2012/05/11(金) - 15:07
黄色い奇抜な建物の前がスタート地点。高級スポーツカーの代名詞「フェラーリ」の創始者エンツォのミュージアム前に、ピンクのステージが登場した。ジリジリと太陽が射し、選手たちの額にはスタート前から汗が浮かぶ。
「エンジンの首都」を発ち、エミリア街道を行く
デンマークからイタリアに来てからというもの、クシャミが止まらない。犯人は白い綿をまき散らすピオッピ。正式名称はセイヨウハコヤナギ?いわゆるポプラの木だ。
ヨーロッパ全土に生えていて、4月〜5月にかけて綿毛のついた種子を大量にまき散らす。非常に比重が軽いため、空中に長時間漂う。種の繁栄を目指し、遠くまで種子を飛ばす壮大な作戦だが、あまりにもその量が多過ぎる。その様は吹雪のようであり、ときに海を漂う珊瑚の卵のよう。
街中の吹きだまりには、季節外れのクリスマスの飾り付けを誰かが廃棄したんじゃないかと思うほど、モワモワの綿毛が溜まっている。アレルギー症状がでる人が多く、この記事を書いているプレスセンターの中では常に誰かがクシャミをしているような状態。当然、プロトンの中にもこの綿毛に苦しめられている選手がいる。
第5ステージのスタート地点はエミリアロマーニャ州のモデナ。世界遺産に登録されるほどの歴史ある街だが、一般的には自動車メーカーの拠点として名前が知られている。
フェラーリの創始者エンツォ・フェラーリはこのモデナ出身で、本社があるのは郊外のマラネッロ。創始者の生涯にスポットを当てたフェラーリデザインのミュージアムが今年3月にオープンしたばかりで、そのミュージアムの真ん前にスタート地点が置かれた。
すぐ近くにはマセラティの本社ビル(設立はボローニャ)があり、デ・トマソやパガーニの本拠地はいずれもモデナかその近郊にある。ランボルギーニやドゥカティの本拠地は少し東にあるボローニャ近郊。
ちなみにレースの中盤には、数年前までF1GPが開催されていたイモラを通過する。広大なポー平原の南端を直線的に進むコースは、モータースポーツに所縁のある場所が目白押し。一帯が「capitale dei motori(エンジンの首都)」と呼ばれるのも頷ける。
フェラーリと言えば、マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が着用するマリアロッサ(ポイント賞ジャージ)のスポンサーである新規参入高速鉄道「イタロ」を運営するヌオーボ・トラスポルト・ヴィアッジャトーリは、フェラーリ社のルーカ・コルデーロディモンテゼーモロ会長が設立したもの。フェラーリさながらの真っ赤な車体で、いかにもイタリア人をその気にさせるデザインが特徴だ。
なお、フェラーリはフェラーリでも、第3ステージでマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)らの落車を招いてしまったロベルト・フェラーリ(イタリア、アンドローニ・ジョカトリ)は、正式に選手たちに謝罪している。それでもやはりプロトンの中で若干浮いている感があるのは否めないが。
この日は、広大なポー平原の南、アペニン山脈の北端に沿ってひたすらエミリア街道を南下する。直線的で、平坦で、等間隔で点在する街を抜け、アドリア海を目指す。
気温はぐんぐん上がり、最高気温は30度に達した(街中にある温度計なので、信頼出来る数字ではないが。それはそうと、イタリアの街中にある時計は大抵ずれているので、あてにするといろいろ支障が出ます)。
チームスカイvsグリーンエッジ 第3ラウンド
マリアローザ獲得が期待されたタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・バラクーダ)や、トル・フースホフト(ノルウェー、BMCレーシングチーム)は、レース終盤のアップダウンで遅れた。
アドリア海に突き出た岬を繋いだようなワインディングロードで、リクイガス・キャノンデールやアスタナがペースを上げる。スプリンターを脱落するためではなく、位置取りやコンディションが上がりきっていないオールラウンダーをあわよくば振るい落とそうという動き。
続いて、脱落者を集団復帰させないために、スプリンターチームがメイン集団のペースを上げる。オリカ・グリーンエッジの別府史之もペースアップに加わった選手の一人。
「力をセーブして、終盤の勝負どころに備えていた」と話すフミは、ペースが弱まった隙を突いてアタックしたジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)に反応。集団を率いる場面も見られた。
ハイスピードを維持したまま、集団はファーノの街に差し掛かる。オリカ・グリーンエッジは予定通りマシュー・ゴス(オーストラリア)を集団前方に連れ出したが、発射ロケットは上手く機能せず、チームスカイに主導権を奪われた。特にチームスカイのゲラント・トーマス(イギリス)のスピードが際立ち、好位置で発進したカヴェンディッシュがゴスを振り切った。
チームスカイvsオリカ・グリーンエッジの様相を呈しているゴールスプリント。カヴェンディッシュの2勝目により、対戦成績を2対1とした。この2チームのバトルはジロだけに留まらず、今シーズンのグランツール全てに関して言えそうな雰囲気だ。
世界チャンピオンのカヴェンディッシュが、1ヶ月前に生まれたばかりの娘デリラグレースちゃんを抱いて表彰台に上がる。闘志溢れるスプリント中の顔が、見事にすっかりパパの顔に変わり、大会キャラクターのジルベッコのぬいぐるみで娘をあやしてみせる。
「自分の赤ちゃんを抱くこと以上に最高の気持ちなんてこの世に無いと思う」と、完全に骨抜きになっている。「今日は赤ちゃんを抱いて表彰台に上がったんだ。彼女がいるレースで勝つのはこれが初めて。来てくれて本当に嬉しい。誇らしい気分だ」。
これまで血気盛んに他の選手たちと衝突した「ボーイレーサー」が、娘の誕生を機に柔らかくなったというのが専らの評判だ。
翌日の第6ステージは、マルケ州特有の丘陵地帯を走る。210kmコースの真ん中あたりには未舗装で急勾配の2級山岳カッペッラ峠がある。いわゆるストラーデビアンケが再び登場することにフミは「明日は面白そう」と話す。
絶え間なくアップダウンが続く中級山岳ステージであり、しかも急勾配の登りが多い。ゴール手前の3級山岳モンテグラナーロは、チームNIPPOの選手たちが住む街なので要チェックだ(家の前は通過しないが、チームNIPPOのチームカーをコース脇に駐車するとのこと)。
text&photo:Kei Tsuji in Fano, Italy
「エンジンの首都」を発ち、エミリア街道を行く
デンマークからイタリアに来てからというもの、クシャミが止まらない。犯人は白い綿をまき散らすピオッピ。正式名称はセイヨウハコヤナギ?いわゆるポプラの木だ。
ヨーロッパ全土に生えていて、4月〜5月にかけて綿毛のついた種子を大量にまき散らす。非常に比重が軽いため、空中に長時間漂う。種の繁栄を目指し、遠くまで種子を飛ばす壮大な作戦だが、あまりにもその量が多過ぎる。その様は吹雪のようであり、ときに海を漂う珊瑚の卵のよう。
街中の吹きだまりには、季節外れのクリスマスの飾り付けを誰かが廃棄したんじゃないかと思うほど、モワモワの綿毛が溜まっている。アレルギー症状がでる人が多く、この記事を書いているプレスセンターの中では常に誰かがクシャミをしているような状態。当然、プロトンの中にもこの綿毛に苦しめられている選手がいる。
第5ステージのスタート地点はエミリアロマーニャ州のモデナ。世界遺産に登録されるほどの歴史ある街だが、一般的には自動車メーカーの拠点として名前が知られている。
フェラーリの創始者エンツォ・フェラーリはこのモデナ出身で、本社があるのは郊外のマラネッロ。創始者の生涯にスポットを当てたフェラーリデザインのミュージアムが今年3月にオープンしたばかりで、そのミュージアムの真ん前にスタート地点が置かれた。
すぐ近くにはマセラティの本社ビル(設立はボローニャ)があり、デ・トマソやパガーニの本拠地はいずれもモデナかその近郊にある。ランボルギーニやドゥカティの本拠地は少し東にあるボローニャ近郊。
ちなみにレースの中盤には、数年前までF1GPが開催されていたイモラを通過する。広大なポー平原の南端を直線的に進むコースは、モータースポーツに所縁のある場所が目白押し。一帯が「capitale dei motori(エンジンの首都)」と呼ばれるのも頷ける。
フェラーリと言えば、マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が着用するマリアロッサ(ポイント賞ジャージ)のスポンサーである新規参入高速鉄道「イタロ」を運営するヌオーボ・トラスポルト・ヴィアッジャトーリは、フェラーリ社のルーカ・コルデーロディモンテゼーモロ会長が設立したもの。フェラーリさながらの真っ赤な車体で、いかにもイタリア人をその気にさせるデザインが特徴だ。
なお、フェラーリはフェラーリでも、第3ステージでマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)らの落車を招いてしまったロベルト・フェラーリ(イタリア、アンドローニ・ジョカトリ)は、正式に選手たちに謝罪している。それでもやはりプロトンの中で若干浮いている感があるのは否めないが。
この日は、広大なポー平原の南、アペニン山脈の北端に沿ってひたすらエミリア街道を南下する。直線的で、平坦で、等間隔で点在する街を抜け、アドリア海を目指す。
気温はぐんぐん上がり、最高気温は30度に達した(街中にある温度計なので、信頼出来る数字ではないが。それはそうと、イタリアの街中にある時計は大抵ずれているので、あてにするといろいろ支障が出ます)。
チームスカイvsグリーンエッジ 第3ラウンド
マリアローザ獲得が期待されたタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・バラクーダ)や、トル・フースホフト(ノルウェー、BMCレーシングチーム)は、レース終盤のアップダウンで遅れた。
アドリア海に突き出た岬を繋いだようなワインディングロードで、リクイガス・キャノンデールやアスタナがペースを上げる。スプリンターを脱落するためではなく、位置取りやコンディションが上がりきっていないオールラウンダーをあわよくば振るい落とそうという動き。
続いて、脱落者を集団復帰させないために、スプリンターチームがメイン集団のペースを上げる。オリカ・グリーンエッジの別府史之もペースアップに加わった選手の一人。
「力をセーブして、終盤の勝負どころに備えていた」と話すフミは、ペースが弱まった隙を突いてアタックしたジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)に反応。集団を率いる場面も見られた。
ハイスピードを維持したまま、集団はファーノの街に差し掛かる。オリカ・グリーンエッジは予定通りマシュー・ゴス(オーストラリア)を集団前方に連れ出したが、発射ロケットは上手く機能せず、チームスカイに主導権を奪われた。特にチームスカイのゲラント・トーマス(イギリス)のスピードが際立ち、好位置で発進したカヴェンディッシュがゴスを振り切った。
チームスカイvsオリカ・グリーンエッジの様相を呈しているゴールスプリント。カヴェンディッシュの2勝目により、対戦成績を2対1とした。この2チームのバトルはジロだけに留まらず、今シーズンのグランツール全てに関して言えそうな雰囲気だ。
世界チャンピオンのカヴェンディッシュが、1ヶ月前に生まれたばかりの娘デリラグレースちゃんを抱いて表彰台に上がる。闘志溢れるスプリント中の顔が、見事にすっかりパパの顔に変わり、大会キャラクターのジルベッコのぬいぐるみで娘をあやしてみせる。
「自分の赤ちゃんを抱くこと以上に最高の気持ちなんてこの世に無いと思う」と、完全に骨抜きになっている。「今日は赤ちゃんを抱いて表彰台に上がったんだ。彼女がいるレースで勝つのはこれが初めて。来てくれて本当に嬉しい。誇らしい気分だ」。
これまで血気盛んに他の選手たちと衝突した「ボーイレーサー」が、娘の誕生を機に柔らかくなったというのが専らの評判だ。
翌日の第6ステージは、マルケ州特有の丘陵地帯を走る。210kmコースの真ん中あたりには未舗装で急勾配の2級山岳カッペッラ峠がある。いわゆるストラーデビアンケが再び登場することにフミは「明日は面白そう」と話す。
絶え間なくアップダウンが続く中級山岳ステージであり、しかも急勾配の登りが多い。ゴール手前の3級山岳モンテグラナーロは、チームNIPPOの選手たちが住む街なので要チェックだ(家の前は通過しないが、チームNIPPOのチームカーをコース脇に駐車するとのこと)。
text&photo:Kei Tsuji in Fano, Italy
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