2014/04/19(土) - 08:57
四国第一の都市である愛媛県・松山市。今回は松山市の海の玄関口、松山観光港からチャーター船で1時間の中島と興居島をめぐるサイクリングイベントが行われた。イベント当日には伊予鉄道のサイクルトレインも運行され、快適な離島サイクリングをレポートしていこう。
サイクリストにとって愛媛県といえばやはり瀬戸内の島々をつなぐしまなみ海道だろう。確かにしまなみ海道は素晴らしいサイクリングコースだ。自転車道は走りやすく、商店には自転車ラックが整備されているうえ、観光情報も充実している。ただ、しまなみ海道だけが瀬戸内の魅力ではない。瀬戸内にはまだまだ沢山の島があり、それぞれの魅力に満ちている。
そんな瀬戸内の島々の魅力を再発見し、瀬戸内の元気やぬくもりを感じるようなイベントとして、瀬戸内しまのわ2014が開催されている。瀬戸内しまのわ2014は地元の人が主体となり、花、サイクリング、海、食、アートといったテーマに沿って季節ごとに島々の魅力をPRする100個以上のイベントを開催する博覧会で別名「しま博」とも呼ばれている。
これからの時期、たくさんのサイクリングイベントが愛媛・広島両県で開催されていく。その集大成といえるイベントとして、10月26日に開催されるのが、サイクリングしまなみだ。しまなみ海道本線を封鎖し、今治~尾道を走るコースの他、長短各コース合わせて8000人規模の大会として開催される同大会に向け、愛媛・広島両県ではさまざまな準備が進められている。
今回取材した、「チャーター船de里島めぐりサイクリングin中島・興居島」も瀬戸内しまのわ2014のイベントのひとつ。普段、全国的にはあまり知られていない瀬戸内の離島の魅力を自分の脚で体験できる貴重なイベントだ。それでは、風光明媚な島の魅力をお伝えしよう。
朝、松山市内のホテルで目を覚ますと前夜から降り続けていた雨は止むことなく、しとしとと降り続けていた。せっかくの離島サイクリングの魅力も雨の前にはかすんでいく。撮影機材の心配をしつつ、朝食をとりレインウェアを着こんで、サイクルトレインが運行される伊予鉄道の「古町(こまち)駅」へと向った。
今回のイベントは、松山観光港からフェリーに乗り離島でサイクリングを楽しむというコンセプト。サイクルトレインは松山観光港の最寄り駅である「高浜駅」まで運行される。普段は体験できない貴重な機会ということもあり、20名の定員はすぐにいっぱいになってしまったそうだ。サイクルトレインの発車するホームには、愛媛県のご当地キャラクター「みきゃん」や、今回訪れる中島・興居島が属する忽那(くつな)諸島のPRキャラクター「しまぼう」がお見送りに来てくれた。
また、中村時広愛媛県知事や、野志克仁松山市長もサイクルトレインに共に乗車し、参加者とともに「高浜駅」まで向った。車内では、知事や市長のあいさつがあり愛媛県としていかに自転車への期待が大きいかが語られた。特に、中村知事は、「自転車新文化」を標榜しサイクリングを起点として愛媛県の魅力を発信しており、全国で初めて供用中の高速道路を封鎖したサイクリング大会である「サイクリングしまなみ」を主導した、熱心なサイクリストだ。
サイクルトレインを降りれば、松山観光港はもうすぐそこ。フェリー乗り場で受付けを済ませしばらくすると次第に雨が上がり、晴れ間が見えてきた。いそいそとレインウェアを脱ぎ、カメラにかぶせていたビニール袋を外していると、イベントの目玉であるフェリーがやってきた。
以前にレポートしたしまなみ海道の尾道~向島間の渡船とは比べ物にならない大きさの船で、100名以上のサイクリストと自転車、3台の車を乗せても余裕がある。客室もあり、出発式が船上で行われた。中村知事や野志市長のあいさつに始まり、大会プロデューサーのMTBプロライダーの門田基志選手(TEAM GIANT)の紹介、南海放送で活躍するお笑いコンビのモストデンジャラスのショートコントなどで、あっという間に時間が経ち気がつけば中島に到着。早速自転車を船から降ろし、中島に降り立った。
中島は松山の沖合10kmに位置する島で、柑橘類の栽培が盛んだ。中島で栽培できない品種はないとされる程、柑橘類の栽培に向いた島。毎年8月にはトライアスロンが開催されているため島民の自転車への理解は深い様子。一周22kmの島内をぐるっと回るコースは、適度なアップダウンと海沿いの美しい景色で飽きることなく楽しめる。
フェリーが到着した島の東側の大浦港とちょうど反対側に位置する西中港にはエイドステーションが設置され、心ゆくまでみかんを食べることができた。実をいうと、筆者は薄皮の部分が苦手であまりみかんを食べないのだが、中島のみかんは非常にジューシーでいくらでも食べてしまうほどの絶品。
みかんを堪能した後は、島の北側を通って大浦港へと戻るのだが、南側に比べると起伏に富んでいる地形となっている。ただ、激坂というほどの勾配があるわけではなく、距離も短いためコンパクトクランクを使用していれば初心者でも十分登りきれる程度。むしろ、登っている最中に見える海が美しく、苦にせず登ることができるだろう。
大浦港に着けば、またフェリーに乗り込み次の目的地である興居島へと向かう。海上交通を駆使することで、自由自在に島を行き来できるのは島々が密集している瀬戸内ならではの特徴。また、島々が密集していることで生み出される複雑な潮流によって渦潮が生み出されている時もある。運が良ければ、船上からその様子を見ることができるかもしれない。
驚きだったのは、船中で参加者全員に提供された「しまめし弁当」。これが豪華な内容で、お弁当なのに刺身が入っているというもの。しかもアワビが丸ごと1個入っておりお弁当だけでも相当のコストがかかっているのでは……などと下世話な心配をしてしまうほど。
島の魅力を詰め込んだ昼食をいただきながら、船に揺られていると興居島に到着する。興居島は中島に比べるとかなり四国に近い島であり、高台に登れば松山市街が見えるほど。伊予の小富士と呼ばれる山が島の南部にあり、美しいシルエットを見せてくれる。興居島は3コースにわかれてサイクリングするが、もっとも距離が長い16kmのチャレンジコースを紹介しよう。
興居島の泊港に到着し、島の南部へと走り出していくとすぐに登りが始まる。かなりの斜度で押して登る人もちらほらいるほどの坂なのだが、登りきった先には松山市内を一望できる恋人峠があり、記念写真を撮るにはぴったりのポイント。一度坂でばらばらになった集団が集合して写真撮影をした後は、北の馬磯海岸を目指して走っていく。
馬磯海岸では、中島と同様にみかんが食べ放題のエイドステーションが設けられている。中島のみかんとはまた異なる品種とのことで、甘さ控えめでずっと食べ続けられそうな味だった。ちなみに、もっとも短いファミリーコースでは、栽培が非常に難しく世界的にも希少な「カラマンダリン」の収穫体験もできるとのこと。みかんをたっぷりと堪能したあとは、海岸沿いを南下していき、フェリーが待っている泊港まで戻っていく。
フェリーでは、島の伊予柑を使ったマドレーヌが人数分用意されており、サイクリングで疲れた参加者のみなさんに甘いケーキは喜ばれていた。帰りのフェリーの中では抽選会も行われ、和気藹々とした雰囲気の中で松山観光港に帰着。2島を周るサイクリングはお開きとなった。
世界的に見てもあまり類のない、船と自転車の組み合わせ。たくさんの島が寄り添うように点在し、それぞれの魅力を持っている瀬戸内だからこそ実現するサイクリングプランだろう。また、どちらの島のみなさんも暖かくサイクリストを迎えてくださった。サポートカー以外の車をほとんど見かけることもなく、のびのびとした島の自然と人々のあたたかさ、そしてみかんや魚介類、スイーツといったグルメも堪能でき、心身ともにおなか一杯になるのが瀬戸内のしまの魅力だろう。
text:Naoki.YASUOKA
photo:So.Isobe,Naoki.YASUOKA
サイクリストにとって愛媛県といえばやはり瀬戸内の島々をつなぐしまなみ海道だろう。確かにしまなみ海道は素晴らしいサイクリングコースだ。自転車道は走りやすく、商店には自転車ラックが整備されているうえ、観光情報も充実している。ただ、しまなみ海道だけが瀬戸内の魅力ではない。瀬戸内にはまだまだ沢山の島があり、それぞれの魅力に満ちている。
そんな瀬戸内の島々の魅力を再発見し、瀬戸内の元気やぬくもりを感じるようなイベントとして、瀬戸内しまのわ2014が開催されている。瀬戸内しまのわ2014は地元の人が主体となり、花、サイクリング、海、食、アートといったテーマに沿って季節ごとに島々の魅力をPRする100個以上のイベントを開催する博覧会で別名「しま博」とも呼ばれている。
これからの時期、たくさんのサイクリングイベントが愛媛・広島両県で開催されていく。その集大成といえるイベントとして、10月26日に開催されるのが、サイクリングしまなみだ。しまなみ海道本線を封鎖し、今治~尾道を走るコースの他、長短各コース合わせて8000人規模の大会として開催される同大会に向け、愛媛・広島両県ではさまざまな準備が進められている。
今回取材した、「チャーター船de里島めぐりサイクリングin中島・興居島」も瀬戸内しまのわ2014のイベントのひとつ。普段、全国的にはあまり知られていない瀬戸内の離島の魅力を自分の脚で体験できる貴重なイベントだ。それでは、風光明媚な島の魅力をお伝えしよう。
朝、松山市内のホテルで目を覚ますと前夜から降り続けていた雨は止むことなく、しとしとと降り続けていた。せっかくの離島サイクリングの魅力も雨の前にはかすんでいく。撮影機材の心配をしつつ、朝食をとりレインウェアを着こんで、サイクルトレインが運行される伊予鉄道の「古町(こまち)駅」へと向った。
今回のイベントは、松山観光港からフェリーに乗り離島でサイクリングを楽しむというコンセプト。サイクルトレインは松山観光港の最寄り駅である「高浜駅」まで運行される。普段は体験できない貴重な機会ということもあり、20名の定員はすぐにいっぱいになってしまったそうだ。サイクルトレインの発車するホームには、愛媛県のご当地キャラクター「みきゃん」や、今回訪れる中島・興居島が属する忽那(くつな)諸島のPRキャラクター「しまぼう」がお見送りに来てくれた。
また、中村時広愛媛県知事や、野志克仁松山市長もサイクルトレインに共に乗車し、参加者とともに「高浜駅」まで向った。車内では、知事や市長のあいさつがあり愛媛県としていかに自転車への期待が大きいかが語られた。特に、中村知事は、「自転車新文化」を標榜しサイクリングを起点として愛媛県の魅力を発信しており、全国で初めて供用中の高速道路を封鎖したサイクリング大会である「サイクリングしまなみ」を主導した、熱心なサイクリストだ。
サイクルトレインを降りれば、松山観光港はもうすぐそこ。フェリー乗り場で受付けを済ませしばらくすると次第に雨が上がり、晴れ間が見えてきた。いそいそとレインウェアを脱ぎ、カメラにかぶせていたビニール袋を外していると、イベントの目玉であるフェリーがやってきた。
以前にレポートしたしまなみ海道の尾道~向島間の渡船とは比べ物にならない大きさの船で、100名以上のサイクリストと自転車、3台の車を乗せても余裕がある。客室もあり、出発式が船上で行われた。中村知事や野志市長のあいさつに始まり、大会プロデューサーのMTBプロライダーの門田基志選手(TEAM GIANT)の紹介、南海放送で活躍するお笑いコンビのモストデンジャラスのショートコントなどで、あっという間に時間が経ち気がつけば中島に到着。早速自転車を船から降ろし、中島に降り立った。
中島は松山の沖合10kmに位置する島で、柑橘類の栽培が盛んだ。中島で栽培できない品種はないとされる程、柑橘類の栽培に向いた島。毎年8月にはトライアスロンが開催されているため島民の自転車への理解は深い様子。一周22kmの島内をぐるっと回るコースは、適度なアップダウンと海沿いの美しい景色で飽きることなく楽しめる。
フェリーが到着した島の東側の大浦港とちょうど反対側に位置する西中港にはエイドステーションが設置され、心ゆくまでみかんを食べることができた。実をいうと、筆者は薄皮の部分が苦手であまりみかんを食べないのだが、中島のみかんは非常にジューシーでいくらでも食べてしまうほどの絶品。
みかんを堪能した後は、島の北側を通って大浦港へと戻るのだが、南側に比べると起伏に富んでいる地形となっている。ただ、激坂というほどの勾配があるわけではなく、距離も短いためコンパクトクランクを使用していれば初心者でも十分登りきれる程度。むしろ、登っている最中に見える海が美しく、苦にせず登ることができるだろう。
大浦港に着けば、またフェリーに乗り込み次の目的地である興居島へと向かう。海上交通を駆使することで、自由自在に島を行き来できるのは島々が密集している瀬戸内ならではの特徴。また、島々が密集していることで生み出される複雑な潮流によって渦潮が生み出されている時もある。運が良ければ、船上からその様子を見ることができるかもしれない。
驚きだったのは、船中で参加者全員に提供された「しまめし弁当」。これが豪華な内容で、お弁当なのに刺身が入っているというもの。しかもアワビが丸ごと1個入っておりお弁当だけでも相当のコストがかかっているのでは……などと下世話な心配をしてしまうほど。
島の魅力を詰め込んだ昼食をいただきながら、船に揺られていると興居島に到着する。興居島は中島に比べるとかなり四国に近い島であり、高台に登れば松山市街が見えるほど。伊予の小富士と呼ばれる山が島の南部にあり、美しいシルエットを見せてくれる。興居島は3コースにわかれてサイクリングするが、もっとも距離が長い16kmのチャレンジコースを紹介しよう。
興居島の泊港に到着し、島の南部へと走り出していくとすぐに登りが始まる。かなりの斜度で押して登る人もちらほらいるほどの坂なのだが、登りきった先には松山市内を一望できる恋人峠があり、記念写真を撮るにはぴったりのポイント。一度坂でばらばらになった集団が集合して写真撮影をした後は、北の馬磯海岸を目指して走っていく。
馬磯海岸では、中島と同様にみかんが食べ放題のエイドステーションが設けられている。中島のみかんとはまた異なる品種とのことで、甘さ控えめでずっと食べ続けられそうな味だった。ちなみに、もっとも短いファミリーコースでは、栽培が非常に難しく世界的にも希少な「カラマンダリン」の収穫体験もできるとのこと。みかんをたっぷりと堪能したあとは、海岸沿いを南下していき、フェリーが待っている泊港まで戻っていく。
フェリーでは、島の伊予柑を使ったマドレーヌが人数分用意されており、サイクリングで疲れた参加者のみなさんに甘いケーキは喜ばれていた。帰りのフェリーの中では抽選会も行われ、和気藹々とした雰囲気の中で松山観光港に帰着。2島を周るサイクリングはお開きとなった。
世界的に見てもあまり類のない、船と自転車の組み合わせ。たくさんの島が寄り添うように点在し、それぞれの魅力を持っている瀬戸内だからこそ実現するサイクリングプランだろう。また、どちらの島のみなさんも暖かくサイクリストを迎えてくださった。サポートカー以外の車をほとんど見かけることもなく、のびのびとした島の自然と人々のあたたかさ、そしてみかんや魚介類、スイーツといったグルメも堪能でき、心身ともにおなか一杯になるのが瀬戸内のしまの魅力だろう。
text:Naoki.YASUOKA
photo:So.Isobe,Naoki.YASUOKA
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