富山湾岸サイクリングのために台湾から来日した30人の台湾人サイクリストたちに帯同取材した。急伸の自転車先進国からやってきた、ジャイアントの劉会長の娘さんにあたるビッキーさん率いるグループは日本の路に何を感じたのだろう?



残雪の立山連峰を背景に走る台湾捷安特旅行社のグループ残雪の立山連峰を背景に走る台湾捷安特旅行社のグループ
4月19日に開催された富山湾岸サイクリング。台北と富山を結ぶ直行航空便があるから、あるいは亜熱帯の国にとって魅力的な雪がある立山黒部が人気だからという理由もあるだろう。台湾のジャイアントが運営する自転車ツアー会社「捷安特旅行社(ジャイアントトラベル)」の30人の台湾人サイクリストによるグループが富山県に自転車とともにやってきた。


初開催の富山湾岸サイクリングの前日、一行は富山県の山のエリアを走るサイクリングに出かけた。当取材班もこれに自転車で帯同。交流しながら楽しく取材させていただいた。

一行を率いるのはジャイアント創業者、劉金標(キング・リュウ)氏の娘さんである劉麗珠(リュウ・リージュ)さんだ。世界最大のスポーツバイクメーカーであり、近年急伸のサイクリング王国となっている台湾の、自転車界のVIPである。現在は「台湾自行車新文化基金会」董事長をつとめる。
ご一緒した30人の台湾グループは多くが台湾のサイクルショップ関係者。通称「ビッキーさん」こと麗珠さんが大会特別ゲストとして招待されたことを機会として、日本のサイクリング事情を身をもって知ろうという趣旨のツアーのようだ。さらに前日は台湾で高い人気の立山黒部アルペンルートに出かけ、雪の回廊を楽しんだようだ。

つるぎ恋月から富山自転車の旅に出発! 台湾のグループはどこでも旗を掲げて記念撮影ですつるぎ恋月から富山自転車の旅に出発! 台湾のグループはどこでも旗を掲げて記念撮影です 門田基志選手(チームGIANT)と自転車好きの河端支配人が富山としまなみ海道、ジャイアントを結びつけた門田基志選手(チームGIANT)と自転車好きの河端支配人が富山としまなみ海道、ジャイアントを結びつけた

美味しい「城山の湧水」でボトルに水を詰めます美味しい「城山の湧水」でボトルに水を詰めます 残雪の山並みを眺めながら走る残雪の山並みを眺めながら走る


翌日の大会はあいにくの雨天となったが、この日は晴天。ゴキゲンな春の陽気に包まれた。関東より少し季節の遅れてやってくる富山は、春まっさかり。台湾式にカラオケ音楽をかけての準備体操を済ませ、新緑の気配を感じる田舎道へと走り出していく。

門田選手、そしてジャイアントジャパンの関係者らがサポートしながら、田舎道をサイクリング。翌日は海の道を走るので、今日は山の道。走るのは「山麓線」という推奨サイクリングコース。このコースはホテルなどに立派な「富山サイクリングマップ」が用意されているが、残念ながらネット上では公開されていない。名付ければ「立山連峰眺望山麓コース」と言える70kmのルートだ。実際に走ってGarminで記録したGarmin Connect上に公開した筆者のログはこちら

山肌の雪渓を眺めて走るのは格別だ山肌の雪渓を眺めて走るのは格別だ
山里の小径を進んでいくグループの一行山里の小径を進んでいくグループの一行 上町のゆるキャラ「つるぎ君」がサイクリング隊一行をお出迎えしてくれた上町のゆるキャラ「つるぎ君」がサイクリング隊一行をお出迎えしてくれた


ガイドしてくれるのは上市にあるホテルつるぎ恋月の支配人である河端さん。この河端支配人、日本全国に海栄RYOKANSを展開する方なのだが、大の自転車好きサイクリスト。門田基志選手(チームGIANT)のスポンサーでもある。そんな縁で、台湾、富山、ひいてはしまなみ海道、今回の富山湾岸サイクリングなどイロイロがつながったということのようだ。つるぎ恋月のホームページを見て分かる通り、ジャイアントのスポーツバイクのレンタサイクルでツーリングするプランも用意されるなど、サイクルフレンドリーな高級ホテルチェーンの支配人なのだ。

河端さんの案内で走る一行。迎えてくれたのは残雪の立山連峰の山並みだ。コースは山麓を横断するように走るので、ギザギザの剣岳が手前の山に見え隠れ。この日は晴れながらもやや春霞がかかっていて、クッキリはっきりと山並みが見えるというわけにはいかなかったが、それでも春の山里の風景を楽しめた。

上町では沿道で観光課の方々が歓迎のお出迎えをしてくれた上町では沿道で観光課の方々が歓迎のお出迎えをしてくれた 残雪の立山連峰を背景に記念撮影残雪の立山連峰を背景に記念撮影

修行僧の滝に打たれて身を清める若手2人。「5分耐えられないほど冷たい!!」修行僧の滝に打たれて身を清める若手2人。「5分耐えられないほど冷たい!!」 季節は桜から新緑へ。富山の季節は東京より少し遅い季節は桜から新緑へ。富山の季節は東京より少し遅い


途中、立ち寄った大岩山日石寺では修験僧の滝に若手達がチャレンジ。雪解けの凍りそうな冷水を浴びて、参加者たちの喝采を浴びた(笑)。「おわら風の盆」で知られる八尾も訪問。古い町並み「諏訪町本通」を走っていると、なんだかタイムスリップした気分に。八尾曳山会館では、荘厳な山車を見学。

昼食を戴いたあとは、ドラえもんのキャラクター人形がある高岡おとぎの森公園へ。台湾でもコミックが人気だそうで、誰でも知っている存在だとか。意外なものが台湾の人にはウケるようで(笑)。

「おわら風の盆」で知られる八尾の諏訪町本通はフォトジェニックだ「おわら風の盆」で知られる八尾の諏訪町本通はフォトジェニックだ
おわら風の盆の振付けをする台湾女性。魅力的に映ったようだおわら風の盆の振付けをする台湾女性。魅力的に映ったようだ 大きく荘厳な山車に見とれる。装飾は台湾と少し違うが、似ている点も多くあるようだ大きく荘厳な山車に見とれる。装飾は台湾と少し違うが、似ている点も多くあるようだ

瑞龍寺を訪問。屋根が鉛でできており、攻められた時は鉄砲の弾に転用するという瑞龍寺を訪問。屋根が鉛でできており、攻められた時は鉄砲の弾に転用するという 瑞龍寺住職の四津谷道宏さんは自身ヒルクライム好きのサイクリスト瑞龍寺住職の四津谷道宏さんは自身ヒルクライム好きのサイクリスト


国宝の瑞龍寺(高岡市)では、自身ヒルクライム好きのサイクリストだという住職の四津谷道宏さんの説明を受けて寺を見学した。国宝のお寺でありながら、いざというときは鉛で出来た屋根瓦から銃の弾を作り出し、戦うことができるお城の機能を持っているというユニークなお寺。

食事の方はといえば、前夜・後夜ともに日本海のグルメに舌鼓を打った。富山といえばホタルイカ。今がベストな時期とあって、連日・連食ホタルイカが登場。もちろん白えび、刺し身、昆布〆といったホタルイカ以外の海の幸もたっぷりでとても美味しかった。

ほたるいかのしゃぶしゃぶをいただきますほたるいかのしゃぶしゃぶをいただきます 富山といえばほたるいか。今が短い旬とあって頻繁に登場富山といえばほたるいか。今が短い旬とあって頻繁に登場

河端支配人直々に富山の銘酒をお酌していただきました河端支配人直々に富山の銘酒をお酌していただきました 浴衣に身を包んで記念写真に収まる台湾女性たち浴衣に身を包んで記念写真に収まる台湾女性たち




■ビッキーさんに聞く、日本と台湾のサイクリング事情の違い

自行車新文化基金會のCEOを務める劉麗珠(リュウ・リージュ)さん あのキング・リュウ氏の娘さんだ自行車新文化基金會のCEOを務める劉麗珠(リュウ・リージュ)さん あのキング・リュウ氏の娘さんだ 「ビッキーさん」こと劉麗珠さんに、台湾と日本のサイクリング事情を伺ってみた。台湾では父でありジャイアント社創業者の劉金標(キング・リュウ)氏が2007年、73歳のときに台湾を自転車で一周。その模様がTVなどで伝えられると、全国的なサイクリングブームが巻き起こった。会長の働きかけもあって台湾全土の主要道路にバイクレーンが引かれ、多くのサイクリストたちがサイクリングに挑戦するようになった。ビッキーさんは日本の道に何を感じただろう?

豪華な和服に身を包んで満足気な劉麗珠さんたち豪華な和服に身を包んで満足気な劉麗珠さんたち 「日本には今まで5回、しまなみ街道に3回、北海道に1回、そして今回の富山にサイクリングに来ています。富山でのサイクリングはとてもいいですね。街の近くは車が多かったけど、田舎道は走りやすい。富山は北海道やしまなみ海道にも似ていると思いました。
私達の国、台湾の自転車環境はこの10年で大きな変化を遂げました。多くの道路にバイクレーンができて、本当に走りやすくなった。10年前とは比較にならないほどの大変化です。
台湾と富山の状況は似ています。行政がサイクリングロードの整備をすすめて、自転車を活用していこうという機運があります。ただし一般道路はクルマとの距離があまりに近いので、まだまだ走りにくいところがあります。自転車好きの知事さんが中心になってもっと自転車道をたくさんつくってくれるといいですね。そうなれば台湾からもどんどんサイクリストが訪れるでしょう。私もまた日本に来て走る機会があるので、ぜひお願いしたいところです」。

劉麗珠さんの愛車はジャイアントのエアロロードENVIEのスペシャルペイント劉麗珠さんの愛車はジャイアントのエアロロードENVIEのスペシャルペイント
ヘッドチューブにはスワロフスキーで「V」ヘッドチューブにはスワロフスキーで「V」 愛称のVICKYがトップチューブに愛称のVICKYがトップチューブに ビッキーさんの背中にはしまなみ海道のある今治のゆるキャラ「バリィさん」がビッキーさんの背中にはしまなみ海道のある今治のゆるキャラ「バリィさん」が




ジャイアントトラベルの、今回のツアーのグループリーダーである張(チョウ)さんは、かつて台湾一周900kmを5日間で走破したFormosa900(記事へ)のとき私もご一緒したガイドさんだ。年間13回ほども台湾を一周するツアーをアテンドしているのに加え、台湾のサイクリストたちが日本で走るお手伝いをしている。張さんにも日本の印象と自転車環境について聞いてみた。

捷安特旅行社(ジャイアントトラベル)のツアーリーダー、張さん捷安特旅行社(ジャイアントトラベル)のツアーリーダー、張さん 「日本にはもう数えきれないぐらい何回も来ています。美ら島センチュリーライド、しまなみ海道、北海道...。6月には富士ヒルクライムにも来ますよ!。日本の道はちょっと幅が細いけど、田舎は本当に走りやすいです。人口が多いので人が住んでいるエリアはちょっと交通量が多いですね。でも、クルマの運転マナーがとてもいいので安心して走れます。台湾は自転車レーンがしっかりあるから走れるけれど、クルマの運転はラフで危険ですから油断はできません。近年は本当に走りやすくなりましたが。
富山は魚が美味しいですね。味付けも台湾に似ているから大丈夫。でも台湾の人は冷たいものを食べない習慣があるのでお刺身が続くとちょっとつらいので工夫が必要です(笑)」。

捷安特旅行社(ジャイアントトラベル)とジャイアントジャパンは、日本人グループ向けの台湾でのサイクリングのアレンジが将来的に正式サービスとして紹介できるようプランを練っていると聞く。ちょっとカタコトの日本語で喋れる張さん曰く「日本の方々に台湾でも走って欲しい。自転車旅をしたり、イベントに走りに来たり、日・台のサイクリストの交流が進むと楽しいですね」。

 photo&text:Makoto.AYANO(綾野 真)

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