。全員が納得いかないままに押し付けられた業務命令の為、この議題はかなりの難航を見せると私は予想していた。

どんよりと暗い心と共に重い口を私が開く。

「例の、体に優しくて軽快で快適にスイスイ進む自転車に就いてなんだけど、どうやって誤魔化す?」
いま思えば私の切り出し方も、かなりネガティブ思考丸出しな方法ではあったが、そんな中、編集部員の一人が何気なく素晴らしい一言を口にする。

「もともと会長はオートバイあがりだから、サスペンションが付いてればイイだけじゃないですか?」

「遅いぞ!」 えっ?アナタが早すぎたダケですよね?「遅いぞ!」 えっ?アナタが早すぎたダケですよね? 編集部員のこの一言で作戦会議は一気に終了である。会議所要時間は僅か10分。重く暗かった編集部内の空気が一気に明るくなって行く。

私のフルサスペンションMTBに乗せれば、振動の問題はパーフェクトにクリアである。しかも私のMTBは車体重量も10.2kgしかないフルカーボンフレームだから軽快な走りの件も、ほぼ問題なくクリアーの筈である。

そうして迎えた試乗当日。メタボ会長と合流のため、いつもの新堤防に向かう。既に先着してタバコをふかしているメタボ会長を見つけた私は、丁重な態度で声を掛ける。

「会長お待たせしました。乗り心地の問題はこのバイクで解決です。体に振動は一切伝えません!」
そう言って私の大切な愛車をメタボ会長に差し出す。

「お?カッコイイね!サス付きかぁ!」その言葉も終わらないうちに、私のMTBに跨りそこら辺を走り回るメタボ会長。今回もその表情は新しいオモチャを手にした子供の表情に変わっている。

「カッコイイじゃんか!」 サスペンションに大満足「カッコイイじゃんか!」 サスペンションに大満足 「これならどこでも走れちゃうぞ!」 ゴキゲンの様子「これならどこでも走れちゃうぞ!」 ゴキゲンの様子


「何だよ!サス付きの自転車ってあったんだ!カッコイイじゃん!なんでいままで隠してたの?」
「いやいや、こりゃ快適でゴキゲンだよ。振動なんて全く無し!とりあえず1周走ってみるか。」

満足げな表情で走り始める私達。メタボ会長も至ってご機嫌の様子で、楽しげな表情を見せながら追走してくる。これでアッサリと問題解決とタカを括ってサイクリングを楽しむ私達であった。

ところが、いつもの多摩湖サイクリングロードを半周もしないうちに、メタボ会長からストップの号令が懸かる。振り返るとその表情は不満に満ち溢れているではないか。

この時点ではまだまだゴキゲンだったのだが・・・この時点ではまだまだゴキゲンだったのだが・・・ そして開口一番、「これ遅いぞ!」 

これには私達もビックリである。
「えっ?遅いのはバイクじゃなくてアナタの脚力の問題じゃないの?」
思わず言い返しそうになるが、何とか自重する私達を尻目に、メタボ会長のワガママがスタートである。

「コイツなかなか進まないぞ。漕いでも漕いでも君達から離れていくんだよな。カッコイイけど却下!悪いけど俺の自転車返してくれる?」
そそくさと私の自転車を取り上げる始末だ。

「あんなに乗り心地良くて最高、とかって喜んでたじゃんか!」 諦めにも似た叫び声が私の心の中を駆け巡る。とは云え、確かに我々編集部としても、かなり大胆に手を抜いた対応である事に、しっかりと自覚があるのも事実だけに、見破られた感があるのも正直なところである。

「ダメですか?会長の痛んだ体を考えて、乗り心地を最優先した選択だったのですが、失礼しました。もう少し軽快な乗り味との両立を編集部で再度議論してみます。」

メタボ会長に我々の手抜き対応だけは気付かれない様に、もっともらしい言葉でお茶を濁す私であったが、そんな私の心中を察しているかの様に、メタボ会長から次々と言葉が投げかけられる。

「これからの自転車業界は、我々オヤジライダーと可愛い女性ライダーが支える筈だから、今回の案件はとっても重要だぞ。俺みたく体が衰えてきたオヤジや、せっかく興味を持ってくれた女性達に、少しでも快適にスマートに楽しみながら乗り続けて貰えるような情報を発信していかないと、自転車業界に明日はない!」

何を勘違いしたのか、自転車業界についてまで語り始める始末だ。

編集長、ちょっとペースが早すぎやしませんか?編集長、ちょっとペースが早すぎやしませんか? だから!ペースが早すぎるってば!(怒)だから!ペースが早すぎるってば!(怒)


「我々エンジョイ派ライダーを疎かにしてると、バリバリのレース志向ライダーだけになっちゃうぞ。子育ても落ち着いてきた俺達ジジイは比較的金銭的な余裕があるんだから、舐めちゃダメだぞ。」

確かにメタボ会長の主張にも一理ある。案外、我々編集部としても真剣に取り組むべき案件なのかもしれないと云う考えが頭を擡げ始めたところに、トドメの一言が発せられる。

「そもそも俺は君達のようなムサ苦しい連中と走るよりも、可愛い女性達と走るほうが、ウキウキして楽しいぞ。」 ん?結局それかい!いつもの様にブチ壊しである。

この上り坂がトドメを刺してしまったみたいです(汗)この上り坂がトドメを刺してしまったみたいです(汗) 「オヤジとお姉ちゃんを最優先しなさい!」
メタボ会長から激しく檄が飛んでくるのだが、もはや全く説得力のない業務命令と化している。

こうして、メタボ会長と別れ編集部に戻った私達は、直ちに緊急会議に突入である。
「いやいや今日はヤバかった。あっさり見抜かれてしまった以上、少し真面目に考えよう。」

「動機が不純なのは明白だけど、乗る事自体が楽しくなる自転車探しは案外、大切な案件かもしれないね。」
私の言葉を皮切りに、編集部員たちから堰を切った様に意見が飛び出す。

「単純に、28cくらいの太いタイヤを履かせて、空気圧を低めに設定で解決じゃないですかね・・・」
「いっその事、会長のシクロワイアード号のFフォークをサスペンション付きに交換できませんかね?」
「シクロクロスバイクにロード用の28Cくらいのタイヤを履かせてみれば・・・」
「ハンドルバーにゲル入りのバーテープを二重三重に巻いて、シートポストをママチャリなんかに付いてるサスペンション機構付きのヤツに換ええちゃいましょうか?」

ただ、その内容は誰もが簡単に思い付く浅知恵レベルのモノばかりである。
ひと仕切り意見が出た後は沈黙が編集部を包んでゆく。真面目に取り組めば取り組む程、答えが見つからなくなる事に編集部全員が薄々気付いていただけに、みんなの表情もみるみる曇っていくのが見てとれる。

オヤジや女性達の大切さを力説する。いい迷惑であるオヤジや女性達の大切さを力説する。いい迷惑である 「編集長が並走のスピードをちょっと控えめにしてさえいれば、一件落着だったかもしれませんよね?」

とうとう編集部内に不協和音が響き始める始末である。いまさら身内同士で仲間割れしている場合ではない事は明白なのだが・・・。そんな中で、編集部員の一人から正論が呈される。

「そもそも、会長の言う乗り心地の良さって、どのレベルの話なんですかね?」

この意見が一番的を得ている事は明白だった。

次回の試乗は、メタボ会長の要求レベルを把握することに徹しようと云う事で作戦会議を終了させる私達であった。


次回ですか?
取り敢えず、試走に向かいます。


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「ポイ捨てはダメだぞ!携帯灰皿を忘れずに。」「ポイ捨てはダメだぞ!携帯灰皿を忘れずに。」 メタボ会長
身長 : 172cm
体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 10ヶ月目

当サイト運営法人の代表取締役。
高校3年まで野球に明け暮れ、大学時代にオートバイのロードレースに夢中になり、卒業後メーカー系チームに所属し全日本選手権に3年間出場。鳴かず飛ばずで所属チームを解雇された後、平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となるが、その勤務実態や社内での立場は謎に包まれている。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。


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