2017/03/07(火) - 09:14
社内での確実な保身と薄れゆく自身の存在感の回復のために、半ば強引にメタボ会長に頼み込んで実現した奥多摩サイクリング同行取材。私には家で待つ家族ためにも成し遂げなければならない業務がある。
私の事前予想を遥かに上回る景観を見せてくれた白丸ダムを後にした私たちは、再び奥多摩湖を目指して遡上を始める。JR白丸駅を通過した先で”白丸トンネル”が現れるが、ここでもオヤジは迷うことなく側道へと脚を向ける。
この側道には車止めのポールが設置されており、歩行者と自転車しか入ることはできない。メタボ会長自らが「とっておきの場所」と呼ぶこの側道を進むと、眼前に小さな洞穴が現れる。
岩盤が剥き出しの苔むしたそのトンネルは、遥か江戸の時代からタイムスリップしてきたかのような面影を持ち、古き良き日本の風景を再現するかのように佇んでいる。おそらく手掘りで掘り進められたと思われる岩盤の上の斜面には樹木が根付き、まるで浮世絵のような景観を醸し出している。
「ここは一番のお気に入りポイントなんだ」というオヤジの言葉に、私もまったくもって異論はない。先ほど見た、自然に立ち向かう巨大な人工構造体の迫力と、目の前で繰り広げられる浮世絵のように繊細な自然美とのコントラストに感動もひとしおだ。案外、今日のサイクリングは大当たりかもしれない。
再び国道411号線に戻った私たちは緩斜面が続く青梅街道を西に進み続ける。海沢大橋を通り過ぎてしばし走ると、延長605mの新氷川トンネルが現れる。この新氷川トンネルが今コース最長のトンネルとなるのだが、言うには及ばず、もちろんココも側道に避難だ。
この側道には、山が迫った渓谷と新氷川トンネルの間に寄り添うように建つ”奥多摩温泉もえぎの湯”がある。奥多摩駅から近いこともありココの足湯は人気が高く、実際この時も平日の午前にも関わらず微笑ましい四人組の女性グループが足湯を楽しんでいた。思わず一緒に浸かっていきたい衝動に駆られる。
(お姉さん達に事情を話すと顔出しの許可を頂けました。ありがとうございました。)
お姉さん達の笑顔に後髪を引かれながら”もえぎの湯”を後にすると、すぐに渓谷に架かる”もえぎ橋”という名の吊り橋が見えてくる。このもえぎ橋は真木よう子主演で2013年に公開された映画”さよなら渓谷”に登場したこともあり、紅葉の季節には抜群の人気を誇る観光スポットだそうだ。
再び国道に戻った私たちは、JR青梅線の終着駅”奥多摩駅”を通り過ぎる。ここから先は道幅も狭まり斜度も若干増すために走行には十分な注意が必要だ。奥多摩駅から2km程進んだ所で橋詰トンネル(延長240m平均勾配5%前後)が現れる。メタボ会長によるとこの橋詰トンネルとその先の白髭トンネル(延長360m平均勾配7%前後)、奥多摩湖手前の中山トンネル(延長390m平均勾配5%前後)だけは側道が無いという。
後続のクルマの切れ目を狙って橋詰トンネルと白髭トンネルを慎重かつ迅速に走り抜ける。この二本のトンネルは路側帯が狭くずっと登り続けるため、もしこのコースを走られる場合は防衛運転を心掛け慎重に走行してください。もちろん前照灯と尾灯は忘れずに!メタボ会長にならってトンネル入り口で後続車の切れ目を待つのも有効です。
白鬚トンネルを無事に通過するとすぐに側道が現れる。この側道を使えばこの先の4つのトンネルをまとめて回避できるんだよ!とドヤ顔で自慢していたメタボ会長だが、側道に入ってすぐの”いろは楓”の路肩でバイクを止めると、真面目な口調で私に注意を促してきた。
「トンネル回避のために此処から裏道に入るけど、この裏道は”むかし道”って呼ばれてる有名なハイキングコースなんだよ。だから速度は20km/h以下でギアはインナー縛りな!とにかく歩行者優先でハイカーさんに不安を与えないよう安全運転を心掛けてくれよ!」
いつもの会長らしからぬ表情にその理由を尋ねると、まだ会長が自転車に乗り始める以前に、家族を連れて此処”むかし道”で紅葉狩り散策を楽しんでいた際、結構な勢いで走り抜ける自転車集団に眉をひそめた覚えがあるのだと云う。
そんなメタボ会長からの本気の注意喚起を受け、私は確実にギアをインナーに落として”奥多摩いなか道”を進む。木漏れ日の溢れる渓谷沿いの細道は、なるほど古風な雰囲気に溢れハイカーさんに人気なのも頷ける。道中の所々の名所には白看板が設置され、その謂(いわ)れや説明が書かれている。
その数ある白看板の中でも私は”厳道の馬頭様”の白看板に不思議と心を奪われた。その看板には「此処はそのむかし、人ひとりがやっと通れるほどの狭い旧道で、多くの馬が谷に落ちたと云い、そのたびに供養塔が増えていった」と記されていた。残念ながらどれが供養塔か判らなかったため写真には納めていないが、道側の断崖絶壁を見下ろしながら、難に遭った馬たちの姿に思いを馳せ、なんだか悲しい気分を味わったような気がした。
勝手に黄昏ながら脚を進める私の前に”道所橋”が現れる。「この橋は5人以上で渡らないでください」と注意書き看板のあるこの吊り橋は、むかし道の超有名な観光スポットで、オヤジいわく「紅葉シーズンになると観光客がこの橋の写真を撮るために順番待ちの行列ができる」ほどの場所らしい。
その後も雰囲気溢れる細道と切立った渓谷の雄大な自然美を味わいながら進んだ私たちの視界が一気に開ける。”西久保の切り替えし”に到達だ。ここまでくれば、奥多摩湖に架かる小河内ダムはもう目と鼻の先だ。幸いにもこの日はシーズンオフ平日の午前中ということもあり、むかし道の道中では土木工事関係者以外に人を見かけることはなかった。
西久保の切り替えしにあるダム管理施設の鉄柵から500mほど北進した私たちは再び国道411号線に戻る。ここを左折して中山トンネルを抜ければ、待望の小河内ダムと奥多摩湖とのご対面だ。ここまでの道中でも写真の獲れ高は十分だが、これに小河内ダムと多摩湖を押さえれば獲れ高的には完璧だぜ!などとほくそ笑む私に対し、メタボ会長から信じ難い言葉が投げられる。
「じゃ、このまま一気に青梅街道下って帰るぞ!帰りはずっと下りだからトンネルもそんなに危なくねえしな!」いやいや!アンタ何言ってるのよ!もう1kmも行けば今日のハイライトポイントじゃんか!ここで引き返す意味が全く分からない。奥多摩に来て奥多摩湖の絵がないと記事がボツる可能性すらある。そんな事情を丁寧に説明し左折を懇願してみたのだが、
「悪いけど今日は無理だよ。15時から来客があるから、それまでには会社に戻らねえと。奥多摩湖廻ってると遅刻しちまうよ!それに今日の本来の目的は、待望だった油圧ディスクの性能をココからの下り坂で存分に味わうことがメインだしな!それじゃ行くぞ!」そう言い残すなり、勝手に進路を右手に取ったかと思うとたちまち国道を下り始めるメタボ会長。
こうなると私は従うしかない。そもそもは無理を承知でお願いして同行させて貰っている身でもある。当て込んでいたメインの写真は撮れないものの、正直言えば事前の予想を遥かに凌ぐほどの道程であったことは間違いない。もっと言えば、メタボ会長と来るサイクリングは距離は少なくても常にその内容は充実し、いつも底抜けに楽しいのだ。実際、今日も抜群に楽しめた感がある。
時折、トンネルにこだまする「やっぱ、油圧ディスクは最高だぜ~!」という残響を聞きながら、下界を目指し駆け下りていくオヤジの背中を、黙して追いかけるしかない私であった。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
私の事前予想を遥かに上回る景観を見せてくれた白丸ダムを後にした私たちは、再び奥多摩湖を目指して遡上を始める。JR白丸駅を通過した先で”白丸トンネル”が現れるが、ここでもオヤジは迷うことなく側道へと脚を向ける。
この側道には車止めのポールが設置されており、歩行者と自転車しか入ることはできない。メタボ会長自らが「とっておきの場所」と呼ぶこの側道を進むと、眼前に小さな洞穴が現れる。
岩盤が剥き出しの苔むしたそのトンネルは、遥か江戸の時代からタイムスリップしてきたかのような面影を持ち、古き良き日本の風景を再現するかのように佇んでいる。おそらく手掘りで掘り進められたと思われる岩盤の上の斜面には樹木が根付き、まるで浮世絵のような景観を醸し出している。
「ここは一番のお気に入りポイントなんだ」というオヤジの言葉に、私もまったくもって異論はない。先ほど見た、自然に立ち向かう巨大な人工構造体の迫力と、目の前で繰り広げられる浮世絵のように繊細な自然美とのコントラストに感動もひとしおだ。案外、今日のサイクリングは大当たりかもしれない。
再び国道411号線に戻った私たちは緩斜面が続く青梅街道を西に進み続ける。海沢大橋を通り過ぎてしばし走ると、延長605mの新氷川トンネルが現れる。この新氷川トンネルが今コース最長のトンネルとなるのだが、言うには及ばず、もちろんココも側道に避難だ。
この側道には、山が迫った渓谷と新氷川トンネルの間に寄り添うように建つ”奥多摩温泉もえぎの湯”がある。奥多摩駅から近いこともありココの足湯は人気が高く、実際この時も平日の午前にも関わらず微笑ましい四人組の女性グループが足湯を楽しんでいた。思わず一緒に浸かっていきたい衝動に駆られる。
(お姉さん達に事情を話すと顔出しの許可を頂けました。ありがとうございました。)
お姉さん達の笑顔に後髪を引かれながら”もえぎの湯”を後にすると、すぐに渓谷に架かる”もえぎ橋”という名の吊り橋が見えてくる。このもえぎ橋は真木よう子主演で2013年に公開された映画”さよなら渓谷”に登場したこともあり、紅葉の季節には抜群の人気を誇る観光スポットだそうだ。
再び国道に戻った私たちは、JR青梅線の終着駅”奥多摩駅”を通り過ぎる。ここから先は道幅も狭まり斜度も若干増すために走行には十分な注意が必要だ。奥多摩駅から2km程進んだ所で橋詰トンネル(延長240m平均勾配5%前後)が現れる。メタボ会長によるとこの橋詰トンネルとその先の白髭トンネル(延長360m平均勾配7%前後)、奥多摩湖手前の中山トンネル(延長390m平均勾配5%前後)だけは側道が無いという。
後続のクルマの切れ目を狙って橋詰トンネルと白髭トンネルを慎重かつ迅速に走り抜ける。この二本のトンネルは路側帯が狭くずっと登り続けるため、もしこのコースを走られる場合は防衛運転を心掛け慎重に走行してください。もちろん前照灯と尾灯は忘れずに!メタボ会長にならってトンネル入り口で後続車の切れ目を待つのも有効です。
白鬚トンネルを無事に通過するとすぐに側道が現れる。この側道を使えばこの先の4つのトンネルをまとめて回避できるんだよ!とドヤ顔で自慢していたメタボ会長だが、側道に入ってすぐの”いろは楓”の路肩でバイクを止めると、真面目な口調で私に注意を促してきた。
「トンネル回避のために此処から裏道に入るけど、この裏道は”むかし道”って呼ばれてる有名なハイキングコースなんだよ。だから速度は20km/h以下でギアはインナー縛りな!とにかく歩行者優先でハイカーさんに不安を与えないよう安全運転を心掛けてくれよ!」
いつもの会長らしからぬ表情にその理由を尋ねると、まだ会長が自転車に乗り始める以前に、家族を連れて此処”むかし道”で紅葉狩り散策を楽しんでいた際、結構な勢いで走り抜ける自転車集団に眉をひそめた覚えがあるのだと云う。
そんなメタボ会長からの本気の注意喚起を受け、私は確実にギアをインナーに落として”奥多摩いなか道”を進む。木漏れ日の溢れる渓谷沿いの細道は、なるほど古風な雰囲気に溢れハイカーさんに人気なのも頷ける。道中の所々の名所には白看板が設置され、その謂(いわ)れや説明が書かれている。
その数ある白看板の中でも私は”厳道の馬頭様”の白看板に不思議と心を奪われた。その看板には「此処はそのむかし、人ひとりがやっと通れるほどの狭い旧道で、多くの馬が谷に落ちたと云い、そのたびに供養塔が増えていった」と記されていた。残念ながらどれが供養塔か判らなかったため写真には納めていないが、道側の断崖絶壁を見下ろしながら、難に遭った馬たちの姿に思いを馳せ、なんだか悲しい気分を味わったような気がした。
勝手に黄昏ながら脚を進める私の前に”道所橋”が現れる。「この橋は5人以上で渡らないでください」と注意書き看板のあるこの吊り橋は、むかし道の超有名な観光スポットで、オヤジいわく「紅葉シーズンになると観光客がこの橋の写真を撮るために順番待ちの行列ができる」ほどの場所らしい。
その後も雰囲気溢れる細道と切立った渓谷の雄大な自然美を味わいながら進んだ私たちの視界が一気に開ける。”西久保の切り替えし”に到達だ。ここまでくれば、奥多摩湖に架かる小河内ダムはもう目と鼻の先だ。幸いにもこの日はシーズンオフ平日の午前中ということもあり、むかし道の道中では土木工事関係者以外に人を見かけることはなかった。
西久保の切り替えしにあるダム管理施設の鉄柵から500mほど北進した私たちは再び国道411号線に戻る。ここを左折して中山トンネルを抜ければ、待望の小河内ダムと奥多摩湖とのご対面だ。ここまでの道中でも写真の獲れ高は十分だが、これに小河内ダムと多摩湖を押さえれば獲れ高的には完璧だぜ!などとほくそ笑む私に対し、メタボ会長から信じ難い言葉が投げられる。
「じゃ、このまま一気に青梅街道下って帰るぞ!帰りはずっと下りだからトンネルもそんなに危なくねえしな!」いやいや!アンタ何言ってるのよ!もう1kmも行けば今日のハイライトポイントじゃんか!ここで引き返す意味が全く分からない。奥多摩に来て奥多摩湖の絵がないと記事がボツる可能性すらある。そんな事情を丁寧に説明し左折を懇願してみたのだが、
「悪いけど今日は無理だよ。15時から来客があるから、それまでには会社に戻らねえと。奥多摩湖廻ってると遅刻しちまうよ!それに今日の本来の目的は、待望だった油圧ディスクの性能をココからの下り坂で存分に味わうことがメインだしな!それじゃ行くぞ!」そう言い残すなり、勝手に進路を右手に取ったかと思うとたちまち国道を下り始めるメタボ会長。
こうなると私は従うしかない。そもそもは無理を承知でお願いして同行させて貰っている身でもある。当て込んでいたメインの写真は撮れないものの、正直言えば事前の予想を遥かに凌ぐほどの道程であったことは間違いない。もっと言えば、メタボ会長と来るサイクリングは距離は少なくても常にその内容は充実し、いつも底抜けに楽しいのだ。実際、今日も抜群に楽しめた感がある。
時折、トンネルにこだまする「やっぱ、油圧ディスクは最高だぜ~!」という残響を聞きながら、下界を目指し駆け下りていくオヤジの背中を、黙して追いかけるしかない私であった。
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メタボ会長 身長 : 172cm 体重 : 84kg 自転車歴 : 8年目
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を辞し会長職に退くも、平成20年に当サイトが属するメディア事業部の責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。豊富な筋肉量を生かした瞬発力はかなりのモノだが、こと登坂となるとその能力はべらぼうに低い。日本一登れない男だ。
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