2009/07/29(水) - 13:37
IID世田谷ものづくり学校にて開催された「日本発の自転車デザインの変遷」展。展示は、主催である現代の名匠・荒井正さんが携わった歴代のオリタタミ自転車を中心に紹介するスタイルとなっていました。一見こじんまりとした内容ながら、その中身は非常に濃密。荒井さんのお話しを交えながら、展示を紹介していきます。
会場のIID世田谷ものづくり学校は渋谷から田園都市線に乗り換え、三軒茶屋駅が最寄り駅。国道246沿いの自動車達の喧噪を抜け徒歩10分、現池尻中学校の隣にそれはあります。多くのクリエイター達の仕事場として、クリエイションの発信地として、廃校となった池尻小学校がそのままに提供されています。
中に入るとそこはやはりギャラリー。同じ自転車の展示であっても、ニューモデルの展示会とは目的も趣も違います。最先端の香りはしませんが、それとはまた別の引き込まれる雰囲気、存在感。では、主な作品を見ていきましょう。
まずはじめに紹介するのはボーダーシルク。オリタタミ自転車の元祖として世界的に評価の高い自転車です。1970年代までは片倉自転車の主力輸出商品だったとのこと。モダンなデザインは今でも通用するたたずまい。折りたたみペダルはよく見ますが、クランクを折りたたむ構造には驚きでした。
こちらの小径ファニーバイクは1986年製作。当時流行したファニーバイクを簡単に輪行するためにデザインされました。次に紹介するジャイアントMR-4の元祖と言えるバイク。折りたたみ機構には違いがあれど、形も似ています。
そしてこれらの試みがジャイアントの名機MR-4に結実します。シンプル、簡単、コンパクトに収まる折りたたみ機構で、評価の高いフォールディングバイクです。発売は2002年ですが、最新の2009年モデルもあります。こうして長年販売されているところにその根強い人気が伝わってきますね。
その隣にあったのがトラス構造のオリタタミ自転車。「シンプルじゃないから、市販には難しいんですけれど。MR-4なんか、これに比べると随分簡単ですもんね。誰でも折り畳める。」と言って折りたたんだ状態から広げて見せてくれました。
展示の最後に紹介してもらったのは、荒井さんも開発に携わった新コンセプトの折りたたみ機構を持った5 Links。ターゲットはビジネスマン?独特な構造で折りたたむ時も手や服が汚れないようになっていて、折りたたみも1分弱で完了するほどそよく練られています。折たたんだ後もスーツケースのように転がせるし、細長くてとてもスマート!
そして5 linksにも試作品の展示がありました。市販車はアルミ製だけど、試作機はスチール製。試作の素材には、何度も試行錯誤を重ねるため、価格が安く、加工の簡単な鉄が良いと言います。「でも実際に製品にする時はやっぱりアルミ。じゃないと重くて仕方がないんですよ。手軽に運べるはずのオリタタミ車が重すぎちゃダメですよね」
中央に設置されたテーブルは実際にフレームビルディングに使用されている作業机。カンパニョーロの工具セットやフレームパイプを繋ぐラグ、溶接用の工具などが置かれ、映像でフレーム製作の様子も流されており、製作行程を伺い知る貴重な場でした。
また、そこに置かれたアメリカのフレームビルダー達の本も興味深いものでした。お話しの中で荒井さんは、アメリカの方がオリジナリティーが高く、多様性があると語っていましたが、この本を見ると納得。竹製フレームであったり、バッファローの角をハンドルにしたり、非常に特徴的な形状をしたフレームはもちろん、ラグ1つ、エンド1つへのこだわりが尋常ではありません。カスタムペイントのみならず、クリスタルをちりばめたり彫刻を施したり装飾的要素の多いフレームなど、多種多様なものが掲載されていました。そしてそのクオリティもまた目を見張るものがズラリ。
荒井さんは、今までひたすら最先端を追いかけてきた自転車が、いい意味で「後ろ向き」になっていると言います。細身のスチールフレームが見直されたり、ビンテージパーツを組み付けたり、若者達のファッションとしても自転車が見直され、そのあり方が多様化してきているそうです。
この他、オリタタミ自転車ではないのですが、メルボルン、ローマ五輪に連続出場した大沢鉄男選手が使用していたフレームや、懐かしのシルクのロードフレーム、MTB試作機なども展示されており、荒井正さんという1人のフレームビルダーを通して、日本のフレーム製作の歴史を垣間見られる貴重な展示になっていました。
最後に「今後の展開は?」と聞くと、R自転車集団のコンセプトに基づいたワークショップの開催などを考えているとのこと。
ママチャリなら街中でたいして遠くに行かないからパンクしてもすぐに近所の自転車屋さんに飛び込めばいい。でもスポーツ自転車を乗リ出すとすぐに乗車距離が伸びる。ショップのない山間の方に行けば、トラブルが起きた時に自分で修理ができなければいけない。それに自分でいじれるようになれば自転車がもっと楽しくなる。だからショップ頼みのメンテナンスではなく、最低限自分の自転車の面倒を見られるようになるワークショップを今後ここで定期的に開催していきたい、と意気込みを語ってくれました。
荒井さんの本来の工房は埼玉県川越市。「通うのは大変なんですけどね」と言いながらも「やっぱりどんなこと言ったって都心の方がたくさん人が集まるでしょう。だからそういう場所で啓蒙活動と言うかね、ワークショップなんかをやっていった方が効果も高いかなと思って。ボランティアみたいなものだから儲からないんですけど(笑)。」
「それに最近は自転車売ったら売りっぱなしで、ちゃんとした使い方やメンテナンス方法を教えてあげないところが多いですよね。でもただ売るだけ、売れればいい、というのじゃなくて、こういう活動をやっていかないと本当の意味での自転車の裾野も広がらないし、きちんと走れる人が増えなければ自転車に関する交通状況の改善にも繋がりませんからね」
気さくに語る口調の中にも自転車に対する情熱が垣間見える荒井さん。ものすごく自転車を愛してらっしゃるのだな、と感動しました。実はお話しの中にはもっとマニアックな内容が盛り沢山。とてもここには書ききれませんので、それはまた別の機会に。
次回は7月18〜20日に国連大学にて行われた「バイクトープ2009」の模様をお伝えします。お楽しみに。
会場のIID世田谷ものづくり学校は渋谷から田園都市線に乗り換え、三軒茶屋駅が最寄り駅。国道246沿いの自動車達の喧噪を抜け徒歩10分、現池尻中学校の隣にそれはあります。多くのクリエイター達の仕事場として、クリエイションの発信地として、廃校となった池尻小学校がそのままに提供されています。
中に入るとそこはやはりギャラリー。同じ自転車の展示であっても、ニューモデルの展示会とは目的も趣も違います。最先端の香りはしませんが、それとはまた別の引き込まれる雰囲気、存在感。では、主な作品を見ていきましょう。
まずはじめに紹介するのはボーダーシルク。オリタタミ自転車の元祖として世界的に評価の高い自転車です。1970年代までは片倉自転車の主力輸出商品だったとのこと。モダンなデザインは今でも通用するたたずまい。折りたたみペダルはよく見ますが、クランクを折りたたむ構造には驚きでした。
こちらの小径ファニーバイクは1986年製作。当時流行したファニーバイクを簡単に輪行するためにデザインされました。次に紹介するジャイアントMR-4の元祖と言えるバイク。折りたたみ機構には違いがあれど、形も似ています。
そしてこれらの試みがジャイアントの名機MR-4に結実します。シンプル、簡単、コンパクトに収まる折りたたみ機構で、評価の高いフォールディングバイクです。発売は2002年ですが、最新の2009年モデルもあります。こうして長年販売されているところにその根強い人気が伝わってきますね。
その隣にあったのがトラス構造のオリタタミ自転車。「シンプルじゃないから、市販には難しいんですけれど。MR-4なんか、これに比べると随分簡単ですもんね。誰でも折り畳める。」と言って折りたたんだ状態から広げて見せてくれました。
展示の最後に紹介してもらったのは、荒井さんも開発に携わった新コンセプトの折りたたみ機構を持った5 Links。ターゲットはビジネスマン?独特な構造で折りたたむ時も手や服が汚れないようになっていて、折りたたみも1分弱で完了するほどそよく練られています。折たたんだ後もスーツケースのように転がせるし、細長くてとてもスマート!
そして5 linksにも試作品の展示がありました。市販車はアルミ製だけど、試作機はスチール製。試作の素材には、何度も試行錯誤を重ねるため、価格が安く、加工の簡単な鉄が良いと言います。「でも実際に製品にする時はやっぱりアルミ。じゃないと重くて仕方がないんですよ。手軽に運べるはずのオリタタミ車が重すぎちゃダメですよね」
中央に設置されたテーブルは実際にフレームビルディングに使用されている作業机。カンパニョーロの工具セットやフレームパイプを繋ぐラグ、溶接用の工具などが置かれ、映像でフレーム製作の様子も流されており、製作行程を伺い知る貴重な場でした。
また、そこに置かれたアメリカのフレームビルダー達の本も興味深いものでした。お話しの中で荒井さんは、アメリカの方がオリジナリティーが高く、多様性があると語っていましたが、この本を見ると納得。竹製フレームであったり、バッファローの角をハンドルにしたり、非常に特徴的な形状をしたフレームはもちろん、ラグ1つ、エンド1つへのこだわりが尋常ではありません。カスタムペイントのみならず、クリスタルをちりばめたり彫刻を施したり装飾的要素の多いフレームなど、多種多様なものが掲載されていました。そしてそのクオリティもまた目を見張るものがズラリ。
荒井さんは、今までひたすら最先端を追いかけてきた自転車が、いい意味で「後ろ向き」になっていると言います。細身のスチールフレームが見直されたり、ビンテージパーツを組み付けたり、若者達のファッションとしても自転車が見直され、そのあり方が多様化してきているそうです。
この他、オリタタミ自転車ではないのですが、メルボルン、ローマ五輪に連続出場した大沢鉄男選手が使用していたフレームや、懐かしのシルクのロードフレーム、MTB試作機なども展示されており、荒井正さんという1人のフレームビルダーを通して、日本のフレーム製作の歴史を垣間見られる貴重な展示になっていました。
最後に「今後の展開は?」と聞くと、R自転車集団のコンセプトに基づいたワークショップの開催などを考えているとのこと。
ママチャリなら街中でたいして遠くに行かないからパンクしてもすぐに近所の自転車屋さんに飛び込めばいい。でもスポーツ自転車を乗リ出すとすぐに乗車距離が伸びる。ショップのない山間の方に行けば、トラブルが起きた時に自分で修理ができなければいけない。それに自分でいじれるようになれば自転車がもっと楽しくなる。だからショップ頼みのメンテナンスではなく、最低限自分の自転車の面倒を見られるようになるワークショップを今後ここで定期的に開催していきたい、と意気込みを語ってくれました。
荒井さんの本来の工房は埼玉県川越市。「通うのは大変なんですけどね」と言いながらも「やっぱりどんなこと言ったって都心の方がたくさん人が集まるでしょう。だからそういう場所で啓蒙活動と言うかね、ワークショップなんかをやっていった方が効果も高いかなと思って。ボランティアみたいなものだから儲からないんですけど(笑)。」
「それに最近は自転車売ったら売りっぱなしで、ちゃんとした使い方やメンテナンス方法を教えてあげないところが多いですよね。でもただ売るだけ、売れればいい、というのじゃなくて、こういう活動をやっていかないと本当の意味での自転車の裾野も広がらないし、きちんと走れる人が増えなければ自転車に関する交通状況の改善にも繋がりませんからね」
気さくに語る口調の中にも自転車に対する情熱が垣間見える荒井さん。ものすごく自転車を愛してらっしゃるのだな、と感動しました。実はお話しの中にはもっとマニアックな内容が盛り沢山。とてもここには書ききれませんので、それはまた別の機会に。
次回は7月18〜20日に国連大学にて行われた「バイクトープ2009」の模様をお伝えします。お楽しみに。