2014/10/05(日) - 09:35
栂池高原エイドで抜群の信州そばを堪能した私たちは今大会メインとなる山岳コースに向けて県道433号栂池バイパスを折り返してゆく。この後、信州の長閑な風景に油断しきった自分たちが、想定外の事態に巻き込まれるとも知らずに…。
充実の栂池高原エイドを後にした私たちは、折り返しの県道を南下してしていく。スタート前には想像もできなった抜けるような青空の下、相変わらずの素晴らしいロケーションが続く。行きでも通過した栂池パノラマ橋からの眺望は凄い。この陸橋は昨年の11月に開通したばかりで橋長291m橋高30m以上を誇る。ビル10階相当の高さから見下ろす下界の風景はこの大会のハイライトポイントとなるに違いないと感じさせる迫力がある。
豊かな高原風景に包まれながらバイパスを下った私たちは、信濃森上駅を横切り農道へと入る。一面に拡がる水田を駆け抜ける私たちの前方から不思議な動きを見せながら一列棒状の集団が近づいてくる。ローラースキーでクロスカントリーのトレーニング取り組む大学生の一団だ。こんな姿を見かけるのも、いかにも長閑な長野県らしいと同時にクルマ通りがどれほど少ないかの表れでもある。
その後も南下を続けた私たちは神城の100km/120kmコース分岐点を通過する。この先の”ぽかぽかランド美麻給水所”を境に、ここまでの穏やかな”のんびりサイクリングモード”は終わり、コースは険しい山岳のそれへと豹変する。来たる山岳コースに備え徐々に戦闘態勢へと入って行く私たち。このイベントの本番は”ぽかぽかランド美麻”から始まると言っても過言ではない。
途中、AACRでも有名な美麻トンネル迂回路にある”峠”をこなした私たちは”ぽかぽかランド美麻給水所”に流れ込む。いよいよ始まる山岳コースに備えボトルに水を詰める私であったが、ここで初めてメタボ会長の姿が見えない事に気づく。どうせ、いつもの様に参加者さんと談笑したり記念撮影に応じたりで遅れているだけで、すぐに追いついてくると思い込んでいたのだが…。
「編集長、ここしばらく会長の姿が見えないんですけど?」念のために報告を入れる私に対し、「この先は登坂が続くから、会長が追い付いてくるまでこの給水所で待った方が良さそうだね。」と落ち着いて応えるも、その顔にはあからさまに”またかよ…”という感情に満ちたヤレヤレ感が漂っているのが可笑しい。まぁ取り敢えずは待機だ。
ところが10分が経過しても一向にメタボ会長が追い付いてくる気配がない。いつもの様に遊んで遅れているだけなら問題ないのだが、ここまで遅いと機材トラブルの可能性も否めない。さすがに心配になった編集長が電話を掛けると、すぐに繋がりはしたものの、どうも様子がおかしい。その電話から漏れ聞こえてきた会話は以下だ。
「会長、いまどの辺りを走られていますか?」「木崎湖を過ぎた辺りだよ!」「え"っ?木崎湖?」
「俺はあんまり坂道が好きじゃないから神城の分岐を右折して100kmコースに合流したんだよ。」「え"っ?」
「大丈夫!事前に大会本部の西沢さんに俺だけは100kmコースに変更するって言ってあるから!」「え"っ?」
「120kmコース南端の安曇野ちひろ公園の中に松川エイドがあるだろ?そこで合流しようぜ!」「え"っ?」
「松川エイドでフルーツでも食いながら待っといてやるから急いで来いよ!じゃ、取材ガンバレよ!」チ~ン…。
いやいや、これはシャレにならない!過去に例を見ないほどの大事件勃発だ!隣で聞いていた藤原と私の顔からみるみる血の気が引いて行くのが判る。電話が終わると同時にガックリと肩を落とす編集長。心なしか落とした肩が怒りで小刻みに震えているようにも見える。それでも何とか平常心を取り戻した編集長が口を開く。
「現在、会長は100kmコースを単独で走行しているそうですが、私たちはこのまま予定通りに山岳コースの取材を続けます。会長とは40km先の安曇野ちひろ公園で合流する事になりました。この先は険しい山道が続くので緊張して取材に当りましょう。じゃ、気を取り直して行ってみますか!」
おぉ!さすが編集長!人生のお手本にしたいくらいの見事な大人の態度である。ここまで非道な仕打ちを受けながらも、愚痴ひとつこぼさずに業務を遂行しようとするその姿には、いつもながら感心させられる。ここは編集長に代わって私が思いの丈を代弁し慰めるべき場面だ。「まったく幼稚園児でもあるまいし、会長の自由過ぎる行動は目に余りますね!会長の思考回路は常軌を逸していますから今回の事は不運な事故として割り切りましょう!」
この言葉を受けてようやく編集長の顔に笑みが戻った。暫し後、すっかりと落ち着きを取り戻した編集長が、今度は悪い大人の笑みを浮かべながら私に話しかけてくる。「イベント取材で会長が隊列を離れるなんて日常茶飯の事だから今回は僕もすっかり油断してたよ。次回からは一層の注意が必要だね。ところで、会長不在にも関わらず何故メタボカメラ担当の君がここに居るのかな?君のタスクは”会長に張り付き”じゃなかったっけ?」
なっ…!編集長!それはあんまりと言うもんでっせ!確かに私が会長担当なのは事実だが、意気消沈した編集長を気遣って言葉を掛けた私に対して随分な仕打ちである。もっとも、この言葉こそが彼の優しさの現れである事は、彼の茶目っ気に満ちた笑顔が物語っている。こうして笑顔を取り戻した私たちは山岳コースの取材を続行する運びとなった。
この先、松川エイドまでの(主役不在の)山岳40km区間の様子は、こちらのレポートを参照下さい。
その後、北アルプス山麓の山岳コースを十分に味わった私たちが、ほどよい疲労感とともに”安曇野ちひろ公園”に滑り込むと、補給テント前で参加者さん達と楽しげに過ごす”黄色い犯人”を発見だ。その犯人は私たちの到着に気付く事も無く、参加者さん達と楽しそうに談笑しているではないか。ようやく私たちの存在に気付いたメタボ会長が腕時計を見ながら悪びれる様子も無く笑顔で話しかけてくる。
「おいおい、君たち遅せ~よ!俺を2時間も待たせやがって、まったくイイ度胸してんな!あんまり暇なもんだから桃とリンゴ合わせて7個も食っちまったじゃねえか!まぁ、美味しかったから問題無いけどな。おぉそうだ!君たちも早くフルーツ食ってみな!抜群に美味しいぜ!ホレホレ!」
まるでそれらを自分が用意したかの様な言い草で、私たちをフルーツへと導くメタボ会長。その机にはブドウや黄金桃に加えリンゴまでもが所狭しと並べられ甘く豊かな香りを漂わせている。視覚と嗅覚から考えてもこれらのフルーツ群が美味しくない訳がない。各々が果実を次々と口へと運び、それらの豊かな甘みを噛みしめながら至福の時を味わう私たち3人。そんな私たちの顔を覗き込むようにしながら笑顔のオヤジが話しかけてくる。
「なっ!最高に美味いだろ?な?な?じゃ俺も一緒にもうちょっと戴いちゃおっと!」そう言うや否や、伸ばした両手で黄金桃を掴むなり一気に口に放り込む。目を閉じ暫し味わった後に絞り出すように「う~ん!やっぱ美味い!」と子供の様な輝く笑顔で言い放つメタボ会長。そんな無邪気な笑顔を見せられると、さっきまでの怒りの矛先も行き場を失うと言うものである。まったく何とも言えない不思議な魅力を持ったオヤジである。
松川エイドで無事にメタボ会長との合流を果たした私たちは残り35km先のゴールへ向けて漕ぎだす。安曇野の豊かな田園風景の中、国道を避けるように裏道で繋ぐコースはクルマもほとんど通らず走り易い事この上ない。大町に向け緩やかな傾斜が続くも、ありがたい事に山岳ルートを逃げ出し気力体力満タンの黄色い弾丸が先頭固定の鬼牽きを披露してくれる。もっとも、ココで仕事をしないでいつするのよ?って話しである。
黄色い風除けにも助けられ、まったく疲労することなく私たちが流れ込んだのは”大町温泉郷エイド”。ここでは安曇野ちひろ公園で果物を食してから40分しか経たない私たちに、名物の”おざんざ”や”一口ドーナツ”、はてはオニギリまでもが振る舞われる。驚きは品数だけに留まらず「おかわりはいかがですか?」と補給テントのお姉さんが掛けてくれるその言葉だ。
聞けばおざんざを5杯たいらげた猛者も居たと云う。実際、これはどのエイドでも聞かれた言葉でコチラが”足りなくならないの?”と要らぬ心配をしてしまうほど、主催者サイドの採算度外視の姿勢には頭が下がるばかりだ。なるほどメタボ会長が”日本一のグルメフォンド”と言って憚らないのも納得できる。
一方のメタボ会長はと云えば、仕事柄からかここ大町温泉郷の公衆便所に興味津々のご様子だ。「ほらほら!見てみなよ!木軸組みなのに曲線が柔らかいだろ?これはおそらく宮大工の仕事だよ。ここまで丁寧な造作の公衆便所はなかなか見ないよ。このまま料亭のアプローチにも使えそうだもんな。そうだ!次の現場はこんな感じで…。」
いやいやパクリはマズイだろ!全国の施工主の皆様、もしウチの会長がコレと似たようなデザインパースを提案したらそれは間違いなく盗作ですから遠慮することなく告訴して下さい!
こうして長野県の”おもてなし”を腹一杯に詰め込んだ私たちは、いよいよゴール地点へと向かう。県道325号を北上し鹿島槍スポーツビレッジの看板を右折すれば最後の難所だ。距離1.5kmで110mを駆け上がるこの登坂路を避けてゴールに辿り着く事はできない。ここまでの山岳ルートを巧みに逃げ回った黄色い弾丸も覚悟を決めた様子で登坂に挑む。
「ぬおぉぉ~、胃袋パンパンの状態で最後にこの坂は無えよな!これじゃ楽しかったグルメフォンドが台無しだよ!しつこくて悪いけど、頼むから”取材中は10秒ルール無し”ってのを見直してくんないかな?」
そう口では文句を垂れながらも楽しそうな表情で登坂をこなしたメタボ会長がゴールを迎える。”だから!グルメフォンドじゃなくてグランフォンドですから!”などと野暮なツッコミを入れるのは止めておこう。
ゴールと同時にMCアリーさんのインタビューを受ける黄色い弾丸ではあるが、眩しいくらいに輝く笑顔で受け応えをするオヤジの表情をみれば、彼が大満足とともにこのイベントを終えた事が手に取るように判るというものだ。インタビューもひと仕切り落ち着いたところでメタボ会長に恒例の感想を聞くと、今回も真面目に応えてくれた。
「今回走った100kmコースは厳しい登坂も無くてロケーションも素晴らしいコースだね。白馬・栂池方面の壮大な景観に加えて仁科三湖の湖景も堪能できるし、地産の味はどれも素晴らしい!クロスバイクでも十分に走りきれる難易度と充実度は”美ら島オキナワ100kmコース”にも匹敵する内容だよ。初心者ライダーが初めて100kmに挑戦するには持って来いのコースだよ。こんな優しく楽しめるコースにこそ是非、カップルやご夫婦や女性グループで参加してもらいたいよ。だってスタイリッシュな女性ライダーに汗ダクは失礼だからね!」いつものように興奮気味に鼻の穴を膨らませながらオヤジが言葉を続ける。
「無論、君たち編集部のような健脚ライダーにはメインとなる山岳120kmコースが用意されているから、レベルに応じて各々が楽しめる。雷太さんはじめ西沢さんや関係者さんの”おもてなし”の気持ちが伝わってくる素晴らしいイベントだよ。特にここの100kmみたいなコースこそが自転車人気の底上げには絶対必要なんだよ!ビギナーでも楽しめるキツ過ぎないサイクリングイベントがね!だからやっぱりグルメフォンドはこうでなくっちゃ!と言う事で、私は一足お先に風呂に入ってるから後はヨロシク!」
そう言い残しセンターハウスの大浴場へと消えて行くメタボ会長。結局、最後までグランフォンドとグルメフォンドを間違えたままではあったが、今回も大切な何かを諭されたような気がしつつ片付けに勤しむ私であった。
今回、編集部チームが実走取材にお伺いした"第3回北アルプス山麓グランフォンド"を支えて下さった大会関係者並びにサポートスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。 編集部一同。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
充実の栂池高原エイドを後にした私たちは、折り返しの県道を南下してしていく。スタート前には想像もできなった抜けるような青空の下、相変わらずの素晴らしいロケーションが続く。行きでも通過した栂池パノラマ橋からの眺望は凄い。この陸橋は昨年の11月に開通したばかりで橋長291m橋高30m以上を誇る。ビル10階相当の高さから見下ろす下界の風景はこの大会のハイライトポイントとなるに違いないと感じさせる迫力がある。
豊かな高原風景に包まれながらバイパスを下った私たちは、信濃森上駅を横切り農道へと入る。一面に拡がる水田を駆け抜ける私たちの前方から不思議な動きを見せながら一列棒状の集団が近づいてくる。ローラースキーでクロスカントリーのトレーニング取り組む大学生の一団だ。こんな姿を見かけるのも、いかにも長閑な長野県らしいと同時にクルマ通りがどれほど少ないかの表れでもある。
その後も南下を続けた私たちは神城の100km/120kmコース分岐点を通過する。この先の”ぽかぽかランド美麻給水所”を境に、ここまでの穏やかな”のんびりサイクリングモード”は終わり、コースは険しい山岳のそれへと豹変する。来たる山岳コースに備え徐々に戦闘態勢へと入って行く私たち。このイベントの本番は”ぽかぽかランド美麻”から始まると言っても過言ではない。
途中、AACRでも有名な美麻トンネル迂回路にある”峠”をこなした私たちは”ぽかぽかランド美麻給水所”に流れ込む。いよいよ始まる山岳コースに備えボトルに水を詰める私であったが、ここで初めてメタボ会長の姿が見えない事に気づく。どうせ、いつもの様に参加者さんと談笑したり記念撮影に応じたりで遅れているだけで、すぐに追いついてくると思い込んでいたのだが…。
「編集長、ここしばらく会長の姿が見えないんですけど?」念のために報告を入れる私に対し、「この先は登坂が続くから、会長が追い付いてくるまでこの給水所で待った方が良さそうだね。」と落ち着いて応えるも、その顔にはあからさまに”またかよ…”という感情に満ちたヤレヤレ感が漂っているのが可笑しい。まぁ取り敢えずは待機だ。
ところが10分が経過しても一向にメタボ会長が追い付いてくる気配がない。いつもの様に遊んで遅れているだけなら問題ないのだが、ここまで遅いと機材トラブルの可能性も否めない。さすがに心配になった編集長が電話を掛けると、すぐに繋がりはしたものの、どうも様子がおかしい。その電話から漏れ聞こえてきた会話は以下だ。
「会長、いまどの辺りを走られていますか?」「木崎湖を過ぎた辺りだよ!」「え"っ?木崎湖?」
「俺はあんまり坂道が好きじゃないから神城の分岐を右折して100kmコースに合流したんだよ。」「え"っ?」
「大丈夫!事前に大会本部の西沢さんに俺だけは100kmコースに変更するって言ってあるから!」「え"っ?」
「120kmコース南端の安曇野ちひろ公園の中に松川エイドがあるだろ?そこで合流しようぜ!」「え"っ?」
「松川エイドでフルーツでも食いながら待っといてやるから急いで来いよ!じゃ、取材ガンバレよ!」チ~ン…。
いやいや、これはシャレにならない!過去に例を見ないほどの大事件勃発だ!隣で聞いていた藤原と私の顔からみるみる血の気が引いて行くのが判る。電話が終わると同時にガックリと肩を落とす編集長。心なしか落とした肩が怒りで小刻みに震えているようにも見える。それでも何とか平常心を取り戻した編集長が口を開く。
「現在、会長は100kmコースを単独で走行しているそうですが、私たちはこのまま予定通りに山岳コースの取材を続けます。会長とは40km先の安曇野ちひろ公園で合流する事になりました。この先は険しい山道が続くので緊張して取材に当りましょう。じゃ、気を取り直して行ってみますか!」
おぉ!さすが編集長!人生のお手本にしたいくらいの見事な大人の態度である。ここまで非道な仕打ちを受けながらも、愚痴ひとつこぼさずに業務を遂行しようとするその姿には、いつもながら感心させられる。ここは編集長に代わって私が思いの丈を代弁し慰めるべき場面だ。「まったく幼稚園児でもあるまいし、会長の自由過ぎる行動は目に余りますね!会長の思考回路は常軌を逸していますから今回の事は不運な事故として割り切りましょう!」
この言葉を受けてようやく編集長の顔に笑みが戻った。暫し後、すっかりと落ち着きを取り戻した編集長が、今度は悪い大人の笑みを浮かべながら私に話しかけてくる。「イベント取材で会長が隊列を離れるなんて日常茶飯の事だから今回は僕もすっかり油断してたよ。次回からは一層の注意が必要だね。ところで、会長不在にも関わらず何故メタボカメラ担当の君がここに居るのかな?君のタスクは”会長に張り付き”じゃなかったっけ?」
なっ…!編集長!それはあんまりと言うもんでっせ!確かに私が会長担当なのは事実だが、意気消沈した編集長を気遣って言葉を掛けた私に対して随分な仕打ちである。もっとも、この言葉こそが彼の優しさの現れである事は、彼の茶目っ気に満ちた笑顔が物語っている。こうして笑顔を取り戻した私たちは山岳コースの取材を続行する運びとなった。
この先、松川エイドまでの(主役不在の)山岳40km区間の様子は、こちらのレポートを参照下さい。
その後、北アルプス山麓の山岳コースを十分に味わった私たちが、ほどよい疲労感とともに”安曇野ちひろ公園”に滑り込むと、補給テント前で参加者さん達と楽しげに過ごす”黄色い犯人”を発見だ。その犯人は私たちの到着に気付く事も無く、参加者さん達と楽しそうに談笑しているではないか。ようやく私たちの存在に気付いたメタボ会長が腕時計を見ながら悪びれる様子も無く笑顔で話しかけてくる。
「おいおい、君たち遅せ~よ!俺を2時間も待たせやがって、まったくイイ度胸してんな!あんまり暇なもんだから桃とリンゴ合わせて7個も食っちまったじゃねえか!まぁ、美味しかったから問題無いけどな。おぉそうだ!君たちも早くフルーツ食ってみな!抜群に美味しいぜ!ホレホレ!」
まるでそれらを自分が用意したかの様な言い草で、私たちをフルーツへと導くメタボ会長。その机にはブドウや黄金桃に加えリンゴまでもが所狭しと並べられ甘く豊かな香りを漂わせている。視覚と嗅覚から考えてもこれらのフルーツ群が美味しくない訳がない。各々が果実を次々と口へと運び、それらの豊かな甘みを噛みしめながら至福の時を味わう私たち3人。そんな私たちの顔を覗き込むようにしながら笑顔のオヤジが話しかけてくる。
「なっ!最高に美味いだろ?な?な?じゃ俺も一緒にもうちょっと戴いちゃおっと!」そう言うや否や、伸ばした両手で黄金桃を掴むなり一気に口に放り込む。目を閉じ暫し味わった後に絞り出すように「う~ん!やっぱ美味い!」と子供の様な輝く笑顔で言い放つメタボ会長。そんな無邪気な笑顔を見せられると、さっきまでの怒りの矛先も行き場を失うと言うものである。まったく何とも言えない不思議な魅力を持ったオヤジである。
松川エイドで無事にメタボ会長との合流を果たした私たちは残り35km先のゴールへ向けて漕ぎだす。安曇野の豊かな田園風景の中、国道を避けるように裏道で繋ぐコースはクルマもほとんど通らず走り易い事この上ない。大町に向け緩やかな傾斜が続くも、ありがたい事に山岳ルートを逃げ出し気力体力満タンの黄色い弾丸が先頭固定の鬼牽きを披露してくれる。もっとも、ココで仕事をしないでいつするのよ?って話しである。
黄色い風除けにも助けられ、まったく疲労することなく私たちが流れ込んだのは”大町温泉郷エイド”。ここでは安曇野ちひろ公園で果物を食してから40分しか経たない私たちに、名物の”おざんざ”や”一口ドーナツ”、はてはオニギリまでもが振る舞われる。驚きは品数だけに留まらず「おかわりはいかがですか?」と補給テントのお姉さんが掛けてくれるその言葉だ。
聞けばおざんざを5杯たいらげた猛者も居たと云う。実際、これはどのエイドでも聞かれた言葉でコチラが”足りなくならないの?”と要らぬ心配をしてしまうほど、主催者サイドの採算度外視の姿勢には頭が下がるばかりだ。なるほどメタボ会長が”日本一のグルメフォンド”と言って憚らないのも納得できる。
一方のメタボ会長はと云えば、仕事柄からかここ大町温泉郷の公衆便所に興味津々のご様子だ。「ほらほら!見てみなよ!木軸組みなのに曲線が柔らかいだろ?これはおそらく宮大工の仕事だよ。ここまで丁寧な造作の公衆便所はなかなか見ないよ。このまま料亭のアプローチにも使えそうだもんな。そうだ!次の現場はこんな感じで…。」
いやいやパクリはマズイだろ!全国の施工主の皆様、もしウチの会長がコレと似たようなデザインパースを提案したらそれは間違いなく盗作ですから遠慮することなく告訴して下さい!
こうして長野県の”おもてなし”を腹一杯に詰め込んだ私たちは、いよいよゴール地点へと向かう。県道325号を北上し鹿島槍スポーツビレッジの看板を右折すれば最後の難所だ。距離1.5kmで110mを駆け上がるこの登坂路を避けてゴールに辿り着く事はできない。ここまでの山岳ルートを巧みに逃げ回った黄色い弾丸も覚悟を決めた様子で登坂に挑む。
「ぬおぉぉ~、胃袋パンパンの状態で最後にこの坂は無えよな!これじゃ楽しかったグルメフォンドが台無しだよ!しつこくて悪いけど、頼むから”取材中は10秒ルール無し”ってのを見直してくんないかな?」
そう口では文句を垂れながらも楽しそうな表情で登坂をこなしたメタボ会長がゴールを迎える。”だから!グルメフォンドじゃなくてグランフォンドですから!”などと野暮なツッコミを入れるのは止めておこう。
ゴールと同時にMCアリーさんのインタビューを受ける黄色い弾丸ではあるが、眩しいくらいに輝く笑顔で受け応えをするオヤジの表情をみれば、彼が大満足とともにこのイベントを終えた事が手に取るように判るというものだ。インタビューもひと仕切り落ち着いたところでメタボ会長に恒例の感想を聞くと、今回も真面目に応えてくれた。
「今回走った100kmコースは厳しい登坂も無くてロケーションも素晴らしいコースだね。白馬・栂池方面の壮大な景観に加えて仁科三湖の湖景も堪能できるし、地産の味はどれも素晴らしい!クロスバイクでも十分に走りきれる難易度と充実度は”美ら島オキナワ100kmコース”にも匹敵する内容だよ。初心者ライダーが初めて100kmに挑戦するには持って来いのコースだよ。こんな優しく楽しめるコースにこそ是非、カップルやご夫婦や女性グループで参加してもらいたいよ。だってスタイリッシュな女性ライダーに汗ダクは失礼だからね!」いつものように興奮気味に鼻の穴を膨らませながらオヤジが言葉を続ける。
「無論、君たち編集部のような健脚ライダーにはメインとなる山岳120kmコースが用意されているから、レベルに応じて各々が楽しめる。雷太さんはじめ西沢さんや関係者さんの”おもてなし”の気持ちが伝わってくる素晴らしいイベントだよ。特にここの100kmみたいなコースこそが自転車人気の底上げには絶対必要なんだよ!ビギナーでも楽しめるキツ過ぎないサイクリングイベントがね!だからやっぱりグルメフォンドはこうでなくっちゃ!と言う事で、私は一足お先に風呂に入ってるから後はヨロシク!」
そう言い残しセンターハウスの大浴場へと消えて行くメタボ会長。結局、最後までグランフォンドとグルメフォンドを間違えたままではあったが、今回も大切な何かを諭されたような気がしつつ片付けに勤しむ私であった。
今回、編集部チームが実走取材にお伺いした"第3回北アルプス山麓グランフォンド"を支えて下さった大会関係者並びにサポートスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。 編集部一同。
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メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 5年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を辞し会長職に退くも、平成20年に当サイトが属するメディア事業部の責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。豊富な筋肉量を生かした瞬発力はかなりのモノだが、こと登坂となるとその能力はべらぼうに低い。日本一登れない男だ。
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 5年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を辞し会長職に退くも、平成20年に当サイトが属するメディア事業部の責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。豊富な筋肉量を生かした瞬発力はかなりのモノだが、こと登坂となるとその能力はべらぼうに低い。日本一登れない男だ。
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