2012/05/07(月) - 16:00
軽量かつ剛性の高いカーボン製ステムやハンドルをリリースすることで定評のある3T。その3Tが新たなるラインナップとしてホイールの展開を開始した。今回はその中での主力製品となる、MERCURIO(メルキュリオ)60 LTDホイールのインプレッションをお届けしよう。
3T社の創設は1961年にまで遡る。イタリアのアンブロジオ社に勤めていたエンジニア、マリオ・デディオニッギ氏が独立したことをルーツとする3Tは、小さい工房ながら7000形アルミを用いたハンドルなど意欲的な製品を多く展開し、徐々に会社規模を大きくしていく。そして近年では軽量カーボン製品を多くリリースし、ヨーロッパのプロライダーをはじめとする多くのサイクリストが愛用し、その知名度は全世界に知られるまでになった。
その長きに渡って蓄積した加工技術とノウハウを活かし、分野を広げて新たにリリースしたのが、アルミとカーボンのハイブリッドホイール「アッチェレーロ40」と、今回紹介する「メルキュリオ」シリーズと呼ばれるフルカーボンホイール群だ。
上位グレードとなるメルキュリオシリーズのラインナップはリムハイトによって区別され、40、60、80そしてディスクの4種類をカタログ上に揃える。その中で今回のインプレッションでは、主力製品となる「MERCURIO 60 LTD」のディティールへと迫っていこう。
MERCURIO 60 LTDホイールは、63mmのリムハイトを備えるフルカーボンチューブラー仕様のホイールだ。近年の流行にのっとってリム幅は非常にワイドに造られ、前後左右からの風を受け流すために最適な形状となっている。
構造上で特筆すべきはスポークの取り付け方法だろう。リム側面にスポークポケットを設け、スポークの非ニップル側を引っ掛けてテンションを掛けるシステムを採用している。
一見奇をてらった構造に見えるが、このシステムを採用することで、重量のかさむニップルを遠心力の影響の少ないハブ側に位置させ、踏み出しや加速の軽さを実現。そして正面から見た時にスポークのクロス幅が大きく取られることで縦方向の衝撃を和らげながら、横方向の剛性を高めてくれるという構造だ。
さらにスポーク穴が側面に位置していることで、チューブラータイヤを貼りつけたままの状態でのスポーク修理や振れ取りが可能となっていることも、整備の手間を考えれば非常にユーザーフレンドリーといえるだろう。組み合わせられるスポークは、性能に定評のあるサピム製CX-RAYで、フロント18h・リア24h仕様となっている。
そうして完成したMercurio 60 LTDの重量は、前後セットで1390g。この重量は60mmを超えるリムハイトを持つホイールの中ではかなり軽量と言ってよいだろう。ブレーキ面にも工夫が加えられ、ドライとウェットでの効きの違いを少なくしているとのことだ。
カセットはカンパニョーロとシマノ/SRAMに対応し、双方の取り付けの際のアダプターを必要としない。ホイールセットにはオリジナルのチタン製シャフト・スキュワーとスイスストップ製のカスタムブレーキシューが付属し、オプションとしてセラミック製ベアリングもラインナップされているという。
この核心的な構造を引っさげて登場したMercurio 60 LTDは、2012年シーズンからベルギーのプロコンチネンタルチーム、トップスポート・フラーンデレンにも供給され、本場レースの舞台を走っているホイールだ。果たしてインプレライダー両氏はどのように評価するのだろうか。早速インプレッションをお届けしよう。
―インプレッション
「しなやかさがあり、バランスのとれたホイール」鈴木祐一(Rise Ride)
第一印象として、とてもしなやかで良く進んでくれるホイールという印象を持ちました。最近は超ディープリムを各社がラインナップしてきていますが、ハイトが高いとどうしても縦方向の剛性が高くなると思いますが、このメルキュリオは違いました。
非常にしなやかさがあって、裏面からの突き上げをマイルドにしてくれる感じがありますね。正直このリムハイトで、ここまで乗り心地が良いホイールは今までに乗ったことがなく、とても驚きました。
重心がリム側にあるホイールは踏み出しが重く、逆に軽すぎるとずっと踏んで行かなければスピードが持続しませんが、このメルキュリオ60に関して言えば、重心がちょうどハブと外周の中心部分にあるような印象を受けました。
そのため踏み出しの軽さと巡航のしやすさのバランスが適度に取られていると思います。実際はわかりませんが、リムのカーボン自体もすごく薄くできていると思います。
強く押すとたわみますが、ぺらぺらな感じはしません。このカーボンリムのしなやかさも乗り心地に関係しているのでは、と思いました。特殊に見えるスポーク受け構造も非常によく考えられて出来ていると思います。
正面から見た際にスポークが寝ているので、そこからも乗り心地の良さが生み出されていると感じました。リムの構造も最初こそ不安感を覚えましたが、リムに接している面積はスポーク穴で損なわれることがないため、理にかなったシステムだと思います。
また、スポークホールが上面、底面ともにリムにないことで、雨水が侵入してタイヤの接着面を犯すこともありません。例えばシクロクロスに使ってもこれは非常に有利に働いてくれるでしょうね。タイヤ剥がれの危険が著しく減少します。通常のカーボンディープで雨のなか走行した際のような、水が内部に溜まって重くなる・じゃぶじゃぶと音がするといった現象とも無縁です。
このホイールに乗ってみて、こんなホイールがあるんだな、と私自身新しい発見が出来ました。自分でも欲しい(ホイールの1つにノミネートされてしまった、そんなホイールです。
「ギアを掛けた分だけしっかりとスピードを乗せていける」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
乗った瞬間に「あ、いいな。」と感じたホイールです。踏んだ感じがすごくマイルドというか、柔らかく脚にこない・踏み負けしないホイールだなと感じました。乗ってみてすぐにソフトな印象を持ったので、ダンシングの際にふにゃふにゃと力が逃げてしまうかと思いましたが、そうではありませんでした。逆に無理矢理トルクを掛けて強引に引っ張っていっても、ロスが生まれるような嫌なたわみは感じませんでした。
それはおそらく、鈴木さんもコメントしましたが、スポークを外に逃がして組んであるからだと思います。そのおかげで縦に柔らかく、横にはブレない。ルックスこそ不思議ですが、理にかなっている構造だと思います。
踏んだ時、イメージ的には1回縮んで、それが伸びるときに推進力を生むような、気持ちよさのあるスピードの乗り方をしますね。伸びが相当良く、ギアを掛けた分だけしっかりとスピードが乗ってくれます。脚にも優しいフィーリングですので、ロングライドに良いでしょう。
コーナリング中もラインが膨らんでしまうこともありませんでした。クッション性が強いため、凹凸のある路面でも割と気持よく走ってくれます。横方向の剛性が無く、ダンシングでバイクを振るとそのまま倒れこんでしまうようなホイールもありますが、このホイールはそんなクセがありませんでした。前輪に荷重をかけてダンシングしても、前輪が潰れて引っかかってくるような感じがないですね。扱い易いホイールだと思いますよ。
ブレーキに関しても、効かなかったり、反対に効き過ぎて驚くようなシチュエーションはありませんでした。多分雨のコンディションでも素直な効き方をしてくれそうですね。
長距離ライドでも踏み負けないと思いますので、長距離を短時間で走るファーストライドにはもってこいと言えるでしょう。エンデューロやブルベ、もちろんレースでも使えると思います。
近年では3Tのハンドルやステムのプロ使用率も高くなってきていますので、信頼性は間違い無いと思います。ホイールは3Tの新しい分野ですが、乗ってみて納得できました。性能を追求したらデザインがついてきた、そんな優秀なホイールといって良いでしょう。
3T MERCURIO 60 LTD
重 量:1390g(前後セット)
仕 様:チューブラー
リムハイト:63mm
スポーク:サピムCX-Ray F18、R24 アルミニップル
対応カセット:カンパニョーロ、シマノ/SRAM(アダプター無しで併用可能)
スキュワー:3Tチタンスキュワー
ブレーキパッド:3T/スイスストップ カスタム
273,000円(60mm)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
OVER-DOバイカーズサポート
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
ウェア協力:PISSEI
エアロアズール
text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO
3T社の創設は1961年にまで遡る。イタリアのアンブロジオ社に勤めていたエンジニア、マリオ・デディオニッギ氏が独立したことをルーツとする3Tは、小さい工房ながら7000形アルミを用いたハンドルなど意欲的な製品を多く展開し、徐々に会社規模を大きくしていく。そして近年では軽量カーボン製品を多くリリースし、ヨーロッパのプロライダーをはじめとする多くのサイクリストが愛用し、その知名度は全世界に知られるまでになった。
その長きに渡って蓄積した加工技術とノウハウを活かし、分野を広げて新たにリリースしたのが、アルミとカーボンのハイブリッドホイール「アッチェレーロ40」と、今回紹介する「メルキュリオ」シリーズと呼ばれるフルカーボンホイール群だ。
上位グレードとなるメルキュリオシリーズのラインナップはリムハイトによって区別され、40、60、80そしてディスクの4種類をカタログ上に揃える。その中で今回のインプレッションでは、主力製品となる「MERCURIO 60 LTD」のディティールへと迫っていこう。
MERCURIO 60 LTDホイールは、63mmのリムハイトを備えるフルカーボンチューブラー仕様のホイールだ。近年の流行にのっとってリム幅は非常にワイドに造られ、前後左右からの風を受け流すために最適な形状となっている。
構造上で特筆すべきはスポークの取り付け方法だろう。リム側面にスポークポケットを設け、スポークの非ニップル側を引っ掛けてテンションを掛けるシステムを採用している。
一見奇をてらった構造に見えるが、このシステムを採用することで、重量のかさむニップルを遠心力の影響の少ないハブ側に位置させ、踏み出しや加速の軽さを実現。そして正面から見た時にスポークのクロス幅が大きく取られることで縦方向の衝撃を和らげながら、横方向の剛性を高めてくれるという構造だ。
さらにスポーク穴が側面に位置していることで、チューブラータイヤを貼りつけたままの状態でのスポーク修理や振れ取りが可能となっていることも、整備の手間を考えれば非常にユーザーフレンドリーといえるだろう。組み合わせられるスポークは、性能に定評のあるサピム製CX-RAYで、フロント18h・リア24h仕様となっている。
そうして完成したMercurio 60 LTDの重量は、前後セットで1390g。この重量は60mmを超えるリムハイトを持つホイールの中ではかなり軽量と言ってよいだろう。ブレーキ面にも工夫が加えられ、ドライとウェットでの効きの違いを少なくしているとのことだ。
カセットはカンパニョーロとシマノ/SRAMに対応し、双方の取り付けの際のアダプターを必要としない。ホイールセットにはオリジナルのチタン製シャフト・スキュワーとスイスストップ製のカスタムブレーキシューが付属し、オプションとしてセラミック製ベアリングもラインナップされているという。
この核心的な構造を引っさげて登場したMercurio 60 LTDは、2012年シーズンからベルギーのプロコンチネンタルチーム、トップスポート・フラーンデレンにも供給され、本場レースの舞台を走っているホイールだ。果たしてインプレライダー両氏はどのように評価するのだろうか。早速インプレッションをお届けしよう。
―インプレッション
「しなやかさがあり、バランスのとれたホイール」鈴木祐一(Rise Ride)
第一印象として、とてもしなやかで良く進んでくれるホイールという印象を持ちました。最近は超ディープリムを各社がラインナップしてきていますが、ハイトが高いとどうしても縦方向の剛性が高くなると思いますが、このメルキュリオは違いました。
非常にしなやかさがあって、裏面からの突き上げをマイルドにしてくれる感じがありますね。正直このリムハイトで、ここまで乗り心地が良いホイールは今までに乗ったことがなく、とても驚きました。
重心がリム側にあるホイールは踏み出しが重く、逆に軽すぎるとずっと踏んで行かなければスピードが持続しませんが、このメルキュリオ60に関して言えば、重心がちょうどハブと外周の中心部分にあるような印象を受けました。
そのため踏み出しの軽さと巡航のしやすさのバランスが適度に取られていると思います。実際はわかりませんが、リムのカーボン自体もすごく薄くできていると思います。
強く押すとたわみますが、ぺらぺらな感じはしません。このカーボンリムのしなやかさも乗り心地に関係しているのでは、と思いました。特殊に見えるスポーク受け構造も非常によく考えられて出来ていると思います。
正面から見た際にスポークが寝ているので、そこからも乗り心地の良さが生み出されていると感じました。リムの構造も最初こそ不安感を覚えましたが、リムに接している面積はスポーク穴で損なわれることがないため、理にかなったシステムだと思います。
また、スポークホールが上面、底面ともにリムにないことで、雨水が侵入してタイヤの接着面を犯すこともありません。例えばシクロクロスに使ってもこれは非常に有利に働いてくれるでしょうね。タイヤ剥がれの危険が著しく減少します。通常のカーボンディープで雨のなか走行した際のような、水が内部に溜まって重くなる・じゃぶじゃぶと音がするといった現象とも無縁です。
このホイールに乗ってみて、こんなホイールがあるんだな、と私自身新しい発見が出来ました。自分でも欲しい(ホイールの1つにノミネートされてしまった、そんなホイールです。
「ギアを掛けた分だけしっかりとスピードを乗せていける」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
乗った瞬間に「あ、いいな。」と感じたホイールです。踏んだ感じがすごくマイルドというか、柔らかく脚にこない・踏み負けしないホイールだなと感じました。乗ってみてすぐにソフトな印象を持ったので、ダンシングの際にふにゃふにゃと力が逃げてしまうかと思いましたが、そうではありませんでした。逆に無理矢理トルクを掛けて強引に引っ張っていっても、ロスが生まれるような嫌なたわみは感じませんでした。
それはおそらく、鈴木さんもコメントしましたが、スポークを外に逃がして組んであるからだと思います。そのおかげで縦に柔らかく、横にはブレない。ルックスこそ不思議ですが、理にかなっている構造だと思います。
踏んだ時、イメージ的には1回縮んで、それが伸びるときに推進力を生むような、気持ちよさのあるスピードの乗り方をしますね。伸びが相当良く、ギアを掛けた分だけしっかりとスピードが乗ってくれます。脚にも優しいフィーリングですので、ロングライドに良いでしょう。
コーナリング中もラインが膨らんでしまうこともありませんでした。クッション性が強いため、凹凸のある路面でも割と気持よく走ってくれます。横方向の剛性が無く、ダンシングでバイクを振るとそのまま倒れこんでしまうようなホイールもありますが、このホイールはそんなクセがありませんでした。前輪に荷重をかけてダンシングしても、前輪が潰れて引っかかってくるような感じがないですね。扱い易いホイールだと思いますよ。
ブレーキに関しても、効かなかったり、反対に効き過ぎて驚くようなシチュエーションはありませんでした。多分雨のコンディションでも素直な効き方をしてくれそうですね。
長距離ライドでも踏み負けないと思いますので、長距離を短時間で走るファーストライドにはもってこいと言えるでしょう。エンデューロやブルベ、もちろんレースでも使えると思います。
近年では3Tのハンドルやステムのプロ使用率も高くなってきていますので、信頼性は間違い無いと思います。ホイールは3Tの新しい分野ですが、乗ってみて納得できました。性能を追求したらデザインがついてきた、そんな優秀なホイールといって良いでしょう。
3T MERCURIO 60 LTD
重 量:1390g(前後セット)
仕 様:チューブラー
リムハイト:63mm
スポーク:サピムCX-Ray F18、R24 アルミニップル
対応カセット:カンパニョーロ、シマノ/SRAM(アダプター無しで併用可能)
スキュワー:3Tチタンスキュワー
ブレーキパッド:3T/スイスストップ カスタム
273,000円(60mm)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
OVER-DOバイカーズサポート
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
ウェア協力:PISSEI
エアロアズール
text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO
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