2012/07/13(金) - 12:36
短くも厳しい難関山岳ステージで2011年ラルプデュエーズステージの勝利を再現してみせたピエール・ロラン。そしてエヴァンスの早すぎたアタックと、フルームの意図の不明なアタックが波紋を呼んだ。
※通信事情により記事掲載が遅れました。お詫びいたします。
1992年冬季オリンピックが開催されたアルベールヴィルのスタート地点。聖火を模したモニュメントの脇がスタート地点だ。マイヨジョーヌを着るウィギンズの乗るピナレロは日に日に黄色の差し色が増えていく。世界チャンピオンの証アルカンシェルを着るカヴェンディッシュとともに並び、カメラマンにサービスしてくれる余裕。
しかしレースはスタートから厳しくなることは判りきっている。行く手に待つのは超級山岳マドレーヌ峠、超級山岳クロワ・ド・フェール峠、2級山岳モラール峠、1級山岳ラ・トゥッスイール。距離20kmの長い上りが連続し、獲得標高差は5000mに達する登りと下りしかないコース。しかも148kmの短い距離が、さらにレースの密度を濃くする。こういったステージほどタイム差が開く。
ユキヤは昨日の走りの影響が心配される。休息日に語ってくれた「このステージは血の味がするのが目に見えている」という言葉通り、走りだしてすぐにレースが火を吹くことが分かっているから緊張気味だ。
カンチェラーラが第二子の誕生に備えてツールを去ることに。「レーサーである前に夫で、これから生まれてくる子供の父だ。妻のもとにいたいというのが個人的な希望。このトロフィーはツールのステージ優勝やオリンピックのメダルより大切」とチームサイトを通じて離脱を発表した。
マイヨ・アポアを着たトマ・ヴォクレールは最後になって現れた。相変わらず気むずかしい顔をしてホイールのクイックレバーをスタート直前までいじっている。
ラ・トゥッスイールの黒歴史
ゴールになっているラ・トゥッスイールは、2006年ツールにも登場。そのステージではミカエル・ラスムッセン(ラボバンク)が勝利。マイヨジョーヌを着るフロイド・ランディス(フォナック)が最後の上りで大クラック。大きく遅れてすべてを失った場所だ。
しかしその翌日、ランディスは不死鳥のような復活を遂げ、山岳の連続するステージで脅威の一人逃げを披露し、タイム差を一気に挽回。結果的には総合優勝につなげた。しかし結果は、言うまでもなく総合優勝翌日に前代未聞のドーピングによる失格。そのことは今年の公式ガイドブックのコースガイドには一言も触れられていない。ツールが忘れたい黒歴史のひとつだ。
当時フォナックの監督をつとめたジョンルランゲ氏、そしてパトロンのアンディ・リース氏は、そのときの苦い思いをもってBMCレーシング興した。彼らにとって、ラ・トゥッスイールは忘れがたい地だろう。6年越しの今日はエヴァンスをもってスカイに一矢報いたいステージのはずだった。
ラルプデュエズでの勝利をコピーしたロラン
逃げグループからラスト10kmでアタックを成功させ、ラ・トゥッスイールを単独で駆け上がったピール・ロラン(ユーロップカー)。モラール峠の下りでの落車にはひやりとさせられたが、その影響なく逃げ切った。ユーロップカーのステージ2連勝。自分の脚にあったこの日に照準を合わせ、狙いすましてのステージ優勝だ。
ロランは言う。「コースプレゼンテーションがあった6ヶ月前から、このステージに狙いをつけていたんだ。そのために全てを犠牲にしてトレーニングに励んできた。あらゆるシナリオを想定して、自分の限界まで追い詰めた。本気でこのステージで勝ちたいと思っていた」。
ツール前にはチームへのいわれのないドーピング疑惑で雑音が立った。ベルギーではチームに対して冷たい言葉が投げかけられた。そして落車でタイムを失い、「家に帰りたいと思った」と言う。しかしフランスに帰ってきて、騒ぎはなくなり、ふたたびこのステージへのモチベーションを持って走り続けてきた。
距離が最短クラスの148kmでありながら、獲得標高差が5000mに達するこの日のステージプロフィールは、昨年ロランが制したツール第19ステージと似たものだった。特別な栄誉あるラルプデュエズ頂上ゴールを制した昨年の勝利と比べても、この勝利は格別だとロランは言う。
「ステージはとても似ていた。昨年勝ったステージには3つの山岳、テレグラフ、ガリビエ、ラルプデュエズがあった。そして距離が短い。合計60kmの上りがあった。今年はもう少し、70kmの上りがあった。ステージはとても似ていた。でもこの勝利はそれとは違っている。この勝利をとても誇りに思う。なぜなら昨年の勝利は(サムエル)サンチェスとコンタドールが駆け引きをしている間に僕が不意打ちをかけ、転がり込んだ勝利だった。もちろんその勝利のこともとても誇りに思っている。でもこの勝利は僕の中でもっとも美しい勝利だ」。
チームユーロップカーの2連勝。「ヴォクレールの勝利が今日のステージのモチベーションになったか」と聞かれて答える。
「トマとはもう4年一緒に走っている。いつも彼の勝利をみてきたし、昨年は彼の10日間のマイヨジョーヌを助けて走った。彼が勝つことには僕は慣れているんだ。でも昨日はレース後、トマには少ししか会えなかったんだ。彼は夜10時半にホテルに帰ってきて、ディナーをとる前に少しだけ会えた。そして朝食の時に30分言葉を交わしただけ。お祝いの時間はあまりなかったんだ。
昨日バスでホテルに帰るときにはチームで話し合った。そして『今度はお前の番だよ』と皆に言われたんだ。僕は前からこのステージを勝ちたいと言っていた。そのための調子もあった」。
失うものはないにもない
ロランは言う。「チームはすでに昨日ステージ一勝した。だからもうプレッシャーはなかった。だから少しリスクを犯して攻めることができる。失うものはないから。だって総合はもう遅れている。今朝僕は20位だった。15も20も、25も同じ。8も9も同じだ。インパクトはない。だからステージ優勝にかける方が重要だ。シャンゼリゼでポディウムに上がるための闘いをするよりも、ステージ勝利を狙っていく」。
ロランは総合を9位に上げたが、トップのウィギンズとは依然として8分31秒の差がある。総合成績を上げるためにタイムを稼ぐレースよりも、ステージ優勝を狙って攻撃的に走る。チームの敢闘賞の盾は3枚に増えた。そしてケシアコフに奪われたマイヨ・アポアには手が届く距離だ。
エヴァンスの早すぎたアタック
ヴァンガーデレンのアシストを受け、クロワ・ド・フェール峠で攻撃に出たエヴァンスだったが、いざアタックしてみると当のエヴァンスの調子が上がらず、ヴァンガーデレンについていけなくなった。そしてチームスカイの統治するマイヨジョーヌグループにあえなく吸収。それどころかラ・トゥッスイールではグループから脱落し、ウィギンズに対し1分26秒の遅れを喫してしまう。
ゴールまで長すぎる距離を残して、ヴァンガーデレンと先行するモンフォールを使った一発逆転を狙った計画的なアタックは、不発に終わるだけでなく余計な脚を使ったことで予想外の遅れにつながった。総合でついたウィギンズに対する3分19秒差でマイヨジョーヌがさらに遠のいてしまった。そればかりか好調のニーバリの存在があると表彰台も危うくなる。エヴァンスのツールはここでお終い?
このエヴァンスのアタックと遅れはウィギンズにとっても予想もしないものだった。ウィギンズは言う。「クロワ・ド・フェールでカデルがアタックしたのには本当に驚いた。ゴールまではとてつもなく長い距離があったからだ。僕たちは数名の有力選手——リッチー(ポルト)とミック(ロジャース)と一緒に速いペースで走っていた。ここでアタックしたら強力なペースを維持しないかぎり、残り2つの峠を乗り切れないと思った……驚いた。僕には、そんな勇気はまったくない。今日カデルからタイムを奪えるとは思ってもみなかった。朝のプランでもそういうことはまったく予想していなかったことだ」。
6年の時を経て、またしてもラ・トゥッスイールでリーダーが遅れるという憂き目を経験することになったルランゲ監督。作戦は失敗だった?
「限界だった。特に最後の峠では。決め弾は早い段階で撃った。グランドンとクロワ・ド・フェールでは良かったんだ。でもカデルはその後限界に達してしまった。我々は攻撃的に走ろうとした。フルームが遅れかけたことをみてもプレッシャーは有効だった。後は見ての通りだ。ついた3分差は本当に厄介だ。しかしレースはまだ1週間以上ある。ピレネーでも挽回するチャンスはある。攻撃的に行くことに変わりはない」。
止められたフルームの「謀反アタック」
ゴールまで4kmの、フルームのマイヨジョーヌ集団からのアタックはチームスカイのショーン・イェーツ監督の指示によって止められた。
それは昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで起こった、チームメイトによる逆転という出来事を繰り返さないようにアタックをやめさせたように見えた。
チームスカイの朝のミーティングでは、フルームに最後の局面でアタックさせることはチームの作戦のうちに入っていたことだったという。TTで勝てる確信が持てないエヴァンスに対して上りゴールでタイムを稼いでおく必要があったからだ。しかしエヴァンスはすでに遅れていた。無線で止められたフルームのアタック。ゴールでウィギンズに対してついた差は2秒。
フルームは第1ステージのゴール前でパンクし、集団に追いつけなかったことで1分30秒の遅れを喫している。それがなければ今の2分5秒差は35秒差にまで縮まる。アングリルと同様、ウィギンズを逆転しかねない差だ。その気になればフルームはツールに勝つことができる。
再びの下克上を期待するメディアが、ゴール後のチームスカイのバスを囲んだ。
ユキヤはタイムアウト1分前にゴール
この日はスプリンターたちにとっても厳しい戦いだった。短くて山岳の厳しいステージで遅れた選手には大きなタイム差が襲いかかる。グルペットを形成した選手たちは計算しながらもゴールへと急いだ。カヴェンディッシュは恋女房アイゼルに引かれて、勾配の緩くなるゴール残り3kmで猛然とスパート。そのグルペットからわずかに遅れたユキヤも険しい表情を浮かべながらゴールへ急いでいた。
ユキヤがゴールしたのはタイムアウトの1分前。あと1分遅れていたら、明日の出走は認められなかった。
photo&text:Makoto.AYANO
※通信事情により記事掲載が遅れました。お詫びいたします。
1992年冬季オリンピックが開催されたアルベールヴィルのスタート地点。聖火を模したモニュメントの脇がスタート地点だ。マイヨジョーヌを着るウィギンズの乗るピナレロは日に日に黄色の差し色が増えていく。世界チャンピオンの証アルカンシェルを着るカヴェンディッシュとともに並び、カメラマンにサービスしてくれる余裕。
しかしレースはスタートから厳しくなることは判りきっている。行く手に待つのは超級山岳マドレーヌ峠、超級山岳クロワ・ド・フェール峠、2級山岳モラール峠、1級山岳ラ・トゥッスイール。距離20kmの長い上りが連続し、獲得標高差は5000mに達する登りと下りしかないコース。しかも148kmの短い距離が、さらにレースの密度を濃くする。こういったステージほどタイム差が開く。
ユキヤは昨日の走りの影響が心配される。休息日に語ってくれた「このステージは血の味がするのが目に見えている」という言葉通り、走りだしてすぐにレースが火を吹くことが分かっているから緊張気味だ。
カンチェラーラが第二子の誕生に備えてツールを去ることに。「レーサーである前に夫で、これから生まれてくる子供の父だ。妻のもとにいたいというのが個人的な希望。このトロフィーはツールのステージ優勝やオリンピックのメダルより大切」とチームサイトを通じて離脱を発表した。
マイヨ・アポアを着たトマ・ヴォクレールは最後になって現れた。相変わらず気むずかしい顔をしてホイールのクイックレバーをスタート直前までいじっている。
ラ・トゥッスイールの黒歴史
ゴールになっているラ・トゥッスイールは、2006年ツールにも登場。そのステージではミカエル・ラスムッセン(ラボバンク)が勝利。マイヨジョーヌを着るフロイド・ランディス(フォナック)が最後の上りで大クラック。大きく遅れてすべてを失った場所だ。
しかしその翌日、ランディスは不死鳥のような復活を遂げ、山岳の連続するステージで脅威の一人逃げを披露し、タイム差を一気に挽回。結果的には総合優勝につなげた。しかし結果は、言うまでもなく総合優勝翌日に前代未聞のドーピングによる失格。そのことは今年の公式ガイドブックのコースガイドには一言も触れられていない。ツールが忘れたい黒歴史のひとつだ。
当時フォナックの監督をつとめたジョンルランゲ氏、そしてパトロンのアンディ・リース氏は、そのときの苦い思いをもってBMCレーシング興した。彼らにとって、ラ・トゥッスイールは忘れがたい地だろう。6年越しの今日はエヴァンスをもってスカイに一矢報いたいステージのはずだった。
ラルプデュエズでの勝利をコピーしたロラン
逃げグループからラスト10kmでアタックを成功させ、ラ・トゥッスイールを単独で駆け上がったピール・ロラン(ユーロップカー)。モラール峠の下りでの落車にはひやりとさせられたが、その影響なく逃げ切った。ユーロップカーのステージ2連勝。自分の脚にあったこの日に照準を合わせ、狙いすましてのステージ優勝だ。
ロランは言う。「コースプレゼンテーションがあった6ヶ月前から、このステージに狙いをつけていたんだ。そのために全てを犠牲にしてトレーニングに励んできた。あらゆるシナリオを想定して、自分の限界まで追い詰めた。本気でこのステージで勝ちたいと思っていた」。
ツール前にはチームへのいわれのないドーピング疑惑で雑音が立った。ベルギーではチームに対して冷たい言葉が投げかけられた。そして落車でタイムを失い、「家に帰りたいと思った」と言う。しかしフランスに帰ってきて、騒ぎはなくなり、ふたたびこのステージへのモチベーションを持って走り続けてきた。
距離が最短クラスの148kmでありながら、獲得標高差が5000mに達するこの日のステージプロフィールは、昨年ロランが制したツール第19ステージと似たものだった。特別な栄誉あるラルプデュエズ頂上ゴールを制した昨年の勝利と比べても、この勝利は格別だとロランは言う。
「ステージはとても似ていた。昨年勝ったステージには3つの山岳、テレグラフ、ガリビエ、ラルプデュエズがあった。そして距離が短い。合計60kmの上りがあった。今年はもう少し、70kmの上りがあった。ステージはとても似ていた。でもこの勝利はそれとは違っている。この勝利をとても誇りに思う。なぜなら昨年の勝利は(サムエル)サンチェスとコンタドールが駆け引きをしている間に僕が不意打ちをかけ、転がり込んだ勝利だった。もちろんその勝利のこともとても誇りに思っている。でもこの勝利は僕の中でもっとも美しい勝利だ」。
チームユーロップカーの2連勝。「ヴォクレールの勝利が今日のステージのモチベーションになったか」と聞かれて答える。
「トマとはもう4年一緒に走っている。いつも彼の勝利をみてきたし、昨年は彼の10日間のマイヨジョーヌを助けて走った。彼が勝つことには僕は慣れているんだ。でも昨日はレース後、トマには少ししか会えなかったんだ。彼は夜10時半にホテルに帰ってきて、ディナーをとる前に少しだけ会えた。そして朝食の時に30分言葉を交わしただけ。お祝いの時間はあまりなかったんだ。
昨日バスでホテルに帰るときにはチームで話し合った。そして『今度はお前の番だよ』と皆に言われたんだ。僕は前からこのステージを勝ちたいと言っていた。そのための調子もあった」。
失うものはないにもない
ロランは言う。「チームはすでに昨日ステージ一勝した。だからもうプレッシャーはなかった。だから少しリスクを犯して攻めることができる。失うものはないから。だって総合はもう遅れている。今朝僕は20位だった。15も20も、25も同じ。8も9も同じだ。インパクトはない。だからステージ優勝にかける方が重要だ。シャンゼリゼでポディウムに上がるための闘いをするよりも、ステージ勝利を狙っていく」。
ロランは総合を9位に上げたが、トップのウィギンズとは依然として8分31秒の差がある。総合成績を上げるためにタイムを稼ぐレースよりも、ステージ優勝を狙って攻撃的に走る。チームの敢闘賞の盾は3枚に増えた。そしてケシアコフに奪われたマイヨ・アポアには手が届く距離だ。
エヴァンスの早すぎたアタック
ヴァンガーデレンのアシストを受け、クロワ・ド・フェール峠で攻撃に出たエヴァンスだったが、いざアタックしてみると当のエヴァンスの調子が上がらず、ヴァンガーデレンについていけなくなった。そしてチームスカイの統治するマイヨジョーヌグループにあえなく吸収。それどころかラ・トゥッスイールではグループから脱落し、ウィギンズに対し1分26秒の遅れを喫してしまう。
ゴールまで長すぎる距離を残して、ヴァンガーデレンと先行するモンフォールを使った一発逆転を狙った計画的なアタックは、不発に終わるだけでなく余計な脚を使ったことで予想外の遅れにつながった。総合でついたウィギンズに対する3分19秒差でマイヨジョーヌがさらに遠のいてしまった。そればかりか好調のニーバリの存在があると表彰台も危うくなる。エヴァンスのツールはここでお終い?
このエヴァンスのアタックと遅れはウィギンズにとっても予想もしないものだった。ウィギンズは言う。「クロワ・ド・フェールでカデルがアタックしたのには本当に驚いた。ゴールまではとてつもなく長い距離があったからだ。僕たちは数名の有力選手——リッチー(ポルト)とミック(ロジャース)と一緒に速いペースで走っていた。ここでアタックしたら強力なペースを維持しないかぎり、残り2つの峠を乗り切れないと思った……驚いた。僕には、そんな勇気はまったくない。今日カデルからタイムを奪えるとは思ってもみなかった。朝のプランでもそういうことはまったく予想していなかったことだ」。
6年の時を経て、またしてもラ・トゥッスイールでリーダーが遅れるという憂き目を経験することになったルランゲ監督。作戦は失敗だった?
「限界だった。特に最後の峠では。決め弾は早い段階で撃った。グランドンとクロワ・ド・フェールでは良かったんだ。でもカデルはその後限界に達してしまった。我々は攻撃的に走ろうとした。フルームが遅れかけたことをみてもプレッシャーは有効だった。後は見ての通りだ。ついた3分差は本当に厄介だ。しかしレースはまだ1週間以上ある。ピレネーでも挽回するチャンスはある。攻撃的に行くことに変わりはない」。
止められたフルームの「謀反アタック」
ゴールまで4kmの、フルームのマイヨジョーヌ集団からのアタックはチームスカイのショーン・イェーツ監督の指示によって止められた。
それは昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで起こった、チームメイトによる逆転という出来事を繰り返さないようにアタックをやめさせたように見えた。
チームスカイの朝のミーティングでは、フルームに最後の局面でアタックさせることはチームの作戦のうちに入っていたことだったという。TTで勝てる確信が持てないエヴァンスに対して上りゴールでタイムを稼いでおく必要があったからだ。しかしエヴァンスはすでに遅れていた。無線で止められたフルームのアタック。ゴールでウィギンズに対してついた差は2秒。
フルームは第1ステージのゴール前でパンクし、集団に追いつけなかったことで1分30秒の遅れを喫している。それがなければ今の2分5秒差は35秒差にまで縮まる。アングリルと同様、ウィギンズを逆転しかねない差だ。その気になればフルームはツールに勝つことができる。
再びの下克上を期待するメディアが、ゴール後のチームスカイのバスを囲んだ。
ユキヤはタイムアウト1分前にゴール
この日はスプリンターたちにとっても厳しい戦いだった。短くて山岳の厳しいステージで遅れた選手には大きなタイム差が襲いかかる。グルペットを形成した選手たちは計算しながらもゴールへと急いだ。カヴェンディッシュは恋女房アイゼルに引かれて、勾配の緩くなるゴール残り3kmで猛然とスパート。そのグルペットからわずかに遅れたユキヤも険しい表情を浮かべながらゴールへ急いでいた。
ユキヤがゴールしたのはタイムアウトの1分前。あと1分遅れていたら、明日の出走は認められなかった。
photo&text:Makoto.AYANO