2014/03/11(火) - 09:10
ワルミ大橋からの絶景に油断して自ら発した失言に”口は災いのもと”と云う諺の意味を心底思い知る事となった前回。此処から次に私たちが目指すのは今大会のハイライトになっている古宇利大橋だ。もちろん無駄口は叩かないと云う固い決意を秘めている事は言うまでも無い。
ワルミ大橋から古宇利島まではわずか1.5km。サトウキビ畑を抜けると、眩しいエメラルドに輝く美しい海と古宇利大橋が私たちの目に飛び込んでくる。やはりこのポイントこそが”古宇利島・桜100kmコース”のハイライトポイントである事は間違いないだろう。この海の色はやはりタダモノではない。
サトウキビ畑を抜けると、ターコイズブルーの海と古宇利大橋が視界に飛び込んでくる。今大会のハイライトポイントだ
抜けるような青空と紺碧の海の間を颯爽と駆け抜ける。
中程のスペースに立ち止まり、思い思いに景観を楽しむ。
古宇利大橋の中程のスペースでは、バイクを停めた参加者さん達が思い思いに海の色を楽しんでいる。そんな参加者さんの様子をカメラに収めるべく動き回る編集長に女性グループから黄色い声が掛かる。「すみませ~ん、写真撮って貰っていいですか~?」そういって手渡されたスマートフォンを受け取り、満面の笑みを浮かべながらシャッターを切る編集長。この一連の流れはここ沖縄ではすっかり見慣れた景色になっている。
昨年は古宇利大橋を渡るとすぐに折り返しだったのだが、今年のコースは古宇利島をぐるり1周する新ルートが採用されている。実はこの古宇利島1周が結構な登坂を伴うそこそこ難儀なルートとなっているのだ。この事実は100kmコースを舐め切っていたメタボ会長にも想定外だった様子だ。早速現れた8%ほどの登坂で一気に走行ペースが落ちる。ただ、いくらオヤジの登坂能力が低いとは言え、この程度の斜度を10km/h未満でしか登れないのはおかしい。普段の彼なら雑談しながらでも15km/分近辺は維持できる程度の難易度なのだが…。
このポイントでの記念撮影は絶対に外せません。海の色がありえない碧さです。
今年の古宇利大橋は絶好の天候に恵まれました。
早くも古宇利島一周を終え、折り返してくるグループもいます。
「ハイ、チーズ!」毎年嬉しそうにパシられるウチの編集長。
オヤジはいつもイベント当日には必ず決戦用の超軽量チューブラーホイールをチョイスして大会に臨むのだが、今回は普段履きのクリンチャーホイールに乗り心地と耐パンク性能重視でパナレーサーRACE-Dの25Cを選択している。確かに超軽量とまでは呼べない代物だが、私たち庶民にとっては軽量セットに属する部類の高価な足廻りなのは間違いないし、この重量差がペースダウンの原因とは到底思えない。ましてや此処までの区間を疲労を覚えるほどのペースで走ってきた訳でもなく、そもそもメタボ会長の表情が苦しそうに見える訳でもない。
「会長、久し振りだから調子が出ませんか?」さすがに心配になった私が様子覗いに声をかけると、怪訝な表情を浮かべたオヤジから全くトンチンカンな返答が返ってきた。「いやぁ…、実は医者と揉めててな…。」
ん?お医者さんと揉める?普通の生活を送る我が身では想像し難い意味不明なシチュエーションである。それにも増して、私の問いかけに対し日本語の文章として成立していないほど的外れな返答にしか聞こえない。”こりゃいよいよ耳までおかしくなったか?”と呆れる私をよそにオヤジは言葉を続ける。
古宇利島に入ると結構なアップダウンが続きます。この辺りは10%登坂です。
まだまだ続く古宇利島の登坂。想定外の走り応えです。
古宇利島の最高標高ポイントにやってきました。
BMCを愛車に駆る彼女。BMCのザックさんに逢えて感激。
「実はウチの産業医も自転車が大好きでな…。ほら定期健診の時のアイツだよ。君も覚えてるだろ?」 いやいや、アイツだよと言われても、年1回しかお会いしないお医者さんの顔を覚えているほど私もヒマではない。それにお医者さんをアイツ呼ばわりする時点でアナタの人間性の方に問題がある事は間違いない。
「で、アイツと意気投合して話してる時にサイクリング中の心拍データを自慢して見せたら、とんでもない展開になっちゃってさ。ほら、君たちと時々スプリントごっこするじゃない?どうやらその時の心拍数が190回/分を超えてたらしくてさ。”タバコか自転車のどちらかを止めてもらわないと責任持てません!”てヤツが真顔で脅かしてくる訳さ。全く参っちゃったよ…。」 本人はえらく困り顔であるが、私には単にタバコを止めれば済む簡単な話にしか聞こえないのだが…。
「結局、さんざん議論を繰り返したした結果、最大心拍数を150回/分に押さえる約束で自転車を許可して貰えたってわけさ!全くとんでもないヤブ医者だよ。酷い話だろ?」 あらあら、随分とご立腹の様子ではあるが、その内容に関しては決して”酷い話”とは考えられない。そう、ここまで理論破綻した話を誰も理解できる訳が無い。
「そもそも君たちが不意打ちスプリントを仕掛けてくるからこんな面倒な事になったんだぞ!」
最後はきっちりと”いいがかり”で締めくくるメタボ会長お得意のパターンまで炸裂する有様だ。結局はっきりしたのは”どうやら彼にはタバコを止めるという選択肢は存在しない”という事だけだ。更に付け加えるなら、過去に一度たりとも私達からスプリントを仕掛けたという事実は無い。
「スゲー、魚がいっぱい見えるぞ!」いやいや、魚より海の色に驚こうよ。
古宇利大橋からの登り返し。これがなかなかキツイんです。
古宇利大橋の全容です。この周囲では場所を変えながら私たち編集部はひたすら撮影を続けます。
撮影ポイントにじっくりと腰を据え撮影を続ける編集長。
私たちの撮影の間、時間を持て余し黄昏れる男がひとり。
オヤジの不毛な愚痴に付き合いながら、美しい古宇利島を後にし、昼食ポイントである”OKINAWAフルーツランド”を目指す。本部循環道路を離れてすぐの呉我山交差点手前あたりから約5kmで標高差110m程の登坂が始まる。ここが100kmコース最大の難所と言えるかもしれない。この区間でコースの最高標高135m地点を通過する。
この登坂でも心拍計を注視しながらの固定出力走法にスイッチしたメタボ会長に合わせて、のんびりと登坂をこなす。初めの頃こそ多少の欲求不満を感じるだけだったこの”のんびりペース”も、慣れてくると案外心地良く感じてくるから不思議だ。普段の登坂ペースだと5m先の路面だけを睨みつけながら、息も絶え絶えにひたすら漕ぎ続けるだけで終わる登坂が、このペースで走ると、大した負荷も掛からず息も上がらない為、普段は見えない景色を楽しむ余裕すらも生まれる。これは私にとって新鮮なプチ発見だった。
昼食ポイントの”OKINAWAフルーツランド”では、ビュッフェスタイルの地元料理が提供される。様々な食材をたらふく堪能した私の幸福指数はほぼマックスを差している。ここまでの走行距離はすでに80km。この先はゴール地点の”恩納村コミュニティセンター”まで、ほぼフラットな美しい海岸線を戻るだけである。おまけに追い風が後押ししてくれる最高のコンディションだ。
呉我山交差点手前あたりから始まる登坂は今コース最大の難所だ。
ここでも出力固定走法にスイッチ。談笑しながら登坂をこなす。
今年も”日本一早い桜”に逢う事ができました。
昼食はビュフェスタイル。沖縄料理を食べ放題だ。
「今日のサイクリングはいかがでしたか?レポートの参考にしたいので会長の採点を聞かせて貰えますか?」
ゴール前の海岸線を楽しみながらメタボ会長に尋ねてみると、拍子抜けするくらい普通に応えてくれた。
「抜群に素晴らしい大会だね。特に今日走った”古宇利島・桜100kmコース”にこそ、美ら島センチュリーランの真髄が凝縮されてると思うよ。この100kmコースは”160kmセンチュリーコース”のおまけ的な発想で設定されていないだろ?それどころか160kmコース以上に力が注がれていそうなくらい丁寧な検討が伝わってくる設定だよ。これは大会運営関係者に敬意を払いたいね。」 予想外のまともな意見に戸惑う私をよそに言葉は続く。
「健脚自慢ばかりに視線が寄りがちなイベントが多い中で、初級者にベストな100kmコースを此処まで充実させてる”美ら島センチュリー”の意義はとても大きい。私のように五十路を超えたセミリタイヤ層や女性ライダー達の多くはトレーニングではなくサイクリングを楽しみたいんだよ。勿論、自分への挑戦や達成感を否定する気は欠片も無いけど、”健脚自慢の上級者”と”坂が苦手な初心者”のどちらに向かって”自転車って楽しいんですよ!”って事を伝えるべきかを、少なくとも君たち編集部は間違えないでいて欲しいな。」
「高齢化に苦しむ日本と同じなんだよ。将来の日本を支えてくれるのが生まれ来る子供達であるように、自転車業界の更なる発展を支えてくれるのは生まれくる初心者なんだよ。赤ん坊を育てるように初心者を大切に育ててあげられなければ、自転車業界も衰退するしか無くなるんだよ。健脚自慢の連中は放っといても勝手に楽しむ術を知ってるんだから…。おっとこれは流石に言い過ぎだったかもしれんな。ガハガハ。」
食べ放題の後だけに電池は満タンだ。ゴールを目指して爆走を繰り出す。
美しい海岸線を追い風に乗って南下して行く。最後まで沖縄は気持ちイイ!
もうゴールはすぐそこ!自然と笑顔がこぼれます。
「カメラはあそこだよ!」楽しかった時間が終わりを迎える。
照れ隠しからか、いつもの様におどけて見せるメタボ会長であったが今の私には何も言い返す言葉は無かった。四半世紀に渡り組織の長を務めてきた男が発した”包括的な見識”に叩きのめされたと云うのが正直な感想である。いつもの締りの無い笑顔の奥にそんな理論的な認識が隠されていたなどとは想像もしていなかった。どうやら私は自分でも気付かないうちにウチの男前な会長の事を見くびっていたのかもしれない。
まだ心の整理が付かない私をよそに、いつも通りの締りの無い笑顔に戻ったメタボ会長が”古宇利島・桜100kmコース”のゴールを迎える。その後を追うように続々とゴールに帰ってくる参加者さんの表情は、その各々がどれも抜群の輝きと満足感に満ちている。やっぱり、自転車イベントってイイもんである。
コチラは親子三代で完走したファミリー。
新人山本も無事に変顔で帰ってきました。
私達のゴールから1時間半後、まだまだ途切れることがない溢れる笑顔の影に紛れるように新人山本もゴールを迎える。その憔悴を隠せない表情を見ると彼が初めて担当した160km実走取材が”単なる拷問”だった事は間違い無さそうだ。彼のゴールを見届けてレンタカーの所に戻ると、メタボ会長が再び話し掛けてくる。
「この大会の女性参加者が桁外れに多い理由って君には判るかい?それは単に沖縄だからだけじゃないんだよ。この”古宇利島・桜100kmコース”が、おまけで設定された手抜きコースじゃないって事を彼女たちは見抜いているんだよ。ほら!彼女たちの笑顔を見てみなよ!君たち編集部は、あの笑顔こそが”自転車業界の宝物”だって事を忘れちゃいかんぞ!じゃ、先にホテル戻ってシャワーでも浴びてるから後はヨロシク!」
そう言い残しながら遠ざかって行くメタボ会長の不思議な背中を私はただ見送る事しかできなかった。
こうして、軽いカルチャーショックと共に私の沖縄取材も幕を降ろした。今回の遠征では何か大切な事が判ったような気がする。少なくとも明日からの私は今まで以上に目的意識を持って仕事に取り組む事ができそうである。
今回、編集部チームが実走取材にお伺いした"美ら島オキナワ センチュリーラン 2014"を支えて下さった大会関係者並びにサポートスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。 編集部一同。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 4年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。
ワルミ大橋から古宇利島まではわずか1.5km。サトウキビ畑を抜けると、眩しいエメラルドに輝く美しい海と古宇利大橋が私たちの目に飛び込んでくる。やはりこのポイントこそが”古宇利島・桜100kmコース”のハイライトポイントである事は間違いないだろう。この海の色はやはりタダモノではない。
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古宇利大橋の中程のスペースでは、バイクを停めた参加者さん達が思い思いに海の色を楽しんでいる。そんな参加者さんの様子をカメラに収めるべく動き回る編集長に女性グループから黄色い声が掛かる。「すみませ~ん、写真撮って貰っていいですか~?」そういって手渡されたスマートフォンを受け取り、満面の笑みを浮かべながらシャッターを切る編集長。この一連の流れはここ沖縄ではすっかり見慣れた景色になっている。
昨年は古宇利大橋を渡るとすぐに折り返しだったのだが、今年のコースは古宇利島をぐるり1周する新ルートが採用されている。実はこの古宇利島1周が結構な登坂を伴うそこそこ難儀なルートとなっているのだ。この事実は100kmコースを舐め切っていたメタボ会長にも想定外だった様子だ。早速現れた8%ほどの登坂で一気に走行ペースが落ちる。ただ、いくらオヤジの登坂能力が低いとは言え、この程度の斜度を10km/h未満でしか登れないのはおかしい。普段の彼なら雑談しながらでも15km/分近辺は維持できる程度の難易度なのだが…。
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オヤジはいつもイベント当日には必ず決戦用の超軽量チューブラーホイールをチョイスして大会に臨むのだが、今回は普段履きのクリンチャーホイールに乗り心地と耐パンク性能重視でパナレーサーRACE-Dの25Cを選択している。確かに超軽量とまでは呼べない代物だが、私たち庶民にとっては軽量セットに属する部類の高価な足廻りなのは間違いないし、この重量差がペースダウンの原因とは到底思えない。ましてや此処までの区間を疲労を覚えるほどのペースで走ってきた訳でもなく、そもそもメタボ会長の表情が苦しそうに見える訳でもない。
「会長、久し振りだから調子が出ませんか?」さすがに心配になった私が様子覗いに声をかけると、怪訝な表情を浮かべたオヤジから全くトンチンカンな返答が返ってきた。「いやぁ…、実は医者と揉めててな…。」
ん?お医者さんと揉める?普通の生活を送る我が身では想像し難い意味不明なシチュエーションである。それにも増して、私の問いかけに対し日本語の文章として成立していないほど的外れな返答にしか聞こえない。”こりゃいよいよ耳までおかしくなったか?”と呆れる私をよそにオヤジは言葉を続ける。
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「で、アイツと意気投合して話してる時にサイクリング中の心拍データを自慢して見せたら、とんでもない展開になっちゃってさ。ほら、君たちと時々スプリントごっこするじゃない?どうやらその時の心拍数が190回/分を超えてたらしくてさ。”タバコか自転車のどちらかを止めてもらわないと責任持てません!”てヤツが真顔で脅かしてくる訳さ。全く参っちゃったよ…。」 本人はえらく困り顔であるが、私には単にタバコを止めれば済む簡単な話にしか聞こえないのだが…。
「結局、さんざん議論を繰り返したした結果、最大心拍数を150回/分に押さえる約束で自転車を許可して貰えたってわけさ!全くとんでもないヤブ医者だよ。酷い話だろ?」 あらあら、随分とご立腹の様子ではあるが、その内容に関しては決して”酷い話”とは考えられない。そう、ここまで理論破綻した話を誰も理解できる訳が無い。
「そもそも君たちが不意打ちスプリントを仕掛けてくるからこんな面倒な事になったんだぞ!」
最後はきっちりと”いいがかり”で締めくくるメタボ会長お得意のパターンまで炸裂する有様だ。結局はっきりしたのは”どうやら彼にはタバコを止めるという選択肢は存在しない”という事だけだ。更に付け加えるなら、過去に一度たりとも私達からスプリントを仕掛けたという事実は無い。
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オヤジの不毛な愚痴に付き合いながら、美しい古宇利島を後にし、昼食ポイントである”OKINAWAフルーツランド”を目指す。本部循環道路を離れてすぐの呉我山交差点手前あたりから約5kmで標高差110m程の登坂が始まる。ここが100kmコース最大の難所と言えるかもしれない。この区間でコースの最高標高135m地点を通過する。
この登坂でも心拍計を注視しながらの固定出力走法にスイッチしたメタボ会長に合わせて、のんびりと登坂をこなす。初めの頃こそ多少の欲求不満を感じるだけだったこの”のんびりペース”も、慣れてくると案外心地良く感じてくるから不思議だ。普段の登坂ペースだと5m先の路面だけを睨みつけながら、息も絶え絶えにひたすら漕ぎ続けるだけで終わる登坂が、このペースで走ると、大した負荷も掛からず息も上がらない為、普段は見えない景色を楽しむ余裕すらも生まれる。これは私にとって新鮮なプチ発見だった。
昼食ポイントの”OKINAWAフルーツランド”では、ビュッフェスタイルの地元料理が提供される。様々な食材をたらふく堪能した私の幸福指数はほぼマックスを差している。ここまでの走行距離はすでに80km。この先はゴール地点の”恩納村コミュニティセンター”まで、ほぼフラットな美しい海岸線を戻るだけである。おまけに追い風が後押ししてくれる最高のコンディションだ。
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「抜群に素晴らしい大会だね。特に今日走った”古宇利島・桜100kmコース”にこそ、美ら島センチュリーランの真髄が凝縮されてると思うよ。この100kmコースは”160kmセンチュリーコース”のおまけ的な発想で設定されていないだろ?それどころか160kmコース以上に力が注がれていそうなくらい丁寧な検討が伝わってくる設定だよ。これは大会運営関係者に敬意を払いたいね。」 予想外のまともな意見に戸惑う私をよそに言葉は続く。
「健脚自慢ばかりに視線が寄りがちなイベントが多い中で、初級者にベストな100kmコースを此処まで充実させてる”美ら島センチュリー”の意義はとても大きい。私のように五十路を超えたセミリタイヤ層や女性ライダー達の多くはトレーニングではなくサイクリングを楽しみたいんだよ。勿論、自分への挑戦や達成感を否定する気は欠片も無いけど、”健脚自慢の上級者”と”坂が苦手な初心者”のどちらに向かって”自転車って楽しいんですよ!”って事を伝えるべきかを、少なくとも君たち編集部は間違えないでいて欲しいな。」
「高齢化に苦しむ日本と同じなんだよ。将来の日本を支えてくれるのが生まれ来る子供達であるように、自転車業界の更なる発展を支えてくれるのは生まれくる初心者なんだよ。赤ん坊を育てるように初心者を大切に育ててあげられなければ、自転車業界も衰退するしか無くなるんだよ。健脚自慢の連中は放っといても勝手に楽しむ術を知ってるんだから…。おっとこれは流石に言い過ぎだったかもしれんな。ガハガハ。」
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照れ隠しからか、いつもの様におどけて見せるメタボ会長であったが今の私には何も言い返す言葉は無かった。四半世紀に渡り組織の長を務めてきた男が発した”包括的な見識”に叩きのめされたと云うのが正直な感想である。いつもの締りの無い笑顔の奥にそんな理論的な認識が隠されていたなどとは想像もしていなかった。どうやら私は自分でも気付かないうちにウチの男前な会長の事を見くびっていたのかもしれない。
まだ心の整理が付かない私をよそに、いつも通りの締りの無い笑顔に戻ったメタボ会長が”古宇利島・桜100kmコース”のゴールを迎える。その後を追うように続々とゴールに帰ってくる参加者さんの表情は、その各々がどれも抜群の輝きと満足感に満ちている。やっぱり、自転車イベントってイイもんである。
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私達のゴールから1時間半後、まだまだ途切れることがない溢れる笑顔の影に紛れるように新人山本もゴールを迎える。その憔悴を隠せない表情を見ると彼が初めて担当した160km実走取材が”単なる拷問”だった事は間違い無さそうだ。彼のゴールを見届けてレンタカーの所に戻ると、メタボ会長が再び話し掛けてくる。
「この大会の女性参加者が桁外れに多い理由って君には判るかい?それは単に沖縄だからだけじゃないんだよ。この”古宇利島・桜100kmコース”が、おまけで設定された手抜きコースじゃないって事を彼女たちは見抜いているんだよ。ほら!彼女たちの笑顔を見てみなよ!君たち編集部は、あの笑顔こそが”自転車業界の宝物”だって事を忘れちゃいかんぞ!じゃ、先にホテル戻ってシャワーでも浴びてるから後はヨロシク!」
そう言い残しながら遠ざかって行くメタボ会長の不思議な背中を私はただ見送る事しかできなかった。
こうして、軽いカルチャーショックと共に私の沖縄取材も幕を降ろした。今回の遠征では何か大切な事が判ったような気がする。少なくとも明日からの私は今まで以上に目的意識を持って仕事に取り組む事ができそうである。
今回、編集部チームが実走取材にお伺いした"美ら島オキナワ センチュリーラン 2014"を支えて下さった大会関係者並びにサポートスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。 編集部一同。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
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身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 4年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。
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