シングルスピードMTBの世界選手権ことSSWC、その2015年大会が10月11日、長野県白馬岩岳スノーフィールドにて開催された。世界各国から集まったシングルスピードMTBライダー70名、総参加者数は約260名。その大半が仮装し、岩岳のDHコースを巡るシングルトラックを、変速することなく激走した。



長野県白馬岩岳にて、シングルスピードMTBの世界祭典、SSWC2015が開催。長野県白馬岩岳にて、シングルスピードMTBの世界祭典、SSWC2015が開催。 photo:Takuo Arai

2015年10月11日、長野県白馬村岩岳で、シングルスピードMTBの 2015年世界選手権(SSWC2015)が行われた。世界各国から集まったSSことシングルスピーダーたちが、世界シングルスピード文化の祭典とも言える世界戦で、SS文化の現在を存分に見せてくれた。

昨年8月、アメリカ・アラスカで行われた昨年のSSWCで、日本はSSWCの開催権利を獲得。その開催地として、過去1990年代に盛り上がったMTB文化当時の代表とも言える場所、白馬岩岳スノーフィールドが選ばれた。

参加者のほとんどが仮装し、ショートカット・ポイントではきついセクションを回避でき、ゴールしたあとにはビール(ノンアルコールも)が待っている。SSWC勝者には、勝者の証としてタトゥ(入れ墨)を彫る。タトゥがいやなら優勝しないでとの事前告知。こういった『なんでもあり』感がSSWCスピリットである。本気レースだが、それ以上にお祭りなのだ。

世界各国からシングルスピードMTBとその文化を愛するライダーが集まり、それぞれのスタイルを見せるお祭りとなったSSWC。世界各国からシングルスピードMTBとその文化を愛するライダーが集まり、それぞれのスタイルを見せるお祭りとなったSSWC。 photo:Koichiro Nakamura
岩岳の山頂付近からみる雄大な景色と辛い上り坂。岩岳の山頂付近からみる雄大な景色と辛い上り坂。 photo:Takuo Araiスパンデックスでキラキラというコスプレがセクシーな女性SSライダー。スパンデックスでキラキラというコスプレがセクシーな女性SSライダー。 photo:Takuo Arai


そんなユルいSSWCだが、その舞台となった岩岳のコースは、 当日の雨も路面をぬかるませ、 世界選らしく劇的にハードなものとなった。スキー場ゴンドラの山頂駅付近まで登るのだ。数日間をかけて100km以上の山岳コースを走るマラソンMTBレースのプロライダー、池田祐樹ですら「これまでに走ったMTBレースの中で、最も辛いコース」と言う。

レースはルマン式スタート、バイクを遠くにおいてそこまで走っていきスタートというもの。ものすごい数の仮装した人々が波のようにうねって走り出し、スラロームコースをバタバタと走ってくる様相といったら、多分ここ以外でみることはないだろう。

もうカンベン、をユニバーサルな言葉で伝えくれるほどに辛い。もうカンベン、をユニバーサルな言葉で伝えくれるほどに辛い。 photo:Takuo Araiやはり日本ということで、戦国スタイルの仮装も目立った。その一人、谷川創仁さん。やはり日本ということで、戦国スタイルの仮装も目立った。その一人、谷川創仁さん。 photo:Takuo Arai

彼らが登って降りてくるまでのこのぼんやりとした時間と景色、こんなようなものをこれまで見たことがない。彼らが登って降りてくるまでのこのぼんやりとした時間と景色、こんなようなものをこれまで見たことがない。 photo:Koichiro Nakamura
池田祐樹はミニスカポリス池田祐樹はミニスカポリス photo:Takuo Arai万全の体制で2つ目のタトゥを獲得すべくギアを踏むアンガス・エドモンド。万全の体制で2つ目のタトゥを獲得すべくギアを踏むアンガス・エドモンド。 photo:Takuo Arai


トップでバイクまでたどり着いたのは、ニュージーランドからのアンガス・エドモンド。2013年イタリア大会での勝者でもある彼は、まさに本気モード全開。仮装もせずに(唯一カラフルなハイソックスがそう見えなくもない)トップをひた走る。彼の右ふくらはぎには、すでにSSWC2013の勝者タトゥが入っている。2015年版タトゥを増やすべく来日したのだろう。その気合たるや、万全である。

アンガスを追うのが、アメリカ、オレゴン州ベンドからのカール・デッカー。アメリカを中心に長距離系XCで活躍する、ジャイアントレーシングのプロライダーだ。そのスタイリッシュなライドスタイルにファンも多く、仮装も忘れないプロである。

ジャイアントのプロライダー、カール・デッカー。腿の日焼け跡がセクシーだ。ジャイアントのプロライダー、カール・デッカー。腿の日焼け跡がセクシーだ。 photo:Koichiro Nakamura女子優勝者のエイミー・マクドゥーガル(南アフリカ)女子優勝者のエイミー・マクドゥーガル(南アフリカ) photo:Takuo Arai


カールの仮装コンセプトは、『80年代カリフォルニアのダサいファッション』だ。タンクトップ、ジーパンのホットパンツ、ブロンドで変なカスク。いや、べつにダサくなくて普通にセクシーだと思ったのだが、よくみると社会の窓のチャックが全開である。その辺りの細かな配慮も忘れない。

残酷なのは山頂へとつづく景色はバツグンな道のりだけであって、他のシングルトラックは地元ライダーの手による走りやすいもの。仮装した女性参加者も、楽しそうに走りきっていた。

SSにおける仮装は乗れるもの、激しく乗っても仮装前と変わらずカブき続けられるものが理想である。ここで数名の仮装猛者を紹介しよう。

参加者のサインがたくさん入ったジャージの色使いがカワイイ。参加者のサインがたくさん入ったジャージの色使いがカワイイ。 photo:Koichiro Nakamuraこの太っちょウェアは、走ると潰れてしまうので走りやすいそう。この太っちょウェアは、走ると潰れてしまうので走りやすいそう。 photo:Koichiro Nakamuraあたまが木の枝に引っかからないか心配だけど!あたまが木の枝に引っかからないか心配だけど! photo:Takayuki Nakamura

独自の世界観で理解が難しく、でも完成度が高く常に見入ってしまった仮装の方。独自の世界観で理解が難しく、でも完成度が高く常に見入ってしまった仮装の方。 photo:Koichiro Nakamura驚きなのは小径車SSでの参加。これがこの方のスタイルであるそう。驚きなのは小径車SSでの参加。これがこの方のスタイルであるそう。 photo:Takuo Arai


ドラえもんはかなり完成度が高かったです。ドラえもんはかなり完成度が高かったです。 photo:Takayuki Nakamura笑顔が素敵でとてもエキゾチック。笑顔が素敵でとてもエキゾチック。 photo:Koichiro Nakamura歌舞伎ウェアは、走りでも乱れませんでした。歌舞伎ウェアは、走りでも乱れませんでした。 photo:Koichiro Nakamura


SSの華といえばショートカットだ。通常の世界選ではリアルなビールを一気飲み。そして日本ではノンアルコールビールを一気飲みすれば、厳しいセクションを走らず抜け道できるというのがルールである。

このSSWC2015で採用されたショートカット種目は、『梅干ししゃぶって種飛ばし』であった。最高の日本食である梅干しを食べ、タライにタネをプッとして、入れば成功、外れれば5分以上かけてゲレンデを登る。

ショートカットのルールが書かれた紙。言語を超えたユニバーサルデザインだ。ショートカットのルールが書かれた紙。言語を超えたユニバーサルデザインだ。 photo:Koichiro Nakamuraアンガスはショートカットも本気で狙う。精神集中して、タライに種をペッと命中。アンガスはショートカットも本気で狙う。精神集中して、タライに種をペッと命中。 photo:Koichiro Nakamura


走りをビールで称えあうアンガス(左)とカール(右)走りをビールで称えあうアンガス(左)とカール(右) photo:Koichiro Nakamura
これが海外の人には難しいようだ。日本人ライダーの多くはメイクしていたが、海外勢は失敗する人が多いのだ。これがお国柄というやつか。梅干しは美味しかったようで、おかわりしているライダーが何人もいた。

入れ墨師/初代正志氏により、アンガスにタトゥが施される。入れ墨師/初代正志氏により、アンガスにタトゥが施される。 photo:Takuo Arai表彰式ではすでに、アンガスの脚には二つ目の勝者の証が彫られていた。表彰式ではすでに、アンガスの脚には二つ目の勝者の証が彫られていた。 photo:Takuo Arai1位を走るアンガスは、これを難なくクリア。2位のカールはここでも仮装通りの能天気さでサクッと外す。一気に5分以上の差をつけられ、結果アンガスのぶっちぎり優勝となった。

ゴールしたライダーの手には、それぞれビールが配られ、その場で祝杯をあげる。全力を尽くしてシングルスピードに乗ったら、そのあとすぐビール!(ノンアルコールドリンクもあり)。これがSSWCスピリットだ! ライダーが完走の喜びを分かち合っている間に、一息ついた優勝者アンガスには、入れ墨師の手による勝者のタトゥが入れられていた。

このように、自転車レースの常識を覆す『世界選』体験、SSWC。個性やそれぞれのスタイルを見せ合うという、オルタナティブな自転車文化を体現するのがシングルスピードMTBの文化なのである。

今回、そのSSWCをホストした開催国、日本のSSライダー達は、先のショートカットの梅干し種飛ばしに代表される、日本独自の文化を体感してもらう『おもてなし』のアイディアを存分に披露した。それが最も大きく現れていたのが前夜祭だ。日本のSSスタッフは、果たしてどのように海外ライダーをもてなしたのか。2020年東京五輪時にも役立つかもしれない前夜祭の模様は、別の項にて。

スタート時に流れていた、この太鼓のドラミングがカッコよかった。East meets West. スタート時に流れていた、この太鼓のドラミングがカッコよかった。East meets West.  photo:Takuo Arai


SSWC 2015 リザルト
【男子】
1位  アンガス・エドモンド  1:49:41
2位  カール・デッカー  1:51:56
3位  アッシャー・グラント  1:55:16
4位  ペーター・バット  1:55:32
5位  池田祐樹      2:01:20
6位  ギョーム・ネレッセン 2:03:17
7位  黒瀬文也  2:06:39
8位  アルバート・キクストラ 2:08:56
9位  ウェイン・スミス  2:09:09
10位  竹田佳行  2:13:41

【女子】
1位 エイミー・マクドゥーガル  2:22:47
2位 キム・サーネン  2:27:38
3位 ケイトリン・ボイル  2:46:30
4位 森 美穂子  3:00:55
5位 長谷川 貴子  3:10:22



text:Koichiro Nakamura

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