2015/09/04(金) - 09:02
ツール・ド・フランスの熱い戦いを繰り広げる選手たちを陰で支えるニュートラルサポートは欠かせない存在だ。今回は念願かなって初のツール取材となった目黒誠子さんが、マヴィックカーの働きにフォーカスしたレポートをお届けします。
マヴィックのニュートラルサポートカーに同乗
スタートからゴールまで、選手とともにレースを走るマヴィックカーに乗せてもらうチャンスをいただいたのは第16ステージのことでした。リヨンから東南へ約100kmの、イゼール川が流れる美しい街ブール・デ・ペアージュからスタート。アルプス山麓の都市、ガップまでの201kmです。
今さら説明するまでもないかもしれませんが、マヴィックカーはレース中、中立(ニュートラル)な立場から、あらゆる場面ですべての選手をサポートしています。その、なんと助手席に座らせていただく機会を得たのです!。
運転はフランス人のパトリックさん(もちろんファーストネーム)。笑顔の素敵な男性です。マヴィックカーのドライバー歴は5年目とのこと。ジェロームさんは、ホイールや時にはバイクの交換などの際にすぐに降りることができるよう、後ろの席に座ります。そういうことで私は助手席へ。ドキドキ、胸が高鳴ります。
スタート時間は12時20分。プール・デ・ペアージュからロマン・シュル・イゼールの市街地をしばらくはパレード走行。途切れなく続く観客たちの観声がいったん落ち着くと、並走するたくさんのチームカーの中ではおのおのサンドイッチをほおぼる光景が。これから始まる約4時間半の長い旅。腹ペコでふらふらではいざというとき素早い対応ができません。きちんと食べておくのも大切な仕事の一つです。
レースの進行を務めるコミッセール(自転車ロードレースの競技役員)から最初にマヴィックカーへお呼びがかかったのは、スタートから約1時間後、横風が強い区間でした。車内に置かれている無線のラジオツールから「マヴィックカー、上がってください!」とリクエストがあり、チームカーの隊列後方につけていたマヴィックカーは、クラクションを鳴らしながらすごいスピードで隊列の左側を一気に追い抜いていきます。
選手の集団に追いつくと、集団最後尾のコミッセールが乗る赤い車「Direction Course」の後方でスタンバイ開始。何をするんだろう?と思っていたのですが、10分ほどそのままの状態で、結局はとくに何もすることもなく、再び後ろに下がり、チームカー隊列の最後尾へと戻りました。
マヴィックカーの「あの動き」知ってますか!?
リッチーがマヴィックカーをすっと追い越し、前に戻ると、スカイのチームカーが私たちのマヴィックカーに対してお礼のようなしぐさで挨拶。ルールにはないものの、「ツー・カー」で通じるよい雰囲気。さわやかでカッコイイ!
空撮映像でよく見る巨大絵文字を地上から見過ごし、ラベンダー畑を横目に見ながらボーリーズの町を抜けるといよいよアルプスへ。ダイナミックな断崖の山岳を駆け抜ける選手たち。もちろん峠の下りも選手と一緒になって走るわけですが、そのスピードと言ったらもう、大興奮でした! クルマが100km/hだったら自転車も100km/h。どちらもかなりのドライビングテクニックが要求されます。
その後二つ目の2級山岳を下る途中に再びラジオツールの呼び出しがあり、またもや猛スピードで追走。前方へと上がっていき、なんとクリス・フルーム選手(チームスカイ)が含まれるマイヨジョーヌ集団に合流しました。前年覇者のヴィンチェンツォ・ニーバリ選手(アスタナ)のアタックを後ろから見ながら、黄色く輝くマヴィックカーは、黄色く輝くマイヨジョーヌ集団と一緒にゴールをしました。
あまりの大興奮に、横風区間になぜあのような動きをしたのかレース後も聞きそびれてしまった私は、宿に戻りUCI国際コミッセールの菊池津根徳氏に改めて聞いてみました。「途中、横風が強くて上に上がった時があったのですが、横風が強くてマヴィックカーが上がるのには、主にどんな時が考えられますか? 特に選手を引いたりしなかったのですが...」
返ってきた菊池氏の答えは、とても興味深いものでした。「横風が強いと、集団が分断される恐れがあります。集団が分断してしまうと、前の集団に戻りたい選手はチームカーのサポートを受けて前方に戻る動きをする場合があるのですが、それを避けるために、コミッセールカーがチームカーを後ろに抑えます。日本で言うと、主にCOM3カーがそのような動きをします。そうすると選手はチームカーから遠く離れ、サポートを受けるのが遅くなるため、その代わりにサポートするのがマヴィックカーとなるわけです」。「なるほど!」
今回は横風区間もそれほど長くなく、結論から言うと集団が大きく分裂することはなかったのでマヴィックカーのサポートも必要なかったのですが、念のために備えて前方に上がり、スタンバイしていたのですね。コミッセールは集団が分断されそうな気配を感じ取り、マヴィックカーはコミッセールの次の指示を予測し前に上がる。これはかなり高度な判断で、暗黙の了解と深い知識、経験則によるもののようです。
マヴィックカーはツール・ド・フランスを4台体制でサポート。ツアー・オブ・ジャパンでも2台の車両によりレースを支えてくれています。これからのロードレース観戦は、マヴィックカーの動きに注目してみるのも面白いかもしれません。
最後に、私は観ることが出来なかったのですが、このツールでコースがもっとも過酷だったパヴェ(石畳)の第4ステージでマヴィック部隊は大活躍。その日優勝することになるトニ・マルティン(エティックス・クイックステップ)のパンクしたホイールを受け取り、スペアホイールでチームをアシストしたのはエキサイティングな瞬間だったようです。
プロフィール
目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。
ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。
マヴィックのニュートラルサポートカーに同乗
スタートからゴールまで、選手とともにレースを走るマヴィックカーに乗せてもらうチャンスをいただいたのは第16ステージのことでした。リヨンから東南へ約100kmの、イゼール川が流れる美しい街ブール・デ・ペアージュからスタート。アルプス山麓の都市、ガップまでの201kmです。
今さら説明するまでもないかもしれませんが、マヴィックカーはレース中、中立(ニュートラル)な立場から、あらゆる場面ですべての選手をサポートしています。その、なんと助手席に座らせていただく機会を得たのです!。
運転はフランス人のパトリックさん(もちろんファーストネーム)。笑顔の素敵な男性です。マヴィックカーのドライバー歴は5年目とのこと。ジェロームさんは、ホイールや時にはバイクの交換などの際にすぐに降りることができるよう、後ろの席に座ります。そういうことで私は助手席へ。ドキドキ、胸が高鳴ります。
スタート時間は12時20分。プール・デ・ペアージュからロマン・シュル・イゼールの市街地をしばらくはパレード走行。途切れなく続く観客たちの観声がいったん落ち着くと、並走するたくさんのチームカーの中ではおのおのサンドイッチをほおぼる光景が。これから始まる約4時間半の長い旅。腹ペコでふらふらではいざというとき素早い対応ができません。きちんと食べておくのも大切な仕事の一つです。
レースの進行を務めるコミッセール(自転車ロードレースの競技役員)から最初にマヴィックカーへお呼びがかかったのは、スタートから約1時間後、横風が強い区間でした。車内に置かれている無線のラジオツールから「マヴィックカー、上がってください!」とリクエストがあり、チームカーの隊列後方につけていたマヴィックカーは、クラクションを鳴らしながらすごいスピードで隊列の左側を一気に追い抜いていきます。
選手の集団に追いつくと、集団最後尾のコミッセールが乗る赤い車「Direction Course」の後方でスタンバイ開始。何をするんだろう?と思っていたのですが、10分ほどそのままの状態で、結局はとくに何もすることもなく、再び後ろに下がり、チームカー隊列の最後尾へと戻りました。
マヴィックカーの「あの動き」知ってますか!?
リッチーがマヴィックカーをすっと追い越し、前に戻ると、スカイのチームカーが私たちのマヴィックカーに対してお礼のようなしぐさで挨拶。ルールにはないものの、「ツー・カー」で通じるよい雰囲気。さわやかでカッコイイ!
空撮映像でよく見る巨大絵文字を地上から見過ごし、ラベンダー畑を横目に見ながらボーリーズの町を抜けるといよいよアルプスへ。ダイナミックな断崖の山岳を駆け抜ける選手たち。もちろん峠の下りも選手と一緒になって走るわけですが、そのスピードと言ったらもう、大興奮でした! クルマが100km/hだったら自転車も100km/h。どちらもかなりのドライビングテクニックが要求されます。
その後二つ目の2級山岳を下る途中に再びラジオツールの呼び出しがあり、またもや猛スピードで追走。前方へと上がっていき、なんとクリス・フルーム選手(チームスカイ)が含まれるマイヨジョーヌ集団に合流しました。前年覇者のヴィンチェンツォ・ニーバリ選手(アスタナ)のアタックを後ろから見ながら、黄色く輝くマヴィックカーは、黄色く輝くマイヨジョーヌ集団と一緒にゴールをしました。
あまりの大興奮に、横風区間になぜあのような動きをしたのかレース後も聞きそびれてしまった私は、宿に戻りUCI国際コミッセールの菊池津根徳氏に改めて聞いてみました。「途中、横風が強くて上に上がった時があったのですが、横風が強くてマヴィックカーが上がるのには、主にどんな時が考えられますか? 特に選手を引いたりしなかったのですが...」
返ってきた菊池氏の答えは、とても興味深いものでした。「横風が強いと、集団が分断される恐れがあります。集団が分断してしまうと、前の集団に戻りたい選手はチームカーのサポートを受けて前方に戻る動きをする場合があるのですが、それを避けるために、コミッセールカーがチームカーを後ろに抑えます。日本で言うと、主にCOM3カーがそのような動きをします。そうすると選手はチームカーから遠く離れ、サポートを受けるのが遅くなるため、その代わりにサポートするのがマヴィックカーとなるわけです」。「なるほど!」
今回は横風区間もそれほど長くなく、結論から言うと集団が大きく分裂することはなかったのでマヴィックカーのサポートも必要なかったのですが、念のために備えて前方に上がり、スタンバイしていたのですね。コミッセールは集団が分断されそうな気配を感じ取り、マヴィックカーはコミッセールの次の指示を予測し前に上がる。これはかなり高度な判断で、暗黙の了解と深い知識、経験則によるもののようです。
マヴィックカーはツール・ド・フランスを4台体制でサポート。ツアー・オブ・ジャパンでも2台の車両によりレースを支えてくれています。これからのロードレース観戦は、マヴィックカーの動きに注目してみるのも面白いかもしれません。
最後に、私は観ることが出来なかったのですが、このツールでコースがもっとも過酷だったパヴェ(石畳)の第4ステージでマヴィック部隊は大活躍。その日優勝することになるトニ・マルティン(エティックス・クイックステップ)のパンクしたホイールを受け取り、スペアホイールでチームをアシストしたのはエキサイティングな瞬間だったようです。
プロフィール
目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。
ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。
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