2012/05/12(土) - 14:36
急勾配の登りで選手が蛇行するシーンは良く見る。でも蛇行しながらバランスを崩し、倒れる選手は初めて見た。昨日ステージ優勝を飾ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)が、カッペッラ峠で転んだ。その時点でメイン集団から13分遅れ。それでも完走しているのはさすがとしか言いようがない。
暑さとマルケの丘に苦しんだ世界チャンピオン
丘の上に、街がある。日本では考えられないような光景が、マルケ州には広がっている。
内陸の、城壁に囲まれた学生の街ウルビーノから、アドリア海沿いの街ポルト・サンテルピディオまで、210kmを走る第6ステージ。一帯には、標高500mクラスの丘陵が波打つように連なっている。「丘」と「山」の境界線がイタリア国内でも地域によって異なるのは非常に興味深い。マルケ州のそれは「丘」に分類される。
直線的な道は、アドリア海沿いのオーシャンロードか、内陸からアドリア海に向かう川沿いの道のみ。あとは登りか下り、もしくは右に曲がっているか左に曲がっているか。コースは絶えずアップダウンを繰り返す。
「終盤までゴスが残れば、ゴスで勝負する」と別府史之(オリカ・グリーンエッジ)はスタート前に話していたが、スプリンターが残れるコースとは言えない。難易度は3つ星で、合計4つのカテゴリー山岳がある。一日の獲得標高差は約3200m。「今日からジロが始まる感じ」とは、フミの言葉。
案の定、スプリンターたちは、序盤からのハイスピードな展開も影響し、このアップダウンコースに手こずった。コースを通して路面が荒れている(補修されていない)ため落車も多発。落車したタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・バラクーダ)をはじめ、トル・フースホフト(ノルウェー、BMCレーシングチーム)やロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ・DCM)がレースを去った。
「登れるスプリンター」として知られるゴスはレース中盤まで集団に残っていたが、ちょうどゴールまで半分の位置にある2級山岳カッペッラ峠で遅れた。
このカッペッラ峠は厄介な存在で、未舗装区間が3kmあり、最大勾配は16%に達する。路面は堅く締まっていて、砂埃が舞い上がるような砂利道ではない。正直な話、マルケ州の穴ぼこだらけの舗装路よりもよっぽどスムーズで走りやすい。
集団から早々に脱落していたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)は、メイン集団から実に13分遅れでこのカッペッラ峠に差し掛かった。ゴールまで100kmあまりを残して13分の遅れは致命的。しかも周囲には付き添い役のベルンハルト・アイゼル(オーストリア)しかいない。
未舗装の急勾配区間をよじ上るカヴェンディッシュ。明らかにギアが足りず、ハンドルに掴まりながらペダルを踏みつける。蛇行して蛇行して、そして、バランスを崩して倒れた。
30度まで上がった気温と、絶え間ないアップダウンと、急勾配の登り。地面に倒れたカヴェンディッシュはすぐに立ち上がり、外れたバーエンドのキャップをわざわざ拾って押し込み、サドルに跨がるが、勾配がきつくて再スタートが出来ない。付き添い役のアイゼルに暖かく見守られながら、チームスタッフと観客のプッシュによってようやく走り出した。
カヴェンディッシュの先に待つのは、ティレーノ〜アドリアティコの定番激坂モンテルポーネや、チームNIPPOの選手たちが住むモンテグラナーロ(いずれも丘の上の街)に至る激坂。アイゼルが付き添っているものの、ゴールまで距離がありすぎる。
完走は難しいと思われたが、カヴェンディッシュはテオ・ボス(オランダ、ラボバンク)やテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)らと協力してグルペットを形成し、レースに残ろうと懸命に走った。おそらく登り以外の区間ではメイン集団と同等、もしくはそれより速いペースで走っている。
ミゲルアンヘル・ルビアーノ(コロンビア、アンドローニ・ジョカトリ)から30分以上遅れて、カヴェンディッシュを含むグルペットがポルト・サンテルピディオにやってきた。チームの垣根を越えて一致団結し、チームタイムトライアル状態でかなり追い込みながらゴール。
ルールブックによると、中級山岳ステージに指定されている第6ステージのタイムリミットは10%。ステージ優勝者のタイムが5時間38分30秒だったので、実際のタイムリミットは33分51秒。カヴェンディッシュのグルペットは、何とか33分12秒遅れでゴールに滑り込んだ。
難所を乗り切ったカヴェンディッシュは、ライバルが少なくなったスプリントの舞台で再び活躍するチャンスを待つ。
ゴスにこだわったグリーンエッジ 悔しさ滲ますフミ
目立つ蛍光色のオークリーをかけたフミは、メイン集団の前方で2級山岳カッペッラ峠をクリアした。他の選手たちが苦しい表情で激坂と対峙する一方で、フミは比較的涼しい顔で登って行く。
オリカ・グリーンエッジのプライオリティーは、あくまでもゴスをゴールまで連れて行くこと。カッペッラ峠で遅れたゴスをメイン集団に復帰させるため、フミは集団から離れてゴスを待つ。
しかし、ゴスは結局レース後半の登りで遅れ、フミのアシストは水の泡となった。チームの中で唯一自分の走りを許されたダリル・インペイ(南アフリカ)は、ゴールスプリントでメイン集団の先頭を穫っている。
得意とするコースで思うように動けず、しかもチームの結果に繋がらなかったことに、フミは悔しさを隠せない。最後までゴスに付き添い、結果は21分11秒遅れのステージ136位。客観的な意見としては、現在のフミなら集団に残って勝負できた。
「調子が良く、とても登れているだけに勿体ない結果になってしまった。別のステージでこの悔しい気持ちをぶつけます」。不本意な表情を浮かべながら、ゴール後、チームバスに向かった。
text&photo:Kei Tsuji in Porto Sant'Elpidio
暑さとマルケの丘に苦しんだ世界チャンピオン
丘の上に、街がある。日本では考えられないような光景が、マルケ州には広がっている。
内陸の、城壁に囲まれた学生の街ウルビーノから、アドリア海沿いの街ポルト・サンテルピディオまで、210kmを走る第6ステージ。一帯には、標高500mクラスの丘陵が波打つように連なっている。「丘」と「山」の境界線がイタリア国内でも地域によって異なるのは非常に興味深い。マルケ州のそれは「丘」に分類される。
直線的な道は、アドリア海沿いのオーシャンロードか、内陸からアドリア海に向かう川沿いの道のみ。あとは登りか下り、もしくは右に曲がっているか左に曲がっているか。コースは絶えずアップダウンを繰り返す。
「終盤までゴスが残れば、ゴスで勝負する」と別府史之(オリカ・グリーンエッジ)はスタート前に話していたが、スプリンターが残れるコースとは言えない。難易度は3つ星で、合計4つのカテゴリー山岳がある。一日の獲得標高差は約3200m。「今日からジロが始まる感じ」とは、フミの言葉。
案の定、スプリンターたちは、序盤からのハイスピードな展開も影響し、このアップダウンコースに手こずった。コースを通して路面が荒れている(補修されていない)ため落車も多発。落車したタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・バラクーダ)をはじめ、トル・フースホフト(ノルウェー、BMCレーシングチーム)やロメン・フェイユ(フランス、ヴァカンソレイユ・DCM)がレースを去った。
「登れるスプリンター」として知られるゴスはレース中盤まで集団に残っていたが、ちょうどゴールまで半分の位置にある2級山岳カッペッラ峠で遅れた。
このカッペッラ峠は厄介な存在で、未舗装区間が3kmあり、最大勾配は16%に達する。路面は堅く締まっていて、砂埃が舞い上がるような砂利道ではない。正直な話、マルケ州の穴ぼこだらけの舗装路よりもよっぽどスムーズで走りやすい。
集団から早々に脱落していたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)は、メイン集団から実に13分遅れでこのカッペッラ峠に差し掛かった。ゴールまで100kmあまりを残して13分の遅れは致命的。しかも周囲には付き添い役のベルンハルト・アイゼル(オーストリア)しかいない。
未舗装の急勾配区間をよじ上るカヴェンディッシュ。明らかにギアが足りず、ハンドルに掴まりながらペダルを踏みつける。蛇行して蛇行して、そして、バランスを崩して倒れた。
30度まで上がった気温と、絶え間ないアップダウンと、急勾配の登り。地面に倒れたカヴェンディッシュはすぐに立ち上がり、外れたバーエンドのキャップをわざわざ拾って押し込み、サドルに跨がるが、勾配がきつくて再スタートが出来ない。付き添い役のアイゼルに暖かく見守られながら、チームスタッフと観客のプッシュによってようやく走り出した。
カヴェンディッシュの先に待つのは、ティレーノ〜アドリアティコの定番激坂モンテルポーネや、チームNIPPOの選手たちが住むモンテグラナーロ(いずれも丘の上の街)に至る激坂。アイゼルが付き添っているものの、ゴールまで距離がありすぎる。
完走は難しいと思われたが、カヴェンディッシュはテオ・ボス(オランダ、ラボバンク)やテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)らと協力してグルペットを形成し、レースに残ろうと懸命に走った。おそらく登り以外の区間ではメイン集団と同等、もしくはそれより速いペースで走っている。
ミゲルアンヘル・ルビアーノ(コロンビア、アンドローニ・ジョカトリ)から30分以上遅れて、カヴェンディッシュを含むグルペットがポルト・サンテルピディオにやってきた。チームの垣根を越えて一致団結し、チームタイムトライアル状態でかなり追い込みながらゴール。
ルールブックによると、中級山岳ステージに指定されている第6ステージのタイムリミットは10%。ステージ優勝者のタイムが5時間38分30秒だったので、実際のタイムリミットは33分51秒。カヴェンディッシュのグルペットは、何とか33分12秒遅れでゴールに滑り込んだ。
難所を乗り切ったカヴェンディッシュは、ライバルが少なくなったスプリントの舞台で再び活躍するチャンスを待つ。
ゴスにこだわったグリーンエッジ 悔しさ滲ますフミ
目立つ蛍光色のオークリーをかけたフミは、メイン集団の前方で2級山岳カッペッラ峠をクリアした。他の選手たちが苦しい表情で激坂と対峙する一方で、フミは比較的涼しい顔で登って行く。
オリカ・グリーンエッジのプライオリティーは、あくまでもゴスをゴールまで連れて行くこと。カッペッラ峠で遅れたゴスをメイン集団に復帰させるため、フミは集団から離れてゴスを待つ。
しかし、ゴスは結局レース後半の登りで遅れ、フミのアシストは水の泡となった。チームの中で唯一自分の走りを許されたダリル・インペイ(南アフリカ)は、ゴールスプリントでメイン集団の先頭を穫っている。
得意とするコースで思うように動けず、しかもチームの結果に繋がらなかったことに、フミは悔しさを隠せない。最後までゴスに付き添い、結果は21分11秒遅れのステージ136位。客観的な意見としては、現在のフミなら集団に残って勝負できた。
「調子が良く、とても登れているだけに勿体ない結果になってしまった。別のステージでこの悔しい気持ちをぶつけます」。不本意な表情を浮かべながら、ゴール後、チームバスに向かった。
text&photo:Kei Tsuji in Porto Sant'Elpidio
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