2015/02/22(日) - 09:29
美ら島センチュリーラン2015の取材班に抜擢され、編集長による最終試験を通り抜け、栄光の160kmコース取材担当となり出世街道を歩み始めた、と一人勘違いしていたヘタレことフジワラ。そんなフジワラの妄想は編集長の一言によって粉々に。意気消沈しつつも、単独取材の朝はやってくるのだ。
沖縄らしくシーサーがライダー達を見守る場面も
なぜ、僕が160kmの担当ではないのだろう。去年担当したヤマモト先輩と一体何が違うというのだろう。ちょっと機材に詳しいだけで、他の要素で僕が負けている要素なんて一つも無いはず。あるとすれば体重ぐらいのハズなのに、いったいなぜ。いくら考えてもラチがあかない疑問に囚われ続ける僕。しかし、そんなことに悩んでいても大会当日の朝は来るのだ。
160kmと100km、50km合わせて2000人を超える人たちがスタートしていくのには多くの時間がかかる。夜も更けぬうちから会場に集まってくるのは160kmの参加者たちだ。でも、その取材を担当するのは僕ではない、編集長だ。
前日に作ったテルテル坊主に込められた思いが届いたのか、会場に吹く風は穏やかで、昨日僕を苦しめた暴風はなりを潜めている。太陽が顔を出しはじめると、段々と気温も上がってきて最高のサイクリング日和を予感させてくれる。7時にスタートしていく160kmの参加者たちと編集長を見送る。本来であれば、僕があそこにいるハズだったのに。
大会会場の目と鼻の先にある県指定の自然遺産「万座毛」。朝や前日に観光してみるのも良いだろう
万座ビーチには招き猫ならず招きシーサーがいる
「何でそんな暗い顔してんの?調子悪い?」と声をかけてくるヤスオカ先輩。「いえ、大丈夫です。」答える僕は、すこし硬い声だったかもしれない。心配したのか、重ねて質問が来る。「お腹でもすいた?9時スタートだったらホテルの朝ご飯食べられたのになあ。せっかくの沖縄なのに残念だよなあ。」と真面目な顔で話すヤスオカ先輩。僕の悩みに比べるとなんてレベルが低いことを言っているのだろう。この人はちょっと残念な人なのかもしれない。
でも、少し心が和んだのも事実。「そうっすね、朝も早かったし、もっとゆっくりしたかったっすね。」と答えると、「いや、仕事なんだから無理だろ。気を引き締めろよ。」と怒られた。理不尽極まりない。しかしこんな人でも100km担当なのだ。社会というのはかさねがさね理不尽なものだと、ここ数日で僕は何度も学んでいる。
しかし、50kmのスタートまで3時間も空いているのも事実。ここぞとばかりに、事前リサーチしておいた観光名所「万座毛」へとコッソリ赴いた。美ら島取材が決まってから、「るるぶ沖縄」で事前リサーチを積み重ねていた僕に隙は無い。会場から自転車ですぐに到着できるというのもリサーチ済みだ。一面の芝に覆われた草原と青い海のコントラストが、ささくれ立った僕の心を癒してくれるような気がした。
様々な顔持ちで朝10時の出走を待つ
総勢331名の「がんばろう」三唱は壮観だ
午前10時、めんそーれコースの参加者たちが次々とコースへ飛び出していく
もう僕に残された道は、しっかりと50kmコースの取材をこなし実力を見せつけることしかない。圧倒的なクオリティの写真を撮り、読者を唸らせるようなレポートを上げることで、僕のポテンシャルを示すほか無いのだ。そう、沖縄の大自然が語りかけてくれた気がしたのだ。
会場に戻ると100kmコースの参加者も出発しており、続々と50㎞コースの参加者たちが集まってきている。160kmや100kmの参加者とは少し違った雰囲気のある集団だ。見渡してみると、本格的なサイクルジャージの人だけでなく、ゆったりとしたライフスタイル系のファッションに身を包む人も多い。小さな子どもたちもたくさん参加している。楽しみなのか、不安なのか、ころころと変わる子どもの表情はなんとも微笑ましい。
スタートセレモニーでは、初心者が多いためか他のクラスよりもコース上の注意点と交通ルールについて詳細に説明される。主催者が安全面に気を配っていることがひしひしと伝わってくる。考えてみれば、初めての実走取材なのだ。そのスタートが段々と近づいてくるとなると、途端に不安になってきた。
写真が撮れなかったら?途中で脚を攣ったら?万が一事故を起こしたら?他の取材班は誰もいないのだ。急に心拍数が上がってきたのがわかる。編集長もヤスオカ先輩もシレっと走りだしたけれど、最初はこんな不安を感じていたのだろうか。パニックに陥っていると「シクロワイアードの人ですか?」と声をかけられる。若いキレイな女の人だ。「いつも読んでます、取材頑張ってくださいね!」と声をかけてくれた彼女は自転車に乗って先に行ってしまった。
ライフスタイル系のファッション、クロスバイクでの参加者が目立った
小径車で50kmの完走を狙う参加者の姿も
国道58号は予想以上に起伏に富んでおり参加者を苦しめる
世界遺産「座喜味城跡」へは斜度10%ほどあるパンチの効いた坂を登らなければならない
ん?自転車に乗って行ってしまった?そう、考え事をしているうちに、スタートが始まっていたのだ。あわててペダルにクリートを嵌め、コースに出ていく僕。会場に響くエイサーが僕のやる気を鼓舞してくれる。その音に押されるようにコースに出た時には、不安な気持ちはすっかり無くなっていた。
まずは、南下するために国道58号をひた走り、10km先の第1エイドを目指す。路側帯が広く走りやすい国道沿いにはヤシの木がずらっと植えられており、いかにも南国を感じさせてくれるロケーションに心が躍る。しかしそんな僕の前に現れたのは小高い丘。
事前に調べておいたコースプロファイルには出てこなかったような細かいアップダウンが連続して現れ、昨日の試験(ではなかったが)で疲労している僕の脚を容赦なく削っていく。やはり編集長の判断は正しかったのかも、なんて弱気の虫が顔を覗かせはじめたころ第1エイドの「おんなの駅 なかゆくい市場」が現れた。砂漠の中のオアシスのように見えた第1エイドに転がり込んだ僕。
10km程度でこんなことになってしまうだなんて、想定の範囲外だ。正直、走ってくるだけでかなり脚がいっぱいだが、この後のエイドは10km以下の間隔しかないので、一番疲れるのは第1エイドまでのハズだ。他の参加者の方もそう考えているのか、ゆっくり休んだり、売店で帰りのお土産の品定めをしてのんびり過ごしている。
座喜味城の城壁に登れば嘉手納の森が眼前に広がる
キツイ坂を登り切って絶景に出会い「ヤッター!」
城壁にいたるまでの琉球松も風流があり何時間でも見ていられる
なんとか次のエイドに辿りつくだけの体力を回復させることに成功した僕は、再びコースへと戻る。内陸に向かうにつれ、緑が多くなっていく景色に気分も上がっていくのだが、細かいアップダウンはまだまだ続く。しかし、僕も取材なのだ。参加者の皆さんの写真を撮らないといけないのだが、フラフラな僕にとっては難しく、手ぶれ写真、ボケボケの写真を量産してしまう。
こんなことが編集長やほかの先輩に知られてはいけない。第2エイドの座喜味城跡までの斜度10%はあるであろうパンチのきいた上り勾配に必死の形相で挑む参加者や、たまらず押しが入る参加者を撮影しながら、増えていく失敗写真。この失態がどうすればバレないのかを必死に考えた結果出てきたのが、失敗写真を消せばよいのではないかという極めて単純な解決方法だ。ゴールしたら、早速試してみることにしよう。
そして、足がパンパンになったところで辿りついた世界遺産「座喜味(ざきみ)城跡」。エイドで振る舞われる黒糖などでエネルギーを補給したら、歩いてもうひと踏ん張り。琉球松の林を抜けて、沖縄の城(グスク)で唯一登れる城壁の上に立てば、左手には東シナ海の海原、右手には長浜ダムや嘉手納の森が目の前に広がるのだ。(これはじゃらんで調べた。)「おおお!」ひとりごとにしては大きめの声量で感嘆の声を漏らしてしまう。正直、50kmコースの取材でも良かったと思わせてくれる絶景スポットだった!
城壁の上でのんびりとくつろいだ後は、海へと一気に駆け下りていく。市街地を抜ければ左右にさとうきび畑が広がり、再び南国情緒を存分に楽しめる。さっきのエイドで頂いた黒糖はこのサトウキビから作られたのかも、なんて考えながら走っていると雲の隙間からお天道様が顔をのぞかせたため、気温とともに僕のテンションも上がっていく。
サトウキビや作物の畑を駆け抜け、第3エイドへと向かう
海へと一直線に続く道。曇り模様なのが残念でならない
色彩豊かな草花が道を飾る中、小学生ライダーも懸命に走る
ハイビスカスは年中咲いている?南国の定番を見ればほっこりとした気分に
次のエイド「残波岬いこいの広場」ではお弁当と沖縄そばの昼食が僕を待っていた。ちょうどお昼時ということで、ランチを食べながらここまでの絶景ポイントを語り合う参加者たちで盛り上がっている。残波岬の灯台へと少し足を伸ばせば、のんびりとしたビーチとは違う、荒々しく岬に押し寄せる波のダイナミックな景観を間近に見ることができる。僕にも少し、その雄々しさを分けてほしいと願いつつ、再び走りだす。
沖縄の定番観光スポットである「琉球村」の手前には、再び急な登りが待っている。しかし、先ほどの海に元気をもらった僕は気合いが違う。勢いをつけて一気にクリアしようと試み、そして跳ね返された。気合いだけではどうにもならないことが世の中にはあるのだということを学びつつ、500mほどの坂の途中で自転車を降り、カメラを構えて息を整える。決して休んでいるのではない、撮影しているのだと、誰に対してかは分からない言い訳をする僕。
残波岬では果てしなく広がる海と空を堪能できる
台湾からの参加者も巨大シーサーの足元で記念撮影
曇でも海がブルー。ビーチでパチリ
おじいちゃん、おばあちゃんと参加していた小学生も海をバックに記念撮影
自分のペースで残りの坂をこなせば、サータアンダギーとチーズ入りかまぼこが振る舞われ、今までと一味違った補給食が楽しめる琉球村エイドに到着。でも、僕が到着した時にはサータアンダギーは既に売り切れており、思わず涙目に。しかし、それを吹き飛ばすようなチーかまのおいしさといったら。
引き返して直ぐに、朝通過した国道58号へと合流する。朝はフェンスに阻まれてよく見えなかった青い海が、帰り道では目の前に迫ってくる。参加者の方たちは立ち止まり記念撮影をし、沖縄のビーチを満喫している。タイミングよく太陽が顔をのぞかせてくれたお陰で、「ザ・南国」な風景を満喫することができた。そして最後のエイド「ホテルムーンビーチ」に到着。
第4エイドは観光スポット琉球村だ
チーズ入りかまぼこも振る舞われていた
第5エイドは砂浜が目の前にあるホテルムーンビーチ
最終エイドではロールケーキが振る舞われ、優雅なティータイムを味わえる
その名の通り、ビーチがあって自由に遊べるようになっているエイドステーション。日本広しともいえども、ビーチで遊べるエイドはなかなかないのではないだろうか。神奈川育ちの湘南ボーイな僕としては、そのまま飛び込んでしまいたくなる衝動を抑えるのに必死。他の参加者も同じ気持ちのようで、目の前に広がる青い海を前にテンションマックスではしゃいでいる人達がたくさん。
しかも、ここで振る舞われる食べ物はケーキとアイス。時計を確認するとちょうど午後3時で、ティータイムにはもってこいの時間だ。ホテルのテラスやビーチでケーキを頂きながら、なんとも優雅な気分に浸っていると、これが仕事であることを忘れてしまいそう。正直、160kmや100kmを目を三角にしながら走るより、ゆったりと贅沢な時間を過ごすことができる50kmコースこそが、南国リゾートライドのあるべき姿なのではないか、なんて思ってしまう。
仲間のゴールを待ち構えて記念撮影
初めて家族揃ってサイクルイベントに出場。50km完走だ!
朝、私に頑張るぞと意気込んでくれた小学生も無事完走!
つまり、こういうことだ。普段、軽んぜられがちな最短コースにあえて気鋭のホープたる僕を割り振ることで、美ら島おきなわセンチュリーランの、そしておきなわ自体の本当の魅力を引き出すことこそが編集長の目的だったのではないだろうか。まさに神がかった采配と言うほかない。
ゴールへと向かう国道58号のアップダウンに四苦八苦しながらも、そんなことを考える。スタートと同じエイサーと、MCの「おかえりなさい!」という声に迎えられて、50kmの旅は終わりを告げた。そして僕の単独初取材も。ゴール後、いの一番で取り掛かったのは、手ぶれ&ピンボケ写真の削除。他の二人が帰って来る前に証拠を隠滅しておけば、決めるところでは決めるカメラマンとして、僕の評価も赤マル急上昇のハズだ。
「ヘタレ記事をいつも楽しみにしています」という読者の方に握手を求められました。「恐縮です!」 しかしそんなに世の中甘くない。後夜祭のためのスライドショーを作成していた編集長が疲れ果てて泥のように眠りこけていた僕を起こす。
「フジワラくん、写真の連番が20から30、ひどいところだと100番くらい飛んでるんだけど、何かしたかい?」つい、裏返った声で答えてしまう僕。
「あ、えーと、その、いえ特になにもしていません!」
「ふーん。おかしいなあ。カメラの調子が悪いのかな?ま、いいけどね。世の中色々あるからね。」そういう編集長の口元が笑っていたのと、隣のベッドで原稿を書いていたヤスオカ先輩が急に身体を折り曲げて震えていたのは、見なかったことにした。
text:Gakuto.Fujiwara
フォトアルバム(CW FaceBook)
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160kmと100km、50km合わせて2000人を超える人たちがスタートしていくのには多くの時間がかかる。夜も更けぬうちから会場に集まってくるのは160kmの参加者たちだ。でも、その取材を担当するのは僕ではない、編集長だ。
前日に作ったテルテル坊主に込められた思いが届いたのか、会場に吹く風は穏やかで、昨日僕を苦しめた暴風はなりを潜めている。太陽が顔を出しはじめると、段々と気温も上がってきて最高のサイクリング日和を予感させてくれる。7時にスタートしていく160kmの参加者たちと編集長を見送る。本来であれば、僕があそこにいるハズだったのに。
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「何でそんな暗い顔してんの?調子悪い?」と声をかけてくるヤスオカ先輩。「いえ、大丈夫です。」答える僕は、すこし硬い声だったかもしれない。心配したのか、重ねて質問が来る。「お腹でもすいた?9時スタートだったらホテルの朝ご飯食べられたのになあ。せっかくの沖縄なのに残念だよなあ。」と真面目な顔で話すヤスオカ先輩。僕の悩みに比べるとなんてレベルが低いことを言っているのだろう。この人はちょっと残念な人なのかもしれない。
でも、少し心が和んだのも事実。「そうっすね、朝も早かったし、もっとゆっくりしたかったっすね。」と答えると、「いや、仕事なんだから無理だろ。気を引き締めろよ。」と怒られた。理不尽極まりない。しかしこんな人でも100km担当なのだ。社会というのはかさねがさね理不尽なものだと、ここ数日で僕は何度も学んでいる。
しかし、50kmのスタートまで3時間も空いているのも事実。ここぞとばかりに、事前リサーチしておいた観光名所「万座毛」へとコッソリ赴いた。美ら島取材が決まってから、「るるぶ沖縄」で事前リサーチを積み重ねていた僕に隙は無い。会場から自転車ですぐに到着できるというのもリサーチ済みだ。一面の芝に覆われた草原と青い海のコントラストが、ささくれ立った僕の心を癒してくれるような気がした。
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会場に戻ると100kmコースの参加者も出発しており、続々と50㎞コースの参加者たちが集まってきている。160kmや100kmの参加者とは少し違った雰囲気のある集団だ。見渡してみると、本格的なサイクルジャージの人だけでなく、ゆったりとしたライフスタイル系のファッションに身を包む人も多い。小さな子どもたちもたくさん参加している。楽しみなのか、不安なのか、ころころと変わる子どもの表情はなんとも微笑ましい。
スタートセレモニーでは、初心者が多いためか他のクラスよりもコース上の注意点と交通ルールについて詳細に説明される。主催者が安全面に気を配っていることがひしひしと伝わってくる。考えてみれば、初めての実走取材なのだ。そのスタートが段々と近づいてくるとなると、途端に不安になってきた。
写真が撮れなかったら?途中で脚を攣ったら?万が一事故を起こしたら?他の取材班は誰もいないのだ。急に心拍数が上がってきたのがわかる。編集長もヤスオカ先輩もシレっと走りだしたけれど、最初はこんな不安を感じていたのだろうか。パニックに陥っていると「シクロワイアードの人ですか?」と声をかけられる。若いキレイな女の人だ。「いつも読んでます、取材頑張ってくださいね!」と声をかけてくれた彼女は自転車に乗って先に行ってしまった。
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ん?自転車に乗って行ってしまった?そう、考え事をしているうちに、スタートが始まっていたのだ。あわててペダルにクリートを嵌め、コースに出ていく僕。会場に響くエイサーが僕のやる気を鼓舞してくれる。その音に押されるようにコースに出た時には、不安な気持ちはすっかり無くなっていた。
まずは、南下するために国道58号をひた走り、10km先の第1エイドを目指す。路側帯が広く走りやすい国道沿いにはヤシの木がずらっと植えられており、いかにも南国を感じさせてくれるロケーションに心が躍る。しかしそんな僕の前に現れたのは小高い丘。
事前に調べておいたコースプロファイルには出てこなかったような細かいアップダウンが連続して現れ、昨日の試験(ではなかったが)で疲労している僕の脚を容赦なく削っていく。やはり編集長の判断は正しかったのかも、なんて弱気の虫が顔を覗かせはじめたころ第1エイドの「おんなの駅 なかゆくい市場」が現れた。砂漠の中のオアシスのように見えた第1エイドに転がり込んだ僕。
10km程度でこんなことになってしまうだなんて、想定の範囲外だ。正直、走ってくるだけでかなり脚がいっぱいだが、この後のエイドは10km以下の間隔しかないので、一番疲れるのは第1エイドまでのハズだ。他の参加者の方もそう考えているのか、ゆっくり休んだり、売店で帰りのお土産の品定めをしてのんびり過ごしている。
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こんなことが編集長やほかの先輩に知られてはいけない。第2エイドの座喜味城跡までの斜度10%はあるであろうパンチのきいた上り勾配に必死の形相で挑む参加者や、たまらず押しが入る参加者を撮影しながら、増えていく失敗写真。この失態がどうすればバレないのかを必死に考えた結果出てきたのが、失敗写真を消せばよいのではないかという極めて単純な解決方法だ。ゴールしたら、早速試してみることにしよう。
そして、足がパンパンになったところで辿りついた世界遺産「座喜味(ざきみ)城跡」。エイドで振る舞われる黒糖などでエネルギーを補給したら、歩いてもうひと踏ん張り。琉球松の林を抜けて、沖縄の城(グスク)で唯一登れる城壁の上に立てば、左手には東シナ海の海原、右手には長浜ダムや嘉手納の森が目の前に広がるのだ。(これはじゃらんで調べた。)「おおお!」ひとりごとにしては大きめの声量で感嘆の声を漏らしてしまう。正直、50kmコースの取材でも良かったと思わせてくれる絶景スポットだった!
城壁の上でのんびりとくつろいだ後は、海へと一気に駆け下りていく。市街地を抜ければ左右にさとうきび畑が広がり、再び南国情緒を存分に楽しめる。さっきのエイドで頂いた黒糖はこのサトウキビから作られたのかも、なんて考えながら走っていると雲の隙間からお天道様が顔をのぞかせたため、気温とともに僕のテンションも上がっていく。
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次のエイド「残波岬いこいの広場」ではお弁当と沖縄そばの昼食が僕を待っていた。ちょうどお昼時ということで、ランチを食べながらここまでの絶景ポイントを語り合う参加者たちで盛り上がっている。残波岬の灯台へと少し足を伸ばせば、のんびりとしたビーチとは違う、荒々しく岬に押し寄せる波のダイナミックな景観を間近に見ることができる。僕にも少し、その雄々しさを分けてほしいと願いつつ、再び走りだす。
沖縄の定番観光スポットである「琉球村」の手前には、再び急な登りが待っている。しかし、先ほどの海に元気をもらった僕は気合いが違う。勢いをつけて一気にクリアしようと試み、そして跳ね返された。気合いだけではどうにもならないことが世の中にはあるのだということを学びつつ、500mほどの坂の途中で自転車を降り、カメラを構えて息を整える。決して休んでいるのではない、撮影しているのだと、誰に対してかは分からない言い訳をする僕。
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自分のペースで残りの坂をこなせば、サータアンダギーとチーズ入りかまぼこが振る舞われ、今までと一味違った補給食が楽しめる琉球村エイドに到着。でも、僕が到着した時にはサータアンダギーは既に売り切れており、思わず涙目に。しかし、それを吹き飛ばすようなチーかまのおいしさといったら。
引き返して直ぐに、朝通過した国道58号へと合流する。朝はフェンスに阻まれてよく見えなかった青い海が、帰り道では目の前に迫ってくる。参加者の方たちは立ち止まり記念撮影をし、沖縄のビーチを満喫している。タイミングよく太陽が顔をのぞかせてくれたお陰で、「ザ・南国」な風景を満喫することができた。そして最後のエイド「ホテルムーンビーチ」に到着。
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その名の通り、ビーチがあって自由に遊べるようになっているエイドステーション。日本広しともいえども、ビーチで遊べるエイドはなかなかないのではないだろうか。神奈川育ちの湘南ボーイな僕としては、そのまま飛び込んでしまいたくなる衝動を抑えるのに必死。他の参加者も同じ気持ちのようで、目の前に広がる青い海を前にテンションマックスではしゃいでいる人達がたくさん。
しかも、ここで振る舞われる食べ物はケーキとアイス。時計を確認するとちょうど午後3時で、ティータイムにはもってこいの時間だ。ホテルのテラスやビーチでケーキを頂きながら、なんとも優雅な気分に浸っていると、これが仕事であることを忘れてしまいそう。正直、160kmや100kmを目を三角にしながら走るより、ゆったりと贅沢な時間を過ごすことができる50kmコースこそが、南国リゾートライドのあるべき姿なのではないか、なんて思ってしまう。
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つまり、こういうことだ。普段、軽んぜられがちな最短コースにあえて気鋭のホープたる僕を割り振ることで、美ら島おきなわセンチュリーランの、そしておきなわ自体の本当の魅力を引き出すことこそが編集長の目的だったのではないだろうか。まさに神がかった采配と言うほかない。
ゴールへと向かう国道58号のアップダウンに四苦八苦しながらも、そんなことを考える。スタートと同じエイサーと、MCの「おかえりなさい!」という声に迎えられて、50kmの旅は終わりを告げた。そして僕の単独初取材も。ゴール後、いの一番で取り掛かったのは、手ぶれ&ピンボケ写真の削除。他の二人が帰って来る前に証拠を隠滅しておけば、決めるところでは決めるカメラマンとして、僕の評価も赤マル急上昇のハズだ。

「フジワラくん、写真の連番が20から30、ひどいところだと100番くらい飛んでるんだけど、何かしたかい?」つい、裏返った声で答えてしまう僕。
「あ、えーと、その、いえ特になにもしていません!」
「ふーん。おかしいなあ。カメラの調子が悪いのかな?ま、いいけどね。世の中色々あるからね。」そういう編集長の口元が笑っていたのと、隣のベッドで原稿を書いていたヤスオカ先輩が急に身体を折り曲げて震えていたのは、見なかったことにした。
text:Gakuto.Fujiwara
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