あいにくの雨にも関わらず、全コース合わせて2604人が集まった2009佐渡ロングライド210。この国内最大規模に成長した大会の目玉、Aコース210kmを走ってみてのサイクリストレポートをお届けします。佐渡島はどんな島で、どんな大会で、どんな風に走ったのか。いち自転車乗りの手記としてお楽しみください。

雨と佐渡島は大の仲良し。こと5月に佐渡島一周をしにやってきたサイクリストならそう思ってしまうだろう。1週間前から動向をチェックしていた天気予報は、いちど5月17日の雨マークが表示されると、守護神の名が灯った横浜スタジアムの電光掲示板のように、その表示が変わることはなかった。

第4回大会を迎える2009佐渡ロングライド210は、第1回・第2回大会の時と同じく雨の中での開催となった。昨年は快晴のもと、多くのサイクリストが佐渡島を気持ちよく走ったという。しかし今年は、前夜祭からシトシトと雨が降りしきる。大半のサイクリストが前夜、覚悟を決めた。「明日も、降る。」スタート地点には長旅を控えた自転車がズラリスタート地点には長旅を控えた自転車がズラリ photo:Yufta Omata

雨はイヤなものだ。自転車に乗るときは言わずもがな、日常生活でだって出先で降られたらなんとも憂鬱な気持ちになる。誰だってそうでしょう。でもそれは、自然に対して人間の身勝手な感情というものじゃないか、と言ったのはアランというフランスの哲人で、彼は新聞の投書にこう書いた。

「なぜ人は雨が降ると、『ちぇっ!また憎たらしい雨だ!』などと言うのだろう。なぜ『おっ、なんて可愛らしい雫だろう!』とは言えないのか」

早朝5時15分。スタート地点の佐和田で210kmを走るAコースの参加者招集が始まる。ぞろぞろと参加者たちが列を作り、しとしと雨に打たれながら5時45分のスタートを待つ。そこかしこから「寒い!」「早く走り出したい〜」と声が漏れる。全く同感。『可愛らしい雫』は寒さとモチベーションの減退しかもたらさない。アランの嘘つき。

雨の影響か、Aコースにエントリーしたうちの200人以上がこの日のスタートラインに並ばなかったという。それでも参加人数の多いこと!スタートラインのある真野湾の海岸線に沿っておびただしい数のサイクリストが列を作っている。その数は、1629人!

5時45分、いよいよスタート。1629人の旅立ちのとき。順々に12人ずつスタートラインを切っていく。僕もビンディングペダルをパチリとはめ込んで、いざ出発!

さすがにロングライド。210kmという国内最大級の距離を走るせいか、スタートしてからしばらく周りもゆったりと走っている。序盤から力を使いすぎて後半バテるのはスマートじゃないもの。ついついスピードを出しそうになるが、前半3分の1は抑え気味で行くことに決めているのだ。

実は2年前、僕はこの佐渡ロングライド210を走ったことがある。その時も雨だったが、雨以上にロングディスタンスライドに無知だったせいで、最初から飛ばしまくった挙げ句ゴールまで12時間かかり、バテバテのヘロヘロでゴールしたときには干し芋のように精根尽き果てたのだった。だから今年は2年前の自分を超えたい。悪天候を克服して走り切りたいと自分に誓う。エイドステーションではパンやバナナ、おにぎりといった補給食が振る舞われるエイドステーションではパンやバナナ、おにぎりといった補給食が振る舞われる photo:Yufta Omata

おそらく既に参加経験のあるサイクリストたちはみな、こうやって自分の中にそれぞれの目標を持って走っているはずだ。初参加の人は、ゴールという目標へ向けて未知の旅にドキドキしていることだろう。寒さでガタガタしているかもしれないが。1629人の1629通りの思いが佐渡の海岸線を行く。

20km地点、最初のAS(エイドステーション)に到着。この相川ASでは、寒い体に嬉しいあったかいわかめそばが振る舞われた。湯気の立ち方がなんとも魅惑的。冷えた体も少し温まる。ごちそうさま。ふぅ。まだ全行程の10分の1も来ていないが、ここまでの感想を参加者の方に伺ってみた。

神奈川県から来たというシュンさんは、緑とオレンジの格好いいジャージに身を包む。グルッポ・ビチオカダマンのチームジャージだ。「とにかく寒い!です。でも楽しいです。この先も走りきれるようがんばります」と、元気な様子で答えてくれた。20km地点の相川エイドステーション。まだまだ序盤だ20km地点の相川エイドステーション。まだまだ序盤だ photo:Yufta Omata

おそばの温もりを胃に感じつつ、再スタート。次の入崎ASまでは20km。その間はずっと海岸線沿いにルートがとられている。それにしても佐渡の北半分、通称「大佐渡」の海岸線には日本海の荒波が生んだのであろう奇岩が立ち並んでいて、走っていて飽きることがない。その美しさで名高い尖閣湾にさしかかったとき、前方を行くサイクリスト2人が喋り合っていた。

「すごい景色なんだろうな〜…晴れてればさ」
「尖閣湾 雨が降っちゃあ ただの海」

俳句風に話していたのがおかしくて、ついつい盗み聞きしてしまったが、ううむ確かに。高台から望んだ尖閣湾は雨雲に霞んで、ただの海に見えなくもない。雨は寒さと走りにくさだけじゃなく、サイクリストの視界の喜びまでも奪ってしまうのか。まったく、けっこうな『可愛らしい雫』だこと!

海岸線とあって、ちょっとした登りと下りを繰り返す。中にはちょっときつくて長い登り坂もある。前にはそんなちょっときつそうな坂が見えてきた。よし、がんばって登ろう。えっほえっほと登っていると「抜け!ほら抜け!」と威勢のいいゲキが聞こえてくる。見ると登りの中腹に、頭にほっかむり、足は長靴に農作業用の服を着たおばあちゃんが登りにあえぐサイクリストたちを元気ちゃきちゃきに励ます。

上り坂で苦しいところにおっかさんのゲキが飛ぶ「行けぇ!」上り坂で苦しいところにおっかさんのゲキが飛ぶ「行けぇ!」 photo:Yufta Omata

「ほーら行け!抜け!おお、娘っ子もいるんじゃねえか。それ行けぃ!」あんまり元気がいいものだから、サイクリストたちもみんな笑顔に。「おばぁちゃん、頑張るゼ!」と気持ちもほっこり。朝からの雨で今年は沿道で声援を送ってくれる地元の方も少なかったが、やっぱり応援されるとなんとも嬉しいもの。エイドステーションはボランティアの方々によって運営されている。感謝!エイドステーションはボランティアの方々によって運営されている。感謝! photo:Yufta Omata

それにしても、プロのスポーツ選手以外に、全くの他人に「頑張れ!」って言われる人ってそんなにいないんじゃないだろうか。佐渡を走ること自体も非日常の体験だけれど、人に応援をしてもらうことも案外嬉しい非日常の体験だなぁ、とおもう。うん、嬉しいな。

依然降り続く雨で体は寒いけれど、心はちょっとあったかくなりながら、40km地点、2つめのエイドステーション入崎に到着。これからが佐渡ロングライドの本領発揮だ。32km先の次のASはじき野までの間に、前半戦最大の難所Z坂と大野亀のふたつの坂が待ち受けている。ふぅ。体が冷える前に走り出すことを決めて補給食のバナナをほお張る。まだまだ全体の5分1。


(中編に続く)


text&photo:Yufta Omata

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